ニホンイシガメの飼育法
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ニホンイシガメ(日本石亀、Mauremys japonica)は、爬虫綱カメ目イシガメ科イシガメ属に分類される日本固有のカメです。甲長は雄で8~13cm程度、雌では約13~20cm程度。この文章では、ニホンイシガメの飼育法について解説します。
はじめに
編集w:ニホンイシガメは、イシガメ科イシガメ属に分類される日本固有の水棲のカメです。ニホンイシガメの幼体はゼニガメと呼ばれ、古くから売買されてきました。ニホンイシガメはペットとしてよく飼育されるミドリガメ(w:ミシシッピアカミミガメ)やw:クサガメ(現在国内でゼニガメとして市販されているのはクサガメの幼体であることが多い)と比べると性格がやや神経質で、臆病な傾向があります。また水カビ病にかかりやすいため、陸場を広く取るように心がけることが大切です。十分飼い主に馴れたニホンイシガメは、飼い主をほかの人間と区別できるかのようになれます。
ニホンイシガメの最大甲長は、オスの場合で15cm程度、メスの場合で22cm程度まで成長します。寿命は、30年以上生きることもあります。また、ニホンイシガメのような昼行性のカメは、日光などによる紫外線の要求量が高いと言われています。屋内での飼育下では、どのように紫外線を与えるかが重要です。これらの特徴から、ニホンイシガメの飼育にはそれなりのスペースと長期間適切な世話をする覚悟が必要です。
ニホンイシガメは日本固有種ですが、地域変異があり、色彩や性格が異なります。また、近縁なクサガメなどと交雑しw:ウンキュウと呼ばれる雑種が生まれることがあります。ニホンイシガメが日本固有の種であっても、それを放流することはそれぞれの生息域の系統を脅かすことになるので決して採集地以外での放流は行わないことにしましょう。
飼育設備
編集この節では、ニホンイシガメの飼育設備について述べます。ニホンイシガメは単独で飼うこともできれば多頭で飼うこともできます。また、大きさはベビーサイズから成体までにかなりの変化があります。ニホンイシガメはもともと日本固有の種であるため通年屋外で飼育することが可能です。 屋外で飼育することで水槽飼育では見られなかった野性の一面を見ることができるかもしれません。
FAQではこれらの例示では示せない情報が追加されます。
水槽飼育1
編集ニホンイシガメを室内で、水槽飼育するための方法を紹介します。まず留意することはイシガメは皮膚病にかかりやすいことです。水カビ病といわれるもので、イシガメの手足や首の周りに白いカビが生え、皮膚がただれたり、呼吸が困難になったりして最後は死亡します。
最も簡単で有効な対策は「陸場を広く」取ることです。陸場と水場の割合を5:5以上にしましょう。イシガメが常に体を完全に乾かせる状況にします。水深も浅くて構いません。水を飲める程度で十分です。イシガメはもともと陸生が強い生き物なので、クサガメやミドリガメと同じ感覚で水槽でつけっぱなしにしておくと、あっという間に水カビ病にかかって死亡します。(注 クサガメの場合、甲羅が隠れるだけの水を入れないと成長するにしたがって甲羅が曲がってしまいます。陸生の強いイシガメにはそのような心配はなく、ここがクサガメとの大きな違いです)。
もしペットショップなどでイシガメを売っていたらよく観察してみてください。水カビ病に感染している個体が意外と多いことに驚くはずです。これはペットショップがクサガメやミドリガメとイシガメを同じように飼っているために起きる現象です。特にベビーは水カビが生えやすい傾向が顕著です。「イシガメを飼う時には陸場を多くする」。これを心がけましょう。
具体案として大きな水槽内にタッパを置いて、そこを水場とする方法があげられます。タッパ以外のスペースにはペットシーツやレンガなどを敷き詰めます。イシガメはのどが渇くと自分でタッパに入って水を飲みます。こうすると水換えはタッパの水を取り換えるだけですむようになるので飼い主の負担は減ります。何より水カビ病にかかりにくくなります。イシガメと、ミドリガメ・クサガメではこの点が大きく違うことを念頭に置きましょう。
水槽
編集ニホンイシガメは、ベビーサイズから甲長10cm程度までは1年以内に成長する場合があります。最終的にメスの場合で20cm強、オスの場合で15cm程度になることから、成長にあわせて水槽サイズを大きくする必要があります。10cm以上のニホンイシガメを1匹飼うという前提ならば、最低でも60x30x36cm(60cm水槽として販売されている)を用意しましょう。大きなサイズになると、60x45x45cmないしは90x45x45cmの水槽を用意してもそれほど大きすぎると感じることはないでしょう。
ニホンイシガメのペアまたは多頭飼育には、問題が発生することがあります。ニホンイシガメの性格は個体によって異なりますが、多くは臆病で温厚です。それでも、常に互いが見える状態では喧嘩や尾を食いちぎられるなどのトラブルが発生する可能性があります。このため、日々の観察を行い、必要に応じて水槽の分割やサイズ調整を検討し、個体が常に顔を合わせないようにレイアウトを工夫することが対策として推奨されます。できるだけ単独での飼育が推奨されますが、多頭飼育を選択する場合は、飼育方法を事前に決定し、急な変更がストレスを引き起こさないように配慮することが重要です。
ろ過
