ドイツ語/アルファベットと発音

文字

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ドイツ語では、 A a から Z z までの26字のほかにアー・ウムラウト (Ä ä), オー・ウムラウト (Ö ö), ウー・ウムラウト (Ü ü), エスツェット (ẞ ß) の4文字を用いる。

ウムラウトは変音記号を母音字の上につけたものである。タイプライターなどでは、それぞれの母音字に e を続けて書いたもの (Ä → Ae, ö → oe, ...) で代用してもよい。

エスツェット (ß) は名のとおりエス (s) とツェット (z) の合字である。エスツェットは語頭に立たず大文字を持たなかったが、2017年からは ẞ が正式な大文字に採用され、すべての文字を大文字表記する際などに用いられる。タイプライターなどでエスツェットがない場合は、エスを二つ並べた ss を書くことで代用する。またスイスではエスツェットを用いず ss と綴る。

かつては独特のドイツ文字(フラクトゥール)が使われたが、20世紀に入りラテン文字(英語などで使われるアルファベットと同一)が使われるようになった。しかし現代でも、古い書物の復刻などでは、ドイツ文字の使われる書籍がある。ドイツ文字では ſ (Lang-s、語頭・語中のs)と 𝔰 (Schluss-s、語末のs)とを使い分けし、またエスツェットのほかにも合字(en:c:Fraktur#Ligatures参照)がある。

母音

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ドイツ語の発音はほぼ綴りどおりである。

母音字 a, e, i, o, u で短母音 /a/, /ɛ/, /ɪ/, /ɔ/, /ʊ/ または長母音 /aː/, /eː/, /iː/, /oː/, /uː/ を表す。ただし母音を重ねた(i のみ ie)場合や h を後置した場合は長母音、直後の子音を bb, tt などのように二つ重ねた場合は短母音となる。 a を除き、短母音より長母音の方が口の開きが狭く、緊張の強い音となる。

  • a の短音は /a/, 長音 (a, aa, ah) は /aː/
    日本語の「ア」「アー」とほぼ同じ音。
  • e の短音は /ɛ/、長音 (e, ee, eh) は /eː/
    /ɛ/ は日本語の「エ」と同じか、やや「広い音」(口を上下に広く開いて出す音)である。
    狭い /e/ は英語やフランス語などのものより狭く、「イ」に近く聞こえる。
    語尾などでは弱いあいまい母音 /ə/ になる。
  • i の短音は /ɪ/, 長音 (i, ie, ieh, ih) は /iː/
    日本語の「イ」「イー」と比べて /ɪ/ はやや広い。 /iː/ はやや狭く、唇の両端を強く外側に引く。
  • o の短音は /ɔ/, 長音 (o, oo, oh) は /oː/
    日本語の「オ」「オー」と比べて /ɔ/ はやや広い。 /oː/ はやや狭く、かつ唇を丸める。
  • u の短音は /ʊ/, 長音 (u, uh) は /uː/
    短音・長音とも、日本語の「ウ」「ウー」と比べて狭く、かつ唇を丸めて突き出す。長音の方がより狭く、強く突き出す。
  • ウムラウト:
    • ä は短音の e と同じ /ɛ/。長音 (ä, äh) は e のようには狭めず、同じ音のまま長く /ɛː/ 発音する。
    • ö の短音は /œ/, 長音 (ö, öh) は /øː/
      それぞれ o の /ɔ/, /oː/ と同じ唇の形のまま「(広めの)エ」「(狭い)エー」と言う。
      o の発音で舌を前に持ってくるだけでもよい。
    • ü の短音は /ʏ/, 長音 (ü, üh) は /yː/
      それぞれ u の /ʊ/, /uː/ と同じ唇の形のままで「(広めの)イ」「(狭い)イー」と言う。「ユ」「ユー」のように聞こえる。
      u の発音で舌を前に持ってくるだけでもよい。
  • y は本来はドイツ語では単独としては外来語にのみ使われる。ギリシア語・ラテン語からの外来語の場合は一般に ü と同様に発音する。

