定理 5. 1 (Cayley-Hamilton)
行列 の固有多項式を とすると,
が成立する.
証明
の余因子行列を とすると,
(5.16)
と書ける. の要素は高々 次の の多項式であるので,
(5.17)
と表すことができる.これと式 (5.16) とから,
(5.18)
とおいて[1],左右の のべきの係数を等置すると,
(5.19)
を得る[2].これらの式から を消去すれば,
が得られる.
式 (5.19) から を消去する方法は,
上から順に を掛けて,それらをすべて加えればよい[3].
- ^
式 (5.16) の両辺に を左から掛ける.
- ^
実際に展開すると、
の係数を比較して,
したがって の項を移項して
- ^
もう一つの方法は上の段の結果を下の段に代入し, の順に逐次消去してもよい.
この方法をまとめておこう.
と逐次多項式 を定義すれば,
(5.20)
と書くことができる[1].
ただし, である.この結果より式 (5.18) は,
(5.21)
となり,したがってまた,
(5.22)
を得る[2].
- ^
式 (5.19)
の を ,したがって, を ,
を を置き換える. を で表現することから, を の関数とし, に を代入する見通しである.
- ^
式 (5.21) の両辺を でわると,
すなわち
注意
式 (5.19) は受験数学でなじみ深い組立除法,
にほかならない. は余りである.式 (5.18) を見ると が
で割り切れることを示している.よって剰余の定理より,
を得る.つまり, Cayley-Hamilton の定理は剰余の定理や因数定理と同じものである.それでは式 (5.18) の を とおいていきなり としてよいかという疑問が起きる.結論をいえばそれでよいのである.ただ注意しなければならないのは,式 (5.18) の等式は と と交換できることが前提になって成立している. にある行列を代入したとき,その行列と が交換可能のときのみ,左右の式が等しくなる.式 (5.20) から明らかなように, と とは交換可能である[1].それゆえ式 (5.18) に を代入して,この定理を証明してもよい.しかし,この証明法に従うときには, と の交換可能性を前もって別に証明しておかねばならない.
- ^
で であるから と は可換,
より,同様の理由で と は可換.
以下必要なだけ帰納的に続ければ と は可換であることがわかる.