高等学校国語総合/古文単語集
おぼゆ(覚ゆ)
イメージ 「思ふ」+奈良時代の助動詞「ゆ」で、「おもほゆ」が変化した形です。「ゆ」は自発を意味する助動詞です。「思われる」が基本の意味です。派生的に「似る」という意味もあります。
意味 1. 思われる 2. 似る
例文 ことざまの優におぼえて、物の隠れよりしばし見ゐたるに、(徒然・三二)
訳 (住んでいる人の)様子が優雅に感じられて、物陰からしばらく隠れてみていたところ、
例文 尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子なめりと見給ふ。(源氏)
訳 尼君の見上げている顔に、少し似ているところがあるので、(その少女は尼君の)子であるようだと御覧になる。
おぼえ
イメージ 動詞「おぼゆ」の名詞形だという定説です。世間からの評判と、帝や上司からの評判からの両方の意味がありますが、上司などからの評判の場合は「御おぼえ」と「御」がついている場合も多くあります。
意味 1.評判・人望 2.寵愛
例文 いとまばゆき、人の御おぼえなり。(源氏・桐壺)
訳 見ていられないほどの、この人の(=帝の)ご寵愛である。
さはる(障る)
イメージ 現代語の「差し障りがある」と同じです。
意味 差し支え(さしつかえ)がある。
例文 さはるところありて(花見に)まからで、(徒然)
訳 差し支えがあるので、(花見に)行けませんので、
ながむ(眺む・詠む)
イメージ 現代語の「眺める」の語源だろうと考えられていますが、しかし古語の「ながみ」はどちらかというと、「物思いにふける」という文脈で使われます。また、詩歌を「吟詠する」(詩歌を詠むこと)の意味でも使われることもあります。
意味 1. 物思いにふける 2. 吟詠する 3 眺める・ぼんやり見る
例文 夕月夜のをかしきほどに出だしたてさせたまひて、やがてながめおはします。(源氏)
訳 (桐壺帝は)夕方の美しいころに、使者をさしむけなさって、(帝は)そのままもの思いにふけっていらっしゃる。
例文 「こぼれてにほふ花桜かな」とながめければ、その声を院聞こしめさせたまひて、(今昔)
訳 「こぼれてにほふ花桜かな」(=咲きこぼれて美しい花桜よ)と吟じたので、その声を院(=この場面では高貴な女性)がお聞きになって、
しのぶ(忍ぶ・偲ぶ)
「しのぶ」には2種類あり、現代語の「耐え忍ぶ」「人目を忍ぶ」と同じような意味です。もうひとつには、懐かしむという意味であり、「偲ぶ」という漢字が近いです。もともと別の動詞であり、活用も違っていましたが(四段活用と上二段活用)、平安時代から混同されるようになりました。
意味 1. 我慢する 2.人目につかないようにする 3. 懐かしむ・思い慕う
例文 ねたく心憂く思ふを、しのぶるになむありける。(大和物語)
訳 ねたましくつらいと思っているのを、がまんするのであった。
例文 浅茅(あさぢ)が宿に昔をしのぶこそ、色好むとは言はめ。(徒然・一三七)
訳 チガヤが生い茂っているような荒れ果てた宿で昔を懐かしむのは、恋愛の情趣を理解していると言えよう。
ゐる
「ゐる」は2種類あります。※ 入試では、現代語で近い意味の漢字を選ばせる問題もよくあるようです。
ゐる(居る)
「座っている」、「じっとしている」などの意味です。
ゐる(率る)
現代語の「ひきいる」(率いる)などに名残がありますが(出典: 河合出版の単語集)、軍隊などを統率(とうそつ)しているわけではなく、単に誰かや何かを連れていたり、伴っていたりする程度の意味です。
※ このほか、弓矢などを「射る」(いる)など現代語では同じ発音の動詞もありますが、説明を省略します。
例文 三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。(竹取)
訳 三寸(=約9センチ)くらいの人が、とてもかわいらしく、座っていた。
例文 やうやう夜も明けゆくに、見れば率て(いて)来し女もなし。(伊勢物語・六段)
訳 だんだん夜も明けてきて、見ると、連れてきた女もいない。
わぶ(侘ぶ) イメージ 自分が困難などに遭遇し、自分の境遇をつらく思う感じです。それとは別の用法としては「~しかねる」の意味もあります。
- ※ 「おわびをする」のような意味は無い。(※ 文英堂の単語集より)
意味 1. つらく思う 2. ~しかねる。
例文 限りなく遠くも来にけるかな、とわび合へるに、(伊勢物語)
訳 「この上なく遠くに来てしまったなあ」と嘆きあっていると、
例文 京にありわびて東(あづま)に行きけるに、(伊勢物語)
訳 京都に住みかねて、東国へ行ったところ、
例文 念じわびつつ、様々の財物かたはしより捨つるが如くすれども、(方丈記)
訳 がまんしかねて、様々な財物を片っ端から捨てるように(=安く売る)するが、
※ 方丈記の訳の出典は 桐原単語集 と 三省堂新明解古典『大鏡 方丈記』
いたし
イメージ: 痛いほどに程度がはなはだしいさまです。よい場合にもわるい場合にも使います。ただし、漢字を当てる場合、(「痛し」とは限らず)「甚し」の場合もあります。
意味 1.ひどい 2.すばらしい 3.(連用形「いたく」で)たいそう~・とても~
例文 かぐや姫いといたく泣き給ふ。(竹取)
訳 かぐや姫はたいそうひどくお泣きになる。
例文 造れるさま木深く、いたき所まさりて見所ある住まひなり。(源氏・明石)
訳(家の)造っている様子は(辺りに)木が深く、見所ある住まいである。
めづ(愛づ)
イメージ: 漢字のとおり、対象を愛する感じです。対象をよいと思っています。
意味: ほめる。かわいがる。
例文: 人々の、花、蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ。(堤中納言・虫めづる姫君)
訳1: (世間の)人々が、花や蝶を愛するのは、あさはかで奇妙だ。(三省堂の単語集の訳)
訳2: (世間の)人々が、花や蝶をかわいがるのは、あさはかで奇妙だ。(文英堂の単語集の訳)
- ※ このように、単語集によって訳がやや異なる。なので、あまり細部まで多義語の意味の違いを暗記する必要はない。
関連語: めでたし、めづらし
めでたし
イメージ ほめることを意味する動詞「めづ(愛づ)」が語源となっている、形容詞です。「めづ」に形容詞「いたし」(はなはだしい、という意味)がついたものと考えている単語集(三省堂、文英堂)もあります。
意味 すばらしい。立派だ。
例文: 丹波に出雲(いづも)という所あり。大社(おほやしろ)をうつして、めでたく造れり。(徒然草)
訳: 丹波に出雲という所がある。出雲大社を移して、立派に造っていた。
関連語 めづ(動詞)、めづらし
めづらし
※ 未記述
ののしる
イメージ 現代語では「非難する」の意味ですが、古語では「大声で騒ぐ」が原義です。派生的に、みんなが騒ぐほどに「有名だ。評判が高い」のような意味にもなります。
(※ 範囲外: )現代語の非難・罵倒の意味の動詞は、古語では「のる」である。(※ 河合出版「春つぐる頻出古文単語480」、P10)
意味 大声で騒ぐ。評判が高い。
例文) この世にののしり給ふ光源氏、かかるついでに見奉り給はんや。(源氏・若紫)
訳: 世間で評判になっている光源氏を、このような機会に拝見なさいませんか。
きこゆ(聞こゆ)
イメージ 聞こえる、が原義でそこからいくつかの意味が派生した。
意味 1. 聞こえる 2. 申し上げる(謙譲) 3.謙譲の補助動詞。
例文 一の御子は右大臣の女御の御腹にて、よせ重く、「うたがいなきまうけの君。」と、世にもてかしづききこゆれど、この御にほひには、ならび給ふべくもあらざりければ、おほかたのやむごとなき御思ひにて、この君をば、わたくし物におぼしかしづき給ふこと限りなし。
訳 第一皇子は、右大臣の娘の女御からお生まれになった方で、後ろ盾がしっかりしていて、「疑いなく、皇太子であろう」と、非常に大切にお育て申し上げたが、(桐壺の子の)美しさには、対抗なさることはできなかったので、第一皇子に対しては、(帝は)普通一般の御寵愛ぶりで、一方源氏の君を、特別に思い大事になさる事限りなかった。
にほふ
イメージ 現代語では嗅覚にかかわる語ですが、古語の「にほふ」は視覚的な意味です。「にほふ」の「に」は赤色を意味する「丹」(に)が由来していることから、「にほふ」は赤色のような鮮やかなものが映える様子をあらわしています。なお「にほふ」の「ほ」は、「穂」または「秀」の説があります。
例文) ※ 未記述
おどろく
古語の「おどろく」は、「はッとする」のような意味です。
寝ていた状況では、「目が覚める」の意味もあります。「おどろかす」という他動詞形もあり、「おどろかす」は「起こす。はっと気づかせる」の意味です。
意味 目が覚める。はっとする。※ このほか、現代語の「驚く」と同じ意味の用法もある。
例文 秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる(古今和歌集)
訳 秋が来たと、目にははっきりとは見えないが、風の音で(※「風の音を聞いて」のような意味)はっと気づいたことだ。
例文 物におそはるる心地しておどろき給へれば、(源氏物語)
訳 物の怪におそわれる気がして目覚めなさったところ
ときめく(時めく)
イメージ 「よいタイミングにめぐりあわせる」のようなイメージで、古語では「時流に乗る」や「寵愛を受ける」のような意味になります。
例文 世の中にときめき給ふ雲客、桂より遊びて帰り給ふ。(古今著聞集)
訳 世の中で、時流に乗って栄えている天殿人(てんじょうびと)が、桂から遊んでお帰りになる。
例文 いとやんごとなき際(きは)にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。(源氏物語)
訳 それほど高貴な身分ではない方で、とりわけ(帝(みかど)の)寵愛を受けておられる方がいた。
きは
現代語でも「瀬戸際」とかいうように、古語でも「きは」には何かの限界ちかくの意味もありますが、しかし入試では「身分」の意味が重要です。
意味 身分
例文 いとやんごとなき際(きは)にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。(源氏物語)
訳 それほど高貴な身分ではない方で、とりわけ(帝(みかど)の)寵愛を受けておられる方がいた。
としごろ(年頃、年比、年来)
古語の「長年」の意味です。適齢期の意味はありません。
古語の「日ごろ」は「ここ数日」、古語の「つきごろ」は「ここ数ヶ月」の意味です。
かしづく
意味 大切に育てる
めやすし(目安し)
イメージ 「見た目が安らかだ」のようなイメージ
意味 感じが良い
例文 (女房は)髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。(源氏)
訳 (女房は)髪がゆったりとしてとても長く、感じが良い人だ。
らうたし(労甚し)
意味 かわいらしい。いじらしい。
「労」+「甚し(いたし)」と考えれらており、子供などを労をいとわず世話をしたいと思う気持ちだと考えられています。
