裁判の基本

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最高裁判所 大法廷(だいほうてい)。奥の椅子に裁判官が座る。
裁判所の種類
 最高裁判所 




高等裁判所
地方裁判所
家庭裁判所
簡易裁判所

裁判所(さいばんしょ、英:court)には、最高裁判所(さいこう さいばんしょ)と下級裁判所(かきゅう さいばんしょ)があります。

下級裁判所には、高等裁判所(こうとう さいばんしょ)・地方裁判所(ちほう さいばんしょ)・家庭裁判所(かてい さいばんしょ)・簡易裁判所(かんい さいばんしょ)の4種類があります。

三審制(さんしんせい)

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裁判は、その事件の内容によって、地方裁判所(ちほう さいばんしょ)、家庭裁判所、簡易裁判所のいずれかが、第一審(だい いっしん)となります。また、裁判は三回まで受けることができます。これを 三審制(さんしんせい) といい、裁判を慎重に行うことで人権を守るための制度です。

「控訴」は「こうそ」と読む。  (※ 「告訴」(こくそ)とは違うので、間違えないように。なお「告訴」(こくそ)とは、犯罪の被害を受けた被害者が、警察などの捜査機関に、犯人の処罰のための捜査や取り締まりを(警察などに)求めること。「告訴」については範囲外なので覚えなくていい。「告訴」だと、警察の管轄(かんかつ)なので、裁判所とは管轄が違う。)

「上告」は「じょうこく」と読む。

(※ 中学・高校の範囲外 :) 控訴と上告をまとめて「上訴」(じょうそ)という。
(※ 範囲外: )三審制における、家庭裁判所や簡易裁判所や地方裁判所などで通常行われる最初の裁判のことを「第一審」(だいいっしん)という。
そして、もし当事者(原告または被告)が判決に不服があって、次の裁判として第二審(だいにしん)を要求することが「控訴」(こうそ)である。第二審のことを「控訴審」(こうそしん)ともいう。
同様に、通常は最高裁または高裁で行われる「第三審」(だいさんしん)のことを別名で「上告審」(じょうこくしん)ともいう。

裁判の公開

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なお、どの裁判も、原則として公開されており、傍聴(ぼうちょう)できます。日本国憲法第82条にも、裁判を原則として公開することが定められています。また、傍聴は、無料です。

ただし、傍聴希望者がたくさんいる場合は、くじ引きなどの抽選(ちゅうせん)で、傍聴できる人が選ばれます。

(※ 範囲外:)裁判公開の原則の例外として、家族内のトラブルの裁判などでは、プライバシー保護のため裁判官の裁量にもとづき裁判の一部を非公開にする事も出来る(人事訴訟法 第22条)。また、特許関係などの裁判では、営業秘密の保護のために裁判の一部を非公開にする事も出来る(不正競争防止法 10条以下、特許法 105条の4以下)[1]。(※ 大学法学部レベルの専門的な話題。よって中学高校では暗記は不要。)なお、法学用語で「原則」などと言った場合、普通は例外が存在している。法学では「原則」とは、そういう使い方をする用語である。


再審請求

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裁判は、通常は判決が確定した場合は、それで裁判は終わりであるが、例外的に、判決確定後でも、新しい証拠が発見されるなどして、裁判の判決の前提になった証拠に重大な誤りがある場合など、裁判に重大な間違いがあったと認められる場合には、裁判をやりなおす事が出来る。このやり直しの裁判を 再審(さいしん) と言い、再審を要求することを再審請求(さいしん せいきゅう)という。

かつて死刑の判決を受けた人が、再審により無罪となった例が、いくつかあります。

司法権の独立

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最高裁判所での違憲判決の例
  尊属殺人の重罰規定(1973年) 
 親などを殺す尊属(そんぞく)殺人について、
一般の殺人よりも重い刑罰を科している刑法200条は
憲法第14条の「法の下の平等」に違反であり、無効である。

判決PDF

 薬局開設の距離制限(1975年)
 薬局の開設時に、既存の薬局から一定上の距離が
離れている事を定めている薬事法の規定は、
憲法第22条の「職業選択の自由」に違反であり、無効である。

