外部からエネルギーを受け取らずに、仕事を外部にし続けることができるような機関は、熱力学第一法則に抵触するから、実現不可能である。しかし、熱を外部から受け取り、これをすべて仕事に変換し、この仕事で摩擦を起こし発生した熱を熱源に返却する。これによって永久に動き続ける機関は、熱力学第一法則に矛盾しない。この永久機関を第二種永久機関と呼ぶ。第二種永久機関は、外部に仕事を取り出すと停止してしまう。しかし、もし第二種永久機関が存在すれば、熱エネルギーは大量に供給可能であるため、熱源を交換し続ける限り、半永久的に仕事をし続けることが可能だろう。このような第二種永久機関の実現は、多くの科学者によって試みられてきたが、すべて失敗した。この経験的事実から、第二種永久機関は実現不可能であるということを熱力学の基本原理として採用する。
熱力学第二法則 (ケルヴィンの原理あるいはオストヴァルトの原理)[ 1]
第二種永久機関、すなわち、一様な温度を持つ一つの熱源から正の熱を取り出し、これをすべて仕事に変換するだけで、他には何の変化も起こさないような過程は、実現不可能である。
単に、外部の熱源から受け取った熱をすべて仕事に変換する過程ならば、容易に実現可能である。例えば理想気体の等温膨張では、気体の内部エネルギーは変化しないから、外部からの熱をすべて仕事に変換する。
ケルヴィンの原理は次のクラウジウスの原理と等価である。
クラウジウスの原理
低温の熱源から、高温の熱源に正の熱を移し、他に何の変化を起こさないような過程は実現不可能である。
証明
背理法により証明する。まずは、ケルヴィンの原理が成り立たないならば、クラウジウスの原理が成り立たないことを証明する。ケルヴィンの原理が成り立たないならば、一様な温度を持つ一つの熱源から正の熱を取り出し、これをすべて仕事に変換するだけで、他には何の変化も起こさないような過程が実現可能である。この過程によって、低温の熱源から熱を取り出して仕事に変換できるから、取り出した仕事を用いて摩擦によって高温の熱源に熱を与えることができる。この過程は全体では、低温の熱源から取り出した熱を高温の熱源に移し、それ以外の変化は起こしていないから、クラウジウスの原理の反例になっている。
次に、クラウジウスの原理が成り立たないならば、ケルヴィンの原理が成り立たないことを証明する。まず、温度
t
H
{\displaystyle t_{\mathrm {H} }}
の高温の熱源と、温度
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {L} }}
の低温の熱源を使った、次の循環過程(カルノーサイクル)を考える。
はじめ、シリンダー内の気体の温度は
t
H
{\displaystyle t_{\mathrm {H} }}
である。シリンダーの体積は
V
1
{\displaystyle V_{1}}
である。
シリンダーを高温の熱源
t
H
{\displaystyle t_{\mathrm {H} }}
と接触させて、体積が
V
2
{\displaystyle V_{2}}
になるまで等温膨張する。このとき高温の熱源から
Q
H
{\displaystyle Q_{\mathrm {H} }}
の熱を受け取る。
シリンダーを熱源から絶縁して、シリンダー内の気体の温度が
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {L} }}
になるまで断熱膨張する。シリンダーの体積は
V
3
{\displaystyle V_{3}}
になる。
シリンダーを低温の熱源
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {L} }}
に接触させて、体積が
V
4
{\displaystyle V_{4}}
になるまで等温圧縮する。このとき、低温の熱源に
Q
L
{\displaystyle Q_{\mathrm {L} }}
の熱を放出する。
シリンダーを熱源から絶縁して、シリンダーの気体の温度が
t
H
{\displaystyle t_{\mathrm {H} }}
になるまで断熱圧縮する。シリンダーの体積は
V
1
{\displaystyle V_{1}}
になる。
このサイクルでは、サイクルを一周したときに内部エネルギーの変化はないから、
W
=
Q
H
−
Q
L
{\displaystyle W=Q_{\mathrm {H} }-Q_{\mathrm {L} }}
の仕事を外部にする。
クラウジウスの原理が成り立たないならば、低温の熱源
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {L} }}
から、高温の熱源
t
H
{\displaystyle t_{\mathrm {H} }}
に正の熱
Q
H
{\displaystyle Q_{\mathrm {H} }}
を移し、他に何の変化を起こさないような過程が存在する。この過程によって、移動した熱
Q
H
{\displaystyle Q_{\mathrm {H} }}
をカルノーサイクルによって、高温の熱源から吸収し、これを仕事
W
{\displaystyle W}
に変換し、低温の熱源に
Q
L
{\displaystyle Q_{\mathrm {L} }}
の熱を放出することができる。全体では、低温の熱源から、
Q
H
−
Q
L
{\displaystyle Q_{\mathrm {H} }-Q_{\mathrm {L} }}
の熱を吸収し、これをすべて仕事に変換したことになる。これは、ケルヴィンの原理の反例である。
よって、ケルヴィンの原理とクラウジウスの原理が等価であることが証明できた。
カルノーの定理
t
H
,
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {H} },\,t_{\mathrm {L} }}
の熱源によって働く、熱機関
A
{\displaystyle A}
の効率を
η
′
{\displaystyle \eta '}
、カルノーサイクルの効率を
η
{\displaystyle \eta }