例文 (赤ん坊が)かいつきて寝たる、いとらうたし。(枕草子)
訳 (赤ん坊が)抱きついて寝ているのは、とてもかわいらしい。
かなし
イメージ 現代語の「愛」・「いとしい」(愛しい)のイメージです。派生的に、「悲しい」の意味もありますが、まずは愛で覚えましょう。現代語の「せつない」(切ない)のイメージで解釈する流儀もあります。
意味 1. いとしい 2. 悲しい
例文 (男は妻を)かぎりなくかなしと思ひて、河内(かふち)へも行かずなりにけり。(伊勢・二三)
訳 (男は妻を)この上なくいとしいと思い、河内(かわち)(の国にいる別の女)のもとへも行かなくなった。
例文 かなしき妻子(めこ)の顔をも見で、死ぬべきこと。(源氏)
訳 かわいい妻子の顔をも見ないで、死なねばならないことよ。
いかで(如何で)
如何なり、で形容動詞。あるいはそれは名詞に助動詞がついたものと考えても良い。いかで、自体は副詞とみる。烏賊とはもちろん関係ないが、ひょっとしたら何らかの関連あるかも^^;;;
意味 どうして、どうやって。
例文 …。ただ今、おのれ、見すてたてまつらば、いかで、世におはせむとすらむ。」…(源氏・若紫)
訳 …。今、私がお見捨て申したら、どうやってこの世界で暮らしていくのでしょうか。」…
ゆかし
イメージ 「行く」の形容詞化と思われていますが、移動したいことだけでなく「見たい」「聞きたい」などの意味もあります。
意味 1. 見たい。聞きたい。知りたい。 2. 心ひかれる
例文 山路来て何やらゆかしすみれ草。(野ざらし)
訳 山路を来て、なんとなく心引かれるすみれ草があることよ。
例文 まゐりたる人ごとに山へ登りしは、何ごとかありけん、ゆかしかりしかど。(徒然草)
訳 参詣している人が山へ登っているのは、何事があったのか、知りたかったけれど。
みそかなり
イメージ 現代語の「ひそか」とほぼ同じです。「密かに」の字で覚えてしまいましょう。
意味 ひそかに。こっそりと。
例文 あさましく候ひしことは、(花山院は)人にも知らせさせ給はで、みそかに花山寺におはしまして、御出家入道させ給へりこそ。
訳 驚きあきれましたことには、(花山院は)誰にもお知らせにならないで、こっそりと花山寺にいらっしゃって、ご出家入道なさってしまったのですよ。
いぎたなし(寝汚し)
イメージ 寝ていることを「汚し」と批判されているように、寝坊などを非難する気持ちがあります。
意味 寝坊だ
例文 起こしにより来て、いきたなしと思ひ顔にひきゆがしたる、いと憎し。(枕草子)
起こしにやってきて、寝坊だと思っているような顔つきで引き揺さぶるのは、とても憎らしい。
※ 参考
古語の「きたなし」(汚し)は、現代語の汚いと同じような意味もある。
『竹取物語』で「いざ、かぐや姫。きたなきところに、いかでか久しくおはせむ。」とある。「汚いところに(=下界)、どうして長い間、いらしたのですか。」のような意味。
やむごとなし(止む事なし)
イメージ 「そのまま(=止む)にはしておけない」のような感じです。
身分が高い相手や、学識などの豊かな相手などに用います。
意味 1.高貴だ 2.格別だ
例文 やむごとなき人のかくれ給へる(たまえる)も、あまた聞こゆ。(方丈記)
訳 高貴な人がお亡くなりになったということも、たくさん聞こえてくる。
あてなり(貴なり)
イメージ 漢字「貴なり」でお覚えましょう。「高貴な」という意味です。階級だけでなく、立ち居振る舞いが優美で上品なことも言います。
意味 1. 高貴だ。 2.上品だ。
例文 (尼君は)四十余(よそぢよ)ばかりにて、いと白うあてに、やせたれど、(源氏・若紫)
訳(尼君は)四十歳過ぎくらいで、たいそう色が白く、やせているけれど、
例文 世界の男(おのこ)、あてなるも賎しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな見てしがなと、音に聞きめでてまどふ。(竹取)
訳 世の中の男は、身分の高いものも低いものも、なんとかしてこのかぐや姫を自分の妻にしたい、見てみたいと、噂に聞いて夢中になる。
類義語の「やむごとなし」は、高貴さの最高評価です。一方、「あてなり」は、それほどではありません。
いうなり(優うなり)
イメージ 「いうなり」の表記から言うを連想しないように。漢語の「優」から、優雅や優美を連想しましょう。
意味 1.すぐれている・立派だ 2.優美だ・上品で美しい
例文(花山院(かざんいん)が)あそばしたる和歌は、いづれも人の口にのらぬなく、いうにこそうけたまはれな。(大鏡・伊尹)
訳 (花山院(かざんいん)が)お読みになった和歌は、どれも人が口にしないものはなく、すぐれているとお聞きします。
なやむ(悩む)
イメージ 語呂合わせですが、「なやむ」の「やむ」を「病む」とゴロ合わせで覚えてしまいましょう。
意味 病気になる。
例文 身にやむごとなく思ふ人のなやむを聞きて、(枕・うれしきもの)
訳 自分にとって大切に思う人が病気になったのを聞いて
対義語の「おこたる」とセットで覚えましょう。
おこたる(怠る)
現代語と同じ「なまける」の意味もありますが、古語ではさらに「病気が治る」の意味もあります。
意味 1.病気が直る 2.なまける
例文 少将、病にいたうわづらひて、すこしおこたりて、(大和物語)
訳 少将は、病気でたいそう患って(わずらって)、少し治って、
対義語の「なやむ」とセットで覚えましょう。
つきづきし(付き付きし)
意味 似つかわしい・ふさわしい
例文 いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。(枕)
訳 とても寒いときに、火(炭火)を急いでおこして、炭を持っていくのも、たいそう(冬の朝に)似つかわしい。
こころもとなし(心もとなし、心許無し)
イメージ 心が落ち着かない様子です。
意味 1. じれったい・待ち遠しい。 2.気がかりだ・心配だ 3. ぼんやりしている
例文 心もとなき日数重なるままに、白河の関にかかりて、旅心定まりぬ。(奥の細道)
訳 落ち着かない日々が重なるうちに、白河の関にさしかかり、旅の覚悟が決まった。
例文 (梨の)花びらの端に、をかしき匂ひこそ、心もとなうつきためれ。(枕・木の花は)
訳 (梨の)花びらの端に、趣き深い色つやが、ぼんやりとついているようだ。
すさまじ(凄まじ)
イメージ 現代語では「激しい」を意味しますが、入試ではその意味で使われることはめったにありません。ただし、中世くらいから「ものすごい。激しい」の意味でも使われています。
意味 1. 興ざめだ。 2. 殺風景だ。
例文 すさまじきもの。昼ほゆる犬、春の網代(あじろ)。(枕・すさまじき物)
訳 興ざめなもの。昼ほえる犬。春の網代。
例文 冬の夜の月は昔よりすさまじきものの例(ためし)にひかれて、 (更級日記)
訳 冬の夜の月は、昔から興ざめ(「殺風景な」でも良い)ものの例とあげられて、
※ 更級の「すさまじき」は単語集によって訳が違う。桐原は「興ざめ」、河合出版は「殺風景な」。
例文 影すさまじき暁月夜に、雪はやうやう降り積む。(源氏物語)
訳 光が明け方の月夜に、雪はだんだん降り積もっていく。
いみじ(忌みじ)
イメージ 程度のはなはだしい事を言う形容詞。善悪どちらにも使う。一説には、忌むほどに程度の並外れている「忌みじ」が語源だといわれています(三省堂、桐原の見解)。
意味 1.とても良い・すばらしい 2.とても悪い・ひどい 3. (連用形「いみじく」で)とても~・はなはだしく~
例文: 清少納言こそ、したり顔にいみじう侍りける人。(紫式部日記)
訳: 清少納言は、したり顔で、非常に困った人ですね。
例文 世は定めなきこそ、いみじけれ。(徒然)
訳 世は無常だからこそ、、すばらしい。
例文 あないみじ。犬を蔵人(くらうど)二人して打ち給ふ。死ぬべし。(枕)
訳 ああひどい。犬を蔵人が二人でお打ちになっている。死ぬだろう。
まめなり・まめまめし
1.まじめだ 2. 実用的だ
例文 何をか奉らむ。まめまめしきものはまさかりなむ。(更級日記)
訳 何をさしあげようか。実用的なものは(あなたには)好ましくないでしょう。
※ このあと、親戚の叔母さんから、幼少時代の更級日記の作者が、『源氏物語』を受け取る。
例文 「思ふ人の、人にほめらるるは、いみじうれしき」など、まめまめしうのたまふもをかし。(枕草子)
訳 「思いを寄せている人が、他の人からほめられるのは、とてもうれしい」などとまじめにおっしゃるのもおもしろい。
例文 (少将起きて、)小舎人(こねどり)童(わらは)を走らせて、すなはち車にて、まめなるもの、さまざまにもて来たり。(大和)
訳 (少将は起きて、)小舎人童(=召使いの少年)を走らせて、すぐに、車(=牛車)で実用的なものを、いろいろと持ってきた。
あだなり(徒なり)
イメージ 実質がない、スカスカのようなイメージです。また、「まめなり」の対義語のような感じもあります。実質がないので不まじめ。
例文 昔、女の、あだなる男の形見とておきたる物どもを見て、 (伊勢物語)
訳 昔、女が、浮気な男が形見として残した物などを見て
かる
「かる」は「離れる」の意味です。特に男女の縁が「疎遠になる」ときに用いられる。
意味 離れる
例文 あひ思はでかれぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消え果てぬめる(伊勢)
訳 互いに思うことなく、離れてしまった人を引き止められず、わが身は今にも消えてしまいそうです。
※ 古今和歌集の(山里は~)「人目も草もかれぬと思へば」は掛詞なので、やや特殊。なお、「人の訪れも絶えるし、草も枯れると思うと」の意味。
うつろふ(移ろふ)
イメージ 移動する、移り変わるの意味もありますが、古語では「色あせる」意味があります。
例文 例よりかはひきつくろひて書きて、うつろひたる菊にさしたり。(蜻蛉・上巻)
訳 いつもよりかは整えて(手紙を)書いて、色あせた菊にさした。
※ 貴族の妻が、他の女性に浮気している夫に手紙を書くシーン。
例文 (桐壺(きりつぼ)帝は)おのづから(藤壺(ふじつぼ)に)御心うつろひて、こよなうお思し慰むやうなるも、あはれなるわざなりけり。(源氏)
訳 (桐壺(きりつぼ)帝は)自然と(藤壺(ふじつぼ)に)心移りして、この上なくお気持ちが慰められるようであるのも、しみじみと感じられる。
あからさま
イメージ 古語の「あかる」が、まばたきをする程度の一瞬のあいだのことであることから、古語の「あからさま」はほんの一瞬の間のことを表します。現代語の「はっきりとした」とは違います。古語では「あからさまに」という連用形で用いる事が多い。
※ 現代語での意味は、近世から。(河合出版『春つぐる古文単語480改訂版』)
意味 かりそめに。一時的に。ほんのちょっと。
例文 おほかた、この所に住みはじめし時は、あからさまと思いしかども、今すでに、五年(いつとせ)を経たり。(方丈記)
訳 だいたい、ここに住みはじめた時は、ほんの一時的な事と思っていたが、もうすでに、5年たっている。
類義語 「かりそめなり」:意味 ほんの一時的に。ちょっと。