判決PDF

  議員定数の不均衡(1976年) 
 議員1人あたりの有権者数に大きな格差があり、
一票の価値に大きな差があるので、
選挙権の平等(憲法14条など)に違反するが、
この選挙自体は有効とする。

判決PDF

  在外邦人の選挙権制限(2005年) 
 外国に住んでいる日本人の選挙権を認めないことは、
選挙権の保障(憲法第15条)に違反する。

判決PDF

  国籍法の非嫡出子の差別(2008年)
日本国民の父と日本国民ではない母の間に

生まれた非嫡出子が出生の後に父から認知されただけでは

日本国籍を取得できないことは、

法の下の平等(憲法14条1項)に違反する。

判決PDF

裁判を担当する裁判官に対して国会や内閣など外部の力が影響をおよぼすことのないように、裁判官は自らの良心に従い、憲法および法律にのみ拘束されることを 司法権の独立(しほうけん の どくりつ 、英:independence of judicial ) といいます。

裁判所には、具体的な裁判の際に、法律が憲法に違反してないか判断できる権限があり、この権限を 違憲立法審査権(いけんりっぽう しんさけん、英:judicial review) と言います。(憲法81条)

最高裁判所は、憲法の審査について、最終的な権限を持っているので 「憲法の番人」(けんぽうの ばんにん) と言われる。

民事裁判と刑事裁判

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民事裁判(みんじ さいばん)

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お金の貸し借りで、貸した金を返してもらえない場合や、土地のもめごとなどのような、人と人との法的な争いをあつかう。もしくは、企業と人、企業と企業との法的な争いをあつかう。


民事裁判で訴えた側を原告(げんこく、英:plaintiff プレンティフ)と言い、訴えられた側を被告(ひこく、英:defendant ディフェンダント)という。 被告は、その時点では、けっして犯罪の犯人(はんにん、英:culprit カルプリト)でもなければ、犯罪のうたがいのある容疑者(ようぎしゃ、英:サスペクト)でもありません。 被告の立場と、犯罪とは、無関係です。

原告と被告の両方とも細かい法律の知識がないし仕事で忙しいのが普通なので、原告・被告とも、それぞれ弁護士(べんごし、英:lawyer)を代理人にたてて裁判所で裁判を進めてもらうのが一般的です。なお、弁護士になれるのは、日本国の場合、国の行う司法試験(しほう しけん)の合格者のみである。

判決を決める人は誰かというと、その裁判所の裁判官が判決を決めています。

裁判官は原告(げんこく)と被告(ひこく)の両方の言い分を聞き、証拠(しょうこ)などを調べた上で、法律とも照らしあわせて、判決を決めます。

  • 和解調停

最終的に判決を決めるのは裁判官ですが、民事裁判では、なるべく当事者どうしが話しあって、円満に解決することを裁判所は勧めてきます。もし、当事者どうしで話し合いをして解決すれば、裁判を取りやめることも出来ます。この当事者どうしでの裁判の解決を和解(わかい)または「合意」(ごうい)と言います。

また、裁判所に仲裁を申し出て、裁判官と調停員(ちょうていいん)に、当事者どうしの話し合いの間に入ってもらい、裁判所に仲裁をしてもらって、当事者の双方の納得できる解決法を提案してもらう調停(ちょうてい)もあります。

和解や調停でも、当事者が納得しない場合に、裁判官による裁判が行われることになります。

  • 強制執行(きょうせい しっこう)

民事裁判では、裁判所は、当事者が判決に従わない場合には、強制的に判決を実行する権限を持つ。この判決を実行することを強制執行(きょうせい しっこう)と言う。もし強制執行の制度が無いとすると、そもそも裁判を起こす意味が無くなってしまう。