編集ろ過には様々な種類があります。一般的なニホンイシガメの飼育でろ過を行う場合は観賞魚用に販売されている、底面式、外部式、外掛け式、投げ込み式という4つのろ過方法が検討対象になります。ニホンイシガメの長期飼育では外部式ろ過がもっとも優れていると考えられますが、飼育スタイルによってその他のろ過方式を採用したり併用することもできます。ここではそれぞれのろ過装置の特長について説明します。
ろ過槽、水槽の大きさにもよりますが、上記のろ過方式のおおよそのろ過能力とメンテナンス性は以下のようになります。
- ろ過能力
- 底面式>外部式>外掛け式>投げ込み式
- メンテナンス性
- 外掛け式>投げ込み式>外部式>底面式
- 底面式ろ過
- 一番ろ過能力の高い底面式は水槽に敷き詰めた砂利などの底床をそのままろ過材にすることで、抜群のろ過能力を誇ります。ろ過材の全てが生物ろ過(底床に住み着くバクテリアによる水の浄化)であるためろ過材である砂利にゴミや糞などの沈殿物が蓄積していきます。特にカメなどのように大量の糞をする生き物を飼う場合、定期的に砂利を含む大掃除が必要になります(数ヶ月に一度砂利をかきまぜて、汚れを浮かせポンプなどでそれを取り除く作業が生じます)。そのため、複雑なレイアウトや水草を栽培しながらのニホンイシガメの飼育には向きません。
- 外掛け式ろ過
- 外掛け式ろかは水槽の横に引っ掛けるろ過器で観賞魚用に用いられる上部式ろ過装置の小型版のような感じになります。メンテナンス性はとてもよく安価ですが、ろ過材の量が少ないのでろ過能力は落ちます。そのため、外部式や底面式にくらべ頻繁に換水する必要があります。
- 投げ込み式ろ過
- 投げ込み式のろ過は水槽内に放り込みエアーポンプを接続するだけの手軽で安価なろ過方式ですが、ろ過材の量が少なくカメ飼育においてはろ過能力は期待できません。
ただし、ろ過器無しの換水のみで飼育する場合に比べればやはり違いは歴然で、止水で飼育した場合すぐに水が腐ってしまいます。水を回す目的でエアレーションを行うのであれば、ついでに入れておくといいでしょう。 また、子ガメのうちは小さいプラケースなどで飼育することがありますが、その場合は投げ込み式ろ過が主流となります。
- 外部式ろ過
- 外部式ろ過は水槽の外に密閉されたろ過槽を置き、そこに飼育水を通すことで物理ろ過(物理的に水中のゴミをこし取る)と生物ろ過を行います。外部ろ過は水槽とは別の場所に設置できるため、ろ過槽の大きさが水槽の大きさに左右されないうえ、水槽の水位を低くすることも自由にできます。比較的強力なろ過能力を期待でき、ニホンイシガメの長期飼育に適したろ過方式だと言えます。ただし、外部式ろ過は他のろ過に比べ値段が高く(小規模なもので3000円程度から大型のもので数万円程度)やや扱いが複雑になります。また、ろ過槽へ飼育水を送るのにサイフォンの原理を使用してるので、濾過装置を水槽内の水面より下に配置する必要があります。そのため、直接床に水槽を置いたり低い位置に水槽をおいて飼育する場合は外部式ろ過を使用することができないので注意が必要です。
上記のようにニホンイシガメの長期飼育では外部式ろ過がもっとも優れています、ただし設置場所等の問題で外部式が使用できない場合は、外掛け式などを使用したり、補助として投げ込み式を併用してもいでしょう。
また、底面式ろ過もレイアウト等の問題やメンテナンスの手間を除けばろ過能力は優秀ですので、少々手間がかかっても良い方にはお勧めです。
外部式ろ過を使用する場合、ろ材は物理ろ過のためのマットと生物ろ過のためのろ材(リング式やボール状)を2層にして使用しますが、ニホンイシガメなどのカメ類の場合糞が多いため物理ろ過用のマットを使用するとすぐに目詰まりを起こしてしまいます。そのためニホンイシガメを飼育する場合はろ材は全てリング式のろ材にし、物理ろ過は給水パイプの先端にスポンジフィルターを設置することで目詰まりを防止します。それでもやはり目詰まりはおきますのでろ材の定期的な洗浄は必要です。また、ろ過器を購入する場合は目安となる水槽サイズのものより一回り大きいものを購入すると良いでしょう。
照明
編集ニホンイシガメを飼育するうえで照明の役割は二つあります。
- カメの体を温め、消化機関の働きや代謝を促すこと
- 紫外線(UVB)を吸収させ、カルシウムの生成を促すこと
一つの照明で二つをカバーする照明もありますが、ここではそれぞれの照明について、説明します。以下では体温を温める用途で使用する照明を「バスキングランプ」、紫外線を発生させる照明を「紫外線灯」と呼びます。
バスキングランプ
編集爬虫類であるニホンイシガメは変温動物であり、体温は周囲の温度に影響されます。周りの温度があがればカメの体温もあがり、代謝が促進され動きも活発になります。また、食べた物を消化するためにもある程度の体温が必要になります。
野生のニホンイシガメや屋外飼育では日光浴により体温をあたためますが、水槽飼育では日光を利用することが難しいため、熱を発する照明で日光の代替にします。バスキングランプは熱さえ出ればなんでもよいのですが、広い範囲を温めるものではなく、一箇所を温めるものが向いているため、白熱灯のレフ球が安価でワット数の種類も多くお勧めです。他にも爬虫類用のハロゲンランプなども売られています。一箇所を温め、水槽内部に高温の場所から低温の場所まで温度勾配を設けることにより、ニホンイシガメが好む場所でバスキングできるようになります。
設置場所と温度