おろかなり(疎かなり)
イメージ まず現代語の「おろそか」で覚えましょう。そこから派生して、「愚か」の意味も生まれましたが、愚かの意味は鎌倉時代からです(出典: 文英堂の単語集より)。※ 入試では、「愚か」の意味はあまり狙われない。
意味 1. おろそか。いい加減だ。 2. 言い尽くせない。
例文 帝(みかど)の御使いを、いかでかおろかにせむ。(竹取・御狩のみゆき)
訳 帝からの使者を、どうしておろそかに(いい加減に)もてなすでしょうか。(※ 「いや、いい加減にはもてなさない」という意味の反語)
例文 わずかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はや(徒然・九二)
訳 たった二本の矢しかないのに、どうして師の前で一本をおろそかに(いい加減に)しようと思うだろうか。
訳 帝からの使者を、どうしておろそかに(いい加減に)もてなすでしょうか。(※ 「いや、いい加減にはもてなさない」という意味の反語)
例文 恐ろしなんどもおろかなり。(平家)
訳 恐ろしいなどという言葉では言い尽くせない。
とみなり(頓なり)
イメージ 覚えるしかありません。現代では滅多に使わない表現ですが、急死のことを「頓死」ともいうように、「頓」には「急な・急に」の意味もあります。
意味 急に。
例文 十二月ばかりに、とみのことで、御文あり。(伊勢物語)
訳 十二月ごろに、急なことで、お手紙がある。
なめし
意味 無礼だ
例文 文(ふみ)言葉(ことば)なめき人こそ、いと憎けれ。(枕草子)
訳 手紙の言葉の無礼な人は、たいそう感じが悪い。
かしづく
イメージ 一説には「頭(かしら)づく」が変化した語とも言われており、頭を地につけるほど大切に育てるという意味になったと言われています。
意味 大切に育てる。大切に世話をする。
例文 親たちかしづき給ふことかぎりなし。(堤中納言・虫めづる姫君)
訳 親たちが(姫君を)大切に育てること、この上ない。
かづく
イメージ かぶるの意味もありますが、別の意味として、貴人が服を脱いで褒美として与えるという意味でもよく使われます。「水に潜る」という意味もあります。水をかぶることから派生したのでしょう。
例文 足鼎(あしがなへ)を取りて、頭(かしら)にかづきたれば、(徒然・五三)
訳 足つきの鼎(かなえ)を取って、頭にかぶったところ、
例文 (中納言は)御衣(おほんぞ)脱ぎてかげつ給うつ。(竹取)
訳 (中納言は)御衣を脱いで(褒美として)与えなさった。
例文 大将の君、御衣(おんぞ)ぬぎてかづけたまふ。(源氏)
訳 大将の君は、御衣を脱いで(褒美として)与えなさった。
例文 (左大臣から)大将も物かづき、忠岑(ただみね)も禄(ろく)たまはりなどしけり。(大和)
訳 (左大臣から)大将も物をいただき、忠岑も録をいただくなどした。
例文 録に大袿(おほうちき)かづきて、(大和物語)
訳 褒美に大袿をいただいて、
※ 「大袿」は服の一種。
例文 ののしりて郎等(らうたふ)までにものかづけたり。(土佐日記)
訳 大騒ぎして、郎等(ろうとう)にまで褒美を与えた。
例文 かづけどもかづけども、月おぼろにて見えざりけり。(平家物語)
訳 (身投げした小宰相(こざいしょう)を探しに)もぐっても、もぐっても、月がぼんやりして見えなかった。
ことわる
- 動詞
イメージ 現代語の「理」(ことわり)のように、「判断する」「説明する」の意味です。事を割るので、筋道をはっきりさせること。
意味 1. 判断する理解する。 2. 説明する。
例文 これはいかに。とくことわれ。(枕草子)
訳 これはどういうことか。説明せよ。
例文: それだに、人の詠みたらむ歌、難じことわりゐたらむは、いでやさまでこころは得じ。(紫式部日記)
訳:それほどの歌人でも、人が詠んだ歌を、非難し批評していたようだが、どうだろう、そこまで歌の心は持っていないだろう。
ことわり(理)
- 名詞
イメージ 現代語でいう「道理」のこと。
意味 道理。
例文 我を知らずして、外を知るといふことわりあるべからず。(徒然草)
訳 自分を知らないで、他人を知るという道理があるはずがない。
例文 沙羅双樹(しやらさうじゅ)の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
訳 沙羅双樹の花の色は、盛れる者も必ず衰えるという道理を表している。
おきつ(掟つ)
イメージ あらかじめ掟(おきて)のようなものを決めておくようなイメージです。そこから派生的に「指図する」「命令する」などの意味が生まれたと考えられています。現代語の掟の語源だろうと考えられています。
意味 1. 指図する。 2.決めておく。
例文 高名(かうみやう)の木登りといひし男、人をおきてて、高き木に登せて(のぼせて)、梢(こずえ)を切らせしに、(徒然草)
訳 高名の木登りと言った男が、人を指図して、高い木に登らせて、梢を切らせた時に、
おくる(後る・遅る)
イメージ 送ることではありません。遅れることです。古語の「おくる」には「遅れる」という意味もありますが、死に遅れる、先に死なれる、先立たれるという意味もあります。入試では、よく先立たれる意味のほうが狙わるようです。
意味 1. 先立たれる・死に遅れる。 2. 遅れる。後に残る。
例文 故姫君は、十ばかりにて殿におくれ給ひしほど、(源氏・若紫)
訳 なくなった姫君は、十歳ばかりで父君に先立たれなさったとき、
例文 遅れて咲く桜二本ぞいとおもしろき。 (源氏)
訳 遅れて咲く桜が二本、とても趣きぶかい。
例文 童(わらは)などもおくれて。(源氏物語・東屋)
訳 童女などもあとに残って。
わりなし
わり、は、理(ことわり)でしょう。
意味 道理に合わない、どうにもならない。
例文 ほど経ば、すこしうちまぎるることもやと、待ち過ぐす月日にそえて、いと忍びがたきは、わりなきわざになむ。(源氏)
訳 時間が経てば、すこしは気が紛れる事もあるだろうと、待っているのだが、とても辛くて我慢できない気持ちになって、どうにもならない困った状態だ。
いそぎ
イメージ 現代語の「急ぐ」の名詞形と同じ意味もありますが、古語では「準備」の意味もあります。文脈に合わせて選びましょう。
意味 1. 準備。 2.急ぎ。
例文 (十二月には)公事(くじ)どもしげく、春の急ぎにとり重ねて催し(もよおし)行はるるさまぞ、いみじきや。(徒然・十九)
訳 (十二月は)宮中の行事も頻繁で、新春の準備とも重なって、催しが行われる有様は、たいそうなものだ。
おこなふ(行ふ)
イメージ 仏道修行の意味でも「おこなう」が使われることもありますが、仏道や修行とは無関係になにかを行う場合にも「おこなう」が使われることもあります。
- ※ 現代語の漢字の勉強ですが、「修行」をあやまって学業などの「修業」と書き間違える不注意ミスがよくあるようです。気をつけましょう。
意味 1. 仏道修行する。 2. なにかを行う
例文 ただこの西面(にしおもて)にしも、持仏(どうつ)据ゑ奉りておこなふ人は尼なりけり。(『源氏物語』)
訳 ちょうどこの西向きの部屋で、持仏を据え申しあげて勤行をする人は尼であった。
※ 「勤行をする人」と訳さずに単に「仏道修行する人」のように訳してもいい。三省堂の単語集がそうである。つまり、(~前略)「仏道修行する人は尼であった」のように訳してもいいということ。
例文 左右の大臣に世の政をおこなうべきよし、(大鏡)
訳 左右の大臣(左大臣と右大臣)に、政治を行いなさいと、
ならふ
現代語の「習う」の意味の場合もありますが、「慣れる」の場合もあります。
意味 慣れる。習う。
例文 ならはぬひなの住まひこそ、かねて思ふもかひなしけれ。(平家物語)
訳 慣れない田舎の暮らしを、あらかじめ想像するのは悲しい。
例文 男も、(船旅に)ならはぬは、いとも心細し。(土佐日記)
訳 男も、船旅に慣れていない者は、たいそう心細い。
例文 法華経五の巻、とくならへ。 (更級)
訳 法華経の五巻を早く習いなさい。
けしき(気色)
イメージ 現代語でいう「様子」のような意味があり、目で見てわかる様子の意味ですが、さらに「顔色」の意味もあります。
意味 1.様子 2.表情・顔色
例文 新大納言けしきかはりて、さっとたたれけるが、(平家物語)
訳 新大納言は顔色が変わって、(席を)さっとお立ちになったが、
例文 楫取り(かぢとり)「今日、風雲のけしきはなはだ悪し(あし)。」と言ひて、船出ださずなりぬ。(土佐日記)
訳 楫取りは「今日は、風や雲の様子がたいそう悪い」と言って、船を出さなかった。
まもる(守る)
イメージ 目の毛を「まつげ」というように、「ま」には目の意味があります。
意味 見つめる
例文 奏したまふに、おもてのみまもらせまうて、ものものたまはず。(大和・一五二)
訳 申し上げなさると、(帝は大納言の)顔ばかりを見つめて、ものもおっしゃらない。
(帝の自慢の鷹が逃げてしまったという報告を受けた帝の反応です。)
うつつ(現)
イメージ 現代語でも古風ですが「うつつ」という表現があり、「現実」を意味します。それとは別に古語では「うつつ」で「正気」を意味する用法もあります。「現実」の意味を「夢」の対義語と考えれば、「現実」と「正気」の両方には、意識のある状態という共通点があります。
意味 1.現実 2.正気
例文 夢かうつつか寝てかさめてか(伊勢物語・六九)
訳 夢か現実か、寝ていたのか目覚めていたのか。
例文 うつつの人の乗りたるとなむ、さらに見えぬ。(枕草子)
訳 (たくさんの花が飾り立てられた牛車に対して)正気の人が乗ってるとは、とても思えない。
よばふ(呼ばふ)
イメージ 「~ふ」には、「~しつづける」という意味の反復・継続を表す助動詞で、奈良時代の助動詞です。よって「よばふ」とは、「呼び続ける」というのが元の意味です。同様、「語らふ」は「語りつづける」だし、「住まふ」は「住み続ける」の意味です。「呼ばふ」は求婚などにも用いられます。しかし、単に呼び続けている場合もありますので、文脈から判断してください。
意味 1.求婚する 2.呼び続ける
例文 (かわいい女性だったので)よばふ人もいと多かりけれど、返りごともせざりけり。(大和・一四二)
訳 求婚する人もとても多かったけれど、(女は)返事もしなかった。
例文 後ろよりよばひて、馬を馳せて来る者あり。(宇治)
訳 後ろから呼び続けて、馬を走らせて来る者がいる。
かたらふ(語らふ)
「語り続ける」がもとの意味ですが、それから派生した意味として、「親しくつきあう」や「説得する」など幾つかの意味があります。
例文 女どちも、契り深くてかたらふ人の、末まで仲よき人かたし。(枕草子)
訳 女どうしでも、約束が深くて親しくしている人で、最後まで仲のよい人はめったにいない。
あさまし
イメージ 「驚きあきれる」ような意味ですが、文脈によっては派生的に「嘆かわしい」のような意味の場合もあります。必ずしも批判的に見ているとはかぎらず、感心している場合でも使われます。
例文 物のあはれも知らずなり行くなんあさましき。(徒然草・七)
訳 ものの情趣も分からなくなっていくが、情けない。