アクセントがあれば長音となる音が、アクセントがない場合に短音化することがある。その場合、母音字 a, e, i, o, u, ä, ö, ü (y) はそれぞれ /a/, /e/, /i/, /o/, /u/, /ɛ/, /ø/, /y/ と発音される(この現象のため、ドイツ語は強弱アクセントとともに部分的に長短アクセントを有する言語とされる)。

italienisch /italiˈeːnɪʃ/
Chemie eˈmiː/
Anthologie /antoloˈgiː/)
Psychologie /psyçoloˈgiː/)

またそのような音が語末開音節にある場合は半長母音化する。ただし辞書などでは半長母音符号は表記されないことが多い。

Tertia /ˈtɛɐʦi/
Cicero /ˈʦiʦer/

二重母音は ai, äi, ei, au, äu, eu.

  • ai ,äi, ei - /aɪ/ (アイ)
    「ア」に「(広めの)イ」を軽く添える。「ア」の影響で舌が「イ」の位置まで上がりきらず「アエ」に近く聞こえる([aɪ] ないし [ae])。
  • au - /aʊ/ (アオ)
    「ア」に「(丸口の)ウ」を軽く添える。「ア」の影響で舌が「ウ」の位置まで上がりきらず「アオ」と聞こえる([aʊ] ないし [ao])。
  • äu, eu - /ɔʏ/ (オイ)
    「オ」に「イ」を軽く添える。「オ」の影響で「イ」に唇の丸みが残って自然にウムラウト音となり「オユ」に近く聞こえる([ɔʏ] ないし [ɔø])。

ie は語によって /iː/ ではなく i + e と発音することがある。

Ingrediens /ɪŋˈgreːdiɛns/
Italien /iˈtaːliən/
italienisch /italiˈeːnɪʃ/
Anthologien /antoloˈgiːən/ (cf. Anthologie /antoloˈgiː/)

子音

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二つ重ねた子音字 bb, dd, ff, ll, tt などは、直前の母音が短いことを表し、子音そのものは一つの子音字と同じである。

/p/, /t/, /k/ は、摩擦音 /s/, /ʃ/ などに後続するときを除いて有気音 /pʰ/, /tʰ/, /kʰ/ になる。

b の音は日本語のバ行の子音 /b/。

Baden
Bruder
bitte

ただし、音節末、または無声子音の前では無声だがハ行の頭子音 /h/ ではなく、半濁音化してパ行の頭子音 /p/ で読む。

Lob
Leib

語中の音節末で有声子音の前では、語により /b/ となる場合と、無声の /p/ になる場合がある。

Gabler /ˈgaːblɐ/
farblos /ˈfaɐploːs/

c は本来はドイツ語では単独としては外来語にのみ使われる。

ラテン語からの外来語では a, o, u の前で /k/ となる。e, i の前では /ʦ/ となリ、短縮語などでも /ʦ/ となることがある。その他の外来語の場合はもとの言語の発音が反映される。語によってドイツ語風に転訛することもある。例: Cicero ツィツェロ、CeBIT ツェービット、City スィティ、Cembalo チェンバロ、Ceylon ツァイロン

ck は k と同じくカ行の子音 /k/ で、直前の母音が短いことを表す。

ch の発音は次の通り。

  • sch はシャ行の子音、 tsch はチャ行の子音。例: waschen ヴァシェン, Deutsche イチェ
  • chsはクス。例: wachsen ヴァクセン
    • ただし、語尾変化などで生じた ch+s はこの限りでない。例: sprichst シュプヒスト
  • ch の直前が a, o, u, au のいずれかならば、喉で摩擦する子音 x 「ホ」(前後の母音によりハ、フ、ヘとも聞こえる)。例: Bach ッハ, Tochter フタル, Kuchen ーヘン, auch オホ
    • eu, äu はこれに該当せず、次項「ヒ」となる。例: euch イヒ, räuchen イヒェン
  • 上記以外は原則として、舌の上で摩擦する子音 ç 「ヒ」 。例: Märchen ールヒェン, Töchter ヒター, Küche キュッヒェ, Psychologie プスュヒョロー, Chemie ヒェミー, milchig ルヒヒ
  • 外来語には英語(チャ行)、フランス語(シャ行)、ギリシャ語(カ行)等の発音を残しているものも少なくない。例: checken チェッケン, Chef シェフ, Charakter ラクター