(※ 範囲外: ) なお、裁判の判決にもとづく強制執行にさからって、強制執行の邪魔をすることは、刑事罰の対象になる犯罪です。一般に「強制執行妨害罪」(きょうせいしっこう ぼうがいざい)などと言います。世間には、ときどき、「民法に逆らっても、警察には捕まらない」(×?)と勘違いしている人がいますが、あくまでも民法に違反しても警察に捕まらないで済む場合とは、民事裁判の判決に従って強制執行を受け入れた時の場合です。刑法に、強制執行妨害罪が規定されています。

刑事裁判(けいじ さいばん)

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刑罰の種類
 死刑(しけい)   生命をうばう罰
 懲役(ちょうえき)   刑務所に入れ、労働をさせる
(期間は1ヵ月以上20年以下、または無期)
 禁錮(きんこ)  刑務所に入れる
(期間は1ヵ月以上20年以下、または無期)
 罰金(ばっきん)   罰として1万円以上を国に納める 
 拘留(こうりゅう)  1日以上30日未満、拘置所に入れる。
 科料(かりょう)  1万円以下の支払いをする罰 
執行猶予(しっこうゆうよ)   軽微な有罪判決では、釈放され、

その後、一定の期間、罪を犯さなければ、
刑の言い渡しがなかったことになり、
その後も、その判決での刑は執行されない 

刑事裁判とは、殺人事件や強盗(ごうとう)・窃盗(せっとう)などの犯罪行為を裁くための裁判です。

原告は検察官(けんさつかん、英:prosecutor プロセキュータ)です。 刑事裁判を起こすことを 起訴(きそ、英:criminal charge)という。 起訴の決定権を持ってるのは、検察だけです。

犯罪を行った疑いがあると訴えられた側の人を 被告人(ひこくにん) と言います。 また、犯罪をおこなったうたがいのある人を 被疑者(ひぎしゃ)といいます。 つまり起訴された被疑者が被告人です。


被疑者が、うったえられた時点では、まだ犯人とは決まっていません。 判決で有罪判決が確定するまでは、被告人は無罪として見なされる。このことを 推定無罪の原則(すいていむざい の げんそく)という。


裁判で、裁判官が証拠や法律などと照らしあわせて、被疑者が犯人であるかどうかを判断します。 そして犯罪であった場合には、裁判官は被告人に刑罰を言いわたす。犯罪でない場合は無罪を言いわたす。

被疑者が法律の知識がなくても不当な判決を出させなくするため、被疑者は弁護士(べんごし)を弁護人(べんごにん)として、つけることが出きます。被疑者が貧困で弁護士を依頼できない場合は、国が弁護人をつける。この国がつけた弁護人のことを国選弁護人(こくせん べんごにん)という。

(※ 範囲外: ) 日本では法律上は、推定無罪の原則があるが、しかし日本国民の民度は低いため、しばしば、逮捕された者を犯罪者だと決め付けるような世論が形成される場合も多い。過去にそのような報道により、しばしば、冤罪(えんざい)が発生している。(長野県の松本サリン事件など。)
また、これとは別に、警察が拘置所に逮捕された者を、約30日間という長期間にわたって拘留できる「代用監獄」(だいよう かんごく)という問題があり、よく批判の議論になる(いっぽう欧米では、拘留期間は長くても1週間ていどなのが一般的)。 (※ 日本文教出版が「代用監獄」についてコラムのページで紹介している。)なお、「代用監獄」とはマスコミ用語であり、制度的には「代用刑事施設」(だいよう けいじしせつ)と言うのが正式。
冤罪(えんざい)について、近年の事例だと、2010年、足利事件(あしかがじけん)という犯罪容疑の事件の裁判で、最新のDNA鑑定にもとづきその無実が明らかになった冤罪(えんざい)事例がある。(※ 日本文教出版が紹介。)