例文 このいたる犬のふるひわななきて、涙をただおとしにおとすに、いとあさまし。(枕草子・上にさぶらふ御猫は)
訳 この座っていた犬がぶるぶると震えて、涙をただ落としに落とすので、たいそう驚いた。
例文 あさましう犬などもかかる心あるものなりけり。(枕草子・上にさぶらふ御猫は)
訳 (前述の犬が震えて涙を落とす話を聞いて、帝が言うには、)意外に、犬なども、このような心があるものだなあ。
例文 あさましきそらごとにてありければ、はよ返したまへ。(竹取・蓬莱の玉の枝)
訳 あきれるほどの嘘であったので、早く返してください。
- ※ かぐや姫の求婚の条件として庫持(くらもち)の皇子が渡した蓬莱(ほうらい)の玉の枝が、偽物であった場面。
ものす(物す)
イメージ 英語の do のようなものです。「何かをする」のような意味です。文脈から何をするのかを判断します。いろいろな動詞の代わりに使われます。日本語文法的には代動詞とも言います。
例文 さる御文をだにものせさせ給へ。(落窪物語)
訳 そのようなお手紙だけでもお書きください(または「お出しください」など)。
例文 中将はいづこよりものしつるぞ。(源氏物語)
訳 中将はどこから来たのか。
ありく
イメージ 「あちこち移動して回る」感じです。足で歩くとはかぎらず、舟や牛車での移動の場合もあります。さらには「飛びありく」の形で虫などが飛び回る場合もあります。このように、ほかの同士のあとについて「~して回る」「~し続ける」の意味の場合もあります。なお、足であるく場合は「あゆむ」です。
意味 1. 出歩く 2. ~しまわる 3. ~し続ける
例文 菰(こも)積みたる舟のありくこそ、いみじうおかしかりしか。(枕)
訳 海草を積んだ舟が動き回るのは、とても趣きぶかい。
例文 もし歩く(ありく)べきことあれば、自ら歩む(あゆむ)。(方丈記)
訳 もし、歩かなければならないことがあれば、自分の足で歩く(ことにする)。
例文 蛍のとびありきけるを(大和・四○段)
訳 蛍が飛び回っていたのを
例文 蚊の細声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。(枕草子)
訳 蚊が細い声で心細そうに鳴いているのも(=羽音を立てている)、顔のあたりを飛び回る(のも、気に食わない)。
例文 後ろ見ありき給ふめる。(源氏・東屋)
訳 世話をし続けてなさっているようだ。
わたる(渡る)
現代語でいう「行く」(いく)の意味です。それとは別に、動詞の後に続いて、「~し続ける」や「一面に~」の意味もあります。
意味 1. 行く 2. ~し続ける 3.一面に~する
例文 船に乗るべき所へ渡る。(土佐日記)
訳 船に乗るはずの場所へ行く。
例文 女の、え得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、(伊勢物語)
訳 女で、手に入れられそうになかったのを(=妻にできそうで出来なかった女を)、(男は)何年ものあいだ求婚しつづけていたが、
例文 夕霧たちわたりて、いみじうをかしければ、(更級日記)
訳 夕霧が一面に立ちこめて、とても趣きがあるので、
さる
イメージ この「さる」は連体詞です。それを意味する代名詞「さ」に「あり」の連体形がつづいて、なまったものと考える場合もあります。
- ※ 単語集によっては、代名詞「さ」または動詞「さり」で掲載されている場合もあります。
意味 1.そのような 2.立派な・しかるべき
例文 さびしきけしき、さること侍りけむ。(徒然草)
訳 寂しい光景は、そのようなことでございましょう。
例文 頼政卿さる人にて、馬よりおり甲をぬいで、神輿を拝したてまつる。(平家物語)
訳 頼政卿は立派な人で、馬から降り甲をぬぎ、神輿を拝み申し上げる。
さるは
イメージ 古語「さるは」だけは「さる」や「さ」と違って、やや特殊です。「さるは」で、「そうではあるが」・「そうはいっても」の意味で、逆説的な内容が続きます。
意味 1. そうとはいっても。そうではあるが。2. 実は
うし(憂し)
イメージ 物事が思い通りにならず、憂鬱でつらい気持ちを表します。それとは別に、他の言葉の後ろについて「〜しづらい」を意味する用法もあります。
意味 1.つらい 2. 〜しづらい・〜したくない
例文 風いと涼しくて、帰りうく若き人々は思ひたり。
訳 風がとても涼しくて、帰りたくないと若い人々は思っている。
まどふ(惑ふ)
イメージ 現代語の「戸惑う」にも名残があります。古語の「まどふ」は途方に暮れるとか思い悩むとかの意味です。ただし、他の動詞の連用形につくと「ひどく~」の意味になります。
意味 1.迷う・心が乱れる 2.ひどく~する
例文 道知れる人なくて、まどひ行きけり。(伊勢)
訳 道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。
例文 目・眉(まゆ)・額(ひたひ)なども腫れまどひて(徒然・四二)
訳 目・眉(まゆ)・額(ひたひ)などもひどく腫れて
ぐす(具す)
イメージ 漢語の「具」は、「そなわる」「そなわる」の意味です。
意味 1.従う・ついていく 2.連れていく・持っていく
例文 この僧に具して、山寺などへいなんと思ふ心つきぬ。
訳 この僧についていって、山寺などへ行こうという気持ちが出てきた。
すまふ(争ふ・辞ふ)
イメージ 国技の「相撲」(すもう)の語源です。すもうは二人の男が抵抗しあう、とでも覚えましょう。
意味 1.抵抗する 2.辞退する・断る
例文 女も卑しければ、すまふ力もなし。(伊勢・四○)
訳 女も卑しいので、(男の親に)抵抗する力もない。
例文 もとより歌の事は知らざりければ、すまひけれど、(伊勢・一○一)
訳 もとより歌のことは知らなかったので、辞退したけれど、
まねぶ(学ぶ)
名詞「まね」に「ぶ」がついて動詞になったものです。
意味 1.真似する 2.伝える・書き記す
例文 (オウムは)人の言ふらむことをまねぶらむよ。(枕)
訳 オウムは人の言うことを真似するらしいよ。
例文 かの御車の所争ひをまねびきこゆる人ありければ、(源氏)
訳 あのお車の場所争いを伝えもうしあげる人がいたので、
あく(飽く)
イメージ 十分に多いことに対する感想です。現代語ではマイナスの意味しかありませんが、古語ではプラスとマイナスの両方の意味がありますので文脈から判断します。
意味 1.満足する 2.嫌になる
例文 飽かず、惜しと思はば、千年(ちとせ)を過ぐすとも、一夜(ひとよ)の夢の心地こそせめ。(徒然草)
訳 満足せず、心残りだと思うならば、千年を過ごしたとしても、一夜の夢のような心地がするであろう。
例文 魚(いを)は水に飽かず、魚にあらざればその心を知らず。(方丈記)
訳 魚は水がいやにならないが、魚でないのでその心はわからない。
例文 大夫殿、いまだ芋粥(いもがゆ)にあかせ給はずや。(宇治)
訳 大夫殿は、まだ芋粥に満足しなさってないのか。
あいなし
イメージ 語源は不明で、諸説あります。「つまらない」の意味です。受験勉強としては「愛無し」という暗記法で「つまらない」と覚える手法がありますが、それが語源かどうかは不明です。
意味 つまらない
例文 世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言(そらごと)なり。
訳 世間で語り告がれていることが、本当はつまらないのか、多くはうそである。
ねんず(念ず)
イメージ 強く思うことです。なにかを我慢する場合と、何かをいのる場合に使います。
意味 1.がまんする 2. いのる
例文 「いま一声呼ばれていらへん」と念じて寝たるほどに、(宇治)
訳 「もう一声呼ばれてから返事をしよう」と我慢して寝ているうちに
例文 清水(きよみづ)の観音を念じ奉りても、すべなく思ひ惑ふ。
訳 清水寺の観音をお祈り申し上げても、どうしようもなく途方に暮れる。
例文 ただ一人、ねぶたきをねんじてさぶらふに(枕・大納言殿まゐりたまひて)
訳 たった(自分)一人、眠たいのをがまんしてお仕えしていると、
わづらふ(煩ふ)
イメージ 「病気になる」の意味ですが、動詞のあとについて「~に苦労する」の意味もあります。共通するのは、なにかで苦しむことです。
1.病気になる 2.~に苦労する
例文 わづらふことあるには、七日(なぬか)、二七日(ふたなぬか)など、療治(れうぢ)とてこもりゐて、(徒然・六○)
訳 病気になることがあるときには、七日、十四日などの間、治療といって引きこもっていて、
例文 勢多(せた)の橋みな崩れて、渡りわづらふ。(更級日記)
訳 勢田の橋は、みな崩れており、渡るのに苦労する。
あたら(惜)
イメージ 愛着のあるものが失われていくことに愛惜を感じている
意味 1. (連体詞)惜しむべき 2.(副詞)惜しくも、もったいない事に
例文 いかが要なき楽しみを述べて、あたら時を過ぐさむ。(方丈記)
訳 どうして要のない楽しみを語って、惜しいと感じてこの時間を過ごしていられるだろうか(いられないだろう)。
いたづらなり
イメージ 現代語でも「徒労に終わる」とか「いたづらに時をすごす」とか言いますが、それに近い感じです。
意味 1.無駄だ・役に立たない 2.退屈だ・ひまだ
例文 とかく直しけれども、つひに回らで、いたづらに立てりけり。(徒然草)
訳 (壊れていた水車を)あれこれ直したけれど、とうとう回らないで、無駄に立っていた。
例文 船も出ださでいたづらなれば、ある人の読める。(土佐日記)
訳 船も出さないで退屈なので、ある人が詠んだ。
とかく
イメージ 現代語の「とにかく」とは違います。
意味 1.あれこれと 2.なんにせよ
例文 日しきりにとかくしつつ、ののしるうちに夜ふけぬ。(土佐日記)
訳 一日中あれこれしながら、騒いでいるうちに夜が更けて(ふけて)しまった。
例文 『おのれ死にはべりぬとも、とかく例のやうにはせ給ふな。』(大鏡・太政大臣伊尹)
訳 『私が死にましたとしても、なんにせよ(葬式を)いつものようにはしなさるな。
※ 「とかく」の訳、河合出版は「なんにせよ」だが三省堂新明解の大鏡では「あれこれと」。
例文 直垂(ひれたれ)のなくてとかくせしほどに、また使い来たりて、(徒然草・二○五段)
訳 直垂がなくてあれことしているうちに、また使者が来て、
をこなり(痴なり・烏滸なり・尾籠なり)
イメージ 現代語の「おこがましい」に名残がありますが、しかし現代語のそれとは古語の「をこなり」は意味が違いまするかもしれません。なお、「をこ」はおろ愚かという意味です。「をこなり」を単語集や古語辞典でしらべる際は「お」ではなく「を」で探さないと見つかりません。
意味 愚かだ
例文 君達(きむだち)は元輔がこの馬から落ちて、冠(かむり)落としたるをばをこなりとや思ひ給ふ。(今昔物語集)
訳 あなた達は、元輔がこの馬から落ちて、冠を落としたのは愚かだと思いなさるのか。
例文 をこなりと見てかく笑ひまするが、はづかし。(枕・関白殿)
訳 愚かだと思って、(私のことを)このように笑っていらっしゃるのが恥ずかしい。
関連
をこがまし
意味 愚かだ・馬鹿馬鹿しい
例文 世俗の虚言をねんごろに信じたるもをこがましく。(徒然草・七三)
