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気候と農業

ヨーロッパ各州はユーラシア大陸の西端に位置している。

西岸海洋性気候
ヨーロッパの西の大西洋にある、暖流北大西洋海流(きた たいせいよう かいりゅう)の上を偏西風(へんせいふう)が吹くため、ヨーロッパ北部は緯度が高いわりには温暖である。また、偏西風が水分を含んでいるので、雨も多く水不足にはなりにくい。このような気候を西岸海洋性気候(せいがん かいようせい きこう)という。
地中海性気候
ヨーロッパ南部にはアルプス山脈があり、南部は山がちである。南部からヨーロッパ北部に向かうにつれて、涼しく(すずしく)なってくる。
地中海式農業
アルプス山脈の南側の、ヨーロッパ南部の地中海沿岸の気候は、夏は暑く雨が少なく乾燥しており、冬は雨が多く温暖である。地中海式農業(ちちゅうかいしき のうぎょう)と呼ばれる農業が行われており、夏にはぶどうやオリーブやオレンジ類などが乾燥に強いので栽培されており、冬には小麦も栽培されている。羊や山羊(やぎ)などの放牧による飼育もおこなわれている。
イタリアのスパゲティなどの有名なパスタ料理も、これらの農産物を活かした料理である。パスタには小麦が使われている。オリーブオイルなどが食材に使われたりしている。
ヨーロッパ北部の混合農業
ヨーロッパ北部やアルプス山脈の地帯は冷涼であり、スイスやオランダで酪農(らくのう)がさかんである。
北西部や東部では、小麦やライ麦などの穀物の栽培と、豚や牛などの飼育が組み合わされて行われている。このような農業と家畜の飼育を組み合わせた農業を混合農業(こんごう のうぎょう)と言い、ヨーロッパ州の北部で、この方法の農業がさかんである。

その他

ヨーロッパ北部のノルウェーなどの海岸沿い(かいがんぞい)のギザギザした地形は氷河によって削り取られた地形である。このようなギザギザした地形をフィヨルドと言う。ノルウェーでは、この地形を活かし、漁業などの水産業がさかんである。

ヨーロッパには40カ国以上の国がある。それらの国の多くは、国土の面積が日本よりも小さい。

工業

ドイツは、世界でも有数の工業国である。 フランスでは、航空機の産業が有力である。

産業革命がヨーロッパのイギリスやフランスを中心にして起きた。古くからヨーロッパで近代工業が起こったことにより、ヨーロッパでは工業がイギリス、フランス、ドイツなどで発達した。 今でこそ中国が(一昔前は日本が)「世界の工場」と言われているが、元はイギリスが「世界の工場」と言われていた。

現在でも、イギリス、フランス、ドイツなどの工業の技術力も高い。

 
エアバス社の機体。

第2次大戦後はアメリカや日本の工業が発達してきたので、ヨーロッパの国々は日米に対抗するため、ヨーロッパの企業どうしで協力しあっていることが多い。 たとえば航空機の生産では、イギリス、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギーの企業が、航空機の部品を分担して共同生産をしている。 EUの4カ国(フランス、ドイツ、イギリス、スペイン)が出資したエアバス社により、各国で部品を作り、最終組み立て工場のラインがあるフランスのトゥールーズで組み立てている。

ヨーロッパ州は工業が古くから発達したことで、大気汚染などの公害や環境問題などにも直面した過去があり、そのため公害などへの規制がきびしい。人々の環境問題への意識も高く、リサイクルも普及している。また、太陽光発電や風力発電など、環境の負荷がひくいと考えられている発電が発達している。

ライン川河口近くにユーロポート(港)が建設され、化学工業が盛んな地域となっている。 北海油田の開発によって、イギリスとノルウェーは産油国となった。

東ヨーロッパの工業

東ヨーロッパ(略して東欧ともいう。)は、工業がおくれており、賃金も安い。そのため、外国の企業が安い賃金の労働力を求めて、工場などを進出させている。日本の企業の工場やアメリカの企業の工場も、東ヨーロッパのチェコやポーランドやハンガリーに進出している。

どのあたりを東ヨーロッパと言うかというかは、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどが挙げられる。

チェコとポーランドとハンガリーの3カ国で工業が盛んである。とくにチェコは昔からの工業国であり、冷戦中はソビエト連邦が主導する社会主義の陣営にチェコやポーランドやハンガリーなどは組み込まれたが、その中でもチェコは工業力の高い国であった。現在でも東ヨーロッパの中でチェコは工業が盛んである。

