制御と振動の数学/第一類/複素数値関数の Laplace 変換/解の漸近的挙動(安定論)/グラフによる安定判別

平面上の 1 点 と閉曲線 が与えられているとき, を何回まわるか,その回転数を数えることによって,安定判別をする方法がある. 結果を述べる前に若干の準備をしておこう.

回転数

を通らない閉曲線とする. 動点 上を動くとき,半直線 の周りを正の向き(反時計まわり)に回る回数を, のまわりの回転数といい,

で表す.


例100

を単純閉曲線[1]とすると,

を正の向きに 1 周するときの の偏角 の全変化量

であるから,

が成立する.ここに,複素数 を極表示したものを とし,

とおいている.


定理 4.3 偏角変化量の原理

次の多項式, 平面上の単純閉曲線とし, の根は 上にはないものとする.このとき, による の像,すなわち とすると,

[2]
の内部にある の根の個数

が成立する.

証明

とする. は重複していてもよい.複素数の偏角を で表すと,

[3]

よって,

となる[4]. 上述のように, の内部にあるときだけ で, その他のときは であるから求める結果を得る.



定理 4.4

において, が虚軸上を下から上まで動くとき, の軌跡が 平面の原点を通らずに,原点を 回まわれば, の根はすべて 平面の左半平面に存在する.逆も成立する.

証明

左半平面を囲む半径 の半円を考え,これを とする. 内に 個の根が存在することをいえばよい. いまこの半円 を虚軸上の部分 と円弧部分 に分け,

とする.このとき,

である. 仮定は である. さて, のとき,

と表すと,半径 (十分大)であるから である.この偏角は,

となるが, を動くとき, の変化量は である. 平面上の原点を正の方向に半周するから, の変化量は である. よって,

それゆえ,

[5]

を得る.このことは の根がすべて 平面の左半平面に位置していることを示す.逆は明らかであろう.


例101

の場合を考えてみよう. とおき実部と虚部とに分けると,

(4.14)

となる. なら, 平面の虚軸の像 軸に平行な直線であるから, となって[6] 不安定である.そこで とする. 式 (4.14) から を消去すると,

ここに,

となる. であるから,

となる. いずれの場合も から へ動くとき 式 (4.14) から分かるように, から へ動く.つまり 上を上から下へ動く. したがって, なら がどんな値をとっても, にならない[7] のとき,原点を囲むような形となるときだけ,

が成立する.このとき,

である.すなわち,

のとき安定となる.これは Hurwitz の方法で求めたものと一致する.

この技法は Hurwitz の方法に比べて,極めて迂遠のようであるが,自動制御理論では,フィードバック系の安定判別に用いられ,極めて有用である.


例102

の場合の安定判別を,上例にならって行い,Hurwitz の方法による結果と比較せよ.

解答例

を実部 と虚部 とにわける.


は定数だから軌跡 に平行.
ならば, は時計回りに回転し,その値は で不安定.
ならば, は反時計回りに回転し,その値は より安定.
これは Hurwitz の定理による結果に符合する.


例103

の場合の安定判別を,上例にならって行い,Hurwitz の方法による結果と比較せよ.

解答例

を実部 と虚部 とにわける.

…①

①から を消去すると,…②
②のグラフの形は を 90°反時計回りに回転させたもので、頂点の座標は
②が原点 を「取り込む」必要があるから,
①の軌跡が から まで動けば,原点の周りを反時計回りに 1 回転して より安定,すなわち
条件 は Hurwitz の定理とも一致する.

  1. ^ 自分自身と交わらない閉曲線のことである.
  2. ^ の原点 周りの回転数である.
  3. ^ を複素数とするとき,
  4. ^

    の両辺を とすると,

    すなわち

  5. ^ 仮定より
  6. ^ にて なら回転数は なら ,いずれにしても であるのだから原点の周りの回転数は にならなければ安定でないが,そうではない.
  7. ^ 原点を時計回りに周る軌跡であるため, は負の値となる.