1. 本書は主として中等程度の簿記履修者にして一層深く学ばんとする者、及び高等教育を受けた者で必要上簿記を学ばんとする者の参考書又は独習書として編纂したものである。従って内容は簿記の一般的系統的把握を主眼として記述を進め、技術本位に随せざると同時に、実際の記帳技術を顧みない程理論にも偏せず、理論と実際との調査については十分留意してある。
  2. 本書は又専門学校程度の教科書用に充て得る様、最近発表にかかる高等商業学校標準教授要綱をも参照して編纂した。
  3. 本書を教科書に充てる場合には、大体一学年間毎週三時間の授業時数を予定すべきである。若し授業時数がこれより少くて内容が多すぎるような場合には、適当に取捨選択して頂きたい。尤も叙述は出来るだけ平易明瞭を旨とし、又成るべく豊富に実例を挙げて理解を助けるよう努めたから、自習によっても十分理解し得ることと思われる。
  4. 凡そ簿記の学習に際しては、記帳例題と計算問題とを出来るだけ多数に練習して、その間に理論を把握するよう努めることが必要であり、又それが最も有効な会得手段である。本書に収めた計算問題は、その数に於いては限られているが、代表的なものを選んであり、又何れも実際に即したものであり、一方記帳例題はその数四つに過ぎないが、何れも最近の商業実践に即するものを選び、これが編成に際しては記帳練習中自然に実際の商習慣や会計事務の一般を会得せしめるように努め各題何れも変化に富ましめた。それ故これ等の記帳計算を完全に練習すれば十分効果を期することが出来よう。
  5. 本書の性質上校正は出来るだけ厳密細心に行い、誤植の絶無を期したい心算であるが、何分公私多忙中のこと故魯魚の誤りなきを保し難く充分意を尽し得なかった解説もあることと思われる。読者諸賢の御叱正を得て他日完璧を期することが出来れば幸いこの上もない。