いっぽう、ポーランドは東欧の中でも人口が多く、国土も広い。ポーランドの国土の広さは、スペインと同じくらいである(チェコとハンガリーの国土面積は、北海道と同じくらい。)。そのため、今後の発展が期待されており、西ヨーロッパやアメリカなど外国の企業もポーランドに進出している。

これらの東ヨーロッパの国の経済発展が遅れた主な理由は、第2次大戦後の冷戦により、多くの東ヨーロッパの国がソビエト連邦の主導する社会主義の陣営に組み込まれたことである。

ヨーロッパには、EUの加盟国どうしでも、発展の格差などの地域格差があり、問題になっている。その一方で、東ヨーロッパへの工場進出のように、これら地域格差を、賃金を抑えるための手法など、経済に利用している面もある。

ヨーロッパの言語、民族、宗教の分けかた

 
赤→ゲルマン系の言語
青→ラテン系の言語
緑→スラヴ系の言語
他→そのほかの言語
 
赤→正教会
青→カトリック
紫→プロテスタント
緑→イスラム教

ヨーロッパの言語は、およそ3種に分類される。ヨーロッパ北西部の英語やドイツ語などのゲルマン系の言語と、南部のフランス語やイタリア語などのラテン系の言語と、東部のロシア語やチェコ語などのスラブ系の言語の3つの系統である。

ヨーロッパの民族も、とてもたくさんの種族がいるが、おおまかにはゲルマン民族、ラテン民族、スラブ民族の3つに分けることが出来る。

ヨーロッパでは、歴史的にはキリスト教が中心に20世紀まで信仰されていた。キリスト教の宗派は、おおまかに3つの宗派に分かれる。古代からの教えを重んじるカトリックと、近世以降に宗教を改革したプロテスタントと、ロシアなどヨーロッパ東部でさかんな正教会(せいきょうかい)である。カトリックはイタリアなど南部のラテン系の国家でさかん。 プロテスタントはイギリスを中心にさかん[1]

しかし2020年代の近年、移民の増加により、イスラム教などの、キリスト教でない宗教を信仰する人も増えた(東京書籍の見解)。

バチカン市国
イタリアの首都ローマの中にある国であり、世界最小の国であり[2]、ローマ教皇(ローマきょうこう)を元首とする独立国家である。キリスト教のカトリック教会と東方典礼カトリック教会の中心地となっている。

ヨーロッパ連合

EUのあゆみ
1958年 ヨーロッパ経済共同体(EEC)が発足。
1967年 ヨーロッパ共同体(EC)が発足。
1993年 ヨーロッパ連合(EU)が発足。

    ヨーロッパ単一市場が発足。

2002年 ユーロ紙幣・硬貨の使用開始。
2004年 EU拡大、加盟国25ヶ国に。
2007年 EU拡大、加盟国27ヶ国に。
2013年 クロアチアが加盟、加盟国28ヶ国に。
2020年 イギリスが脱退、加盟国27ヶ国に。

ヨーロッパ連合とは、ヨーロッパでの経済の統合など、ヨーロッパの国どうしで協力しあっている国家どうしの連合である。ヨーロッパ連合のことを EU(イーユー) という。

EUの本部はベルギーの首都ブリュッセルにある。

もともとは第二次大戦後に、ヨーロッパの資源の共同管理をすることで、資源をめぐる戦争をなくそうという平和目的として1952年にヨーロッパ石炭鉄鋼共同体( ヨーロッパ せきたん てっこう きょうどうたい 、英語 略称:ECSC イーシーエスシー)が、戦争であらそったドイツとフランスを中心に設立された。結果的にドイツ・フランスにイタリア・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクを加えた6カ国で1952年にヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立された。

 
ヨーロッパ連合の加盟国の多くで用いられている共通通貨のユーロ。

似たような国際機関で、1958年にはヨーロッパどうしの経済協力を目的にヨーロッパ経済共同体( ヨーロッパ けいざい きょうどうたい、EEC イーイーシー )が設立された。また1958年に原子力の共同管理のためのヨーロッパ原子力共同体(ヨーロッパげんしりょく きょうどうたい、 EURATOM 、 ユーラトム)が設立された。

このECSCとEECとEURATOMの3つが統合して、1967年にヨーロッパ共同体( EC(イーシー) )となった。 その後、ECは加盟国が増えていった。 このヨーロッパ共同体ECが、1993年にはヨーロッパ連合(EU 、イーユー)に発展した。