とすると、
η
′
≤
η
{\displaystyle \eta '\leq \eta }
である。
さらに、熱機関
A
{\displaystyle A}
が可逆ならば、
η
′
=
η
{\displaystyle \eta '=\eta }
である。
証明
1サイクルの間に熱機関
A
{\displaystyle A}
が高温の熱源から吸収する熱を
Q
H
′
{\displaystyle Q'_{\mathrm {H} }}
、低温の熱源に放出する熱を
Q
L
′
{\displaystyle Q'_{\mathrm {L} }}
とする。この熱機関は
W
′
=
Q
H
′
−
Q
L
′
{\displaystyle W'=Q'_{\mathrm {H} }-Q'_{\mathrm {L} }}
の仕事をするから、熱効率は
η
′
=
W
′
Q
H
′
=
1
−
Q
L
′
Q
H
′
{\displaystyle \eta '={\frac {W'}{Q'_{\mathrm {H} }}}=1-{\frac {Q'_{\mathrm {L} }}{Q'_{\mathrm {H} }}}}
である。
同じ熱源
t
H
,
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {H} },\,t_{\mathrm {L} }}
で働くカルノーサイクルの熱効率は、
η
=
W
Q
H
=
1
−
Q
L
Q
H
{\displaystyle \eta ={\frac {W}{Q_{\mathrm {H} }}}=1-{\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}}
である。
逆カルノーサイクルは、外部から
W
{\displaystyle W}
の仕事をされて、低温の熱源から
Q
L
{\displaystyle Q_{\mathrm {L} }}
の熱を奪い、高温の熱源に
Q
H
{\displaystyle Q_{\mathrm {H} }}
の熱を与えるものである。逆カルノーサイクルを
N
{\displaystyle N}
回、
A
{\displaystyle A}
を
N
′
{\displaystyle N'}
サイクルして、低温の熱源に与える熱
N
′
Q
L
′
−
N
Q
L
{\displaystyle N'Q'_{\mathrm {L} }-NQ_{\mathrm {L} }}
が0になるようにすることができる。この条件は、
Q
L
Q
L
′
=
N
′
N
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q'_{\mathrm {L} }}}={\frac {N'}{N}}}
である。熱機関
A
{\displaystyle A}
と、この逆カルノーサイクルをそれぞれ、
N
′
,
N
{\displaystyle N',N}
サイクルすれば、全体では、低温の熱源が失った熱は0で、高温の熱源が失った熱は、
N
′
Q
H
′
−
N
Q
H
{\displaystyle N'Q'_{\mathrm {H} }-NQ_{\mathrm {H} }}
であり、
N
′
W
′
−
N
W
{\displaystyle N'W'-NW}
の仕事を外部にする。熱力学第一法則より、この2つは等しく、
N
′
Q
H
′
−
N
Q
H
=
N
′
W
′
−
N
W
{\displaystyle N'Q'_{\mathrm {H} }-NQ_{\mathrm {H} }=N'W'-NW}
である。また、
N
′
W
′
−
N
W
{\displaystyle N'W'-NW}
が正であるならば、熱力学第二法則に反するから、
N
′
W
′
−
N
W
≤
0
{\displaystyle N'W'-NW\leq 0}
である。よって、
N
′
Q
H
′
−
N
Q
H
≤
0
{\displaystyle N'Q'_{\mathrm {H} }-NQ_{\mathrm {H} }\leq 0}
、 あるいは、
Q
H
Q
H
′
≥
N
′
N
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {H} }}{Q'_{\mathrm {H} }}}\geq {\frac {N'}{N}}}
を得る。
Q
H
Q
H
′
≥
Q
L
Q
L
′
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {H} }}{Q'_{\mathrm {H} }}}\geq {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q'_{\mathrm {L} }}}}
を変形すると、
Q
L
′
Q
H
′
≥
Q
L
Q
H
{\displaystyle {\frac {Q'_{\mathrm {L} }}{Q'_{\mathrm {H} }}}\geq {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}}
となる。
1
−
Q
L
′
Q
H
′
≤
1
−
Q
L
Q
H
{\displaystyle 1-{\frac {Q'_{\mathrm {L} }}{Q'_{\mathrm {H} }}}\leq 1-{\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}}
すなわち、
η
′
≤
η
{\displaystyle \eta '\leq \eta }
である。
次に、熱機関
A
{\displaystyle A}
が可逆ならば、逆カルノーサイクルの代わりに、逆サイクル
−
A
{\displaystyle -A}
を、サイクル
A
{\displaystyle A}
の代わりに順カルノーサイクルを使って、上と同じ議論を行うことで、
η
≤
η
′
{\displaystyle \eta \leq \eta '}
を得る。したがって、
η
′
=
η
.