編集バスキングランプで光をあてる場所をバスキングスポットと呼びますが、バスキングランプは 水槽全体を照らすのではなく、水槽の一部に照射します。ニホンイシガメの場合は水槽内の 陸場に光をあてるように設置します。
これによりニホンイシガメは体温をあげたいときは陸場でバスキングし、体温があがりすぎた ときは水に浸かって体温をさげます。
バスキングスポットの温度は30~35度ぐらいになるよう、ランプのワット数や設置位置の 高さを変えて調節します。冬用と夏用でワット数の違うランプを常備しておくと便利です。
使用上の注意点
編集バスキングランプは非常に高温になりますので、点灯時の取り扱いには注意しましょう。
また、点灯中に水がかかると割れてしまいますので、換水時には注意が必要です。
紫外線灯
編集紫外線灯はその名の通り紫外線を発生させる照明になります。ニホンイシガメは日光に含まれる紫外線(UVB)を吸収することで体内でビタミンD3を作り出します。ビタミンD3はカルシウムを吸収するために必要な栄養素で丈夫な骨格や甲羅の形成に重要な働きをします。そのため、十分な紫外線が得られない場合、骨格の生育に異常をきたし、クル病などを発症します。また、紫外線には殺菌効果があり皮膚病を予防することができます。
UVBは日光に含まれていますが、ガラスやプラスチックなどに吸収されてしまうため、窓ガラスごしの日光などではあまり紫外線が含まれません。屋内の水槽飼育では人為的にUVBを照射する必要があります。
紫外線灯は蛍光管タイプのものから強力な紫外線を発するメタルハライドランプなどいろいろな種類があります。 メーカーからもさまざまな商品が出ていますので、必ずUVBが出ているものを選んで買いましょう。
ただし、どの紫外線灯も日光に比べると非常に微弱なため、日光浴ができない場合の補助として使用し基本的には日光浴で紫外線を吸収させるほうが良いでしょう。逆に、週に1~2回、10分程度の日光浴ができる環境であれば専用の紫外線灯を用意する必要はありません。日光浴をよくさせて育成したニホンイシガメは、甲羅につやがあるなど、外見上も美しく育ちます。とくによく整備された飼育環境ではキズなどを負わずに長期間育成するので天然個体以上に美しい個体を育成することも可能です。
設置場所
編集紫外線灯を設置する場合は、あまり高位置にとりつけるとただでさえ弱いUVBがさらに弱まってしまいますので、陸場から30cm以内の場所に設置しましょう。UVBは水にも吸収されてしまうため、水中にいる場合も効果はありません。
使用上の注意点
編集紫外線灯は使用しているとUVBの発生量が落ちていきます。商品の説明書きに交換時期が記載されていますので、まだ点灯する場合でも定期的な交換を行いましょう。
UVBはガラスなどに吸収されてしまうため、水槽のふた越しに紫外線灯を設置するとUVBは吸収されてしまいますので、ふたなどは取り外しておきましょう。ただし、本来観賞魚用に設計された製品はガラスフタを設置するように説明書などで要求されていることがあります。事故が生じた場合、保証されない場合があるのでショートした場合に延焼しないように設置したり、結露した電灯で感電したりしないように注意深く扱う必要があります。
底床
編集ろ過を行う場合、底床(ていしょう:水槽の底に敷く砂利・土)の有無で水質の安定性が大きく変わってきます。 見た目にも底床があるほうが良いでしょう。
ただし、底床を使用すると糞などがたまり定期的な掃除が必要になります。
必ず必要なものではないため、好みに合わせて選択してください。
底床を敷く量ですが、見た目をよくするために敷く場合は、メンテナンスを考えて水槽の そこが隠れるくらいにうっすら敷きます。
水質維持を目的とする場合は2~3cm程度の厚みに敷くと効果があります。
底床の種類は大磯砂が一般的に使われているようです。
保温器具
編集野生のニホンイシガメは冬になると冬眠を行いますが、冬眠を行わない室内飼育では保温器具が必要になります。
冬眠させる場合であっても体調不良や天候不順などにより、冬眠を中断もしくは延期する場合などもありますので、 用意しておくと安心です。
保温器具には主に水槽内の室温を暖めるものと水温を暖める物の2タイプがあります。 また、暖めるという意味ではバスキングランプも保温器具の一部と捉えることができます。
ニホンイシガメの飼育で使用する保温器具は水温を暖める物になります。室温については昼間はバスキングランプがその役目を果たしてくれますし、 活動の低下する夜間は水温がある程度あれば室温が下がっても問題ありません。
水温を暖めるタイプの保温器具は以下の2タイプあり、水槽サイズ・水量・外気温度によって選択します。 以下にそれぞれの特徴を記載しますので、購入時の参考にしてください。
また、保温器具使用時は取扱説明書を良く読んで説明書の指示に従ってください。
- プレートヒータ(シートヒーター)
- 水槽の下に敷くタイプのヒーターです。主に小型水槽やプラケース、衣装ケースなどの小規模な飼育に向いています。
- 水槽外部に設定するため、事故(火傷や挟まりによる溺死)が起こりにくく、大抵の商品は温度が一定(または段階的に調節)で設定が簡単です。また、水位を気にせず設定できるため、低水位で飼育する場合はこのタイプにします。
- 短所としては出力が低く外気の温度に左右されやすいため、室温が常時5度以下になるような低温の場所や水量の多い水槽での使用には向きません。設定温度の調節はほとんどできません。
