民事訴訟法/裁判所
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編集管轄
編集事物管轄とは、第一審の裁判を地方裁判所でするか、簡易裁判所でするかという問題である。
通常、第一審は地方裁判所または簡易裁判所のどちらかでしか行わない事になっており(裁24・34)、原則的に訴額が140万円以下かどうかによって担当する裁判所が分けられる(民訴8・9)。簡易裁判所は140万円以下の事件しか担当できない。
原則的に、訴額140万円を1円でも超えれば、地方裁判所が担当する。
ただし、140万円を越えてても地方裁判所がその事件は地方裁判所で担当する事を妥当だと認めれば、その地方裁判所でも140万円を担当できる[1]。 また、140万円以下の不動産の訴訟は、地方裁判所と簡易裁判所の双方が管轄を担当できる[2][3](裁33条1項1号・24条1号)。
なお、訴額の算出法については、訴額とは原告が訴訟で主張する(※ たとえば勝訴時の)利益額を評価した額であり、民訴8・9などに規定されている。
ただし、幼児の引き渡し請求[4]またはなどのような非財産上の請求は、金銭に換算する事ができないが、しかし地方裁判所が担当すべき事件なので、 地方裁判所が担当すべき訴訟の場合には訴額が便宜上で140万円を超えるものとして扱われる(8条2項[5])。
土地管轄とは、所在地の異なる同種の裁判所のうち、どの土地の裁判所で裁判をするかという問題である。
土地管轄は、事件の「裁判籍」の所在地を管轄区域内に持つ裁判所に生じる[6][7]。
「裁判籍」とは何かという問題があるが、実務的には、被告の住所、訴訟物たる義務の履行地、などが裁判籍とされるのが一般的である。
- 普通裁判籍
民事訴訟では原則、裁判籍は被告の住所を管轄する裁判所となり(4条1項)、このような仕組みを普通裁判籍という。この普通裁判籍の仕組みのため、裁判所までの移動などの点では被告に有利なようになっている。
この仕組みの理由は、原告は事前に訴訟の準備をできるなどの余裕のある一方、被告は不意打ち的[8]かつ一方的に訴えを起こされるわけであるから[9]、原告は被告の生活拠点に近い裁判所に出向いて訴訟を起こすのが両者にとって衡平(こうへい)[10][11]であるという考えにもとづく[12][13]。
被告が自然人であれば、その住所を管轄する裁判所に管轄権がある(4条2項)。被告が法人であれば、その事務所または営業所[14][15]の所在地を管轄する裁判所に管轄権がある(4条4項)。
なお、被告が訴え提起後に転居した場合、原告が訴えをした時点が管轄の標準時になる民訴法の規則により(15条)、つまりこの場合なら、被告が転居しても転居前の管轄が基準になる[16]。さらに訴えの提起については、訴状を提出した時点が基準になるので(133条1項)、つまり原告が訴状を提出した時刻が基準になる。言い方を変えるなら、被告が転居しても、普通裁判籍による管轄は原則的には変わらない[17]。
- ※ このようにしても、被告を不意打ちした事にはならないので[18](被告は転居前に訴訟をされる事を知り得るので)、被告の転居時のこの制度は妥当な法制であろう。
- 特別裁判籍
例外的に特定の種類の事件については、法律で裁判籍の決め方が規定されており、これを特別裁判籍という。
特別裁判籍には、併合請求など他の事件との関連性に基づいて認められる関連裁判籍と、他の事件との関連性には依拠せずに[19]その事件について独立に定められる独立裁判籍がある。
独立裁判籍については、5条、6条、6条の2が定めている[20][21]。特に5条1号では、義務履行地を裁判籍にする事を定めている[22][23][24]。
特別裁判籍については、7条の併合請求の裁判籍がある[25][26][27]。
- 知的財産権の裁判籍
特許権などの知的財産事件では、専門性が高いため東京地裁・大阪高裁[28][29]。
知的財産訴訟については、「専属管轄」と「任意管轄」という分類のうちの、専属管轄のほうに該当するという分類もある。
どちらの分類法にせよ、特許事件および実用新案権の第一審は、東日本地域の事件については東京地裁が専属管轄し、西日本地域の事件については大阪高裁が専属管轄する(6条1項)。著作権・商標権の第一審については6条2に別の定めがあり、簡易裁判所などにも訴訟できるが、東京高裁・大阪地裁に訴訟しても良い。
第一審に対する控訴の管轄、つまり第二審は東京高裁が専属管轄する(6条3項)。
移送
編集管轄違いの裁判所に訴状が提出された場合でも、訴状の出された裁判所が自発的に本来の裁判所へと訴状を転送する制度があり、これを移送という。
本来なら地方裁判所に訴状を提出しなければいけない事件について簡易裁判所に訴状が出された場合なら、簡易裁判所から地方裁判所に移送される(18条)。