{\displaystyle \eta '=\eta .}
カルノーの定理より、すべての可逆な熱機関の熱効率は作業物質によらず等しく、非可逆な熱機関の熱効率は可逆な熱機の熱効率を上回らないことが分かる。したがって、可逆な熱機関の熱効率が可能な熱機関の最大効率であり、最大効率は2つの温度のみによって定まる(なぜなら定理の仮定には2つの温度しか与えていないから)。
すべての、
t
H
,
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {H} },\,t_{\mathrm {L} }}
の熱源で働く可逆な熱機関では、
Q
L
Q
H
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}}
は一定である。これは、温度
t
H
,
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {H} },\,t_{\mathrm {L} }}
に依存する関数だから、
Q
L
Q
H
=
f
(
t
H
,
t
L
)
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}=f(t_{\mathrm {H} },t_{\mathrm {L} })}
と置く。このとき、関数
θ
(
t
)
{\displaystyle \theta (t)}
が存在して、
Q
L
Q
H
=
θ
(
t
L
)
θ
(
t
H
)
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}={\frac {\theta (t_{\mathrm {L} })}{\theta (t_{\mathrm {H} })}}}
と書けることを示そう。
t
0
{\displaystyle t_{0}}
を
t
H
,
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {H} },\,t_{\mathrm {L} }}
とは異なる温度とする。
t
H
,
t
0
{\displaystyle t_{\mathrm {H} },\,t_{0}}
の熱源で働く可逆な熱機関で、
Q
0
{\displaystyle Q_{0}}
を熱源
t
0
{\displaystyle t_{0}}
に放出する熱、
Q
H
{\displaystyle Q_{\mathrm {H} }}
を熱源
t
H
{\displaystyle t_{\mathrm {H} }}
から吸収する熱とすると、
Q
0
Q
H
=
f
(
t
0
,
t
H
)
{\displaystyle {\frac {Q_{0}}{Q_{\mathrm {H} }}}=f(t_{0},t_{\mathrm {H} })}
である。
次に、
t
L
,
t
0
{\displaystyle t_{\mathrm {L} },\,t_{0}}
の熱源で働く可逆な熱機関で、
Q
0
{\displaystyle Q_{0}}
を熱源
t
0
{\displaystyle t_{0}}
に放出する熱、
Q
L
{\displaystyle Q_{\mathrm {L} }}
を熱源
t
L
{\displaystyle t_{\mathrm {L} }}
から吸収する熱とすると、
Q
0
Q
L
=
f
(
t
0
,
t
L
)
{\displaystyle {\frac {Q_{0}}{Q_{\mathrm {L} }}}=f(t_{0},t_{\mathrm {L} })}
となる。
両辺を割れば、
Q
L
Q
H
=
f
(
t
0
,
t
H
)
f
(
t
0
,
t
L
)
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}={\frac {f(t_{0},t_{\mathrm {H} })}{f(t_{0},t_{\mathrm {L} })}}}
となる。ここで、
t
0
{\displaystyle t_{0}}
を固定すれば、
K
{\displaystyle K}
を定数として、
θ
(
t
)
=
K
f
(
t
0
,
t
)
{\displaystyle \theta (t)=Kf(t_{0},t)}
と書くことができ、
Q
L
Q
H
=
θ
(
t
L
)
θ
(
t
H
)
{\displaystyle {\frac {Q_{\mathrm {L} }}{Q_{\mathrm {H} }}}={\frac {\theta (t_{\mathrm {L} })}{\theta (t_{\mathrm {H} })}}}
を得る。
関数
θ
{\displaystyle \theta }
には定数
K
{\displaystyle K}
の不定性がある。これを水の三重点の温度が
θ
=
273.16
K
{\displaystyle \theta =273.16\,\mathrm {K} }
に等しいように定義する。 こうして得られた関数
θ
(
t
)
{\displaystyle \theta (t)}
を熱力学温度という。
n
{\displaystyle n}
個の熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
によって行われるサイクルを考えよう。系が熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
から受け取る熱を
Q
i
{\displaystyle Q_{i}}
とする。系が熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
に熱を放出するとき、
Q
i
{\displaystyle Q_{i}}
は負である。このとき、
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
≤
0
{\displaystyle \sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}\leq 0}
となる。
証明
n
{\displaystyle n}
個の熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
の他に、熱源
T
0
{\displaystyle T_{0}}
を導入して、1サイクルの間に系が熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
から受け取った熱
Q
i