国際機関が多く出てきたが、中学校では、とりあえずEU(ヨーロッパ連合)だけを覚えておけば、たぶん大丈夫だろう。


2002年からEUの共通通貨のユーロが加盟国の多くで使われている。このため、それまで加盟国にあった通貨(たとえばドイツのマルク通貨やフランスのフラン通貨など)は廃止された。

ユーロは、ドイツやフランスなどをはじめ、多くの加盟国がユーロを導入している。

しかし、イギリスは、ユーロを導入しておらず、イギリスの通貨は「ポンド」である。デンマークも、ユーロを導入していない。

(※ 時事。範囲外?) イギリスがEU離脱の方針を決めるための国民投票は、すでに2016年6月に行われ、選挙の結果、離脱派が多数になったので、イギリスのEU離脱の方針が決定。
2020年2月1日(中央ヨーロッパ時間)、イギリスはEUを離脱した。

ほか、EUの加盟国の間では、パスポートなしで国境を自由に通過できる。このため、普段の買い物でも、国境を自由に超えて買い物ができる。


EUの共通農業政策

予備知識として、まず、EU域内の農産物の移動には、関税が掛からない、ということを知っておこう。

さて、EU域内で食料を自給しようという目的で、つぎの共通農業政策(きょうつうのうぎょう せいさく)が1960年代から実施された。

共通農業政策の内容は、EU域内で農産物にごと統一価格を定め、生産性の低い国にあわせて、高い価格で農産物を買い取ることである。

この共通農業政策は農家に有利なので、結果的に生産意欲が上がり、生産量も上がった。だが、EU財政の負担になったので、小麦など一部の農産物で買い取り価格の低下をしたり、生産調整をしたりなども起きている。

(※ 「共通農業政策」は中学校の範囲。教育出版の教科書にある。)

各国

フランス

 
緑色の濃いところがフランス。

フランスは、ヨーロッパを代表する農業国であり、小麦の生産がさかんである。フランスは農産物の輸出も多い。フランス南部の地中海沿岸では ぶどう も生産しており、ワインぶどう酒)の産業が有名である。 農業がさかんなため、食料自給率は100%を超えており、外国に農産物を輸出している。

このためフランスは「EUの穀倉」(イーユーのこくそう)とも言われてる。

フランス南部は気候が地中海性気候にちかく、ぶどうオリーブなどの栽培がさかん。

工業国でもある。 航空機産業や自動車産業が、さかん。航空機製造の大手企業であるエアバス社の組み立て工場が、フランスのトゥールーズにある。

原子力発電が盛ん。


フランスの首都はパリ。芸術の文化がさかん。首都のパリは観光地でもある。

イギリスとフランスとのあいだのドーバー海峡(ドーバーかいきょう)の海底に、海底トンネルのユーロトンネルがある。

また、そのユーロトンネルをつかった高速鉄道のユーロスターが、ロンドン〜パリ間を走る。

スイス

 
緑色の濃いところがスイス。

スイスは、どこの国とも軍事同盟を結ばない永世中立国である。また、その中立を維持するために、軍事力を高めている国である。スイスには徴兵制(ちょうへいせい)がある。スイスの公用の言語はドイツ語やフランス語やイタリア語である。「スイス語」という言語は無い。

※ なお、スイスの公用語は全部で4つある。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語。

宗教も、カトリックとプロテスタントの両方である。スイスは、中立国ということから、国際会議などの開催の場所になることも多い。スイスには国際機関の本部も多く、たとえば世界保健機関の本部がある。フランスやドイツなどが加盟しているヨーロッパ連合(EU)には、スイスは加盟していない。 永世中立というスイスの立場のため、第2次大戦後、ながらく国際連合にはスイスは加盟しなかったが、2002年にスイスは国際連合に加盟した。

工業もさかんで、精密機械などに強い。時計の精密工業が有名である。

標高の高さを利用した、酪農などの農牧業もさかんである。

ドイツ

 
緑色の濃いところがドイツ。

工業がさかん。ドイツはヨーロッパで最大の工業国。

自動車産業や電子工業や重化学工業がさかん。ライン川ぞいにあるルール工業地帯は、かつては石炭の産出地でもあり、鉄鋼業や重化学工業が、さかんであった。


公用語はドイツ語。

宗教はキリスト教。

冷戦時は西ドイツと東ドイツとに分裂していた(東西ドイツ)。なお東ドイツがソ連など共産主義・社会主義の陣営で、西ドイツがアメリカ・イギリスなど資本主義・民主主義の陣営である。