- 水中ヒーター
- 水槽内の水中に沈めて使用するタイプのヒーターです。主に中型~大型の水槽や外気温が低温になるような場合の飼育に向いています。
- 低出力のものから高出力のものまで幅広くあるため、水量に合わせて選択することで水量の多い水槽や外気の低い場所でもほぼ一定の水温を保てます。
- サーモスタットが別についているものは水温の設定が1度単位で行えるものがほとんどです。サーモスタット内蔵のものでも水量に合った出力のものを選べば外気の影響はあまり受けないでしょう。
- 短所としては必ず水中に水没して使用しなければならないためある程度の水位を必要とします。また、水槽内に設置することでカメが火傷をしたりヒーターと水槽の間に挟まってしまうなどの事故が起こる場合があります。(注意して設置すればほぼ回避できますが)
- また、大型のカメになるとヒーターそのものを動かして水中から出してしまう場合もありますので、しっかり設置しましょう。火傷防止のヒーターカバーは必ず使用します。
水槽飼育2
編集ニホンイシガメを最も安あがりな飼育設備で維持するための方法を述べます。 ここでは、ろ過や照明を人為的に与えないで、その変わりに飼い主が積極的に水換えや日光浴をさせることで 飼育することを目指します。
水槽
編集ろ過を使用しない飼育では頻繁な換水が必要になります。そのため、極端に大きな水槽やガラス製の重い水槽は避けましょう。小亀のうちは大きめのプラスチックケースが良いでしょう。水も浅めに入れ持ち運びがしやすいようにします。カメが大きくなってきたら衣装ケースなどで飼育する愛好家も多いです。長期間育成する場合は、屋外に衣装ケースを置いておくと紫外線で1年程度でボロボロとプラスチックが崩れてしまうことがあるので、セメント工事などで用いるトロ舟と呼ばれる容器が適しています。水槽が大きい場合、水槽の持ち運びは必ず水を抜いてからにしましょう。水の重みで水槽がたわむと割れる危険性があります。
ろ過
編集この飼育法では基本的にはろ過はせずに頻繁な換水で水質を維持します。ただし、エアレーションや投げ込み式ろ過を設置することで水質が向上し、水流を発生させることで温度むらをなくせますので、水質の悪化を遅らせるのに非常に効果的です。
照明
編集この飼育法では紫外線の吸収は日光浴で行うようにしますので、紫外線灯は必要ありません。広い屋外の池ではカメが日光をさんさんと浴びている光景が見られますが、水槽などの狭くて動ける範囲の狭い環境ではバスキングを直射日光で行ってカメを熱射病で殺してしまう例がしばしばみられます。
夏場はよしずなどで日陰を作ります。日光浴は、10分程度で十分効果的であり、ガラスなどを通さなければ日陰であっても地面や壁面からの紫外線反射はかなり効果的であるということを考慮すれば、それほど強力な直射日光を浴びる必要はないと理解できるでしょう。
ケースがプラスチックの場合はバスキングランプによる熱で溶けないように注意します。バスキングランプの設置については「水槽飼育1」と同様にします。
底床
編集頻繁に全換水を行うと底床にバクテリアが定着しにくくなるので、あまりろ過作用は期待できません。 そのため、重量増加、ゴミや糞が堆積するため敷かないという考え方もあります。メンテナンスの手間が許す程度に薄く底床を設置すれば、わずかですが水質安定の効果はみられます。
保温器具
編集この飼育法では冬の間は冬眠させることで保温器具の設置を行いません。後で冬眠の節で述べるように、繁殖などの目的がなければ冬場屋内で加温飼育してもよいでしょう。子ガメの場合や体調不良などで冬眠させずに飼育する場合は保温器具が必要になります。保温器具については「水槽飼育1」を参照して下さい。
FAQ
編集日常の世話
編集この節では、ニホンイシガメの飼育するうえでの日常の世話について述べます。
日常の世話については個々の飼育環境の違いにより、方法や時期が異なる場合がありますので、ここで書かれている情報にこだわらず、状況にあわせて対応してください。
観察
編集給餌
編集餌の量
編集1回に与える餌の量はカメの頭×2です。
実際にはカメの年齢や気温などに左右されるため、カメの様子を見て加減します。
食べ残しは水を汚すため、早めに取り除きます。
頻度
編集生まれてから1年未満の小亀のうちは1日に1~2回食べるだけ与えてよいでしょう。
大人になると餌のあげすぎは肥満のもとになるため、2~3日に1回程度で良いようです。
定期的に体重を計測し、体重が減っているようなら餌の頻度を増やします。
給餌方法
編集給餌は太陽が上って、またはバスキングランプが点灯する午前中が良いでしょう。
気温がさがる夕方や夜に与えると、体温が下がってしまい食物を消化できず、体内で腐敗してしまいます。
カメは食後日光浴やバスキングをして体温をたかめ食物を消化します。
最低でも消灯3時間前までにはあげておきたいところです。
換水
編集水槽などでニホンイシガメを飼育する場合は定期的な換水(水の入れ替え)が必要になります。
ろ過を行っていない場合、数日で水は濁り嫌な臭いを発するようになってしまいます。ろ過を行っている場合でも、バクテリアによって分解された有機物がどんどん蓄積していきますので、やはり定期的な換水は不可欠です。
換水の頻度はろ過の容量や水量、生体の数などにより左右されますので、普段の観察をしっかりおこない、適切な頻度で行いましょう。