{\displaystyle Q_{i}}
と同等の熱を、カルノーサイクルによって熱源
T
0
{\displaystyle T_{0}}
から、熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
に与えるとする。このカルノーサイクルによって、熱源
T
0
{\displaystyle T_{0}}
から吸収する熱量
Q
i
′
{\displaystyle Q'_{i}}
は、
Q
i
′
Q
i
=
T
0
T
i
{\displaystyle {\frac {Q'_{i}}{Q_{i}}}={\frac {T_{0}}{T_{i}}}}
で与えられる。これらのサイクルによる合成サイクルでは、
T
i
(
i
=
1
,
2
,
…
,
n
)
{\displaystyle T_{i}\quad (i=1,2,\dots ,n)}
が吸収する熱量は0である。
T
0
{\displaystyle T_{0}}
が放出する熱
Q
0
{\displaystyle Q_{0}}
は、
Q
0
=
∑
i
=
1
n
Q
i
′
=
T
0
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
{\displaystyle Q_{0}=\sum _{i=1}^{n}Q'_{i}=T_{0}\sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}}
であり、これに等しい量の仕事を系が行う。系が正の仕事をすると系が正の熱
Q
0
{\displaystyle Q_{0}}
を受け取り、すべて仕事に変換する子になるから、熱力学第二法則に反する。よって、
Q
0
≤
0
{\displaystyle Q_{0}\leq 0}
である。すなわち、
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
≤
0
{\displaystyle \sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}\leq 0}
を得る。
また、
n
{\displaystyle n}
個の熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
と系によって、行われるサイクルが可逆である場合は、そのサイクルを逆向きにすることができる。このとき、系が熱源
T
i
{\displaystyle T_{i}}
から受け取る熱は
−
Q
i
{\displaystyle -Q_{i}}
となる。熱源
T
0
{\displaystyle T_{0}}
と
T
i
{\displaystyle T_{i}}
の間のカルノーサイクルも逆カルノーサイクルとして、同じ議論を行うと、
−
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
≤
0
{\displaystyle -\sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}\leq 0}
となる。前の結果と合わせて、
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
=
0
{\displaystyle \sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}=0}
を得る。
温度
T
{\displaystyle T}
の熱源から、無限小の熱量
d
Q
{\displaystyle dQ}
を受け取るサイクルについて、クラウジウスの不等式の和を積分に置き換えれば、
∮
d
Q
T
≤
0
{\displaystyle \oint {\frac {dQ}{T}}\leq 0}
を得る。
また、サイクルが可逆であるときは、
∮
d
Q
T
=
0
{\displaystyle \oint {\frac {dQ}{T}}=0}
となる。
ここで、状態
A
{\displaystyle {\rm {A}}}
から状態
B
{\displaystyle {\rm {B}}}
に遷移する可逆過程について、
∫
A
B
d
Q
T
{\displaystyle \int _{\rm {A}}^{\rm {B}}{\frac {dQ}{T}}}
という量は、それが可逆である限り、過程によらないことを示そう。
状態
A
{\displaystyle {\rm {A}}}
から状態
B
{\displaystyle {\rm {B}}}
に遷移する異なる過程
I
,
I
I
{\displaystyle {\rm {I,\,{\rm {II}}}}}
を取ると、クラウジウスの式で、積分経路として、
I
(
A
→
B
)
+
I
I
(
B
+
A
)
{\displaystyle {\rm {I({\rm {A\to {\rm {B)+{\rm {{II}({\rm {B+{\rm {A)}}}}}}}}}}}}}
を取ると、
∮
d
Q
T
=
∫
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
+
∫
I
I
(
B
→
A
)
d
Q
T
=
0
{\displaystyle \oint {\frac {dQ}{T}}=\int _{\rm {{I}(A\to B)}}{\frac {dQ}{T}}+\int _{\rm {{II}(B\to A)}}{\frac {dQ}{T}}=0}
となる。ここで、
∫
I
I
(
B
→
A
)
d
Q
T
=
−
∫
I
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
{\displaystyle \int _{\rm {{II}(B\to A)}}{\frac {dQ}{T}}=-\int _{\rm {{II}(A\to B)}}{\frac {dQ}{T}}}
であることを使うと、
∫
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
=
∫
I
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
{\displaystyle \int _{\rm {{I}(A\to B)}}{\frac {dQ}{T}}=\int _{\rm {{II}(A\to B)}}{\frac {dQ}{T}}}
を得る。よって、この量は過程に依らないことを証明できた。
ここで、エントロピー
S
