ガイウス・ユリウス・カエサルの著作/プトレマイオス朝について
古代エジプトのプトレマイオス朝(Πτολεμαῖοι, Ptolemaioi, プトレマイオイ:BC305~BC30年)について解説する。
カエサル著『内乱記』の後半部分(第3巻103節以降)で王朝の内紛について言及されるが、その背景事情について詳しくは述べられていないため、ここで補足する。
プトレマイオス朝とは
編集マケドニアのアレクサンドロス3世(Ἀλέξανδρος Γ')のエジプト征服後に、
近親婚 プトレマイオス朝の王たちは、出身地であるマケドニアやギリシアの風習を守り、ギリシア語を話し続けた。一方で、エジプトの神々を尊重し、神々の子孫である王が姉妹などの王族と結婚するという近親婚をして共同統治を行なうことにより、王権の神格化をはかった。このため、女性の王族が強大な権力を握ることになった反面、親子や兄弟姉妹などの近親の間で、王位をめぐって血で血を洗う争いが絶えなかった。このことは、やがて大国として台頭して来たローマの介入を受けやすくしていった。
王や廷臣たちの名前について
編集始祖プトレマイオス1世以来、男性の王たちは皆 ギリシア語の男性名であるプトレマイオス
(Πτολεμαίος, Ptolemaios (Ptolemy))を名乗った。
女王たちは、同じくギリシア語の女性名であるクレオパトラ(Κλεοπάτρα, Kleopatra)ベレニケ(Βερενίκη, Berenikē (Berenice))
アルシノエ(Ἀρσινόη,
Arsinoe)など名乗った。
プトレマイオス
編集プトレマイオス (Πτολεμαίος, Ptolemaios (Ptolemy))
クレオパトラ
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プトレマイオス朝に関連する固有名詞のギリシア語名とラテン語名
編集プトレマイオス朝に関連する人名 | |||||
ギリシア語名 | ラテン語名 | 備 考 | |||
---|---|---|---|---|---|
プトレマイオス | Πτολεμαίος | Ptolemaîos | プトレマエウス (プトロマエウス) |
Ptolemaeus (Ptolomaeus) |
写本ではしばしば Ptolomaeus |
クレオパトラ | Κλεοπάτρα | Kleopátrā | クレオパトラ | Cleopatra | |
(アルスィノエ) | Ἀρσινόη | Arsinóē | (アルスィノエ) | (Arsinoē) | クレオパトラ の妹(en) |
ポテイノス | Ποθεινός | Potheinós | ポティヌス | Pothīnus | 宦官の名(en) |
アキッラス | Ἀχιλλᾶς | Akhillâs | アキッラス | Achillās | エジプト軍 の指揮官(en) |
(テオドトス) | Θεόδοτος | Theódotos | (テオドトゥス) | (Theodotus) | ポンペイウス暗殺 の主唱者 (en) |
(ガニュメデス) | Γανυμήδης | Ganymēdēs | (ガニュメデス) | (Ganymedes) | アルシノエ の養育官 (en) |
ディオスコリデス | Διοσκουρίδης | Dioskourídēs | ディオスコリデス | Dioscorides | 王の側近の名 |
セラピオン | Σεραπίων | Serapíon | セラピオン | Serapion | 王の側近の名 (en) |
プトレマイオス朝に関連する地名 | |||||
アイギュプトス | Αἴγυπτος | Aígyptos | アエギュプトゥス | Aegyptus | エジプト(la) |
ペルスィオン | Πηλούσιον | Pēloúsion | ペルスィウム | Pelusium | 北東部の都市 ペルシウム(en) |
アレクサンドレイア, アレクサンドリア |
Ἀλεξάνδρεια | Alexándreia | アレクサンドリア, アレクサンドレア |
Alexandrīa Alexandrēa |
プトレマイオス朝 の首都(la) |
パロス | Φάρος | Pháros | パルス (パロス) |
Pharus (Pharos) |
アレクサンドリア 沖の島・灯台(la) |
' |
首都アレクサンドリア