d の音は日本語のダ行の子音 /d/。

Dach
dauern /ˈdaʊɐn/

音節末、または無声子音の前では無声の /t/ になる。タ行の子音である。

Rad /raːt/
Pfand /pfant/
Zweitausendeins /ˈʦvaɪˈtazəntˈʔaɪns/

語中の音節末で有声子音の前では、語により /d/ となる場合と、無声の /t/ になる場合がある。

niedrig /ˈniːdrɪç/
Ländler /ˈlɛntlɐ/

dt は t や tt と同じくタ行の子音 /t/ で、かつ tt と同じく直前の母音が短いことを表す。

Stadt /ʃtat/(ただしStädten /ˈʃtɛːtən/

ds は /ʦ/ と発音する。

abends /ˈaːbɛnʦ/

dsch は /dʒ/ と発音する。

Dschungel /ˈdʒʊŋəl/

f は英語と同じく唇歯音 /f/。

fahren
Freund

g の音 /g/ は日本語のガ行だが、鼻にかかった鼻濁音ではなく、喉でしっかり破裂させる。

gehen
Gegner

音節末、または無声子音の前では無声の /k/ になる。

Tag

語中の音節末で有声子音の前では、語により /g/ となる場合と、無声の /k/ になる場合がある。

Regler /ˈreːglɐ/
möglich /ˈmøːklɪç/

音節末、または無声子音の前で -ig の場合は /ɪç/ (イヒ)と発音する。

König /ˈkøːnɪç/
Honig /ˈhoːnɪç/

ただし一部例外もある。

königlich /ˈkøːnɪklɪç/

-igg は /ɪk/と発音する。

Schanfigg /ʃanˈfɪk/
Schuschnigg /ˈʃʊʃnɪk/

ng は、語末やあいまい母音の e、後綴りの -ig、-ung などの前では /ŋ/ 、他の母音の前では /ŋɡ/ と発音する。子音の前では /ŋ/ と発音する場合と /ŋɡ/ と発音する場合がある。

lang /ˈlaŋ/
Singer /ˈzɪŋɐ/
Evangelist /evaŋgeˈlist/
Pinguin /ˈpɪŋguiːn/
England /ˈɛŋlant/
Anglomanie /aŋglomaˈniː/

h は単独では /h/ と発音する。

Holz
Haus

母音の後に来る h は発音しない(母音を長音化する)。

mehr
sehr

j は /j/ と発音する。ドイツ語ではヤ行の子音であり、英語のようにヂャ行の子音にならないことに注意。日本語の「ひ」の子音[Ç]が有声音化した音(厳密には[ʝ]と表記する)とも言われている。

Jacke
Jahr

k の音は日本語のカ行の子音 /k/。

Kenntnis
Kind

ku は /kv/ と発音することがある。

Biskuit /bɪsˈkviːt/

l は英語とほぼ同じ /l/ と発音する。

Lachen
Leiden

m の音は日本語のマ行の子音 /m/。

Monat /ˈmoːnat/
Mehrheit /ˈmeːrhaɪt/

n の音は日本語のナ行の子音 /n/。

Nacht /ˈnaxt/
Neutral /nɔʏˈtraːl/

ng の場合は、/ŋ/ と発音する。外来語では /ŋg/、複合語では /ng/ と発音することもある。

singen /ˈzɪŋən/
Evangelium /evaŋˈɡeːli̯ʊm/
Eingabe /ˈaɪngaːbə/

nk の場合は /ŋk/ と発音する。複合語では /nk/ と発音することもある。

sinken /ˈzɪŋkən/

p の音は日本語のパ行の子音 /p/。

Paar
Polen /ˈpoːlən/

pfは破擦音 /pf/ ([p͡f]) と発音する。

ph はギリシア起源の語で /f/ と発音する。

q は u とともに書かれ、 qu を /kv/ と発音する。

Qualität /kvaliˈtɛːt/ (クヴァリテート)
Quelle /ˈkvɛlə/ (クヴェレ)

r は口蓋垂ふるえ音 [ʀ] で発音するのが標準とされるが、有声口蓋垂摩擦音 [ʁ] (いわゆるパリの R 音)あるいは歯茎ふるえ音 [r] (いわゆる「巻き舌」)で発音してもよく、地域差や個人差が見られる。以下、それらをまとめて /r/ と記す。

