「合理的な言語」と呼ばれるだけに、文の仕組(構文)が注目されるロジバンですが、文の仕組とは突き詰めれば音の並び方です。 ロジバンの非曖昧な文法は、非曖昧な発音作法を基盤としています。 音はロジバンにおいて大切なものです。


音&字

以下は日本語話者向けに簡略化したロジバンの発音と文字の(母音・子音別)対応表です。 あくまでも初心者向けの擬似的な照応であり、日本語仮名との完全な一致が表されているわけではない、ということに留意してください。 正しい発音は IPA 欄に示されています。 IPA とは国際音声記号のことです。 その右隣は、コンピュータの普遍的文字コードでありロジバンの主流表記体系であるアスキー文字です。

IPA ASCII 日本語仮名
a a
i i
u u [1]
e e
o o
ə y [2]


1. 日本語のウは唇を丸めない [ɯ] です。 それを丸めたのが [u] となります。

2. いわゆるシュワー/曖昧音です。

IPA ASCII 日本語仮名
m m マ・ミャ・ミ・ム・ミュ・メ・ミェ・モ・ミョ
p p パ・ピャ・ピ・プ・ピュ・ペ・ピェ・ポ・ピョ
b b バ・ビ・ブ・ベ・ボ
ɸ f ファ・フィ・フ・フェ・フォ
β v ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ
s s サ・ス・セ・ソ
z z ザ・ズ・ゼ・ゾ
ʃ c シャ・シ・シュ・シェ・ショ[3]
ʒ j ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ
t t タ・ティ・テュ・テ・ト・テョ
d d ダ・ディ・デュ・デ・ド・デョ
k k カ・キャ・キ・ク・キュ・ケ・キェ・コ・キョ
g g ガ・ギャ・ギ・グ・ギュ・ゲ・ギェ・ゴ・ギョ
ɾ r ラ・リャ・リ・ル・リュ・レ・リェ・ロ・リョ
l l (ラ・リャ・リ・ル・リュ・レ・リェ・ロ・リョ)[4]
n n ナ・ニャ・二・ヌ・ニュ・ネ・ニェ・ノ・ニョ
x x ヒャ・ヒ・ヒュ・ヒェ・ヒョ[5]
h ' ハ・ヘ・ホ
ʔ . [6]
, [7]


3. シャ・ジャ行は [ɕ][ʑ] です。 その舌腹を上から離したものが [ʃ][ʒ] となります。

4. 韓国語と同様、日本語のラリルレロ音は [ɾ][l] を区別するものではありません。 外国語の /l/ をラ行で表す習慣がありますが、音声学的には不安定な処置です。

5. ヒャ行は [ç] です。 その舌腹の位置をより後方に移したものが [x] となります。

6. 言葉の境界を示すものです。 文の仕組を左右する字です。

7. 音節の境界を示すものです。

御覧のように、アポストロフィーやカンマ、ピリオドなども文字として組み入れられています。 これらは英語などにおける句読点とは違う働きをします(ロジバンのピリオドやカンマは文や文節の終わりを示すものではないのです)。

ロジバンでは、文字から音声が生まれるのではなく音声から文字が生まれる、とされます。 (この数十万年の間にヒトの発声器官は変化しませんでしたが、五千年の間に文字は著しく変遷してきました。 言語にとって音声は文字よりも根源的です。) したがって、公式の音声が定められていても、公式の文字というものがロジバンには存在しません。 アスキーは一般のどのコンピュータ・キーボードからでも入力できるという点でロジバン話者のあいだで広まっているあくまで“主流”の体系であり、“公式”とはされていません。

詳しいことはロジバンの音韻論で学べます。


x v l の習得

上の注記でも述べたように、標準的な日本語の中では認識されない音声がロジバンにはあります。 これらを習得するうえでは、生来的に慣れている日本語の五十音図を脇にして発音の物理的な仕組を観察することがまず大きな助けとなります。

発音は、喉・口蓋・舌・唇などが肺からの息を制御することで実現されます。 特定の発音ができないということは、これら息の制御器官そのものを自身で特定的に制御できていないということです。 制御できない理由として、1)器官の筋肉神経が鍛えられていない、2)器官の位置関係(調音位置)と使用方法(調音方法)を把握していない、などが考えられます。 1は、機械的・継続的な鍛錬で克服できます。 2は、より認知的な作業が要されます。 下の図を参考に該当の調音器官の用い方を学びましょう。