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『内乱記』の背景
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女王クレオパトラとプトレマイオス朝
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年 譜
編集西暦年 | エジプトの出来事 | 関連する出来事 |
---|---|---|
BC332年 | アレクサンドロス3世がエジプトを征服。 | - |
BC331年 | アレクサンドリア市の建設を開始。 | - |
BC323年 | - | アレクサンドロス3世死没。 |
BC305年 | プトレマイオス1世が王を自称し、プトレマイオス朝を創始。 | - |
BC170年 | セレウコス朝のアンティオコス4世がプトレマイオス朝の軍勢を破り、 エジプト侵攻しようとするが、ローマの軍事介入により断念する。 |
- |
BC163年 | ローマの命令により、エジプトの領土が分割される。 | - |
BC117年頃 | 後のプトレマイオス12世が誕生。 | - |
BC102年頃 | - | カエサル誕生。 |
BC82年 | - | マルクス・アントニウス誕生 |
BC80年 | プトレマイオス9世が崩御し、ローマの独裁官スッラの指示により、 プトレマイオス11世が即位するが、共同統治者であるベレニケ3世を暗殺。 アレクサンドリア市民が蜂起して王を殺害、王朝の直系が断絶する。 プトレマイオス9世の庶子が王に擁立される。 |
- |
BC80-58 | プトレマイオス12世(Ptolemaeus XII)の治世(BC79-58 クレオパトラ6世と共同統治) | |
BC79-57 | 女王クレオパトラ6世(Cleopatra VI)の治世(BC79-58 プトレマイオス12世と共同統治) | |
BC77年 | 後の女王ベレニケ4世が王女として誕生。 | - |
BC69年 | 後の女王クレオパトラ7世が王女として誕生。 | - |
BC68-62 | この頃、後の女王アルシノエ4世が王女として誕生。 | - |
BC63年 | - | 後のオクタウィアヌスがカエサルの大甥として誕生。 |
BC62-61 | この頃、後の王プトレマイオス13世が王子として誕生。 | - |
BC60-59 | この頃、後の王プトレマイオス14世が王子として誕生。 | - |
BC59年 | この年のローマの執政官カエサルが、プトレマイオス12世に買収されて、 彼を「ローマ国民の同盟者にして友人」であると認める法律を成立させる。 |
- |
BC58年 | 王弟プトレマイオスが統治していたキュプロス島がローマの属州となり、 エジプト民衆の蜂起によって、プトレマイオス12世が廃位される。 プトレマイオス12世の王女であるベレニケ(19歳)が女王に擁立される。 |
カエサルがガリア戦争を始める。 プトレマイオス12世がローマに亡命(BC58-55) |
BC58-55 | 女王ベレニケ4世(Berenice IV)の治世(BC58-57 クレオパトラ6世と共同統治) | |
BC57年 | 女王クレオパトラ6世が崩御し、ベレニケ4世の単独統治になったと思われる。 | - |
BC55年 | ローマのシリア総督アウルス・ガビニウスがエジプトへ侵攻して、 プトレマイオス12世を復位させる。ローマ軍によるエジプト駐留の始まり。 プトレマイオス12世が娘であるベレニケ4世(22歳)を暗殺する。 |
- |
BC55-51 | プトレマイオス12世(Ptolemaeus XII)の復位(単独統治) | |
BC51年 | プトレマイオス12世(66歳頃)が崩御。子のクレオパトラ7世(17~18歳)とプトレマイオス13世(10~11歳)の姉弟が結婚して共同統治者となる。 | - |
BC51-48 | プトレマイオス13世(Ptolemaeus XIII)の治世(クレオパトラ7世と共同統治) | |
BC51-30 | 女王クレオパトラ7世(Cleopatra VII)の治世(BC51-47 プトレマイオス13世と共同統治) | |
BC49年 | 女王クレオパトラ7世がポンペイウスに援軍を派兵する。 | カエサルとポンペイウスの内戦が始まる。 |
BC48-47 | 女王アルシノエ4世(Arsinoe IV)の治世(プトレマイオス13世と共同統治) | |