初めのうちはどれくらいの頻度で行えばよいのかわからないと思いますが、そのような場合は回数を多めに行い徐々に生体の様子を見ながら換水頻度を決めます。
換水方法はろ過を行っている場合とろ過を行わない場合で異なりますので、以下にそれぞれの換水方法を記述します。
ろ過を使用している場合(水槽飼育1)
編集ろ過の方法や容量・水量によって左右されますが、ろ過が十分に効いている状態であれば1~2週間程度
に1回の換水ですむようになります。
ただし、ろ過を行っている場合の換水の基本は「水量を少なく、回数は多く」です。大量の換水はろ過バクテリアにダメージを与え、水質が不安定になるため1回の換水量を少なくし、代わりに回数を多くします。
換水の頻度が良くわからない場合は3~4日に1回程度行って様子を見ます。
餌を兼ねてメダカや小さいエビなどを一緒に入れておくと水換えの指標になります。
換水の方法はろ過を行っている関係上全ての水を一度に換えることはろ過バクテリアにダメージを与えるため避けます。
一度に換える水の量はおおよそ全体の3分の1から2分の1程度にします。
水換えに使用する水は水道水の汲み置きや市販のカルキ抜きなどを入れ、水道水に含まれる塩素を抜きます。水温も水槽に合わせてあげるとなお良いでしょう。
ろ過を使用しない場合(水槽飼育2)
編集ろ過を使用していないため、頻繁な換水が必要になります。
換水頻度は水量と水温、ニホンイシガメの大きさによって変わります。
水量が少ない、水温が高い、カメが大きかったり飼っている数が多かったりするほど頻繁な換水が必要になります。気温の高い夏場などは毎日行う必要があります。
換水方法はろ過を行っていないので全ての水を新しい水に入れ替えます。
水は水道水を使用しましょう。汲み置きの水や塩素の入っていない井戸水などは雑菌が繁殖しやすいので避け、カルキ抜きの薬品なども使用しないようにします。
飼育水と水道水で極端に水温差がある場合は、お湯を足すなどして合わせてあげるとなお良いです。
日光浴
編集照明の節でも述べましたが、ニホンイシガメの健康な育成には紫外線とくにUVBの吸収がかかせません。
そのため室内の水槽で飼育している場合は定期的な日光浴が必要になります。
紫外線灯を使用していない場合は、最低でも週に1回は日光浴をさせてあげましょう。
紫外線灯を使用している場合であっても極力日光浴は行ったほうが良いと思われます。
注意しなければならないのは日光浴は体温をあげるためではなく紫外線を浴びせることが目的であるため、直射日光にあてる必要はありません。
特に真夏の直射日光はカメの体温を急激にあげてしまい、日陰などの逃げ場のない場所では命の危険にさらされてしまいます。そのため日光浴の際は必ず日陰で行います。
紫外線は乱反射して日陰でも届くため、水槽のふたを取って窓をあけてあげるだけで十分な紫外線が届きます。
できれば換水を行っている間だけでも窓を開け放っておいて、紫外線を室内に取り入れてあげましょう。
また、曇りの日でも紫外線は十分に届いているため日光浴は行えます。直射日光の危険のない曇りの日は絶好の日光浴日和と言えます。
冬眠と繁殖
編集ニホンイシガメは、日本の固有種です。そのため野外下において冬眠を行います。
野生下では池沼の底や河川のよどみや横穴で越冬していることが観察されています。また、河川の横穴で集団越冬を行っている場合もあり、そのような環境で交尾をおこなっているとも考えられています。
一方で、ニホンイシガメは特にオスで通常の爬虫類では考えられない低温下でも活動してることが知られています。これは、大きさの違うメスの不活発な時期に交尾を行うために動いていると考えられています。そのため、ニホンイシガメにおいて、冬眠とは他の爬虫類の生理とは異なることに留意しましょう。
飼育下で冬眠を行う意義として以下の2つの要因が考えられます。
- 野外の生態を再現し、繁殖を促すため
- 冬季の飼育管理等のコストを最小化するため
どちらかまたは両方の目的であれ、飼育下で冬眠を行う場合、準備を晩夏の肥育より行うと考えておきましょう。
冬眠の流れは以下のようになります。
- 晩夏: 肥育期; 食べるだけ給餌を行います。特に成熟したメスは冬眠明け後、一定期間を経て産卵期に入ります。体内で卵が発達してくると、内臓が圧迫されるため絶食気味になります。未成熟のメスは成長期にあたるため、やはり肥満を気にせず食べるだけ与えます。成熟したオスはもともとメスに比べ食べません。しかし、やはり食欲の一番ある時期なので、食べるだけ与えます。気温が高いため、直射日光浴は行いません。よく太ったメスは鼠蹊部より皮膚がはみ出てきます。
- 晩秋: 食欲が落ち始めます。食欲に応じて給餌量を落として行きますが、基本的に食べるだけ与えていきます。気温の低下に応じて直射日光浴をする時間が増えていきますが、個体自身が選べるよう、逃げ場をきちんと作っておいてください。体重は1.のピーク期にくらべ10-15%ほど落ちます。交尾を確認することがあります。
- 初冬~初春: 無給餌・無日光浴で、水槽内で沈んでいます。できるだけ水温変化が少ないことが重要ですから、日陰やできるだけ水量を多くすることが重要です。汚泥やわずかながら排泄物が観察されます。神経質にならない程度に換水をすることが薦められます。代謝がきわめて下がるため、体重は2.に比べてほぼ変化がありません。場合によってはわずかに増加することもあります。