  • 刑罰の重さについて

日本の刑罰では、死刑が、最も重い刑罰です。

  • 用語
・送検(そうけん) -

刑事事件で、警察が逮捕した容疑者を検察に引き渡すことを「送検」(そうけん)といいます(※ いくつかの検定教科書の図表などに書いてある. )。

送検は、逮捕後から48時間以内までに行わないといけません(※ 清水書院の検定教科書で紹介されてる. つまり中学範囲内)。

・公判(こうはん) -

また、刑事事件で、刑事裁判所で実際に裁判をすることを「公判」(こうはん)といいます(※ 検定教科書の図表などに書いてある )。

・無期(むき) - 刑罰の期限を定めずに、ほぼ毎日、その刑罰をさせること。たとえば「無期懲役」(むきちょうえき)なら、原則的に、死ぬまで毎日(=無期)、刑罰として刑務所で働かせる(ちょうえき)、というような意味。
・有期(ゆうき) - 刑罰の期限が定めてあること。「有期懲役」(ゆうき ちょうえき)のように使う。
・「少年院」「少年犯罪」などの「少年」 - 刑法・刑事事件などでいう「少年」とは、20歳未満の人間のことであり、男性・女性とも、20歳未満なら、「少年」にふくまれます。
・「傷害致死」(しょうがい ちし)「強盗致死」などの「致死」(ちし) - 刑事事件でいう「致死」とは、なにか犯罪をした結果、その被害者を死なせてしまったことをいいます。たとえば「強盗致死」なら、強盗が、強盗に入った家の被害者や目撃者などに暴力をふるった結果、そのケガがもとで被害者を死なせてしまった場合に、「強盗致死」といいます。
・「傷害罪」(しょうがいざい)などの「傷害」 - 人を傷つけることを傷害(しょうがい)といいます。

刑事事件の人権保障

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警察官(英語:police officer )は、裁判官の発行する 令状(れいじょう、英:warrant ワーレント) が無ければ、原則として逮捕や家宅捜索が出来ない。例外は現行犯の場合のみ、令状が無くても逮捕できる(憲法第33条などで定められている)。

(※ 高校の範囲:)上述のような、令状がないと逮捕できないというルールのことを法学用語で「令状主義」という。

警察官などによる拷問は禁止されている。また拷問によって得られた自白(じはく、英:confession コンフェション)は証拠としては見なされない。

また、被疑者・被告人は、自分の不利になることは、しゃべらなくても良い権利が与えられている。これを黙秘権(もくひけん、英:Right to remain silent)という。

刑事裁判では被告人に公開裁判を受ける権利を認めている。

どのような行為が犯罪であるかは、あらかじめ法律で定められてなければならない。これを 罪刑法定主義(ざいけい ほうていしゅぎ、英:no penalty without a law) という。

行為のあとに作られた法律では有罪にすることは出来ない。行為の時点で適法だった行為は、有罪にされない。法律ができたあとに、制定前にさかのぼって処罰することは禁止される。これを 遡及処罰の禁止(そきゅうしょばつ の きんし) という。

有罪を証明できる証拠が無い場合には、無罪あるいは被告人の有利にしなければならない。「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」(ラテン語:in dubio pro reo)


取り調べで、拷問(ごうもん)などの、無理な取り調べをさせないため、近年、取り調べのようすを録音・録画すること(可視化)が議論されています。

(※ 範囲外: )警察などにより拷問によって得られた自白は(憲法などの定めるように)証拠として無効であるが、しかし(拷問でない)裁判所での自白は証拠として有効である。民事訴訟法により、裁判所での自白は、証拠なしに裁判の基礎になる事が定められている(民事訴訟法159条・179条など[2][3]

国民と三権との関わり

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  • 国民審査(こくみん しんさ)

また、最高裁判所の裁判官には、国民の直接投票による国民審査(こくみん しんさ)があり、もし裁判官には、ふさわしくないという国民投票が過半数に達すると裁判官は地位を失う。(憲法79条) 国民審査が行われる時期は、国政の衆議院議員の総選挙のときに、同時に行われる。最高裁の裁判官の任命後、はじめての総選挙のときと、その後10年ごとに、その裁判官の審査が行われる。

 
国民審査の投票用紙

行政裁判

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日本では、もし誰かが行政機関(国または地方公共団体など)のせいで権利が侵害された場合に訴える場合には、民事裁判として行政機関を被告にして訴えることになるのであるが、このような裁判のことを行政裁判(ぎょうせい さいばん)という。

