公認会計士試験/平成30年論文式/租税法/第2問問題2

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問題

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居住者であるA(55 歳)の平成29 年分の所得税の計算について,以下の[資料]1.〜7.に基づき,次の[問]1.〜[問]4.に答えなさい。なお,複数の計算方法があるものについては,平成29 年分の納付すべき所得税額が最も少なくなる方法により計算するものとする。

[問]
1.事業所得の金額の計算に関して,次の金額を答えなさい。
⑴ 事業所得の総収入金額
⑵ [資料]2.⑶により,事業所得の金額の計算上,必要経費となる金額
⑶ [資料]2.⑷により,事業所得の金額の計算上,必要経費となる減価償却費の金額
⑷ 青色申告特別控除額
[問]
2.次の各所得の金額を答えなさい。
⑴ 不動産所得の金額
⑵ 給与所得の金額
⑶ 総合課税となる譲渡所得の金額
⑷ 一時所得の金額
⑸ 雑所得の金額
[問]
3.土地建物等の譲渡所得の金額の計算に関して,次の金額を答えなさい。なお,取得費の計算に複数の方法がある場合は,取得費が最も多くなる方法により計算しなさい。
⑴ 土地の取得費の金額
⑵ 建物の取得費の金額
[問]
4.次の所得控除の金額を答えなさい。
⑴ 医療費控除の金額
⑵ 社会保険料控除の金額
⑶ 生命保険料控除の金額
⑷ 扶養控除の金額

[資料]