- 初春: ソメイヨシノが咲くころに、動き始めます。食欲はそれほど多くありませんが、食べるようなら少しずつ与えていきます。八重桜が咲くころには食欲も戻っているでしょう。このころには通常の飼育に移行できます。直射日光浴を行うことができますが、急激な温度上昇が起こるころでもあり、逃げ場をきちんと作っておいてください。5月に入ると、成熟したメスの場合、卵の発達により、食欲の減退が見られます。
繁殖
編集 繁殖は大きくわけて2つのパターンが考えられます。
1つは気づいたら卵の産んでいた場合、もう1つはねらって繁殖させる場合です。
前者に関しては、野生の個体を入手して飼育していたらいつのまにか卵を産んでいた、長年飼っていたら卵を産んだという場合で、対処法としては孵卵と検卵、孵化仔の管理に分けられます。
後者に関しては、成熟した雌雄の調達、環境の制御、雌の肥育・栄養管理、産卵床の確保、抱卵の確認、産卵、孵卵、検卵、孵化仔の管理です。
成熟した雌雄の調達
ニホンイシガメの雌雄は成熟時の大きさが異なります。成熟した雌は550-1500gあるのに対し、成熟した雄は150-250g程度にしかなりません。そのため、自然界の場合、雌の成熟に5-7年ほどかかるのに対し、雄は2-3年程度で繁殖する能力を持つと考えられます。これは、雄は短期間で繁殖集団に参加する戦略をとるのに対し、雌は産卵数を増大させる戦略をとっているためと考えられています。
カメの成熟は一般に体サイズに依存すると考えられていますが、ニホンイシガメの場合、年齢も条件になる可能性がります。つまり小さな個体でも年齢が一定以上に達していれば産卵をする可能性もあります。それに対し、飼育下では飼育開始後19年目に初めて抱卵した例もあります。成熟したかどうかの判定は、春-夏の抱卵の有無または雄の追尾行動や求愛行動の有無によって行います。
ニホンイシガメの雄の判別は甲長3.5cmほどから可能になります。判別点は総排泄孔の位置が甲羅の後縁を超える点にあります。他方雌は、総排泄孔の位置が甲羅の後縁上程度です。ニホンイシガメの性決定は温度依存性決定(TSD)であることは明らかになりつつありますが、詳しい条件はまだ明確にはされていません。ただし一般的にカメ類にみられる高温雌、低温雄型のようです。
環境の制御
ニホンイシガメは与えられた環境に対してうまく適応をするだけの柔軟性を持っていますが、繁殖に関しては季節的な環境の変化や、適切な環境の設定が欠かせません。季節的な変化は上記の冬眠の項も参考にしてください。また繁殖のための適切な環境とは、雌が安心して産卵できる産卵床の設置や、雌の個体ごとの好みが選択できるような平面的な広さや安心して穴掘り・穴埋めが行える上空からの遮蔽物(たとえば植物など)が挙げられます。飼育下での繁殖の成功例は野外での粗放的な環境が多く、水槽のような狭い空間での繁殖の成功例は極めて少ないようです。
雌の肥育・栄養管理
産卵までの流れは、冬眠明け→摂餌開始→抱卵に伴う拒食→産卵→摂餌開始→2クラッチ目抱卵に伴う拒食などのサイクルが繰り返されます。産卵間隔は約1か月ごとに繰り返されます。そのため、冬眠前から翌年の産卵前までに充分な肥育を行っておくことが、産卵後の雌の状態を左右します。よく太った雌は後肢の脇(股甲板と鼠蹊甲板の間)より脂肪がはみ出しています。この状態を肥満とし、飼育上好ましくないとする考え方もあります。しかしながら、4-5か月にわたる冬眠・拒食期間に加え、抱卵期間中の延べ1-3か月の拒食期間を乗り越えるためには、十分な脂肪の蓄積が欠かせません。成熟した雌は毎年産卵を行いますから、次年度の冬眠・産卵期を考慮するという点でも十分な脂肪の蓄積が欠かせません。
ニホンイシガメの野生化での食性は雑食で、機会があればなんでも食べるようです。ですから栄養管理は多種類の餌をまんべんなく与えるという考え方、つまりバラエティーでバランスを取るという考え方が挙げられます。それに対し、栄養素を検討していろいろな材料を配合した乾燥飼料(EP: Extruded Pellet)にカルシウムや微量元素をダスティングしたもので栄養の欲求を満たすという考え方もあります。近年の配合乾燥飼料は、カメ専用のものなどが開発されています。これら配合乾燥飼料に加えて炭酸カルシウムの添加を行います。身近なものでいえば、鶏卵の卵殻をそのまま与えれば、ニホンイシガメは喜んで食べます。
産卵床の確保
産卵床の材質には、砂、土、園芸用土など、およびそれらの混合が挙げられます。それぞれを十分に湿らせます。ここで大事なのは雌がここに埋めれば卵が孵化するという環境にしておくことが必要です。具体的には雌が掘っても途中で崩れない粘度が必要であること、孵化するのに必要な温度が確保されていることです。野外の飼育では適切な微小環境を雌がにおいを嗅ぐようなしぐさで吻先を地面につけるように判断しているようです。
産卵床の厚さは、15cmほどもあればよいようです。
抱卵の確認
抱卵の確認は、雌が拒食または摂餌量が減ってから確認します。X線によるレントゲン撮影のほか後肢の脇(股甲板と鼠蹊甲板の間)に小指を入れて、小指をやさしくかき回すことで判断できる場合があります。この確認方法は、充分に卵殻が形成されてから判断できます。
産卵
産卵は産卵巣の作成→産卵→埋戻しの流れで行われます。
産卵の期間は野生・飼育下とも5月-8月くらいまで見られます。産卵する時間帯は野生下で日没後から夜明けと考えられていますが、飼育では日中でも行われます。一回の産卵数は4-12個(通常6個程度)で、産卵の回数は1シーズン2±1回です。