Rat /raːt/
Rechnung /ˈrɛçnʊŋ/

語末や子音の前の r は母音化し /ɐ/ となることがある(斜体で /r/ とも書かれる)。

er /ɛɐ/, der /dɛɐ/, her /hɛɐ/

二音節以上の語では語末の er が母音化する。

Mutter /ˈmʊtɐ/

接頭辞 er-, ver-, zer- は /ɛɐ/, /fɛɐ/, /ʦɛɐ/

erinnern /ɛɐ ˈɪnɐn/

s は母音の前では /z/ と発音する。

Salz /zalʦ/
Sohn /zoːn/
Hose /hoːzə/
absolut /apzoˈluːt/

それ以外のときは無声音の /s/ と発音する。

Sklave /ˈsklaːfə//ˈsklaːvə/
Szene /ˈsʦeːnə/
Was /vas/
hast /hast/

ただし語によっては母音の前でも /s/ と発音することがある。

Erbse /ˈɛɐpsə/
Ypsilon /ˈʏpsilɔn/
Psychologie /psyçoloˈgiː/
wachsen /ˈvaksən/

sch は /ʃ/ と発音する。

Schwein /ʃvaɪn/
schön /ʃøːn/

語頭にある St は /ʃt/ と発音する。

Straße /ʃtraːsə/
Stadt /ʃtat/

語頭にある Sp は /ʃp/ と発音する。

Sprechen [ʃpʁɛçn̩]
Spur [ʃpu(ː)ɐ̯]

su は外来語や固有名詞などで /sv/ と発音することがある。

Suite /ˈsviːtə/

ss はつねに無声音の /s/ と発音し、直前の母音が短いことを表す。ただし、エスツェット (ß) が使えないときは ss で代用することがある(タイプライターなど)。

essen /[ˈɛsn̩/
Passion /paˈsjoːn/

ß (エスツェット)はつねに無声音の /s/ と発音し、直前の母音は長母音か二重母音である。ただし、旧正書法では短母音に続く場合もある (daß → dass /das/)。

Fuß /fuːs/
Süßigkeit /ˈzyːsɪçkaɪt/

t は単独では /t/ と発音する。タ行の子音である。

Tag
teuer

ts 、tz は /ʦ/ と発音する。

bereits
Satz

tsch は /ʧ/ と発音する。チャ行の子音である。

Deutsch
Tschüss

th はギリシア起源の語で /t/ と発音する。

ラテン語からの外来語では母音の前の ti を /ʦi/ と発音する。

Nation /naʦiˈoːn/
national /naʦioˈnaːl/
Tertia /ˈtɛɐʦia/
Aktie /ˈakʦiə/

ただし sti は /sti/ と発音する。

Digestion /digɛstiˈoːn/
Sebastian /zeˈbastian/
Bestie /ˈbɛsti̯ə/

v は f と同様に /f/ と発音する。

Vater ファー
verstehen フェアシュテーエン

ただし外来語や固有名詞では /v/ となることがある。

Violine ヴィオリー
Leverkusen レーヴァクーゼン

語末で /f/ 、母音が後続すると /v/ と発音する語もある。

Relativ /relaˈtiːf/
Relativum /relaˈtiːvʊm/

w は母音や l、r の前では /v/ と発音する。

Wasser ヴァ
Wesen ヴェーゼン
Wla­di­mir ヴラディーミア、ヴラーディミア

それ以外のときは無声音の /f/ と発音する。

Löwchen /ˈløːfçən/

固有名詞の -ow は /ɔf/ と発音する場合と /o/ と発音する場合がある。

Tschechow /ˈtʃɛxɔf/
Bülow /ˈbyːlo/

xは /ks/ と発音する。外国語由来のものにのみ出現する。

Komplexion /kɔmplɛˈksjoːn/

zは /ʦ/ と発音する。英語のように /z/ とならないことに注意。

Zucker ッカ
Zeichen ツァイヒェン