/x/ の [x] は8、軟口蓋で起こります。悔しいときに「クゥ~!!」と言う発音に似ていると言われます。 日本語のハ行と共通するのは、息を継続させながら作る摩擦音である点です。 日本語で言う「ウヒャ~」のヒは7であることが多いようで、近いほうです。 出し続けながらの息が当たる箇所を7から8に移していってみてください。 注意してみると、箇所の推移に舌が関与しているのがわかるでしょう。 [x] の習得とは、目的の8の箇所で息が摩擦を起こすように瞬時に舌を形作れるようになることです。 難しいことのようですが、これはあなたが日本語話者として「ウヒャ~」の発音を幼い頃に覚えてしまえたほどに簡単なことでもあるのです。 (ところで [x] は覚え甲斐のある音です。 多くの言語が共有します:アラビア語、ギリシャ語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、ポーランド語、スワヒリ語、中国語、エスペラント。)

/v/ の [β] は1で起こります。 ブの [b] と違うのは、先程同様、息が継続する摩擦音である点です。 調音位置・調音方法においてはファの [ɸ] と同じです。 [ɸ] と違うのは、声帯(11)を鳴らしながら作る有声音である点です。 形そのものはファの子音として日本語に定着しているので、その濁音・有声音型である [β] すなわちブァ(ヴァ)の原理上の子音は日本人にとって簡単であるはずです(実はブもまた原理的にはフの有声音型ということから [β] となるはずなのです)。 ところがブァ(ヴァ)を [b] で解してバと発音する人が少なくありません。 息が継続する摩擦音から息を瞬発する破裂音に替えているのです。 つまりここで破裂音でなく摩擦音をそのまま保てば [β] が出るわけです。 手順を整理します。 まずファの形を唇で作ります。 母音ァの部分を出さずに息だけを吹き続けます。 声帯を鳴らします。 以上です。 声帯を鳴らす過程がよくわからない場合は、サ・ザなどの比較をしてみましょう。 サの形を舌で作り、やはり母音(ア)の部分を出さずに息だけを吐き続けます。 これを途中でザに切り替えたことを意識してみます。 喉のあたりに力が入るはずです。 これが声帯を鳴らす、有声音を使うということです。 有声音のプロセスを独立させて扱えるようになりましょう。 (ちなみにロジバンの /v/ としてより一般的な [v] は調音位置が異なります。 [β] は唇だけを使いますが、 [v] は唇と歯を使います。 上が歯、下が唇となります。)

/l/ の [l] は、舌の脇を使うものです。 まず舌を4、歯茎に当てます(すっかりくっつけてもいいでしょう)。 この形を維持しながらアと発してみます。 アの音とはならず、喉が不明瞭に鳴り、息が舌の脇(あるいは口の両壁)を通るでしょう。 これが側面音の原理です。 引き続きアを意識して喉を鳴らしながら、4に当てていた舌を徐々に下ろします。 奥まっていた声が明瞭になってゆき、最後にアと出るでしょう。 これが接近音の効果です。 [l]歯茎側面接近音なのです。 同じラ行として混同されがちな [ɾ] は、舌の側面を使わず、接近音でもない、という点で異なります。

練習として次の(間に合わせ程度の)ロジバン語を繰り返し発音してみましょう:

febvi (沸騰)
rivbi cliva (回避・離去=逃避)
xrula vanbi (花・環境=花景色)
prali cilre lorxu (利益・学習・狐=エモノの捕り方を学ぶキツネ)

これらを克服できれば、ロジバンの発音について日本語話者が怖れるものは無くなるでしょう。 また、上の bv, vb, cl, xr, pr, lr, rx などの連続子音がうまくできなくてもあまり気にする必要はありません。 完璧でない連続子音がロジバンでは許容されています。 綴りを変えてはいけませんが、発音上、日本語話者などが febvi を febyvi とすることが認められています。


サンプル

国際音声記号Public IPA Chartで、IPAの発音を聞けます。分からなくなったらここで聞きましょう。

ではロジバン話者の実際の発音を聴いてみましょう。

[1] (音声)

[2] (音声)

[3] (音声&テキスト)

[4] (音声&テキスト↓)

xirli'u selsanga

.i la kOrdobas. zo'u darno .o'enai

.i xekri xirma .i barda lunra .i daskyne'i rasygrute .i i'a lei dargu mi slabu .i ku'i na tolcliva la kOrdobas.

.i pa'o le foldi .e le brife .i xekri xirma .i xunre lunra .i la nunmro mi ca catlu to'o lei galdi'u pe la kOrdobas.

.i .oi lo mutce clani dargu .i .oi doi pemi virnu xirma .i .oi la nunmro mi ba penmi pu lenu tolcliva la kOrdobas.

.i la kOrdobas. zo'u darno .o'enai

[5] (YouTube)

[6] (YouTube)

[7] (YouTube)

[8] (YouTube)