{\displaystyle S}
を
S
(
B
)
−
S
(
A
)
=
∫
A
B
d
Q
T
{\displaystyle S(\mathrm {B} )-S(\mathrm {A} )=\int _{\mathrm {A} }^{\mathrm {B} }{\frac {dQ}{T}}}
によって定義する。ただし、積分経路
A
→
B
{\displaystyle \mathrm {A} \to \mathrm {B} }
は可逆過程であるとする。もし、経路
I
I
I
(
A
→
B
)
{\displaystyle \mathrm {III} (\mathrm {A} \to \mathrm {B} )}
が可逆過程でないとするならば、経路
I
I
I
(
A
→
B
)
+
I
(
B
→
A
)
{\displaystyle \mathrm {III} (\mathrm {A} \to \mathrm {B} )+\mathrm {I} (\mathrm {B} \to \mathrm {A} )}
について、クラウジウスの不等式より、
∫
I
I
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
+
∫
I
(
B
→
A
)
d
Q
T
≤
0
{\displaystyle \int _{\rm {{III}(A\to B)}}{\frac {dQ}{T}}+\int _{\mathrm {I} (\mathrm {B} \to \mathrm {A} )}{\frac {dQ}{T}}\leq 0}
となる。よって、
∫
I
I
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
≤
∫
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
{\displaystyle \int _{\rm {{III}(A\to B)}}{\frac {dQ}{T}}\leq \int _{\mathrm {I} (\mathrm {A} \to \mathrm {B} )}{\frac {dQ}{T}}}
であるから、
S
(
B
)
−
S
(
A
)
≥
∫
I
I
I
(
A
→
B
)
d
Q
T
{\displaystyle S(\mathrm {B} )-S(\mathrm {A} )\geq \int _{\mathrm {III} (\mathrm {A} \to \mathrm {B} )}{\frac {dQ}{T}}}
を得る。
さらに、これが孤立系である場合、 常に
d
Q
=
0
{\displaystyle dQ=0}
となるから、
S
(
B
)
≥
S
(
A
)
{\displaystyle S(\mathrm {B} )\geq S(\mathrm {A} )}
を得る。すなわち、孤立系におけるあらゆる変化はエントロピーが増大する結果になる。もし、過程が可逆ならば、エントロピーは変化しないが、系が外界と熱のやり取りをしない限り、エントロピーが減少することはない。ただし、系が孤立系ではない、すなわち、外部と熱のやり取りをする場合は、系のエントロピーを減少させることは可能である。しかし、この場合でも、外界のエントロピー変化と系のエントロピー変化を足し合わせた合計のエントロピーは増加する。
熱力学系が温度
T
{\displaystyle T}
で一定の熱源と接しているとする。このとき、エントロピー変化について、
S
(
B
)
−
S
(
A
)
≥
1
T
∫
A
→
B
d
Q
=
Q
T
{\displaystyle S(\mathrm {B} )-S(\mathrm {A} )\geq {\frac {1}{T}}\int _{\mathrm {A} \to \mathrm {B} }dQ={\frac {Q}{T}}}
となる。ここで、
Q
=
∫
A
→
B
d
Q
{\displaystyle Q=\int _{\mathrm {A} \to \mathrm {B} }dQ}
は系が過程の間に受け取る熱量である。また、
A
,
B
{\displaystyle \mathrm {A} ,\,\mathrm {B} }
では系の温度は
T
{\displaystyle T}
に等しい。
エントロピー変化を
Δ
S
=
S
(
B
)
−
S
(
A
)
{\displaystyle \Delta S=S(\mathrm {B} )-S(\mathrm {A} )}
と書くと、
Q
≤
T
Δ
S
{\displaystyle Q\leq T\Delta S}
となる。これは、系が受け取ることのできる熱の最大値を表している。
系がする仕事を
W
{\displaystyle W}
とすると、熱力学第一法則より、
W
=
Q
−
Δ
U
≤
T
Δ
S
−
Δ
U
{\displaystyle W=Q-\Delta U\leq T\Delta S-\Delta U}
となる。ここで、ヘルムホルツの自由エネルギーを
F
=
U
−
T
S
{\displaystyle F=U-TS}
で定義すると、
W
≤
−
Δ
F
{\displaystyle W\leq -\Delta F}
を得る。これは系がなす仕事の最大値である。系の体積が一定である場合は、系が外界と仕事のやり取りをしないから、
W
=
0
{\displaystyle W=0}
である。この系の自由エネルギーの変化は、
0
≤
−
Δ
F
{\displaystyle 0\leq -\Delta F}
あるいは、
F
(
B
)
≤
F
(
A
)
{\displaystyle F(\mathrm {B} )\leq F(\mathrm {A} )}
となる。すなわち、系が温度
T
{\displaystyle T}
の熱源と接していて、系の体積が一定ならば、系に対するあらゆる過程は、ヘルムホルツの自由エネルギーが減少する結果になる。
前と同じように、熱力学系が温度
T
{\displaystyle T}
で一定の熱源と接しているとする。さらに、外界の圧力が
p
{\displaystyle p}
で一定であるとする。この系が外界にする仕事は、
Δ
V
{\displaystyle \Delta V}
を系の体積変化とすれば、
p
Δ
V
{\displaystyle p\Delta V}
である。
p
Δ
V
≤
−
Δ
F
{\displaystyle p\Delta V\leq -\Delta F}
ギブスの自由エネルギー
G
{\displaystyle G}
を
G
=
F
+
p
V
{\displaystyle G=F+pV}