訳 世俗のうそを熱心に信じるのも愚かである。
あながちなり(強ちなり)
イメージ 自分の意志を押し通す感じです。それを好意的に見れば「一途だ」となりますし、批判的にみれば「無理矢理だ」となります。
意味 1.一途だ・熱心だ 2.無理矢理だ・強引だ
例文 桜の散らむは、あながちにいかがはせむ。(宇治)
訳 桜の散ることは、強引に(無理矢理に)どうにかはできない。
例文 便りなかりける女の、清水(きよみづ)にあながちに参るありけり。(宇治・一一の七)
訳 頼るあてのなかった女で、清水に熱心にお参りする女がいた。
例文 人のあながちに欲心あるは、つたなきことなり。(今昔)
訳 人がむやみに強欲に振舞うのは、愚かなことである。
せちなり(切なり)
現代語でも、「切実」「大切」「痛切」などというように、心につよく迫る感情です。ほか、連用形「せちに」は、「切実に」「大切に」のほか、「しきりに」と解釈する説もあります。
意味 1.切実な 2.大切な
例文 (かぐや姫は)七月十五日の月に出てゐて、せちに物思へる気色なり。(竹取)
訳 (かぐや姫は)七月十五日の満月に(縁側に)出て座り、切実に物思いをしている様子である。
※「せちに」を「しきりに」と訳す説もあるので、単語集によっては後半部を「しきりに物思いをしている様子である」と訳す説もある。(文英堂など)
例文 大納言、宰相もろともに忍びものへ給へ。せちなること聞こえむ。(うつほ)
訳 大納言、宰相といっしょに、こっそりと、お越しください(いらっしゃい)。大切なことを申し上げよう。
むつかし
イメージ 現代語で幼児の機嫌が悪いときに「むずがる」と言う表現に、名残があります。古語で幼児にかぎらず不快に思ったり機嫌を悪くすること等を「むつかる」といい、それの形容詞化したものが「むつかし」です。「難しい」ではないので注意。
意味 1. うっとうしい・不快だ 2. 面倒だ 3.気味が悪い・恐ろしい
例文 女君(=紫の上)は、暑くむつかしとて、御髪(みぐし)すまして、(源氏・若紫下)
訳 女君(=紫の上)は、「暑く、うっとうしい」と言って、髪を洗って、
例文 奥の方(かた)は、暗うものむつかしさと、女は思ひたれば、
- (光源氏が夕顔を、ある荒れ果てて院に連れて行った場面)
訳 奥のほうは暗くてなんとなく気味が悪いと、女が思っているので、
びんなし(便なし)
「便」は都合のこと。現代語でも、「便宜」(べんぎ)と言う表現があります。「びんなし」で、都合がないので「都合が悪い」の意味になります。
例文 月見るとて上げたる格子おろすは何者のするぞ。いと便なし。(大鏡)
訳 月を見ると言って、上げている格子をおろすのは何者がすことか。とても困った。(または「とてもけしからん」。)
※ 単語集によって訳が違う。文英堂は「困った」、桐原は「けしからん」。このように単語集で訳が違うので、細かい意味の違いは覚えなくてよい。
類義語
不便(ふびん)なり
意味 1. 都合が悪い・具合が悪い 2.気の毒だ
えうなし
イメージ 要(えう)なし、或いは用(よう)なし、でしょう。役なしの音便だとするとやうなしになってしまうので不適との指摘がある出典にある。
意味 必要がない。役に立たない。
例文 その男、身をえうなきものに思いなして、京にはあらじあづまの方に、住むべき国求めにとて行きけり。(伊勢物語)
訳 その男、自分自身が下らないものだと思って悲嘆して、京都ではなく東国のほうに、住むことができる場所を探しに行こうと出ていった。
ゆゆし
現代語の「ゆゆしい」とは意味が違います。なお現代語の「ゆゆしい」の意味は、「放っておくと大変なことになりそうな様子」の意味です。古語の「ゆゆし」は、もとは神聖なもの、あるいは不吉なものなど、なにか霊的なものを感じる様子のことです。「斎」(ゆ)または「忌」(ゆ)が語源だろうと思われています。派生的に、「はなはだしい」「すばらしい」「ひどい」などの意味も生まれました。プラスの意味でもマイナスの意味でも、どちらでも使います。
意味 1.忌まわしい・不吉だ・恐ろしい 2.神聖 3.立派だ・優れている 4.たいそう~・はなはだしく~
例文 海はなほ、いとゆゆしと思ふ。(枕)
訳 海はやはり、とても恐ろしいと思う
例文 おのおの拝みて、ゆゆしく信、起こしたり。(徒然)
訳 それぞれが拝んで、はなはだしく信心をおこした。
なほ
イメージ 基本的な意味は「やはり」の意味です。ただし、どういう文脈で「やはり」と思ってるのかによって意味がやや変わり、前後の時間の経過にもかかわらず状況が変わらずに「依然としてやはり」と思ってるのか、それとも予想にもとづいて「なんといってもやはり」と思ってるのか、訳が変わります。そのほか、「さらに」の意味があります。
意味 1.依然として、 2.なんといってもやはり・そうはいってもやはり 3.さらに
例文 風波やまねば、なほ同じところにあり。(土佐日記・一月五日)
訳 風や波がやまないので、(舟は)依然として同じところにいる。
例文 東路(あづまぢ)の道のはてよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人、(更級)
訳 東国の道の果てよりも、さらに奥のほうで育った人、
おどろおどろし
文字だけ見ればあたかも「驚く」を2回続けていて強調しているかのようですが、しかし意味は単なる強調とは微妙に違います。単語集では色々とこじつけていますが、覚えるしかないでしょう。用例としては、何かを叩く音や、雨の激しく降る様子などに使われる事例が多い(※ 河合出版の単語集『春つぐる 頻出 古文単語480 PLUS』)。現代語でも、「気味が悪い」の意味は使われます。よって入試対策としては、現代語にはない「おおげさだ」の意味のほうを覚えることになります。
意味 1. おおげさだ・騒々しい 2.気味が悪い
例文 夜いたく更けて(ふけて)、門をいたうおどろおどろしうたたけば、(『枕草子』)
訳 夜もたいそうふけて、門(かど)をいたうおどろおどろしうたたけば、
例文 いとおどろおどろしくかきたれ雨の降る夜、(『大鏡』)
訳 とても気味悪く、一面に雨の降る夜。
なめし
イメージ 偶然かどうかわかりませんが、現代語で相手に無礼な態度をとるときの「なめる」の俗語に、意味が近いです。なので、一説では無礼を意味する現代語の「なめる」は 古語の「なめし」に由来するという説を紹介している単語集もあります(桐原など)。
意味 1.無礼だ 2.失礼だ
例文 文言葉なめき人こそ、いとにくけれ。(枕)
訳 手紙の言葉づかいの無礼な人は、たいそう気に食わない。
なまめかし
現代語の「なまめかしい」には色っぽいという意味がありますが、古語では違います。古語の「なまめかし」は、若々しいとか上品だとか、そういう意味です。
古語の「なま」は、若くて未熟という意味です。たとえるなら現代語の生ビールとかの生ジュースとかが新鮮なビールやジュースをあらわすのと似たような感覚でしょうか(数研出版の見解)。あるいは、古語「なま」は外来語のフレッシュに近いかもしれません(文英堂の見解)。古語の「なまめかし」の意味は、実際に若い場合の意味と、もうひとつ、優美・上品の意味があります。
意味 1.若々しい 2.優美だ・上品だ
例文 なまめかしきもの、ほそやかに清げなる君達(きんだち)の直衣(なほし)姿。(枕)
訳 優美なもの、ほっそりとしていてきれいな貴公子たちの直衣姿。
うるはし
現代語の「うるわしい」と似た意味で、古語「うるはし」は整った美しさを表しますが、しかし古語「うるはし」にはさらに「親密」の意味の場合もあります。
意味 1.端正だ。きちんとしている。 2.親密だ
例文 昔、男、いとうるはしき友ありけり。(伊勢)
訳 昔、男には、とても仲のいい友達がいた。
むげなり(無下なり)
イメージ 「むげなり」は「無下なり」で「それより下がない」の意味で、「最低だ」「ひどい」の意味です。
意味 最低だ・ひどい
いかに、殿ばら、殊勝のことはご覧じとがめずや。むげなり。(徒然)
なんと、皆様、(この獅子の)格別なことは、ご覧になってお気にならないのですか。ひどいです。
いはけなし
イメージ 「いはけ」は幼少という意味です。「いはけなし」でも幼少の意味です。ここでの「なし」は否定ではなく、「はなはだしい」を意味する古語です。「いとけなし」も同様に幼少の意味です。
意味 子供っぽい・あどけない
例文 (若紫が)いはけなくかいやりたる額(ひたい)つき、髪ざし、いみじううつくし。(源氏・若紫)
訳 (若紫が)子供っぽく(髪を)かきあげた額のようす、髪の生え際のあたりが、とてもかわいい。
つれなし(連れ無し)
イメージ 冷淡だとか平然とかの意味です。一説には「つれ」(連れ)とは周囲のもののことで、「つれなし」で周囲に感情が動かされないので、冷淡とか平然とかの意味になるのだろうと言われています。また、変化がないことにも使われます。冷淡の意味は、現代語の「つれない」に近いかもしれません(数研出版の見解)。
意味 冷淡だ・平然としている
例文 昔、男、つれなかりける女にいひやりける。(伊勢)
訳 昔、ある男が、(自分に)冷淡だった女に(歌を)詠んでおくった。
例文 左の中将のいとつれなく知らず顔にてゐまたまりしを、(枕草子)
訳 左の中将が、まったく平然とそ知らぬ顔で座っていらっしゃったのを、
例文 雪の山つれなくて年もかへりぬ。(枕)
訳 雪の山は変化がなく(十二月から一月になり)年も改まった、
まかづ(罷づ)
罷り出づ、の約
意味 1. 退出する(謙譲) 2. (尊い所から卑しい所へ)行く・来る(謙譲)
例文 命婦、かしこにまかで着きて、門ひき入るるより気配あはれなり。(源氏)
訳 命婦(女官)、更衣の里に行きついて、門に入るとその雰囲気は荒れ果てて寂しかった。
さうざうし
イメージ 現在の「騒々しい」とは違います。古語「さうざうし」は「索々し」(さくざくし)のことであり、「あるはずのものがない」という元の意味から、「物足りない」という意味になります。
意味 1.物足りない
例文 帝、さうざうしと思し召しからけむ、殿上(てんじやう)に出でてさせおはしまして(大鏡・道長)
訳 帝は、物足りないとお思いになったのだろうか、殿上(てんじょう)の間に出ていらっしゃって、
あやし
イメージ 「不思議だ」の意味と、「身分が低い」の意味という、2つの意味があります。一説には、貴族には身分の低い者の考えは理解しづらいので、もとの「不思議だ」の意味から派生して「身分が低い」の意味が生じたのだろう、とする説もあります。 感動品「あや」が変化したものが語源だという説があります(桐原書店の見解)。ほか、「不都合だ」の意味もあります。不都合なものは、変だと思うということでしょう。
意味 1. 不思議だ・変だ 2.身分が低い 3.不都合だ。
例文 あやしき下﨟(げらふ)なれども、聖人(しやうにん)の戒めにかなへり。(徒然草)
訳 身分の低い者であるが、聖人の教えに合致している。
例文 遣戸(やりど)を荒く立て開くるも、いとあやし。(枕草子)
訳 引き戸を荒く開けるのも、たいそう、不都合だ。
やさし