1.全般的な事項及び注意事項
⑴ Aは,衣料品の小売業を営む傍ら,部屋数6 室のアパートを所有し,賃貸を行っている。なお,この不動産賃貸業は事業的規模といえない程度のものである。
⑵ Aの家族構成は,妻B(55 歳),長男C(30 歳),長女D(24 歳)であり,全て生計を一としている。BはAの衣料品小売業の青色事業専従者である。Cは翻訳業としての事業所得があり,平成29 年分の総所得金額は3,530,000 円である。Dは学生であり,Aのアパートの賃貸業でアルバイトをしており,それ以外に収入はない。なお,年齢はいずれも,平成29 年12 月31 日現在におけるものである。
⑶ Aは,事業の開始時より青色申告書を提出することにつき所轄税務署長の承認を受けており,事業所得及び不動産所得に係る取引を複式簿記により記帳し,この記帳に基づく損益計算書及び貸借対照表を添付した確定申告書を,法定申告期限内に提出している。
⑷ Bに対して支給する青色事業専従者給与に関する届出は,適法になされており,届け出した金額の範囲内で給与が支払われている。
⑸ 減価償却資産の償却方法については,届出を行っていない。
⑹ 消費税及び地方消費税については考慮しない。
2.衣料品の小売業に関連する事項
⑴ 衣料品の小売業に関連した平成29 年の収入は,次のとおりである。
① 衣料品の売上高は9,500,000 円である。
② 事業用に使用していたパソコン(取得価額95,000 円)の売却による収入が5,000 円ある。なお,このパソコンは,Aの業務の性質から判断して基本的に重要なもの(少額重要資産)とはいえないものである。
③ 事業資金のための預金に係る利息(源泉所得税等控除前)が1,500 円ある。
⑵ 商品のスーツ1 着(販売価格60,000 円,仕入価格45,000 円)をAの衣料として自家消費した。仕入価格は仕入高として必要経費に計上されているが,販売価格60,000 円は,上記⑴①の売上高には含まれていない。
⑶ 事業に使用している店舗の建物はBの所有であり,AはBから賃借して,平成29 年1 月から同年12 月まで毎月20,000 円,年間合計240,000 円の家賃を支払っている。この建物は,平成20 年7 月1 日に,Bが所有している土地に取得価額10,000,000 円で建築したものであり,法定耐用年数は22 年である。また,この建物及び敷地について平成29 年に賦課決定通知のあった固定資産税80,000 円は,所有者であるBが負担している。
⑷ 事業に使用しているA所有の減価償却資産は次のとおりである。なお,平成28 年以前に,事業所得の金額の計算上,減価償却費を計上していない年がある。
内容 業務の用に供した年月 法定耐用年数 取得価額 平成29年1月1日現在の帳簿価額
事務機器1台 平成23年1月 5年 350,000円 70,000円
エアコン1台 平成25年7月 6年 300,000円 147,750円
⑸ 青色申告特別控除前の事業所得の金額は,2,000,000 円以上である。
3.アパートの賃貸業に関連する事項
⑴ 平成29 年のアパートの賃貸による家賃収入は合計4,320,000 円であり,この家賃以外の収入はない。
⑵ Aは,Dにアパートの清掃及び管理等を依頼しており,平成29 年1 月から同年12 月まで毎月35,000 円,年間合計420,000 円のアルバイト代を支払っている。
⑶ 上記⑵のアルバイト代以外の平成29 年の経費の合計は3,780,000 円であり,大規模な修繕を行ったことによる多額の支払が含まれており,この経費の全額は必要経費として認められるものである。
4.居住用財産の譲渡に関する事項
⑴ Aは,自己が所有し,居住用に使用していた建物及びその敷地を,平成29 年2 月20 日に売却した。売却価額は49,000,000 円(内訳は土地30,000,000 円,建物19,000,000 円)である。平成19 年1 月30 日に土地を取得し,その上に建物を建築したもので,建物の取得日は平成19 年11 月5 日であり,平成19 年11 月25 日から平成29 年2 月5 日まで居住していたものである。なお,この建物は木造であり,法定耐用年数は22 年である。
⑵ 上記⑴の土地の購入価格は25,000,000 円であり,この土地に関して次の費用を支出している。
  • 土地購入のための仲介手数料:850,000 円
  • 土地購入の売買契約書に貼付した印紙代:15,000 円
  • 所有権移転登記のための登録免許税:250,000 円
⑶ 上記⑴の建物の建築費用は23,000,000 円である。なお,建物の取得費の計算に当たり,建築費用以外の費用を考慮する必要はない。
5.所得金額の計算に関する上記以外の事項
⑴ AはY株式会社の非常勤取締役に就任しており,平成29 年分の役員報酬として2,400,000 円(源泉所得税等の税引前の金額)を受け取っている。なお,取締役会への出席など非常勤取締役の業務のために要した交通費が72,000 円あるが,この交通費はY株式会社から支給されていない。
⑵ Aは平成29 年に自己の所有するゴルフ会員権及び絵画を売却した。その詳細は次のとおりであるが,いずれの資産もAの趣味のために所有していたものであり,いずれの資産も使用又は期間の経過により減価する資産ではない。
売却した資産 売却年月日 取得年月日 売却価額 取得価額 売却のために要した費用
ゴルフ会員権1口 平成29年6月6日 平成24年9月10日 3,000,000円 2,850,000円 600,000円
絵画1点 平成29年7月19日 平成26年12月9日 3,800,000円 2,500,000円 100,000円
⑶ Aは平成29 年9 月に生命保険契約による満期保険金5,000,000 円を受け取った。この生命保険契約の保険料はAが負担しており,支払った保険料の総額は4,400,000 円である。なお,保険期間は30 年である。
⑷ Aが趣味で執筆している随筆が平成29 年に文芸雑誌に掲載され,その原稿料として150,000 円(源泉所得税等の税引前の金額)を受け取っている。この随筆の執筆のための交通費等の取材費は12,000 円である。
6.所得控除に関する事項
⑴ 平成29 年分のAの総所得金額は4,200,000 円である。
⑵ 平成29 年にAが支払った医療費等は次のとおりである。なお,保険金等で補填される金額はない。
医療等を受けた人 医療等の内容 支払金額
A 歯科医師による治療費 205,000円
A 病気の治療のための薬品購入代 8,400円
B 医師による治療費 15,000円
C 医師による治療費 39,000円
D 医師による治療費 7,000円
⑶ 平成29 年にAが支払った社会保険料(国民年金保険料及び国民健康保険料)は次のとおりである。なお,支払額には前納保険料部分はない。
内容 支払金額
A自身の社会保険料 1,047,000円
Bが負担すべき社会保険料 197,000円
Cが負担すべき社会保険料 197,000円
Dが負担すべき社会保険料 197,000円
⑷ 平成29 年に,Aは生命保険会社との契約に基づく保険料を次のとおり支払った。
保険の内容 保険金受取人 契約締結年月 支払保険料の額
生命保険 B 平成29年6月 55,000円
介護医療保険 A 平成29年6月 20,000円
個人年金保険 A 平成2年4月 95,000円
⑸ 確定申告書への必要書類の添付等,所得控除を受けるために必要な手続は適法に行うものとする。
7.参考資料
⑴ 減価償却資産の償却率等は,下表のとおりである。
償却率 定額法 定率法
取得時期 平成19年4月1日以後 平成19年4月1日から

