位相幾何学/表紙
トポロジーとはどのような学問か
編集日本の高等学校までの幾何学、つまり図形を扱った数学では、同じ長さであることが重要視されていました。 その基礎にあるのは図形と図形の合同の考え方です。 縮尺を加えて相似の概念が導入されますが、それでもまだまだ硬い図形ばかりが現れます。 もちろん、そういった幾何学(ユークリッド幾何学といいます。 あるいは、非ユークリッド幾何学もあり得るでしょう)も、本当に興味深く、そして有用です。 私たちに新しいものの見方を与えてくれるだけでなく、現実世界のさまざまな問題を解決することができます。
例えば、ピラミッドの高さを求めよといわれたタレスは、三角比の考え方を用いて、見事にこの高さを求めました。 こういった、現実的な距離や角度の問題のほとんどが、ユークリッド幾何学と呼ばれる私たちにとって最もなじみの深い幾何学によって記述することができるのです。
この解説書に書かれているトポロジー(Topologyは英語。日本語では位相幾何学)は、そうしたユークリッド幾何学からすれば、いささかユーモア過ぎるかもしれません。 どう感じるかは、これからこの学問を学ぶあなた次第です。
トポロジーとユークリッド幾何学はまったく異なった考え方を元にしています。 ユークリッド幾何学が点と点の距離が変わらない、さらに図形は歪んだり縮んだりしない、といった考え方を基本にしているのに対し、トポロジーでは点と点は対応しあっているや図形は歪むし縮むといった考え方がその源泉です。
この観点から、トポロジーは柔らかい幾何学と呼ばれます。
柔らかい視点
編集このページの右上の図を見てください。 マグカップとドーナツが移り変わっているのがわかるでしょうか? トポロジーでは、こういった図形を同相と言い、同じ図形として扱います。 ユークリッド幾何学のように、図形の高さやら幅やら角度やら、そういった'硬い'概念は無いと言ってかまいません。 トポロジーの世界では、距離や角度は全部伸縮自在なのです。 図形は伸ばしたり縮んだりできる、ということなんです。
そんな'柔らかい'考え方をしても、やはり違う形の図形は存在します。 例えば、取っ手の無いコップをどんなに伸ばしたり縮めたりしても、ドーナツにはなりません。 一番簡単な形でも、球です。 つまり、取っ手の無いコップと取ってのあるマグカップは、トポロジーの世界でも別の図形だと考えるわけです。
このように、柔らかい視点でもやはり図形には性質を見出すことができるのです。 この、柔らかい視点の中での図形の性質を分析するのが、トポロジーです。
ウィキブックスで勉強する理由
あなたがウィキペディアの位相幾何学のカテゴリを覗いてみて、その内容が全部、容易に理解できるのなら、この書籍は退屈なものになるかもしれません。 しかし、トポロジーを体系立てて把握する手助けにはなれるとおもいます。 まとまった解説書の重要なポイントは、体系的な理解にあります。
あなたがウィキペディアのテキストを読んでもサッパリわからないとしても、大丈夫です。 ウィキブックスで書かれたこの解説書は、簡単な事柄から順番に説明していきます。 ウィキペディアが百科事典であり、一般的な詳説に主眼を置いているのに対し、ウィキブックスは学術における理解の助けと、だれにでも手に入る無料の教科書を目指しています。 数学において、ウィキペディアの文書が難解であるのはウィキペディアだからこそであり、逆に、ウィキブックスだからこそ、簡単な事柄からの説明を丁寧に施すことができるのです。