イメージ 現代語の「やさしい」とは全く違います。古語の「やさし」は「やせる」が元の意味で、それから「やせるほどつらい」→「やせるほど恥ずかしい」の意味から「恥ずかしい」の意味になりました。
意味 1.恥ずかしい
例文 昨日今日、帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし。(竹取)
訳 昨日や今日、帝がおっしゃることに従うのは(=求婚)、外見が恥ずかしい。
- ※ かぐや姫が帝からの求婚をことわるための言い訳です。
例文 いくさの陣へ笛もつ人はよもあらじ。上臈(じやうらふ)は猶(なほ)はやさしかりけり。(平家)
訳 戦陣に笛を持ってくる人はまさかいないだろう。身分が高い人はやはり優美だなあ。
- ※ 熊谷直実(くまがいなおざね)が平敦盛を捕らえた時、笛を持っているのに気づいてのことです。その「まさか」の人がいたという、逆説的に優美さを強調する表現でしょう。
くまなし
イメージ 「くま」は見えない物陰の意味です。「曇りがない」ので「明るい」という意味です。現代語の「くまなく」とは意味が違いますが、むしろ古語のほうが本来の語源どおりの意味です。派生的に、ある話題について「隠し事がない」とか「何でも知っている」の意味もあります。
意味 1.暗いところがない 2.何でも知っている
例文 花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。(徒然草)
訳 花は満開を、月はくもりのない(=満月)のだけを見るのがよいものなのか。(いやそうではない(反語) )
- ※ 終わりの「かは」葉よく反語表現で使われます。ついでに覚えてしまいましょう。
例文 くまなきもの言ひも、定めかねて、いたくうち嘆く。(源氏・ハハキ木)
訳 (女がらみのことは)何でも知っている論客(=左馬頭(さまのかみ))も、(結論を)決めかねて、ひどくため息をつく。
こころぐるし
現代語の「心苦しい」は相手に対して「申し訳ない」の意味ですが、古語「こころぐるし」は同情や心配の意味です。
意味 気の毒だ、心配だ
例文 思はむ子を法師になしたらむこそ、心苦しけれ。(枕)
訳 かわいがっている子を法師にするのは、気の毒だ。
こころづきなし(心づきなし)
心がついていかない、という意味合い。
意味 気が進まない、面白くない。
例文 …、「例の、心なしの、かかるわざをして、さいなまるるこそ、いと心づきなけれ。…(源氏・若紫)
訳 、…「いつものように、心得の悪い子が、このような事をして、怒られるのも、とても困ったことで面白くないわね。…
かたはらいたし(傍ら痛し)
イメージ 現代語とは意味が違います。古語のは「傍ら(かたわら)で見ていて心がきつい」の意味です。同情的な意味だけでなく批判的な意味(「見苦しい」など)にも使うので、文脈から判断します。現代語の「片腹痛し」は当て字にすぎません。傍らではなく自分のことですが、「きまりが悪い」「恥ずかしい」といった場合にも使います。
意味 1.気の毒だ 2.見苦しい・聞き苦しい 3.恥ずかしい
例文 すのこはかたはらいたければ、南のひさしに入れ奉る。(源氏・朝顔)
訳 すのこ(=縁側)は気の毒なので、南の庇(ひさし)の間(ま)に(源氏を)をお入れ申し上げる。
例文 御前にて申すは、かたはらいたきことにはさぶらへども、(今昔)
訳 (大臣の)御前で申し上げるのは、きまり悪いことではありますが、
うしろめたし
イメージ 「後ろ目痛し」「後ろ辺痛し」が語源だと言われています。背後だけでなく、将来など目に見えないものを心配する場合もあります。現代語の「うしろめたい」と同様の「良心がとがめる」「やましい」気持ちで心配な場合でも「うしろめたし」を使う用法もあります。
意味 1.気がかりだ・心配だ 2.やましい・
例文 いとはかなうものし給ふこそ、あはれにうしろめたけれ。(源氏)
訳 (若紫が)たいそう(幼くて)頼りなくいらっしゃるのが、とても気がかりだ。
ほいなし
イメージ 「本意なし」で不本意だという意味です。「残念だ」の意味もあります。
意味 不本意だ・残念だ
例文 過ぎ別れぬること、かへすがへす本意なくこそおぼえ侍れ。(竹取)
訳 (私が去って)別れてしまうことは、つくづく残念に思われます。
ほい(本意)
意味 本来の意志、本来の目的
例文 神へ参るこそ本意なれど思ひて、山までは見ず。(徒然)
訳 神へ参るのが本来の目的だと思って、山までは見ていない。
やがて
イメージ 現代語とは意味が違います。古語では「やがて」はニュアンス的に「前後の動作が離れてない」=「ほぼ同じ」ような感じがあり、よって「そのまま」や「すぐに」の意味になります。なお、現代語の「そのうち」のような用法は江戸時代以降のものです(文英堂の見解)。
意味 そのまま・すぐに
例文 薬も食はず。やがて起きもあがらで、病み臥せり。(竹取)
訳 (翁は)薬も飲まない。そのまま起き上がりもしないで、病気になってしまった。
例文 名を聞くより、やがて面影(おもかげ)は推しはからるる心地するを、(徒然・七一)
訳 名前を聞くや否や、すぐに面影が推測される気持ちがするのに、
わざと
イメージ 現代語とはニュアンスが違います。うまい暗記法は特になく、下記の意味を覚えるしかありません(桐原書店の見解。単語集では解説をあきらめて、さっさと意味を紹介するスタンスである)。
意味 1. わざわざ 2. 格別に 3.正式な
例文 わざとの御学問はさるものにて、琴笛の音(ね)にも、(源氏・桐壷)
訳 正式な御学問は当然のこと、琴や笛の音色でも、
なべて
イメージ 「並べて」のイメージで、「一般に」という意味です。現代語でいう「おしなべて」と同じ。
意味 一般に・普通に
例文 なべてならぬ法ども行はるれど、さらにそのしるしなし。(方丈)
訳 普通でない修行の数々が行われるが、まったくその効き目がない。
こうず(困ず)
イメージ 「こうず」は「困ず」で「困って」の意味です。肉体的に「疲れる」の意味もあります。
意味 1.困る 2.疲れる
例文 いかにいかにと日々に責め立てられこうじて、(源氏)
訳 どうなのかどうなのかと毎日責め立てられ困って、
すずろなり(漫ろなり)
イメージ 漫然(まんぜん)のイメージです。
意味 1.わけもなく・なんということもなく 2.むやみやたらに
例文 昔、男、すずろに陸奥(みち)の国までまどひにけり。(伊勢)
訳 昔、男が、なんということもなく陸奥の国までさまよい出かけた。
例文 すずろに(酒を)飲ませつれば、うるはしき人もたちまちに狂人となりてをこがましく、(徒然)
訳 むやみやたらに(酒を)飲ませてしまうと、礼儀のきちんとした人も、たちまち狂人となって馬鹿げた振る舞いをし、
うちつけなり
イメージ 動詞「打ち付く」から生じたと考えられています。何かを打ち付けるように突然なさまを表しています。
意味 1.突然だ 2.軽率だ
例文 うちつけに海は鏡の面のごとなりぬれば、(土佐日記)
訳 突然に、海は鏡の面のように(静かに)なったので、
例文 ものや言ひ寄らましと思(おぼ)せど、うちつけに思さむと、心恥づかしくて、やすらひたまう。(源氏)
訳 (源氏は姫君に)何か言って近づこうと思うが、軽率だとお思うになるだろうと、気が引けて、ためらいなさる。
はづかし
現代語の「恥ずかしい」の意味もありますが、こちらが恥ずかしくなるほどに相手が立派だという褒め言葉の用法もあります。
1.恥ずかしい・きまりが悪い 2.立派だ
例文 はづかしき人の、歌の本末(もとすゑ)問ひたるに、ふとおぼえたる、我ながらうれし。(枕・うれしきもの)
訳 立派な人が、歌の上の句や下の句を尋ねたときに、ふと思い出したのは、我ながらうれしい。
はかばかし
イメージ 現代語の「仕事がはかどる」などの「はかどる」の「はか」と同じ語源だと考えられています。
意味 1.しっかりした
例文 (父親を亡くした桐壺の更衣は)とりててて、はかばかしき後見しなければ、(源氏)
訳 特に、しっかりした後見人がいないので
ついで
イメージ「継ぎて」が「ついで」になってと考えられている。
意味 1順序 2.機会
例文四季はなほ定まれるついであり。(徒然)
訳 四季にはやはり定まった順序がある。
なかなか
現代語では随分、とか、かなり、という意味の副詞になるが、古語では少し意味が違う。
意味 なまじっか、かえって、むしろ
例文 …、はかばかしう,後見思ふ人なきまじらひは、なかなかなるべきことと、思う給へながら、…(源氏・桐壷)
訳 …、しっかりと、後見して下さる方のいない宮廷生活は、むしろかえって辛い事であるだろうとは、存じてはいたのですが、…
すさぶ
イメ-ジ 自然と湧いてくる勢いに任せて、何かをすることです。
意味 気の向くままに~する、興じる
例文 笛をえならず吹きすさびたる、あはれと聞き知る。(徒然)
訳 笛を言いようもなく吹き興じているのを、趣き深いと聞き分ける。
ゆめ
イメージ 下に禁止・打ち消しを伴って「けっして~するな」の意味の副詞です。
例文 ゆめこの雪落とすな。(大和物語)
訳 けっしてこの雪を落とすな。
例文 この山に我ありといふことを、ゆめゆめ人に語るべからず。(宇治)
訳 この山に私がいるということを、けっして人に語ってはならない。
げに(実に)
イメージ 現実や直前の発言などを受けて、「なるほど」とか納得したり、あるいは納得のいくことに感動する思うような感じです。「現(げん)に」が由来だという説があります。ただし、漢字を当てる場合には「実に」と当てる慣習です。
意味 なるほど・実に・本当に
例文 (かぐや姫は)げにただ人にはあらざりけりと思して、(竹取)
訳 なるほど(かぐや姫は)普通の人ではなかったのだなあとお思いになって、
すなはち(即ち、則ち、乃ち)
現代語と同じ意味もありますが、古語では「すぐに」の意味が大事です。
例文 立てこめたる所の戸、すなはちただ開きに開きぬ。(竹取物語)
訳 (かぐや姫を)閉じ込めていた場所の戸が、すぐにただもう開いてしまった。
例文 おのづから短き運を悟りぬ。すなはち、五十(いそじ)の春を迎へて(むかへて)、家を出で(いで)世を背けり(そむけり)。(方丈)
訳 自然と運のうすい人生を悟った。そこで五十歳の春を迎えたところ、出家をして俗世から離れた。
- ※ 末尾「世を背けり」の訳、数研出版では「俗世から離れた」、文英堂では「遁世(とんせい)した」。
やうやう
一説には「やうやく」のウ音便だと思われていますが(※ 数研、文英堂の単語集)、しかし現代語の「ようやく」とは意味が違います。もともと古語「やうやう」は、時間の経過とともに少しずつ変化していくさまを表していました。なので現代語でいう「しだいに」「だんだん」の意味に対応します。「やっと」とか「かろうじて」の意味がついたのは鎌倉時代からです。平安時代には「しだいに」「だんだん」の意味だけです(※ 桐原の見解)。
意味 1. しだいに・だんだん 2. やっと・かろうじて
例文 黄金(こがね)ある竹を見つくること重なりぬ。かくて翁やうやう豊かになりゆく。(竹取)
訳 黄金の入っている竹を見つけることが重なった。こうして翁はしだいに豊かになっていった。