で定義すると、
Δ
G
=
Δ
F
+
p
Δ
V
{\displaystyle \Delta G=\Delta F+p\Delta V}
0
≤
−
Δ
G
{\displaystyle 0\leq -\Delta G}
あるいは、
G
(
B
)
≤
G
(
A
)
{\displaystyle G(\mathrm {B} )\leq G(\mathrm {A} )}
を得る。すなわち、系が等温等圧の過程を受けるならば、ギブスの自由エネルギーが減少する結果になる。
熱力学第三法則
絶対零度において、完全結晶のエントロピーは一定値に近づく。
エントロピーは
S
(
B
)
−
S
(
A
)
=
∫
A
B
d
Q
T
{\displaystyle S(\mathrm {B} )-S(\mathrm {A} )=\int _{\mathrm {A} }^{\mathrm {B} }{\frac {dQ}{T}}}
によって定義されていた。これはエントロピーの差を与えているが、その絶対的な量は与えないという不定性が残っている。しかし、熱力学第三法則によれば、絶対零度ではエントロピーは一定値に近づくのだから、この状態におけるエントロピーを0とすることで、不定性をなくすことができる。
系の絶対零度における状態を
O
{\displaystyle \mathrm {O} }
、状態
A
{\displaystyle \mathrm {A} }
のエントロピーを
S
(
A
)
=
∫
O
→
A
d
Q
T
{\displaystyle S(\mathrm {A} )=\int _{\mathrm {O} \to \mathrm {A} }{\frac {dQ}{T}}}
と定義することができる。ただし、積分経路
O
→
A
{\displaystyle \mathrm {O} \to \mathrm {A} }
は可逆過程である。
固体の定積モル比熱を
C
V
(
T
)
{\displaystyle C_{V}(T)}
とすれば、温度が
d
T
{\displaystyle dT}
変化する間に固体が吸収する熱
d
Q
{\displaystyle dQ}
は
d
Q
=
C
V
(
T
)
d
T
{\displaystyle dQ=C_{V}(T)dT}
である。よってエントロピーは、
S
(
T
)
=
∫
0
T
C
V
(
T
)
T
d
T
{\displaystyle S(T)=\int _{0}^{T}{\frac {C_{V}(T)}{T}}dT}
と求められる。ここで、熱力学第三法則より、
T
→
0
{\displaystyle T\to 0}
で、
S
→
0
{\displaystyle S\to 0}
となるためには、
C
V
→
0
{\displaystyle C_{V}\to 0}
とならなくてはいけない。
固体の比熱はデバイの比熱式によると、
C
V
(
T
)
=
3
R
D
(
T
Θ
)
{\displaystyle C_{V}(T)=3RD\left({\frac {T}{\Theta }}\right)}
で与えられる。
Θ
{\displaystyle \Theta }
はデバイ温度で物質に依存する定数である。ここで、
D
(
ξ
)
=
3
ξ
3
∫
0
1
ξ
x
4
e
x
(
e
x
−
1
)
2
d
x
{\displaystyle D(\xi )=3\xi ^{3}\int _{0}^{\frac {1}{\xi }}{\frac {x^{4}e^{x}}{(e^{x}-1)^{2}}}dx}
である。デバイの比熱式が、
C
V
→
0
(
T
→
0
)
{\displaystyle C_{V}\to 0\,(T\to 0)}
を満たしていることを確かめてみよう。
D
(
ξ
)
=
12
ξ
3
∫
0
1
ξ
x
3
e
x
−
1
d
x
−
1
ξ
e
1
ξ
−
1
{\displaystyle D(\xi )=12\xi ^{3}\int _{0}^{\frac {1}{\xi }}{\frac {x^{3}}{e^{x}-1}}dx-{\frac {\frac {1}{\xi }}{e^{\frac {1}{\xi }}-1}}}
となる。第二項は
ξ
→
0
{\displaystyle \xi \to 0}
で 0 である。積分は、
∫
0
∞
x
3
e
x
−
1
d
x
=
3
!
ζ
(
4
)
=
π
4
15
{\displaystyle \int _{0}^{\infty }{\frac {x^{3}}{e^{x}-1}}dx=3!\zeta (4)={\frac {\pi ^{4}}{15}}}
で一定値となるから、
D
(
ξ
)
→
0
{\displaystyle D(\xi )\to 0}
である。
よって、
C
V
→
0
(
T
→
0
)
{\displaystyle C_{V}\to 0\,(T\to 0)}
となることが確かめられた。
気体の圧力圧力
p
{\displaystyle p}
、体積
V
{\displaystyle V}
、温度
T
{\displaystyle T}
の間には
f
(
p
,
V
,
T
)
=
0
{\displaystyle f(p,V,T)=0}
の関係がある。このような方程式を気体の状態方程式という。
物質量
n
{\displaystyle n}
の気体は常温常圧付近では、近似的に状態方程式
p
V
=
n
R
T
{\displaystyle pV=nRT}
に従う。ここで、
R
{\displaystyle R}
は気体定数でその値は
8.31
J
K
−
1
m
o
l
−
1
{\displaystyle 8.31\,\mathrm {J\,K^{-1}\,mol^{-1}} }
である。
この状態方程式に厳密に従う気体の模型を理想気体という。
理想気体は高圧になると、実際の気体からのずれが大きくなる。実在気体の振る舞いは、ファンデルワールスの状態方程式
(
p
+
a
n
2
V
2
)
(
V
−
n
b
)
=
n
R
T
{\displaystyle \left(p+a{\frac {n^{2}}{V^{2}}}\right)(V-nb)=nRT}
に近似できる。これに厳密に従う気体をファンデルワールス気体という。
内部エネルギー
U
{\displaystyle U}
などの熱力学の関数の偏微分は、
∂
U
(
p
,
V
,
T
)
∂
T
=
lim
h
→
0
U
(
p
,
V
,
T
+
h
)
−
U
(
p
,
V
,
T
)
h