つまり、民事裁判の一つとして、行政裁判は扱われる。訴えの手続きは、民事裁判と、ほぼ同じであり、形式的には民事裁判として扱われる。

なお、大日本帝国憲法の時代には、行政裁判所という独立裁判所があったが、現在では、行政裁判所は存在しない。日本国憲法の第67条「特別裁判所は、これを設置することができない。」により、行政裁判所と軍法会議は禁止されていると考えられている。


つまり、第二次大戦後の日本では、

・ 行政裁判は民事裁判に含まれる。
・ 行政裁判所は存在しない。
・ 行政裁判は戦後日本でも可能。

「行政裁判所」と「行政裁判」とは、異なる概念(がいねん)なので、混同しないように。

基本となる法律

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憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法(みんじそしょうほう)、刑事訴訟法(けいじそしょうほう)の6つの法律を「六法」(ろっぽう)という。 この六法は、他の多くの法律の基本になっている。

民事裁判は、主に、民法と民事訴訟法と憲法に基づいて行われる。民事訴訟法は、民事裁判での手続きなどを定めた法律である。

刑事裁判は、主に刑法と刑事訴訟法と憲法に基づいて行われる。

司法制度改革

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裁判員制度

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2009年(平成21年)から、一般の国民が 裁判員(さいばんいん) として司法に参加する 裁判員制度(さいばんいんせいど) が導入された。国民を司法に参加させることで、国民の司法への信頼を高めるのが制度のねらい。

刑事事件だけが裁判員制度が対象で、殺人事件や強盗などの、重大な事件にのみ限り、裁判員を交えた裁判が行われる。

くじ引きで、18歳以上[4]の国民の6名から選ばれる裁判員(さいばんいん)たちが、3名の裁判官との、合計9人で議論しながら判決を決める。

第一審のみ、裁判員が参加し、二審からは裁判官だけの裁判になる。

裁判員に選ばれたら、原則として辞退は出来ない。ただし、重い病気などがある場合は辞退できる。

裁判員には、裁判員として職務上で知り得た秘密を守る義務があり、秘密を外部にしゃべったり公表したりしてはいけない。守秘義務(しゅひぎむ)と言う。

その他の司法制度改革

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「法テラス」(日本司法支援センター)という公的団体が全国的にあり、借金などの主に民事的なトラブルについての相談窓口があります。

少年法

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少年犯罪については、特別の配慮がなされ、一般の刑事訴訟とは、手続きが異なる。 ここで言う「少年犯罪」や「少年事件」で言う「少年」とは、未成年のことであり、性別は男女ともにふくむ。

刑事上の責任は、14歳以上が対象である。 事件を起こした人間が、20歳未満で14歳以上の場合、原則として家庭裁判所の少年審判(しょうねん しんぱん)であつかう。

このような少年の犯罪についての裁判の手続きを定めた法律が少年法(しょうねんほう)である。 少年の犯罪の場合は、裁判では、罪を与えることよりも、立ち直るきっかけを与えることが重視される。

テレビや新聞などで、犯罪を起こした少年の名前が公表されないのは、少年法による配慮にもとづく。

罪の重さにより、保護観察・少年院送致・不処分などの処分が決められる。

ただし、少年の起こした事件が重大事件の場合、少年であっても刑事裁判を受ける場合がある(「逆送」という)。

少年法の、未成年の犯罪者には寛容な姿勢が、少年犯罪を助長させているという世論がある。このような世論にもとづき、2000年(平成12年)には少年法の一部が厳罰化の方向に改正され、刑事罰の適用年齢が16歳以上から14歳以上へと引き下げられた。


えん罪事件

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ある容疑者が、ほんとうは無実なのに、間違った捜査や、間違った取り調べ、間違った鑑定などで、有罪になってしまうことを「えん罪」(えんざい)といいます。(※ えん罪は漢字で「冤罪」と書く。)