首都ベルリンも過去には壁(「ベルリンの壁」)で覆われていた(おおわれていた)が、しかし冷戦の終了によって1989年に「ベルリンの壁」も壊され、1990年には西ドイツが東ドイツを吸収する形で東西ドイツが統一した。

第二次大戦後、ドイツは、労働力不足をおぎなうため、トルコなど地中海付近の国から移民を多く受け入れた。

21世紀に入り、外国人労働者が増えたが、そのためドイツ人の失業者が増えた。そのためドイツでは、外国人労働者への反発が高まっている(受験研究社)。

※ 令和3年版(2021年)の受験研究社の参考書が、出版後のドイツの政治・経済を当てている。2024年、移民に反発する政党がドイツでは躍進して、いくつかの州議会では第一党になった。


ドイツの国土の面積は、日本と同じくらい(旺文社)。地図で大きく見えるのは、単にメルカトル図法によって北極に近い地域が広く見えるだけ。


環境規制がきびしい。リサイクルなど厳しく、また、リサイクル制度の導入も、日本よりも早かった。

都市中心部では、公共の路面電車を増やすことで排気ガスを減らすパークアンドライドと言われる仕組みが充実している。

その他のヨーロッパの国

ヨーロッパには50カ国くらいあるので、全ては紹介しきれない。学習に関わりが深そうな国をあげる。

・ オランダ

 
緑色の濃いところがオランダ。

国土の4分の1が(つまり25%が)、海面よりもひくい干拓地(かんたくち)であり、その干拓地はポルダーと呼ばれる。

日本語では歴史的経緯により「オランダ」と発音されるが、現地の発音は「ネーデルランド」に近い。

チューリップの栽培や、酪農がさかん。オランダの首都はアムステルダム。


なお、オランダ・ベルギー・ルクセンブルクの3か国をベネルクスといい、まとまりのつよい国とされる。

ベルギーの「ベ」、ネーデルランドの「ネ」、ルクセンブルクの「ルクス」で、それぞれの頭文字をあわせて「ベネルクス」。

EUの前身のECも、ベネルクス関税同盟が元になっている。

・デンマーク

酪農がさかん。

風力発電が発達している。

・ スウェーデン

 
緑色の濃いところがスウェーデン。
社会保障の制度が充実していることで有名。しかし、福祉が充実している分、税金も高い国としても有名。製紙工業がさかん。

なお、スウェーデンやノルウェー(国名)のある、あの大きな半島は、スカンジナビア半島という。

首都はストックホルム。ノーベル賞の授賞式も、ストックホルムで行われる。

中立国である。徴兵制(ちょうへいせい)を2010年まで行っていた。

・ノルウェー

ノルウェーの西願にあるギザギザした地形はフィヨルドといい、氷河の浸食によって形成された。

漁業が盛ん。

(※ フィヨルドの地形が漁港に良い。沿岸が長く、外海に面しているので、漁業をしやすい。など)

※ 余談だが、ノルウェーはEUに未加盟である。漁業規制などを嫌って未加盟だと思われる(旺文社)。

北海油田が、その名の通り北海にある。イギリスとノルウェーがその北海油田に近いので、ノルウェーは産油国である。


・オーストリア

首都ウィーンは「音楽の都」として有名。

・フィンランド

アジア系のフィン人の国。森林が多く、そのため、パルプ・製紙工業も盛ん。寒冷。


環境対策

ヨーロッパ諸国は環境対策に力を入れている。

国にもよるが、たとえばゴミの分別のきまりが、細かく決められている。

また、渋滞問題とも関係するが、都市の中心部への自動車の出入りに税金を掛けることで、鉄道やバスなどの利用をうながしている。 そのバスの燃料も、ゴミ処理施設などから出るメタンガスを利用するなどして、エネルギー資源を有効活用していたりする。

海岸沿いのデンマークでは、風力発電が盛んである。また、酸性雨などにも対策をしている。

環境問題の国際問題化

ヨーロッパでは、多くの国が陸上で国境を接しているので、ある国で環境問題が起きると、となりの国にも影響が出やすい。

ヨーロッパでは19世紀から大気汚染が深刻になった。

また、工場や自動車の排煙のため、酸性雨(さんせいう)が増えた。酸性雨は、国境をこえて、被害を出した。酸性雨で枯れる樹木も、出てきた。

こうした過去の経験にもとづき、現在では環境保護のための対策が取られている。

  1. ^ 民族と宗教が一致しない国もある。例えばオーストリアはゲルマン系、ハンガリーはマジャールであるが、カトリックを信仰している。
  2. ^ 国際連合加盟国に限る場合は、世界最小の国はモナコ公国である。