平成24年3月31日まで

平成24年4月1日以後
法定耐用年数 償却率 償却率 改定償却率 保証率 償却率 改定償却率 保証率
5年 0.200 0.500 1.000 0.06249 0.400 0.500 0.10800
6年 0.167 0.417 0.500 0.05776 0.333 0.334 0.09911
11年 0.091 0.227 0.250 0.04123 0.182 0.200 0.05992
14年 0.072 0.179 0.200 0.03389 0.143 0.167 0.04854
22年 0.046 0.114 0.125 0.2296 0.091 0.100 0.03182
28年 0.036 0.089 0.091 0.01866 0.071 0.072 0.02568
33年 0.031 0.076 0.077 0.01585 0.061 0.063 0.02161
35年 0.029 0.071 0.072 0.01532 0.057 0.059 0.02051
44年 0.023 0.057 0.059 0.01210 0.045 0.046 0.01664
⑵ 所得税法第28 条第4 項に規定する給与所得控除後の給与等の金額(別表第五)は,次のとおりである(抜粋)。
給与等の金額 給与所得控除後の給与等の金額
以上 未満
2,324,000円 2,328,000円 1,446,800円
2,328,000円 2,332,000円 1,449,600円
2,360,000円 2,364,000円 1,472,000円
2,364,000円 2,368,000円 1,474,800円
2,396,000円 2,400,000円 1,497,200円
2,400,000円 2,404,000円 1,500,000円

解答解説

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[問]1.事業所得

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自家消費
60,000×70%<45,000 ∴45,000
総収入金額
衣料品売上9,500,000+少額減価償却資産5,000+自家消費45,000=9,550,000
[資料]2.⑶により,事業所得の金額の計算上,必要経費となる金額
固定資産税80,000+建物減価償却費10,000,000×0.046=540,000
[資料]2.⑷により,事業所得の金額の計算上,必要経費となる減価償却費の金額
エアコン減価償却費300,000×0.167=50,100
事務機器ゼロ(法定耐用年数経過済み)
※法定償却方法は原則,定額法・旧定額法
青色申告特別控除額
650,000-不動産所得に対する控除540,000=110,000<控除前事業所得2,000,000
∴110,000

[問]2.各所得

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⑴ 不動産所得の金額

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1. 総収入金額
4,320,000
2. 必要経費
3,780,000
3. 青色申告特別控除
1.-2.=540,000<650,000 ∴540,000
不動産所得の金額
1.-2.-3.=0

⑵ 給与所得の金額

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参考資料より1,500,000

⑶ 総合課税となる譲渡所得の金額

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譲渡損益
ゴルフ会員権3,000,000-(2,850,000+600,000)=△450,000
絵画3,800,000-(2,500,000+100,000)=1,200,000
計750,000
特別控除
750,000>500,000 ∴500,000
譲渡所得
譲渡損益750,000-特別控除500,000=250,000(総合短期)

⑷ 一時所得の金額

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総収入金額
5,000,000
支出した金額
4,400,000
特別控除
5,000,000-4,400,000=600,000>500,000 ∴500,000
一時所得
600,000-500,000=100,000

⑸ 雑所得の金額

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総収入金額
150,000
必要経費
12,000
一時所得
138,000

[問]3.土地建物等の譲渡所得

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⑴ 土地の取得費の金額

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購入価格25,000,000+仲介手数料850,000+印紙代15,000+登録免許税250,000=26,115,000

⑵ 建物の取得費の金額

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償却率
耐用年数22年×1.5≒33年 ∴償却率0.031
※本来は旧定額法償却率を用いるが,資料中にないため新定額法償却率を使用。
取得費
取得価額23,000,000-(23,000,000×0.9×0.031×9年)=17,224,700
年数は6月未満切捨て,6月以上切上げ

[問]4.所得控除

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⑴ 医療費控除の金額

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(A 205,000+A 8,400+B 15,000+C 39,000+D 7,000)-100,000=174,400 ※4,200,000×5%=210,000>100,000

⑵ 社会保険料控除の金額

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A 1,047,000+B 197,000+C 197,000+D 197,000=1,638,000

⑶ 生命保険料控除の金額

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生命保険(新)
30,000+(55,000-40,000)×1/4=33,750
介護医療保険
20,000
個人年金保険(旧)
37,500+(95,000-50,000)×1/4=48,750
102,500<120,000 ∴102,500

⑷ 扶養控除の金額

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  • B:ゼロ(青色事業専従者で給与の支払いを受けるもの)
  • C:ゼロ(合計所得金額が38万円超)
  • D:380,000(青色事業専従者でなく,Aからのアルバイト収入はゼロとみなす)
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