冬眠明け後、充分に成熟した雌は一定期間のち卵殻を形成して産卵を行います。産卵に先立ち3-4週間程度の食欲の減退または拒食が見られます。産卵適期を迎えた雌は産卵巣を掘るための場所選びを行います。この時、産卵場所の基質(砂や土など)に吻端をつけ臭いを嗅ぐようなしぐさを行います。その場所が気に入った場合、後肢を使い深さ15cm、直径10cm程度の産卵巣を掘ります。後肢で基質を掻き出せない程度の深さになった場合に産卵が行われます。卵はほぼ1分ごとに生み出されます。産卵が終わると十分な時間をかけて埋戻します。産卵巣の決定から埋戻しが終わるまでは約1時間程度です。産卵が終わった雌はその直後から摂餌を始めます。次の産卵または体力の回復のためにも産卵直後から充分なん給餌を行ってください。
産卵場所が気に入らない、または産卵床がない場合、産卵を行いません。ある程度の期間(1-2か月程度)は卵を体内に持ち続けることができますが、最終的には飼育槽内の水の部分や陸上部分に産み捨てられます。
孵卵
人工的に孵卵する場合、必要なものは恒温槽、温度計、湿度を保てる基質です。
恒温槽には湿式と乾式に2パターンがあります。湿度を保つ基質で代表的なものは、水苔、バーミキュライト、パーライトなどがあります。これらの基質は園芸用土を構成する素材です。湿式恒温槽は水槽に水を入れ外部内部を問わず温度調節装置と制御装置、水の循環装置をつけ一定の温度を保つ方式です。小規模な場合は観賞魚用の機材を流用することができます。乾式恒温槽は水槽や発砲スチロールの箱などに温度調節装置と制御装置を設置します。このときに空気を循環させるためのファンを取り付け槽内に気温を一定に保ちます。
ここでは、湿式恒温槽に水苔を基質を使った方法を紹介します。
準備するものは、水槽、循環ポンプ、温度調整用のクーラー、発泡スチロール板、水苔、基質を入れるフタ付きタッパーです。水槽に温調設備と循環設備をセットして、発泡スチロール板で周囲を囲います。十分に強力な設備であれば発泡スチロールはなくてもかまいません。水苔は一旦水を含ませたあと、固く絞ります。湿らせた水苔をフタ付きタッパーに収容します。この時フタにはいくつかの孔をあけておきます。恒温槽の性質上、孔の大きさは特に神経質になる必要はありません。針や釘などでわずかな数(6-10個の卵あたり5-10穴程度)でもいいし、孵化した子ガメが脱走しない程度に大きくてもかまいません。
卵を恒温槽に移す前に温度が安定していることを確認して使用しましょう。恒温槽の設定温度は25-30℃が安全です。ニホンイシガメは温度依存性決定(TSD)を持つと考えられており、現在その研究が行われています。
産卵巣から取り出した卵の天地をできるだけ換えないようにして水苔に置いておきます。この時、鉛筆で卵の天井面に日付や印をつけておくと、後日なんらかのトラブルで卵がひっくり返っても元に戻すことができます。なお卵と卵の間隔は密接でも離しても大差はないようです。発生途中で死籠りした場合でも2か月程度は卵が腐ることはないようです。
正常に発生している卵には、産卵されてから24-48時間以内に受精班とよばれる模様が出てきます。受精班が出てこない場合、残念ながら孵化は望めませんが、念のため孵卵しておくことをお勧めします。
思いがけず産卵した場合は見つけた場所が水中であれ陸上であれ、水苔入りタッパーなどに収容しますが、一時的であれば湿らせた布などの上に置き、乾燥しないようにフタ付き容器に仮収容してから孵卵の準備をしても十分間に合います。
検卵
受精班が出現し、安定した環境で孵卵を行い、順調に発生が進んだ場合には産卵後4-6週間ほどで検卵を行うことができます。これは懐中電灯を使うキャンドリングと呼ばれる方法で卵の一部に光をあて、血管の発生や個体の動きを確認する方法です。6-8週目に地面方向から光を当てると天井方向にカメの形に影が見え、その前肢や後肢の動きまで観察できます。
孵化
産卵後約2か月で孵化してきます。孵化直前の卵は卵殻がぼろぼろになり、水を吸収することで産卵時より1回り大きくなっています。また硬い鶏卵様の感触から、皮革のような感触に変化してきます。同じクラッチの子ガメの孵化はほぼ同時(36時間以内)におこります。発生していない、発生初期で止まってしまった場合はこの時期になっても卵殻の変化が現れません。また発生後期に死籠りした場合は皮革のような感触に変化してからほかの子ガメ孵化しても48時間以上たっても孵化しません。
孵化のときに、子亀は卵嘴(らんし)を呼ばれる吻端の棘を使って卵膜を破ります。卵膜を破ったあとに肺呼吸へ移行すると考えられます。卵膜を破った後でも、卵黄嚢には卵黄をもっている場合があるため、数日間は卵膜から這い出てこないことがよくあります。無理やり孵出させると、四肢の動きによって卵黄嚢を傷つけてしまうことがあります。自力で孵出するまでそっとしておきましょう。
孵化仔の管理
卵黄嚢を吸収しきった個体は孵化槽内を移動します。この段階になったら、飼育水槽へ移動し給餌を始めます。
給餌のタイミングは、移動翌日から食べるだけ与えて構いません。消化能力は成体に比べて劣るため、充分な量を与えましょう。また飼育水温は28-33℃と高めに設定することで消化を助けます。
健康な個体であれば通常の飼育水温を25℃前後に設定しても成長には問題がありませんが、複数個体を飼育する中で成長不良の個体が出てきた場合は、高温飼育により代謝を促進させます。