- ※ 出典は文英堂の単語集、および三省堂 新明解古典『竹取物語 土佐日記』。「やうやう」の訳はどちらとも「だんだん」。なお三省堂では「重なりぬ」の訳が「たび重なった」となっている。
※ このほかの例文としては、枕草子の春は「あけぼの。やうやう」もある多くの単語集に照会されているが、本wikiでは小学校や中学校ですでに説明済みなので省略する。
類義語 「やや」
意味 しだいに・だんだん
例文 仮の庵(いほ)もややふるさとになりて、軒に朽ち葉ふかく、土居ぬ苔むせり。
訳 仮の庵(いおり)もしだいに住み慣れた場所になって、軒に朽ち葉も多く、土台には苔が生えている。
- ※ 「やや」の訳、文英堂の単語集では「だんだん」、三省堂 新明解古典『大鏡 方丈記』では「しだいに」
さすがに
イメージ 現代語の意味とは違います。「さすがに」の「さ」は、「そう」を意味する指示語の古語「さ」だと考えられます(※ 数研の見解)。
意味 そうはいってもやはり
閼伽棚(あかだな)に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに住む人のあればなるべし。 (徒然)
閼伽棚(あかだな)に菊・紅葉など折り散らしているのは、やはり住む人がいるからなのだろう。
- ※ 前半部の「折り散らしたる」の訳は駿台文庫の単語集、三省堂新明解古典『徒然草』では「折り散らしているのは」とほぼ直訳。三省堂の(新明解古典ではなく)単語集のみ「無造作に折ってある、」と意訳している。
- ※ 後半部の「あればなるべし」の訳、新明解のみ「いるから」で、三省堂および駿台の単語集では「あるから」と直訳
例文 祇王(ぎおう)もとより思ひまうけたる道なれども、さすがに昨日(きのふ)今日とは思ひよらず。(平家)
訳 祇王(ぎおう、※人名、平家側の女性)はもとから覚悟していた道だけど、そうはいうもののやはり昨日今日のこととは思えない。
- ※ 桐原と駿台の単語集に書いてある。駿台のは出典(平家)が書いてないので見つけるのが難しい。「思ひ」の訳を駿台は「覚悟」、桐原は「予想」。
- ※ なお、祇王が平家を去ることになった理由は単に、清盛が寵愛する女性が別の女性(「仏御前」(ほとけごぜん)という女性)に変わったから。源平合戦での平家の敗退は無関係。
ここら
イメージ 「たくさん」の意味です。現代語のここらへんの意味はないです。
例文 ここらの国を過ぎぬるに、駿河(するが)の清見(きよみ)が関と逢坂(あふさか)の関とばかりはなかりけり。(更級)
訳 たくさんの国を通り過ぎてきたが、駿河の清美が関と逢坂の関ほど心ひかれた場所はなかった。
あまた
意味 たくさん・大勢・多く
例文 いづれの恩時にか、女御(にようご)、更衣(かうい)あまた候ひ給ひける中に、(源氏)
訳 どの帝の時代だったか、女御や更衣がたくさんお仕えなさっていた中、
例文 士(つはもの)どもあまた具して山へのぼりけるよりなむ、その山を「ふじの山」とは名づけるる。(竹取)
訳 兵士たちをたくさん連れて山へ登ったことによって、その山を「富士(ふじ)の山」と名づけた。
類義語「そこばく」
など
文頭の「など」は「なぜ・どうして」の意味です。疑問の場合と反語の場合とがあり、文脈から判断します。
意味 どうして・なぜ
例文 「などいらへもせぬ」と言へば、「涙のこぼるるに目も見えず、ものもいはれず」といふ(伊勢)
訳 「どうして返事もしないのか」と言えば、(女は)「涙がこぼれるので目も見えず、ものも言うことができない」と言う。
例文 などかく疎ましきものにしもおぼすべき。(源氏・帚木)
訳 どうしてこのように疎ましい者とお思いになってよいだろうか(いや、よくない)。
しるし
はっきりしているという意味の形容詞。著し(いちじるし)、も同系統の語。ただし著し(しるし)と、漢字で書く場合もある。印とか、知る、という言葉とも関係あるように思える。
意味 際立っている、はっきりしている。
例文 いといたうやつれ給へれど、しるき御様なれば、(源氏・若紫)
訳 (光源氏は)たいそう(服装が)質素だが、(高貴であることが)はっきりと分かるので、
めざまし
イメージ 元の意味は、目が覚めるほどに程度のすごい様子をいいますが、古語では特に、「癪(しゃく)に触る」、「気に食わない」という意味でも使うことが重要です。一方、ほめる場合にも使うことがありますが、ただし上位の者が下位の者を見る目線の場合が多いです(文英堂および桐原の見解)。
意味 1.気に食わない 2.素晴らしい
例文 はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。(源氏・桐壺)
訳 はじめから我こそはと思いあがっていた方々は、(帝の寵愛を受ける桐壺の更衣を)気に食わない者としてさげすみ、ねたみなさる。
例文 気高きさまして、めざましうもありけるかなと、見捨てがたく口惜しうおぼさる。(源氏・明石)
訳 気高い様子で、すばらしいなあと、見捨てがたく残念にお思いなさる。
例文 なほ和歌はめざましきことなりかしとおぼえ侍りしか。(大鏡)
訳 やはり和歌はすばらしいものだよと思われました。
すごし
イメージ 背筋が「ぞっとする」感じです。転じて、ぞっとするほどに素晴らしいものをほめる場合にも使います。
意味 1.(ぞっとするほど)気味が悪い 2.ものさびしい 3.(ぞっとするほど)素晴らしい
例文 日の入りぎはの、いとすごく霧りわたりたるに、(更級)
訳 日の入り際の(=日没間近の)、とてもものさびしく霧が一面に立ちこめているときに、
例文 (舞楽は)なまめかしくすごいうおもしろく、(源氏・若紫下)
訳 (舞楽は、)優雅で、すばらしく風流で、
例文 霰(あられ)降り荒れてすごき夜のさまなり。(源氏・若紫)
訳 霰が降り荒れて、君の悪い夜である。
はしたなし
イメージ もとの意味は「端(はした)なき」から中途半端という意味ですが、「きまりが悪い」のようなマイナスの意味でよく使われます。
意味 1. きまりが悪い 2.そっけない・無愛想だ 3.(程度が)はなはだしい・激しい 4.中途半端だ・どっちつかずだ
例文 はしたなきもの。異人(これひと)を呼ぶに、我ぞとさし出でたる。(枕・はしたなきもの)
訳 きまりが悪いもの。違う人を呼んだのに、「私」と言って出てくること。
例文 ある夜野分(のわき)はしたなう吹いて、紅葉(こうえふ)みな吹き散らし、(平家)
訳 ある夜、暴風(=季節的に「台風」)がひどく吹いて、紅葉をみな吹き散らし、
ほど
意味 1時間・ころ 2.距離・広さ 3.身分・年齢 4.様子
例文 ほど狭し(せばし)といへども、夜臥す床あり、昼ゐる座あり。(方丈)
訳 (部屋の)広さは狭いといっても、夜寝る床はあり、昼座る場所もある。
例文 (桐壺の更衣と)同じほど、それより下﨟(げらふ)の更衣たちは、まして安からず。(源氏・桐壺)
訳 (桐壺の更衣と)同じ身分、それよ低い身分の更衣たちは、まして心穏やかではない。
例文 髪は風に吹きまよはされて、すこしうちふくみだるが、肩にかかれるほど、まことにめでたし。(枕・風は)
訳 髪が風に吹き乱されて、少しふくらんでいるのが、肩にかかっている様子は、ほんとうに魅力的だ。
いとど
イメージ 「ますます」の意味です。語源的には強調の古語「いと」を2回続けたものと考えられていますが、しかし意味がやや違いますので、覚えるしかありません。入試では「いと」につられて「とても」(×)など強調の意味で訳すと誤答だとみなされるかもしれません(桐原の見解)。
例文 散ればこそ、いとど桜はめでたけれ。憂き世になにか久しかるべき。(伊勢)
訳 (もとから桜は美しいが)散ってしまうからこそ、ますます桜は美しい。このつらい世の中に、なにか長く続くものはあるだろうか。(いや、ありはしない)
例文 いとどしき朝霧にいづこともなく惑う心地し給ふ。(源氏・夕顔)
訳 ますますはなはだしく朝霧に、(光源氏は)どことも知れない道に迷うお気持ちになる。
みる(見る)
イメージ 現代語と同じ「目で見る」のが本来の意味ですが、古語ではさらに「会う」の意味で使われることもあり、結婚の意味で使われることもあります。
例文 「かかる道は、いかでかいまする」と言ふをみれば、みし人なり。(伊勢)
訳 「このような道に、どうしておいでですか」と言う人を見ると、(以前に都で)会った人であった。
例文 さようならむ人をこそ見め。(源氏・桐壺)
訳 そういう人と結婚しよう。
例文 うち語らひて、心のままに教へ生ほし立ててみばや。(源氏)
訳 親しく交際して、自分の思い通りに、教え育て上げて結婚したい。
みゆ(見ゆ)
イメージ 「見る」+「ゆ(受身・自発・可能)」です。女性が男性に姿を見られる→結婚を意味することになりました。
意味 1.見られる(受身)、見せる(可能) 2.結婚する
例文 かかる異様(ことやう)のもの、人に見ゆべきにもあらず。(徒然)
訳 このような変わり者は、結婚しないほうがよい。
- ※末尾の「あらず」の訳、数研が「結婚しないほうがよい」、三省堂は「結婚してはならない」。
例文 いかならむ人にもみえて、身をも助け、幼き者どもをはぐくみ給ふべし。(平家・七・維盛都落)
訳 (相手が)どのような男であっても、(あなた自身の)身を助けるために、幼い子供たちを(大切に)育ててください。
ねんごろなり(懇ろなり)
イメージ 現代語では「ねんごろ」は男女の友人関係を超えたことの婉曲表現(=いわゆる「肉体関係」)でもあるが(出典は三省堂新明快国語辞典 第八版など他)、古語ではそういう意味はない。古語「ねんごろなり」は、「念がこもっている」→「熱心だ」「親切だ」の意味。現代語でも「ねんごろ」は漢字で「懇ろ」と書き、これは懇切丁寧(こんせつていねい)の「こん」の字であるので、古語の意味と通じる部分もある。
意味 1.心がこもっている・熱心だ・丁寧だ・一生懸命だ 2.親密だ・仲がよい
例文 狩(かり)はねんごろにもせで、酒をのみ飲みつつ、やまと歌にかかれけり(伊勢・八二)
訳 鷹狩り(たかがり)はそれほど熱心にしないで、酒ばかり飲みつつ、和歌を詠んでいた。
例文 ねんごろに語らふ人の、かうて後おとづれぬに、(更級日記)
訳 親密に交際していた人が、それから後は、たよりも無いので、
例文 思ひわびて、ねんごろにあひ語らひける友だちのもとに、(伊勢・一六)
訳 思い悩んで、親密に交際していた友人のところに、
ざえ(才)
「生まれつきの才能」のことではありません。平安時代の「才」とは漢学のことです。平安時代の男性貴族が習得すべき学問が漢学だったことに由来します。ただし、和歌や音楽などの事も「才」と言います。
意味 1.(漢学・漢詩文の)学問・学才 2.(音楽などの)技能・才能
例文 なほ、ざえをもととしてこそ、大和魂(やまとだましひ)の世に用ゐらるる方も強うはべらめ。(源氏)
訳 やはり、学問を基本としてこそ、実務の能力が世間で重んじられるということも強くありましょう。
※例文中の「大和魂」とは、漢学に対して、日本人が本来持っている実務能力や実践的な知恵のことです(数研および文英堂の見解)。