BC48年 | プトレマイオス13世がクレオパトラ7世を追放し、アルシノエ4世が即位。 王の側近ポティヌスらがペルシウム市に逃げて来たポンペイウスを暗殺。 カエサルがアレクサンドリア市に到着し、王の軍勢に包囲されるが、 ポティヌスを殺害し、アキッラスの軍勢と戦う(アレクサンドリア戦役)。 アルシノエ4世がアキッラスを殺害。プトレマイオス13世(13~14歳)が水死。 クレオパトラ7世が復位。アルシノエ4世は廃位されてローマ市へ連行され、 弟のプトレマイオス14世(12~13歳)が共同統治者として即位。 |
カエサルがパルサルスの戦いでポンペイウスを破る。 |
BC47-44 | プトレマイオス14世(Ptolemy XIV)の治世(女王クレオパトラ7世と共同統治) | |
BC47年 | 女王クレオパトラ(21~22歳)とカエサルの間に、後のプトレマイオス15世(通称カエサリオン)が誕生。 | - |
BC46年 | 女王クレオパトラがカエサルから招かれ、息子カエサリオンを伴って、 ローマ市を訪問(BC44年まで滞在)。 カエサルの凱旋式で、前女王アルシノエ4世がウェルキンゲトリクスとともに、ローマ市内を引き回されるが、市民たちの同情により助命される。 |
カエサルが都ローマ市に凱旋する。 |
BC44年 | カエサルが暗殺され、クレオパトラが帰国してアレクサンドリア市に戻る。 女王クレオパトラが弟のプトレマイオス14世(15~16歳)を暗殺して、 息子カエサリオン(3歳)を共同統治者として即位させる。 |
カエサルが暗殺される。 |
BC44-30 | プトレマイオス15世 (カエサリオン)(Ptolemaeus XV (Caesarion))の治世(女王クレオパトラ7世と共同統治) | |
BC43年 | - | アントニウス・オクタウィアヌス・レピドゥスの間で三頭政治が始まる。 |
BC42年 | - | ピリッピの戦いで、アントニウスとオクタウィアヌスの同盟軍が、カエサル暗殺者ブルトゥスとカッシウスを敗死させる。 |
BC41年 | アントニウス(44歳)が、ブルトゥスらを支援したクレオパトラ(28歳)を、 キリキア(属州)のタルソスに呼び出して会見する。 前女王アルシノエ4世が、姉クレオパトラの意を受けたアントニウスによって暗殺される。 |
- |
BC41-40 | アントニウスが、アレクサンドリアに滞在。 | - |
BC40年 | - | ブルンディシウム協定締結(三頭政治によるローマ領土の分割)。アントニウスが、オクタウィアヌスの姉オクタウィアと結婚。 |
BC40-39年 | クレオパトラが、アントニウスとの間に双子のクレオパトラ・セレネとアレクサンドロス・ヘリオスを産む。 | - |
BC37年 | クレオパトラが、アントニウスと再会。 | タレントゥム協定締結(三頭政治の延長)。 |
BC36年 | クレオパトラが、アントニウスとの間のプトレマイオス・フィラデルフォスを産む。 | - |
BC34年 | アントニウスが、クレオパトラ母子にローマの東方領土を与える。 | - |
BC32年 | オクタウィアヌスが、エジプトに宣戦布告。 | - |
BC31年 | アクティウムの海戦で、クレオパトラとアントニウスの同盟軍が、オクタウィアヌスのローマ艦隊に敗れる。 | - |
BC30年 | アントニウスが自害。続いて女王クレオパトラ7世も自害。 オクタウィアヌスがエジプトを征服する。 |
- |
BC30-AD14 | ガイウス・ユリウス・カエサル・オクタウィアーヌス(Octavianus (Augustus))の治世(帝制ローマ) | |
BC27年 | - | オクタウィアヌスが、ローマの元老院から「アウグストゥス(尊厳なる者)」の称号を贈られる(帝制ローマの開始)。 |
BC年 | - | - |
- |
参考図書
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プトレマイオス朝の関連記事
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外部リンク
編集- The Project Gutenberg eBook of The Life and Times of Cleopatra, Queen of Egypt, by Arthur E. P. Brome Weigall.
- Map of Cleopatra’s Alexandria
- コトバンクの記事