その他、原告・被告の当事者双方の合意があれば、原則的には裁判所を変える事ができるので、これも移送に該当し、遅滞のおそれがなければ裁判所はこの場合の移送を認めなければならない(19条1)(当事者の合意に基づく必要的移送)[32][33]。
また主に判例だが、簡易裁判所が処理すべき訴えについて、同じ管轄地域の地方裁判所に訴えが届けられたとき、その訴えは本来なら管轄違いだが、しかし判例では、地方裁判所がその訴えを相当と認める場合には、地方裁判所でその訴えを処理しても良いとする最高裁判決がある(最決20・7・18・民集62巻7号2013頁、および民訴法16条2項)[34][35]。このような事例を自庁処理[36]という。
背景として、簡易裁判所よりも地方裁判所のほうが高度で複雑な事件を扱うので、上級な裁判所である地裁で事件を処理するぶんには原告・被告の権利が損なわれないだろうというような考えがある[37]。
- 移送の裁判
移送先の裁判所は、移送の原因と同じ理由では、他の裁判所には移送できない(22条2項)。このような規定は、たらい回しによって当事者の利益が損なわれる事を防ぐためである[40]。このため、移送先になった裁判所には、移送の理由となった判断に拘束される義務がある(22条1項)。
ただし、移送を受けた裁判所が、移送の原因とは異なる別の理由や、あらたに生じた理由があれば、必要に応じて別の裁判所に移送できると解するのが一般的である[41]。
除斥・忌避・回避
編集たとえば裁判官が当事者の親族である場合などは、そのままでは公正な裁判を行うのが難しいだろう客観的事情があるので、このような場合には裁判官を他の者に交代させなければならず、このような制度を除斥という。
つまり除斥とは、その事件において公正な裁判を妨げる事由のある裁判官を、その裁判からは担当を外す事である。
裁判の公正が目的である事から当然に、除斥などの対象になりうるのは裁判官だけでなく、裁判所書記官や専門委員、知的財産関連事件における裁判所調査官などにも適用されうる。
公正を妨げる原因の種類により「除斥」(23条)、「忌避」(24条)、「回避」(規則12条)が定められている。
- 除斥
除斥は、法定の原因がある時、その裁判官を排除する事である。 裁判官が当事者の配偶者または親族である場合などが除斥の原因として法定されている(23条1項、23条1項2号、民725〜729)。配偶者とは婚姻関係(民法739条)にある者のことである。なので内縁関係を含まない[42]。
その他、裁判官が当事者の代理人・保佐人である場合(5号)、裁判官が事件の証人・鑑定人になる場合(23条1項4号)、など除斥の原因が民訴法で定められている。
- 忌避
忌避とは、除籍原因には当たらないが、当該事件や当事者との関係から見て、今の裁判官の人員のままでは公正の原因を妨げるだろう可能性の高い理由がある場合に、当事者の申立てによって他の裁判官に変更してもらう制度である。具体的には、裁判官が当事者の親友である場合や、事件に重大な経済的利益を有している場合などである[43]。
除斥または忌避の決定は、合議体により決定でなされる(25条1項・2項)。民事訴訟規則により、除斥または忌避を主張した当事者は3日以内にその理由を疎明しなければならない(規10条3項前段)。疎明を必要とした規則のある理由は、濫用を防ぐためである。この理由を裁判所が聞いたあと、除斥または忌避をするべきか否かの判断をする[44]。
実務上、裁判審理中における証拠の採用の有無などの判断をめぐり、審理の趨勢に不満がある場合に不利な側の当事者が忌避の申立てを行う事例が多いが、しかしそのような申立ては忌避ではなく異議(90条・150条)や上訴(283条)で申し立てるべきであり、従ってこのような場合には忌避の申立ては却下されるのが普通である[45]。
- 回避
回避とは、裁判官が自発的にその裁判の担当から外れる事により、職務執行から外れる事である。
裁判権免除
編集日本に限らず一般的にどの国の訴訟制度でも、自国の領知内であっても、外国の国家元首、外交官、領事などは、民事訴訟の被告にされない。
つまり日本の場合なら、日本の領知内であっても、外国の国家元首、外交官、領事などは、日本の民事訴訟の被告にされない。この国際原則を裁判権免除または主権免除という[46]平成16年に国連総会において採択された「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約」に定めがある。また、日本国内法では、平成21年の「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」(対外国民事裁判権法)に定めがある。
ただし例外的に外交官などにも裁判権が及ぶ場合があり、上述の法律にその規定がある。