{\displaystyle {\frac {\partial U(p,V,T)}{\partial T}}=\lim _{h\to 0}{\frac {U(p,V,T+h)-U(p,V,T)}{h}}}
で定義されるものだが、状態量
p
,
V
,
T
{\displaystyle p,V,T}
は状態方程式を満たすから状態量
p
,
V
,
T
{\displaystyle p,V,T}
は独立でない。よって、この偏微分は定義できない。状態量のうち、独立な変数は2つだけである。つまり、
U
{\displaystyle U}
の変数は2つだけでいい。2つの独立変数の選び方は任意であるから、例えば、
T
,
V
{\displaystyle T,V}
を独立変数に選んで、これを内部エネルギーの変数とすると、
∂
U
(
V
,
T
)
∂
T
=
lim
h
→
0
U
(
V
,
T
+
h
)
−
U
(
V
,
T
)
h
{\displaystyle {\frac {\partial U(V,T)}{\partial T}}=\lim _{h\to 0}{\frac {U(V,T+h)-U(V,T)}{h}}}
というように偏微分を定義することができる。これを、何が内部エネルギーの変数なのか分かるように、括弧でくくって、それを右下に書く。
(
∂
U
∂
T
)
V
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}}
独立変数の一つは、偏微分する変数なのだから、右下の変数は一つだけでいい。つまり、偏微分の変数と右下に書いた変数を合わせたものが関数の独立なである。
例えば、
(
∂
U
∂
T
)
p
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{p}}
は、これは関数
U
(
p
,
T
)
{\displaystyle U(p,T)}
の偏微分という意味である。一般には
(
∂
U
∂
T
)
V
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}}
とは異なる。それぞれの数学的な定義を書いておくと、
(
∂
U
∂
T
)
V
=
∂
U
(
T
,
V
)
∂
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}={\frac {\partial U(T,V)}{\partial T}}}
(
∂
U
∂
T
)
p
=
∂
U
(
p
,
T
)
∂
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{p}={\frac {\partial U(p,T)}{\partial T}}}
となる。
この記法を使うと、内部エネルギーの微分は
d
U
=
(
∂
U
∂
T
)
V
d
T
+
(
∂
U
∂
V
)
T
d
V
{\displaystyle dU=\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}dT+\left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}dV}
となる。
熱力学第一法則
d
Q
=
d
U
+
p
d
V
{\displaystyle dQ=dU+pdV}
に
d
U
=
(
∂
U
∂
T
)
V
d
T
+
(
∂
U
∂
V
)
T
d
V
{\displaystyle dU=\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}dT+\left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}dV}
を代入すると、
d
Q
=
(
∂
U
∂
T
)
V
d
T
+
[
(
∂
U
∂
V
)
T
+
p
]
d
V
{\displaystyle dQ=\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}dT+\left[\left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}+p\right]dV}
を得る。ここで、
d
S
=
d
Q
T
=
1
T
(
∂
U
∂
T
)
V
d
T
+
1
T
[
(
∂
U
∂
V
)
T
+
p
]
d
V
{\displaystyle dS={\frac {dQ}{T}}={\frac {1}{T}}\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}dT+{\frac {1}{T}}\left[\left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}+p\right]dV}
である。エントロピーは状態量であるから、
∂
∂
V
(
1
T
(
∂
U
∂
T
)
V
)
=
∂
∂
T
(
1
T
[
(
∂
U
∂
V
)
T
+
p
]
)
{\displaystyle {\frac {\partial }{\partial V}}\left({\frac {1}{T}}\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}\right)={\frac {\partial }{\partial T}}\left({\frac {1}{T}}\left[\left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}+p\right]\right)}
すなわち、
(
∂
U
∂
V
)
T
=
T
(
∂
p
∂
T
)
V
−
p
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}=T\left({\frac {\partial p}{\partial T}}\right)_{V}-p}
を得る。
理想気体では、
p
=
n
R
T
V
{\displaystyle p={\frac {nRT}{V}}}
だから、
(
∂
p
∂
T
)
V
=
n
R
V
{\displaystyle \left({\frac {\partial p}{\partial T}}\right)_{V}={\frac {nR}{V}}}
である。熱力学的状態方程式より、
(
∂
U
∂
V
)
T
=
0
{\displaystyle \left({\frac {\partial U}{\partial V}}\right)_{T}=0}