水草との相性
編集ニホンイシガメの水槽や池に水草を植えてみたい場合、まず、ニホンイシガメが底砂を掘り返したり、足で ひっかけてひっぱってしまうことが問題となります。しかし、十分な厚み底床を用意したり、十分な容量のある鉢植えにすることで水草をニホンイシガメの飼育容器で育成することが可能です。
ただし、ニホンイシガメは雑食性なので、水草の中にはニホンイシガメが好んで食べる種類とほぼまったく見向きもしない水草があります。好んで食べる水草は餌やりのできない一週間程度の旅行中などに投入する素材として良いですし、餌にならない植物を育成することは観賞性を向上し、水質維持を容易にします。
以下は執筆者によって調査された植物の一覧となります。
ニホンイシガメがほとんど食べない植物
編集- マツモ
- 非常に成長の速い水草です。照明が十分で、水質がとくに適している場合、とくに肥料などを添加せずとも急激に増加することがあります。マツモは根がないので輪ゴムや鉛板などで束ねて沈めます。成長が安定すれば、頻繁にカットして捨てられるほど増えるので、束ねた箇所が多少枯死したとしても十分に水草を維持できます。
- 水槽セットアップ直後の水質安定に利用すると便利です。
- 成長が速いので、長期間放置するとカメの遊泳スペースがなくなることがあります。
- マツモの成長速度は速いのですが、餌としてはほとんどニホンイシガメは食べようとしません。
- 不要になった場合、屋外に設置したバケツなどで比較的容易に維持することができます。
- ミクロソリウム
- 丈夫な水性シダ植物、繁殖は比較的ゆっくりだが丈夫で、活着性が強い。
ニホンイシガメがときどき食べる植物
編集- グリーンミリオフォラム
- 良く根づいた場合、成長速度が速いので、魅力的な水草ですがときどきニホンイシガメがかじることがあります。有茎植物は十分な深さのある底床に根づいた場合引き抜かれることはありませんが、ある程度のボリュームを根づかせるまでカメを投入しない、あるいは鉢植えなどにして根づくまで別の水槽で十分育成するなどの工夫が必要です。
- アマゾンフロッグビット
- 浮き草で、光量のある環境では繁殖力が強く、水質浄化作用も強い。ときどきニホンイシガメが食べるので、屋外強光下などで一定量維持管理しつつときどき投入するとよい。繁殖力が強く帰化してしまう可能性があるので、日本国内の河川などに放流することは厳に謹むべきです。
ニホンイシガメが好んで食べる植物
編集- オランダガラシ(クレソン)
- 八百屋やスーパーなどで時期によっては比較的安く入手できます。細切れになってもただちに腐敗するわけではないので、餌として良好な結果を得ます。ただし、ニホンイシガメが気に入らないとずたずたにかみちぎったまま放置されることもあります。
- アヌビアス系
- 活着性があるので、カメ水槽に適しているように見えますが、水中に植えた場合、カメは好んで食べます。陸上に植えた場合、あまり食べられないことがあります。根・茎にシュウ酸カルシウムが含有しているため、扱う時は要注意。
- アマゾンソードプラント
付録
編集環境省レッドブックについて
編集w:レッドデータブック (Red Data Book, RDB) は、絶滅のおそれのある野生生物について記載したデータブックのことである。
また、これのほかに絶滅のおそれのある野生生物の名称(学名、和名等現地名)、カテゴリー等の最低限の情報のみをリストしたw:レッドリストがある。
w:レッドリストのカテゴリーは以下のようになっており、平成24年よりニホンイシガメのカテゴリーは情報不足(Data Deficient, DD)より準絶滅危惧種(NT: 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種)となりました。
- 環境省レッドリストのカテゴリーと定義 ====
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- 絶滅(Extinct, EX) - 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
- 野生絶滅(Extinct in the Wild, EW) - 飼育・栽培下でのみ存続している種
- 絶滅危惧(Threatened)
- 絶滅危惧I類(CR+EN) - 絶滅の危機に瀕している種
- 絶滅危惧IA類(Critically Endangered, CR) - ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
- 絶滅危惧IB類(Endangered, EN) - IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
- 絶滅危惧II類(Vulnerable, VU) - 絶滅の危険が増大している種
- 絶滅危惧I類(CR+EN) - 絶滅の危機に瀕している種
- 準絶滅危惧(Near Threatened, NT) - 存続基盤が脆弱な種
- 情報不足(Data Deficient, DD) - 評価するだけの情報が不足している種
- [付属資料] 絶滅のおそれのある地域個体群 (Threatened Local Population, LP) - 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの