へん、ひん

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動詞を否定するときに使われる。動詞の活用ごとに解説していく。

五段活用

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X行五段活用(Xには、「買う」ならワ、「去る」ならラと、活用で変化する部分の行(但し「う」はワ行)が入る)の動詞は、語幹+X行のア段またはエ段+へん

そこには行かへん。 LHHL HLLL
そこには行かない。
この服は買えへん。 HHHLL HLLL
この服は買えない。

語幹+エ段+へんは不可能の意味としても使うことができる。(京都ではこの用法が一般的)

「有る」は、共通語においては「有らない」という言い方はできないが、大阪弁において「有らへん」という表現は可能である。

まだテレビも有らへん時代や。 LH LHLL LHLL HHHL
まだテレビも無い時代だ。

また、行かへん→行かん・行けへんにもなる。 せんといては、京ことばにもなるが、他人に対して「せんでください」と同じ意味の「しんでください」があるため京・大阪に初出張という人は、「死んでもらいます」と聞こえるらしい。

下一段活用

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二音節の動詞は語幹+え+へん、三音節以上の動詞は活用しても変化しない部分+へん

なかなか当たりが出えへん。 HHHH HHHH HLLL
なかなか当たりが出ない。
もう忘れへん。 HH HHLLL
もう忘れない。

上一段活用

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二音節の動詞は語幹+い+ひん、三音節以上の動詞は活用しても変化しない部分+ひん

その番組は見いひん。 HH LLLHH HLLL
その番組は見ない。
こんなけやったら足りひん。 HHHH LLL HLLL
これだけじゃあ足りない。

サ行変格活用

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せえへん

なかなか行動せえへん。 HHHH HHHH HLLL
なかなか行動しない。

カ行変格活用

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来えへん(けえへん)

春はまだ来えへん。 LHL LH HLLL
春はまだ来ない。

その他否定形

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「へん」、「ひん」とは別に西日本方言共通的な「~ん」を用いる事も出来る。 ちなみに「へん」「ひん」は「せぬ(せん)」が由来である(「しはせぬ」→「せえへん」「しいひん」に変化)。

もう知らん。 LL HHH
もう知らない。
結果が出ん。 LHH LH
結果が出ない。
後悔はせん。 HLLLL HH
後悔はしない。
彼は多分来ん。 HLL HLL LH
彼は多分来ない。

ちゃう

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「~ではない」という意味を作る。否定する品詞別に解説する。

名詞・形容動詞

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そのまま付けるか、「とちゃう」の形で

東大寺は京都ちゃう。 LLHLLL(HLLLLL) HLL HH
東大寺は京都ではない。
油とちゃう。 HLLL HH
油ではない。

動詞・形容詞

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終止形+「んちゃう」または「んとちゃう」の形で

そうするんとちゃう。 HH HHLL HH
そうするのではない。
彼が悪いんちゃう。 HLL HLLL HH
彼が悪いのではない。

また、「ちゃう」を単独で用いると、「違う」という意味の動詞となる。

それはちゃうで。 HHH HHL
それは違うよ。

ない・あらへん・あらん

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これらも否定するときに使われる、否定する品詞別に解説する

名詞・形容動詞

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「や」+「ない」・「あらへん」・「あらん」

そうやない。 HLL LH
そうじゃない。
状態は良好やあらへん。 HHHHH HHHHL LHLL
状態は良好じゃない。

動詞

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終止形+「んや」+「ない」

そんなことするんやない。 HHHHL HHLL LH
そんなことするんじゃない。

形容詞

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語幹+「ない」

もう若ない。 HH HHLL
もう若くない。

終止形+「んや」+「ない」とすると、「~ではない」という意味に

君だけが寂しいんやない。 HHHHH HHLLLL LH
君だけが寂しいのではない。

過去の否定

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否定の形の文の後ろに「かった」または「なんだ」をつける。但し、「ない」で否定する場合は「ない」を「なかった」にする。

結局来えへんかった。 LLH HLLLLL
結局来えへなんだ。 LLH HHHHLL
結局来なんだ。 LLH HHLL
結局来なかった。
写真の寺はあの寺とちゃうかった。 HHHH HHH HH HHH HHLL
(「ちゃうかった」は若者言葉であり、本来の表現は「違(ちご)てた」「違とった」である。)
写真の寺はあの寺ではなかった。
行くんやあらんかった。 HHLL LHHLL
行くんやあらへなんだ。 HHLL LLLHLL
行くんやあらなんだ。 HHLL HHLHH
行くんじゃなかった。
海は青なかった。 LHL HHHLL
海は青くなかった。