まや判例では、平成18年にパキスタンに対し高性能コンピューターの売却代金債務に関する貸金の支払を求めた判決がある。
外国の警察・軍事・外交などの業務そのものでなく、私人と同様の行為においては、たとえ外交官など外国政府の職員であっても訴訟の対象とする考え方があり、この考え方のことを制限免除主義という。平成18年以降(パキスタンの事件の年)の近年の日本の考え方は、制限免除主義である。また、平成18年以降である平成21年制定の法律だが対外国民事裁判権法では、外国の商業的行為は裁判権を免除されないと規定している。
なお、平成14年の在日米軍基地(横田基地)における航空機の夜間理離発着に関する裁判の判例が、よく学説などでは議論になる。
国際裁判管轄
編集国際裁判管轄については、たとえば財産関係事件については民訴法3条2〜12に定めがある[47][48]。なお、2011年の民訴法改正で新設された内容である。
また、身分関係事件については人事訴訟法3条の2〜5に規定がある。2018年の人訴法改正で新設された。
送達
編集原則
編集送達の対象になる書類は、訴状や呼出し状、判決書[49]などである。こういった裁判所からの書類を、宛先の当事者に届けることを送達という。
送達は原則として、法律に特別の定めのある場合を除き、裁判所の責任で送達され、これを職権送達の原則という(98条1項)。ただし実際に送達をするのは郵便集配人や、裁判所書記官、執行官などである。
送達が実施された場合、送達をした者は、送達に関する事項を記載した送達報告書を作成し、裁判所に提出しなければならない(109条)。
送達の方法
編集原則として送達では、まずは郵便配達人または執行官などが相手先の住所に届けに行くのが原則である。その他の方法は、相手方と連絡のつかない場合などだけ、例外的に用いなければならない[50]。
問題は、送達した時に、宛先の住所に本人がいない場合である。
まず、運良く、最初に宛先の住所である住居または職場に郵便配達人が届けに行った時に、相手方の当事者本人もその場に滞在していれば、その相手方本人に渡せばよく、この場合を交付送達という(101条)。
- ※発音の似ている「公示送達」とは異なるので、混同しないように。
しかし、そんなに運良く相手方が滞在しているとは限らない。
そこで、書類の相手方の同居の家族や従業員など、「相当のわきまえのあるもの」に交付することでよしとする方法が法律で許されており、これを補充送達という(106条1項)。
また、当事者またはその同居人または従業員などが、正当な理由なく裁判関連書類の受け取りを拒否の意思表示をしても拒否行為は無効であり、もし拒否をしても郵便配達人にその場に書類を置いていかれ、それで送達の効力が発生し、このことを差置送達という(107条3項)。
郵便配達人が何度も配達しても連絡がつかなかったりして、送達を受け取るべきものが常に不在であるなどで連絡がつかない場合、裁判所書記官が書留郵便を送達場所に発想すれば、それで送達の効力が発生し、これを付郵便送達という(107条)。
上記の方法で住所に送達しようにも、被告の住所や所在自体が知れない場合、最後の手段として、裁判所の掲示板によって送達すべき書類があるという旨を公開するという公示送達という方法になる(110条)。そして、裁判所書記官は送達すべき書類を保管する(111条)。掲示を初めてから2週間が経過すれば、送達は効力を生じる(112条)。
- ^ 安西、P59
- ^ 三木、P76
- ^ 山本、P138
- ^ 山本、P138
- ^ 安西、P59
- ^ 三木、P76
- ^ 山本、P138
- ^ 中野、P108
- ^ 安西、P59
- ^ 中野、P108
- ^ 安西、P59
- ^ 三木、P76
- ^ 山本、P138
- ^ 三木、P76
- ^ 山本、P139
- ^ 三木、P78
- ^ 三木、P78
- ^ 三木、P79
- ^ 三木、P76
- ^ 三木、P77
- ^ 山本、P139
- ^ 安西、P61
- ^ 三木、P77
- ^ 山本、P139
- ^ 安西、P61
- ^ 三木、P76
- ^ 山本、P139
- ^ 安西、P61
- ^ 山本、P140
- ^ 安西、P61
- ^ 山本、P140
- ^ 安西、P68
- ^ 三木、P80
- ^ 安西、P68
- ^ 三木、P80
- ^ 三木、P79
- ^ 三木、P79 では、地方裁判所と比べて簡易裁判所では判事の任命資格が緩いと言及している
- ^ 三木、P81
- ^ 安西、P69
- ^ 三木、P81
- ^ 三木、P81
- ^ 三木、P82
- ^ 安西、P70
- ^ 三木、P86
- ^ 三木、P86
- ^ 山本弘ほか、『民事訴訟法 第3版』、P22
- ^ 山本、P25
- ^ 三木、P350
- ^ 三木、P164
- ^ 安西、P77