形から見分けることばの種類すなわち形態品詞の一方で、文の仕組から区別する統語品詞というものがあります。 brivla、ma'ovla、cmevla はそれぞれどのように文に組み込まれているかによって違った統語品詞の働きをします。この働きを体系的に捉える観点を統語論(syntax)といいます。統語論の学習は、私達が日頃から文として渡し合っているものの構造を根本的に観察することです。

ミキとマイコについて次のような文を考えてみます:

1. ミキはマイコの母である。
2. ミキはマイコを撫でる。
3. ミキはマイコに優しい。

いずれも、ミキとマイコの関係を表しているものです。文法上の違いに着目してください。例1では“母”という名詞で静的関係を、例2では“撫でる”という動詞で動的関係を、例3では“優しい”という形容詞で属性関係を描写しています。このような品詞の分化がロジバンにはありません。これら三つの例は、ロジバンで表現されるとき、共通の文法構造に基づきます。品詞を変えることなく事物間について異なる性質の関係を表せるのです。

事物間の関係を表す語構造のことをロジバンで bridi と呼びます(形式論理学の predicate に相当)。関係、すなわち bridi の意味的中核をなすのは selbri です。事物、すなわち selbri によって取り結ばれる変数項の一つ一つは terbri です。それぞれを一般にいう述語と主語になぞらえるのは必ずしも正確ではありません。主語は目的語や補語にはなりませんが、その垣根を越えた客観的な原理が selbri と terbri の構造にはあります。先の諸例文をロジバンの原理で捉えると次のようになります:

bridi
terbri terbri selbri
ミキは マイコの 母である
ミキは マイコを 撫でる
ミキは マイコに 優しい

“マイコの”、“マイコを”、“マイコに”、これらは日本語の観点では異なる格とされ、ゆえに異なる助詞が付加されていますが、ロジバンの観点ではどれも同じ統語品詞、 terbri です。特定の事物間の関係を表し分けるうえで日本語では述語だけでなくそれと結びつく言葉も変えてゆきますが、ロジバンでは関係を表す語すなわち selbri のみを入れ替えてゆけばいいのです。

bridi
terbri terbri selbri
la .mikin. la .maikon. mamta
la .mikin. la .maikon. satre
la .mikin. la .maikon. xendo

主語、目的語、補語とか、主格、目的格、対格といった区別が無く、それによる語形変化もありません。

la .mikin. la .maikon. satre では、ミキの撫でているのがマイコであるということをどのように表しているのでしょうか。語順です。一番目の terbri が“撫でるもの”で、二番目の terbri が“撫でられるもの”であることを satre 自身がつかさどっているのです。二番目の terbri を空にして la .mikin. satre としても、そこには依然として何らかの撫でられるものの存在が暗示されます。なぜって、撫でられるものなしには撫でるという事象が成立しないからです。

一番目、二番目 ... のことは一般に x1、x2 ... と書かれます。読み方は“一番”、“二番”で結構でしょう。先の図は次のように書き換えられます:

x1 x2
la .mikin. la .maikon. mamta
la .mikin. la .maikon. satre
la .mikin. la .maikon. xendo

項としての terbri のこのような数は selbri によって1つであったり5つであったりします。複雑な関係概念を表す selbri はより多くの項数を有します。先に述べたとおり、 selbri が有する terbri 項は、それが表す関係概念が成立するのに必要な要素の一つ一つです。つまり、或る selbri をあなたが使えるようになるということは、それが表す概念をあなたが十分に把握しているということに拠るのです。めいめいの selbri の習得が量的な暗記ではなく質的な理解を土台とするのだということを心に留めておきましょう。

bridi における terbri の順序は重要です。 x2 であるべき terbri を x1 に置けば、表現の誤解を招くことになります。たとえば先の例を改めて la .maikon. la .mikin. mamta とすれば“マイコはミキの母である”という意味になります。英語や中国語のように、語順に関する知識はロジバンにおいて肝要なのです。ただし融通がきかないわけではありません。日本語やポーランド語のように語順を変えることが、或る仕掛を使ってできます。たとえば x1 の terbri を、解釈上は一番目のままにしておきながら文面上で二番目や三番目にまわす、といったことができるのです。“ミキはマイコの母である”という意味を維持したまま la .mikin. と la .maikon. を移し換える方法として次のようなものがあります:

x2 x1
la .maikon. la .mikin. se mamta
x2 x1
fe la .maikon. fa la .mikin. mamta

selbri の移動を組み合わせることもできます:

x1 x2
la .mikin. mamta la .maikon.
x2 x1
fe la .maikon. mamta fa la .mikin.
x1 x2
mamta fa .maikon. la .mikin.
x2 x1
mamta la .maikon. fa la .mikin.

ここではとりあえず、語順をどんなふうにも変えることがロジバンでは可能なのだ、ということを覚えておいてください。ちなみに本書で紹介するロジバン文の語順の多くは日本語のSOV構文を擬似的に再現したものです。英語などの解説文書ではSVO構文に似せて la .mikin. mamta la .maikon. のようにするのが一般的です。コミュニティにおける実際の使用でもこの terbri | selbri | terbri ... という語順が一般化しています。

詳しいことは統語論で学べます。