刑事訴訟法/公訴
原則
編集刑事訴訟では、検察が訴えない状態で審理が始まることは禁止されているのが原則である。つまり、検察官が訴えないかぎり、裁判所は事件を審理することができない。これを不告不理の原則という。
なお、この考えは古代ローマ法源「訴える者がなければ審判人もいない」(Nemo judex sine actore)をもとにしている[1]。
起訴に関する原則
編集起訴独占主義
編集現行法では、起訴は検察だけが行える。 これを起訴独占主義という。
私人が起訴できないのはもちろん、検察以外のどの国家機関も起訴できないのが原則であるが[2]、検察審査会の場合など若干の例外がある。 検察審査会の場合、弁護士が公訴する[3](検審41条の9)。
どちらの場合にせよ、警察は起訴を禁じられている。
起訴状一本主義
編集- 起訴状一本主義とは
- 予断排除の原則
- 根拠条文
戦前は、検察の証拠資料が、公判前に裁判所に提出されていた。 このことが、裁判官に予断を与えるとして、裁判官の中立性を害するという批判があったので、現行刑訴法ではこのような仕組みではない。
現行刑訴法では、検察官は起訴にあたって、起訴状だけを提出しなければならず、捜査資料の提出および引用は禁じられている(256条6項)。このような、起訴では起訴状しか出していけない規則のことを「起訴状一本主義」という。
公訴の提起と起訴状の記載
編集- 公訴の提起
公訴の提起は、検察官が起訴状を裁判官に提出して、これを行わなければならない(256条)。口頭による起訴は許されない[4]。 起訴状には、「被告人を特定するに足りる事項」として「被告人の氏名その他」を記載しなければならない(256条2項)。
また、起訴状には
- 公訴事実、
- 罪名、
を記載しなければならない(256条2項2)。
その他、刑事訴訟規則によると「被告人の年齢・職業・住所・本籍」などの情報も記載されるが、これらの事項(年齢など)が不明な場合はその旨を記載すれば足りる(規164条)。
被告人とは別に真犯人が別にいる事が判明した場合、もとの被告人には無罪を言い渡す[5]。
- (※ 要確認)公訴の効力は、被告人以外には及ばない(249条)。なので真犯人が分かった場合は、裁判官はもとの被告人に無罪を言い渡し、(※ 要確認部分: そして検察は)新たな別個の公訴により真犯人を公訴する。
- 罪名の記載
罪名は、「適用すべき罰条を示して」記載しなければならない(256条4項)。
たとえば刑法犯なら「窃盗 刑法 第235条」のように、あるいは特別法犯なら「覚せい剤取締法違反 同法第41条の3第1項第1号、第19条」[6]のように記載されるのが通例である。
もし罪名[7]・罰条に誤りがあっても、これらは正確を期すための措置にすぎないので[8]、そのため誤りが被告人の防御に実質的な不利益を与えないかぎり、公訴提起の効力には影響を及ぼさない(256条4項但書)。
起訴独占主義の例外
編集検察審査会
編集検察審査会は、検察審査会法によって定められている。
仕事内容は
- 検察官による不起訴処分の審査、
- 検察事務の改善勧告、
である。
衆議院議院の選挙権を持つ有権者の中から無作為にくじで選定された11人の検察審査員によって、任期6年の検察審査会が構成される。
検察が不起訴処分をした場合、検察審査会は、「不起訴不当」、「不起訴相当」、「起訴相当」のいずれかの議決を行う(検審35条〜39条の5)。
原則的に議決は多数決によるが[9]、しかし「起訴相当」は8人以上の多数でなければならない(同27条、39条の5)。
ぞして、検察審査会が、審査の結果の議決をしたときは、理由を付した議決書を作成し、その謄本を当該警察官を指揮監督する検事正および検察官適格審査会に送付する(検審40条)。
2004年の法改正によって、※調査中
付審判手続
編集検察の不起訴に不満がある場合の手続として、対象犯罪が公務員職権乱用罪(刑193条)などいくつかの犯罪に限られる手続であるが、それらの対象犯罪を検察が不起訴にした場合には、告訴者が直接的に裁判所に起訴できる。これを付審判手続という。
付審判手続が行われたとき、裁判所は一応は起訴を検察にうながすように確認を検察に取るものの、その確認の結果として検察は引き続き不起訴をつらぬく意志である場合も多いので、検察が不起訴をつらぬく場合には代わりに、裁判官の指定した弁護士に訴訟を維持させる(指定弁護士)。
不当な起訴処分の抑制
編集検察審査会や付審判手続は、不当な不起訴処分に対して、検察とは異なる組織によって抑制するための制度であった。
一方、不当な起訴処分に対する抑制については、制度が存在しない。
学説的には、公訴権濫用論というのが ・・・※調査中
略式手続
編集簡易裁判所は、管轄とする軽微な事件に対して、100万円以下の罰金または科料を科すことができる(461条)。これを略式手続という。
- ※ 「略式命令」とは、略式手続の結果として裁判所の下す命令のこと。略式手続における、検察による起訴は、「略式起訴」という。
略式手続の特徴として、公判を開かずに、書面[10]による非公開の審理で迅速に[11]処理するのが特徴である。
検察官は、あらかじめ被疑者に対して、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の審判を受けることができる亊を説明しなければならない(461条の 2)。そして、検察官が略式手続で起訴(略式起訴)するには、上述の説明をして理解させたことを明らかにする書面を請求書に添付しなければならない。
略式命令を受けた被告人または検察官は、その告知を受けた日から14日以内に、正式裁判を請求することができる(465条)。請求を受けた裁判所は、請求が適法であると判断すれば通常の審判をするが、不適法であると判断すれば棄却をする[12]。
弁護人
編集被疑者および被告人は、いつでも弁護人をつける亊ができ(30条1項)、被疑者または被告人が選んだ弁護人のことを私選弁護人という。被告人本人のほか、その法定代理人や保佐人など一定の関係者も、被告人のための私選弁護人を選任できる(30条)。
また、被疑者・被告人およびその代理人などは、選んだ私選弁護人をいつでも解任できる。
これに対し、国選弁護人とは、裁判所が選んだ弁護人のことである。被告人が経済的理由などで弁護人を選べない場合、裁判所は国選弁護人を付けなければならない(36条)。 国選弁護人の解任については、裁判所が判断および決定をする。38条に所定の解任自由が定められている。
私選弁護人も国選弁護人も、弁護士が選ばれる(私選は31条1項、国選は38条)。
弁護人の権限などについては、選任方法の違いを除けば、私選弁護人と国選弁護人とで基本的に同じ権利・義務である。
私選弁護人について、公訴前に選任した私選弁護人を公訴後にも有効にするには、弁護人選任届を検察官または司法警察員に差し出さなければならない(規17条)。
また、その弁護人選任届には、被疑者(または被告人)と弁護人との両方の氏名の署名が必要である(規18条)。判例では、両者の署名がなければ、選任が無効になる(福岡地決昭和47・6・27刑月4巻6号1244頁参照)。
国選弁護人の人数は原則1人だが、死刑または無期懲役または無期の禁錮にあたる罪において特に必要の場合は2人まで可能である(37条の5)。
被疑者の国選弁護人については、2004年の刑訴法改正から導入されており、2006年から勾留段階の国選弁護人の制度が施行されている。当初は対象事件が死刑または無期などの重大事件だけだったが、しかし2016年以降は対象が全ての事件に拡大された[13]。
しかし現状、逮捕段階の国選弁護の制度は無い。