※ つぎのような えん罪(えんざい)事件が、教科書に紹介されてる。

1990年に栃木県の足利市で、当時4歳の女児の遺体が発見された事件で、容疑者として菅家利和(すがや としかず)さんが逮捕されました。取り調べでは、いったんは罪を認めましたが、裁判では無実を主張しました。しかし判決は、導入後まもないDNA鑑定の結果などが決め手となって、有罪となり無期懲役が言い渡されました。

しかし、再審を認めた裁判により、再鑑定が認められ、最新のDNA鑑定技術で鑑定をしたところ、菅家 さんのものではない可能性が濃厚になりました。そして、菅家さんは2009年に釈放されました。さらに2010年、無罪が確定しました。

なお、この菅家さんの一連の事件を「足利事件」(あしかが じけん)といいます(※ 検定教科書では、新聞の画像などで事件名が紹介されている)。

死刑制度の議論

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日本では、最も重い刑罰として死刑がありますが、外国には死刑を廃止している国もあります。

廃止の根拠として、よく言われているのは、

誤った裁判によって死刑が行われた時に、取り返しのつかない事になる。

などの主張です。


参考:大津事件と司法権の独立

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  • 発展的事項:大津事件(おおつ じけん)
(※ 中3までに中学歴史で関連する内容を習ってるはずなので、入試などに出る可能性あり)
 
ニコライ皇太子。1891年、長崎に訪問時のニコライ皇太子(左の車上の人物がニコライ。)

1891年、時は明治時代。ロシアの皇太子のニコライ2世(ロシア語: Николай II, ラテン文字表記: Nicholai II)が日本を訪問し、日本政府はニコライを接待していた。

当時の日本は近代化したばかりの小国であり、いっぽう、ロシアは大国であった。

皇太子ニコライが滋賀県の大津町(おおつちょう、現在:大津市)を訪問中に、警備の仕事だったはずの日本人の巡査の津田三蔵(つだ さんぞう)によって、ニコライがサーベルで切りつけられるという事件が、起きた。

犯人の津田は、その場で取り押さえられ、捕まった。

事件の、あまりの重大さに、明治天皇が緊急にニコライ皇太子を見舞う事態となった。


この事件で、日本の政府はロシアの報復(ほうふく)をおそれて、犯人を死刑にするように要求した。

 
児島惟謙(こじま これかた)

しかし、当時の最高裁判所である「大審院」(だいしんいん)の院長である児島惟謙(こじま これかた)の主張によると、日本の(当時の)刑法の法律にもとづくと、皇族(こうぞく)以外に対しての殺人未遂(さつじん みすい)の場合は、日本の法律では死刑にはできず、したがって無期懲役(むき ちょうえき)がふさわしいと主張した。

また、刑法でいう皇族とは、日本の天皇(てんのう)・皇后(こうごう)・皇太子(こうたいし)などのことであって、他国の皇族・王族のことではないと、児島は主張した。

政府は、なやんだ。法律をまもるべきなのか? それともロシアに報復されないようにして国の安全をまもるべきなのか?

国の安全も大事だが、かと言って、もし法律にしたがわずに死刑にしたら、欧米は、それを理由にして、「日本は法律を守れない国だ」として、欧米が日本を侵略するさいの口実をあたえてしまい、かえって国の安全を、危険(きけん)にしてしまう。

日本の政府にとって悩ましい事件であった。

日本の新聞などの世論は、これに注目した。日本だけでなく、欧米も、この事件の判決に関心をもった。


結局、日本の裁判所は、法律にしたがって、津田巡査を無期懲役(むき ちょうえき)にすることに決まった。

日本の法律にもとづいた判決は、当時の欧米からも日本の近代化の進展ぶりを示すもの、というふうに高く評価をされた。


現代では、司法権の独立の、代表的な事例として、この児島(こじま)のとった行動が、かたりつがれている。

  1. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P94
  2. ^ 三木裕一ほか『民事訴訟法 第3版』、有斐閣、2021年1月15日 第3版 第8刷発行、P294
  3. ^ 安西明子ほか『民事訴訟法』、有斐閣、2020年11月10日 第2版 第6刷発行、P100
  4. ^ 実教出版『令和4(2022)年度供給教科書の訂正箇所』(703)詳述公共