制御と振動の数学/第一類/連立微分方程式の解法/連立微分方程式の解法/(sI-A)^-1の原像/Cayley-Hamilton の定理

いままでの議論から分かるように,線形定常な連立微分方程式の解法においては, の原像を求めることがすべてである. そのとき中心的な役割を果たすのが Cayley-Hamilton の定理である.よく知られているように, の行列式を の固有多項式あるいは特性多項式という. 次の行列ならば,それも 次の多項式となる.いまそれを,

(5.15)

とおくことにしよう.このとき,

が成立する.これが Cayley-Hamilton の定理である.

定理 5. 1 (Cayley-Hamilton)

行列 の固有多項式を とすると,

が成立する.

証明

の余因子行列を とすると,

(5.16)

と書ける. の要素は高々 次の の多項式であるので,

(5.17)

と表すことができる.これと式 (5.16) とから,

(5.18)

とおいて[1],左右の のべきの係数を等置すると,

(5.19)

を得る[2].これらの式から を消去すれば,

が得られる.


式 (5.19) から を消去する方法は, 上から順に を掛けて,それらをすべて加えればよい[3]


  1. ^ 式 (5.16) の両辺に を左から掛ける.
  2. ^
    実際に展開すると、



    の係数を比較して,

    したがって の項を移項して


  3. ^


もう一つの方法は上の段の結果を下の段に代入し, の順に逐次消去してもよい. この方法をまとめておこう.

と逐次多項式 を定義すれば,

(5.20)

と書くことができる[1]. ただし, である.この結果より式 (5.18) は,

(5.21)

となり,したがってまた,

(5.22)

を得る[2]


  1. ^ 式 (5.19) ,したがって, を置き換える. で表現することから, の関数とし, を代入する見通しである.
  2. ^ 式 (5.21) の両辺を でわると,

    すなわち


注意

式 (5.19) は受験数学でなじみ深い組立除法

にほかならない. は余りである.式 (5.18) を見ると で割り切れることを示している.よって剰余の定理より,

を得る.つまり, Cayley-Hamilton の定理剰余の定理因数定理と同じものである.それでは式 (5.18) とおいていきなり としてよいかという疑問が起きる.結論をいえばそれでよいのである.ただ注意しなければならないのは,式 (5.18) の等式は と交換できることが前提になって成立している. にある行列を代入したとき,その行列と が交換可能のときのみ,左右の式が等しくなる.式 (5.20) から明らかなように, とは交換可能である[1].それゆえ式 (5.18) を代入して,この定理を証明してもよい.しかし,この証明法に従うときには, の交換可能性を前もって別に証明しておかねばならない.


  1. ^ であるから は可換,
    より,同様の理由で は可換.
    以下必要なだけ帰納的に続ければ は可換であることがわかる.


例115

式 (5.20) を用いずに, が交換可能であることを示せ.

解答例

の逆行列が存在するならば,


より,


式 (5.16)


を代入して両辺に を掛ければ,



を代入して、両辺にあらわれる同じ のべき乗の係数を等置すると,


すなわち, は可換である.