例文 琴(きん)弾かせたまふことなん一のざえにて、次には横笛、琵琶(びは)、筝(さう)の琴をなむ、次々に習ひたまへる。(源氏・絵合)
訳 琴をお引きになるのが第一の才能で、次には横笛、琵琶、筝(そう)の琴を、次々にお習いになった。
まうく(設く)
イメージ 現代語の「設ける」とほぼ同じ意味です。
意味 準備する・用意する
例文 汝(なんぢ)、供養せむと思はば、まさに財宝をまうくべし。(今昔)
訳 お前は、(仏を)供養しようと思うなら、さしあたって財宝を準備しなさい。
ためらふ
平安時代では「気を静める」「落ち着く」の意味です。現代語と同じ「躊躇する」の意味は鎌倉時代からです。
意味 1.気を静める 2.躊躇する 3.静養する・養生する
風邪起こりて、ためらひはべるほどにて。(源氏)
風邪をひいて、静養していますので。
※なお、現代語の「躊躇する」の意味でよく使われる古語は「やすらふ」です。
関連語
やすらふ(休らふ)
意味 躊躇する・立ち止まる
例文 やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな。(後拾遺)
訳 (あなたに会えないのだったら待たずに)ためらわないで寝てしまえばよかったのに。(実際は夜明けまであなたを待ったので)夜が更けて西に沈もうとする月を見てしまったよ。
しげし(繁し)
イメージ 現代語では草木が多いときに「しげる」と言いますが、古語では草木以外でも使います。なお現代語でも、商売繁盛のハンの字のように草木以外でも使うことがあります。
例文 されど人目しげければ、え逢はず。
訳 しかし、人目が多いので、あうことができない。
※ 桐原、文英堂の単語集で「しげし」を紹介。紹介している単語集が少ない。
ありし
意味 以前の・過去の・昔の
例文 大人になりたまひて後は、ありしやうに御簾(みす)の内にも入れやまはず。(源氏・桐壺)
訳 (光源氏が)大人になってから後は、以前のようには(藤壺の女御の)御簾の中にもお入れにならない。
さ(然)
意味 そのように・そう
例文 まことにさにこそ候ひけれ。(徒然草・四一)
訳 ほんとうにそのようでございましたなあ。
さながら
文法的には副詞「さ」+助詞「ながら」です。意味については、一説には、「そのまま」が原義で、「数量がそのまま」→「全部」というように意味が広がっていったという説もある(※ 河合出版)。
意味 1.そのまま 2.全部
例文 七珍万宝さながら灰燼(くわいじん)になりにき。(方丈)
訳 (火事で)多くの財宝がすべて灰になってしまった。
さらに
イメージ 現代語とは違い、古語「さらに」では打ち消し・禁止をともなって、「まったく~でない」「少しも~ない」の意味があります。
意味 まったく~ない・少しも~ない・決して~ない
例文 さらにまだ見ぬ骨のさまなり。(枕)
※ 「見ぬ」の「ぬ」が打ち消しの助動詞「ず」の連体形です。
訳 まったくまだ見たことのない(扇の)骨のようすだ。
とぶらふ(訪ふ、弔ふ)
現代語の「弔う」(とむらう)の祖先に当たる語ですが、しかし古語「とぶらふ」の基本的な意味は「訪れる」「訪問する」の意味です。平安時代の時点では、病人へのお見舞いをする意味もありました。(現代語の「とむらう」には見舞いの意味は無い) また、平安時代の時点で、(現代語と同様の意味で)死者やその遺族への弔問(ちょうもん)・供養(くよう)をすることも「とぶらふ」というように意味が広がっていました。お見舞いをするにも訪問するし、弔問するにも訪問するからでしょう。現代に漢字を当てる場合、訪問の意味なら「訪ふ」を、弔問の意味なら「弔ふ」を当てるのが通例です。一説には、「とふ」(問ふ)の派生だという説もありますが(駿台と文英堂で紹介している)、不明です。
意味 1.訪問する・訪れる 2.見舞う 3.弔う(弔問・供養)
例文 能因島に舟を寄せて、三年(みとせ)幽居(いうきよ)のあとをとぶらふ。(奥の細道)
訳 能因島に舟を寄せて、三年間、(能因法師が)静かに隠れ住んでいた住居の跡を訪問する。
例文 国の司までとぶらふにも、え起き上がり給はで、舟底(ふなぞこ)に伏し給へり。(竹取・龍の頸の玉)
訳 国司が参上して見舞うときにも、(大納言は)起き上がることがおできにならないので、舟底で横になっていらっしゃる。
例文 胸をいみじう病めば、友だちの女房など、数々来つつとぶらひ、(枕)
訳 胸をひどく患ったので、友達の女房などが数々来ては見舞い、
例文 後のわざなどにも、こまかにとぶらはせたまはふ。(源氏・桐壺)
訳 (※桐原の単語集に掲載してある。他の単語集で見つからないので保留。平安時代の弔問での用法の例。)
例文 父母の後世をとぶらひ給ふを哀れ(あはれ)なる。(平家)
訳 父母の後世を供養なさるのが気の毒だ。
ひがこと
イメージ 「ひが」は「間違った・ひねくれた」という意味の接頭辞です。見間違いを「ひが目」、聞き間違いを「ひが耳」と言います。
意味 間違い
そらごと
意味 うそ
例文 あさましきそらごとにてありければ、はよ返したまへ。(竹取・蓬莱の玉の枝)
訳 あきれるほどの嘘であったので、早く返してください。
- ※ かぐや姫の求婚の条件として庫持(くらもち)の皇子が渡した蓬莱(ほうらい)の玉の枝が、偽物であった場面。
例文 世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言(そらごと)なり。
訳 世間で語り告がれていることが、本当はつまらないのか、多くはうそである。
かちより(徒歩より)
意味 徒歩で
例文 ただ一人、かちより詣で(まうで)けり。(徒然)
訳 たった一人、徒歩で参詣した。
さた(沙汰)
イメージ 現代語で「裁判」のような意味ですが、古語でも似たような意味があります。古語でのもともとの意味は、沙汰の「沙」とは砂金などのことで、「汰」は淘汰のことで、砂金などをふるいわけて良と不良のものを選別することです。選別から判定や評定のような意味が生まれ、そして「裁判」のような意味になりました。裁判は権力が行うわけですので、上司などからの命令も沙汰ということになります。裁判や評定も、何かの解決のための処置や始末として行うので、「処置」や「始末」という意味になったと考えれば覚えやすいでしょう。裁判ではあれこれ議論することから、転じて「噂」の意味にもなったと考えれば覚えやすいでしょう。
意味 1.評定・評議・裁判 2.処置・始末 3.命令 4.噂・評判
例文 いかがはせんと、沙汰ありけるに。(徒然)
訳 どうしようかと、評議があったときに。
例文 人の遅く沙汰せしことどもをも、すなはち疾く(とく)沙汰して、(今昔・一七七段)
訳 人が遅く処置したことを(=なかなか処置しなかったことを)、即座に早く処置して、
例文 「風邪起こりたり」と云ひて(いいて)、沙汰の庭に出でざり(いでざり)ければ、(今昔・三一巻)
訳 「風邪を引いた」と言って、裁判の場に出なかったので、
例文 この歌の故にやと、時の人沙汰しけるとぞ。(著聞・和歌)
訳 この歌のためかと、当時の人は噂したという。
よもすがら(夜もすがら)
「夜もすがら」で覚えましょう。「一晩中」の意味です。「よすがら」も同じ意味です。「すがら」は「〜の間中」の意味ですので、たとえば「道すがら」なら「道中」の意味です。
対義語は、「ひねもす」「ひぐらし」です。
例文 雨風やまず。日一日(ひ ひとひ)、よもすがら、神仏(かみほとけ)をいのる。
訳 雨風がやまない。一日中、一晩中、神や仏に祈る。
ひねもす
意味 一日中
例文 雪こぼすがごと降りて、ひねもすにやまず。(伊勢・八五)
訳 雪がこぼすように降って、一日中やまない。
ひぐらし
意味 一日中
連語・慣用句 編集
音に聞く(おとにきく)
意味 うわさに聞く
例文 音に聞きし猫また(徒然)
訳 うわさに聞く猫また
例文 音に聞くと見る時とは、何ごとも変はるものなり。(徒然)
訳 うわさに聞く時と(実際に)見る時とでは、何事も違うものだ。
音を泣く(ねをなく)
意味 声を上げて泣く
例文 音を泣きたまふさまの、心深くいとほしければ、(源氏・夕顔)
訳 声を上げて泣きなさる様子が、情が深く気の毒なので、
人となる(ひととなる)
意味 1.一人前になる 2.正気に戻る
例文 二人の子、やうやう人となりて後、(発心・六の四)
訳 二人の子が、しだいに一人前になって、
例文 やうやう生き出でて(いでて)、ひととなり給へりけれど、(源氏・夢浮橋)
訳 (浮舟は)しだい元気が出てきて、正気に戻りなさったけれども、
人やりならぬ(ひとやりならぬ)
意味 ※ 自分の意志で決めたことに使う。「自分のせいで」という意味の場合もある。文脈に合うように上手く訳せ。ここでの「人」は他人のこと。
例文 人やりならぬ道なれば、行き憂しとしてとどまるべきにもあらで、(十六夜)
訳 自分の意志でする道(=この文脈では「旅」)なので、行くのがいやだと言って留まるわけにもいかないので、
例文 人やりならず、心づくしに思し(おぼし)乱るることどもありて、(源氏)
訳 自分のせいで、心づくしに思い乱れることもあって、
ただならず
イメージ 「普通でない」が本来の意味ですが、女性が妊娠すると普通の体ではなくなるので「妊娠する」の意味もあると覚えましょう。
意味 1.普通でない 2. 妊娠する
例文 実方(さねかた)の中将、寄りてつくろふに、ただならず。
訳 実方の中将が、近寄って(女房の赤ひもを)結びなおすが、(彼の様子が)普通でない。
例文 男、夜な夜な(よなよな)通うほどに、年月も重なるほどに、身もただならずなりぬ。(平家・八・緒環)
訳 男が毎晩通ううちに、年月も重なるころ、(女の)身も妊娠した。
数ならず(かずならず)
ここでいう「数」とは、数える価値あるものの数です。それがないと言っているのですから、数える価値のない、つまり「取るに足らない」の意味になります。自己卑下で使う場合もあります。
意味 取るに足らない
例文 数ならず身はえ聞き候はず。(徒然)
訳 取るに足らない身(の私)では、聞くことができません。
名に負ふ(なにおう)
「名にし思ふ」という場合もあります。「し」は強意の副助詞です。
意味 1.名前をもつ 2.有名である
例文 名にし負はばいざ言(こと)問はん都鳥わが思ふ人はありやなしかと(伊勢・九)
訳 (都鳥という)名前を持つならば、さあ(お前に)尋ねてみよう、私の愛する人は元気でいるかと。
例文 花橘(はなたちばな)は名にこそおへれ、なほ梅のにほひにぞ、いにしへの亊も立ちかへり恋しう思ひ出でらるる。(徒然・一九)
花橘は有名であるが、やはり梅のにおいのほうが、昔のことも立ち返って思い出される。
いとしもなし
「いと、しも、なし」という構造です。
「いと」=「とても」、「し」は強意の副助詞、「も」は強意の係助詞(※桐原の単語集)、それが「無し」で打ち消される。「しも」でひとつの強意の副助詞とみなす解釈もあります(※三省堂や文英堂)。「愛しも」ではないので注意しましょう。
意味 大したことのない
例文 才(ざえ)はきわめてめでたけれど、みめはいとしもなし。(古本説話集・四)
訳 漢学の素養はこの上なく立派だけど、外見は大したことでもない。