を得る。すなわち、理想気体の内部エネルギーは体積に依存せず、温度のみに依存する。
エネルギー等分配則によれば、温度
T
{\displaystyle T}
の熱平衡状態にある系のエネルギーの期待値は、系の自由度の
1
2
k
T
{\displaystyle {\frac {1}{2}}kT}
倍である。ここで、
k
{\displaystyle k}
はボルツマン定数で気体定数と
k
=
R
N
A
{\displaystyle k={\frac {R}{N_{A}}}}
の関係がある。
N
{\displaystyle N}
個の単原子分子の理想気体の自由度は、
3
N
{\displaystyle 3N}
であるから、
U
=
3
N
×
1
2
k
T
=
3
2
n
R
T
{\displaystyle U=3N\times {\frac {1}{2}}kT={\frac {3}{2}}nRT}
となる。二原子分子理想気体の場合は、分子の回転の自由度が加わるから、
U
=
5
N
×
1
2
k
T
=
5
2
n
R
T
{\displaystyle U=5N\times {\frac {1}{2}}kT={\frac {5}{2}}nRT}
となる。
定積モル比熱
C
V
{\displaystyle C_{V}}
は
C
V
=
1
n
(
∂
Q
∂
T
)
V
{\displaystyle C_{V}={\frac {1}{n}}\left({\frac {\partial Q}{\partial T}}\right)_{V}}
で定義される。定積過程では、
d
V
=
0
{\displaystyle dV=0}
より、
d
U
=
d
Q
{\displaystyle dU=dQ}
となるから、
C
V
=
1
n
(
∂
Q
∂
T
)
V
=
1
n
(
∂
U
∂
T
)
V
{\displaystyle C_{V}={\frac {1}{n}}\left({\frac {\partial Q}{\partial T}}\right)_{V}={\frac {1}{n}}\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}}
を得る。
C
V
{\displaystyle C_{V}}
が一定ならば、この式を積分することができて、
U
=
n
C
V
T
{\displaystyle U=nC_{V}T}
を得る。
定圧モル比熱
C
p
{\displaystyle C_{p}}
は
C
p
=
1
n
(
∂
Q
∂
T
)
p
{\displaystyle C_{p}={\frac {1}{n}}\left({\frac {\partial Q}{\partial T}}\right)_{p}}
で定義される。
熱力学第一法則
d
U
+
p
d
V
=
d
Q
{\displaystyle dU+pdV=dQ}
に、
d
U
=
n
C
V
d
T
{\displaystyle dU=nC_{V}dT}
[ 2] を代入すると、
n
C
V
d
T
+
p
d
V
=
d
Q
{\displaystyle nC_{V}dT+pdV=dQ}
となる。これに理想気体の状態方程式の微分
p
d
V
+
V
d
p
=
n
R
d
T
{\displaystyle pdV+Vdp=nRdT}
を代入すると、
(
n
C
V
+
n
R
)
d
T
−
V
d
p
=
d
Q
{\displaystyle (nC_{V}+nR)dT-Vdp=dQ}
を得る。定圧過程では
d
p
=
0
{\displaystyle dp=0}
だから、
C
p
=
1
n
(
∂
Q
∂
T
)
p
=
C
V
+
R
{\displaystyle C_{p}={\frac {1}{n}}\left({\frac {\partial Q}{\partial T}}\right)_{p}=C_{V}+R}
を得る。
気体のする仕事
d
W
{\displaystyle dW}
は、体積の微小変化
d
V
{\displaystyle dV}
を用いれば、
d
W
=
p
d
V
{\displaystyle dW=pdV}
と表せる。
体積をV1 からV2 まで変化させた時の仕事は、積分を用いて以下のように書き表せる。
W
=
∫
V
1
V
2
p
d
V
{\displaystyle W=\int _{V_{1}}^{V_{2}}pdV}
状態方程式より、
p
=
n
R
T
V
{\displaystyle p={\frac {nRT}{V}}}
である。これより、仕事は、
W
=
∫
V
1
V
2
p
d
V
=
n
R
T
∫
V
1
V
2
d
V
V
=
n
R
T
log
V
2
V
1
{\displaystyle W=\int _{V_{1}}^{V_{2}}pdV=nRT\int _{V_{1}}^{V_{2}}{\frac {dV}{V}}=nRT\log {\frac {V_{2}}{V_{1}}}}
となる。
等温変化では
Q
=
W
=
n
R
T
log
V
2
V
1
{\displaystyle Q=W=nRT\log {\frac {V_{2}}{V_{1}}}}
である。
理想気体の断熱変化を考える。熱力学第一法則は
d
U
+
p
d
V
=
0
{\displaystyle dU+pdV=0}
で
n
C
V
d
T
+
n
R
T
V
d
V
=
0
{\displaystyle nC_{V}dT+{\frac {nRT}{V}}dV=0}
あるいは、
C
V
T
d
T
+
R
V
d
V
=
0
{\displaystyle {\frac {C_{V}}{T}}dT+{\frac {R}{V}}dV=0}
となる。この式を積分すると、
C
V
ln
T
+
R
ln
V
=
c
o
n
s
t
.
{\displaystyle C_{V}\ln T+R\ln V=\mathrm {const.} }
すなわち、
T
C
V
R
V
=
c
o
n
s
t
.
{\displaystyle T^{\frac {C_{V}}{R}}V=\mathrm {const.} }
を得る。ここで、
c
=
C
V
R
{\displaystyle c={\frac {C_{V}}{R}}}
と定義すれば、これは比熱比
γ
=
C
p
C
V
=
C
V
+
R
C
V
{\displaystyle \gamma ={\frac {C_{p}}{C_{V}}}={\frac {C_{V}+R}{C_{V}}}}
と
γ
=
1
+
1
c
{\displaystyle \gamma =1+{\frac {1}{c}}}
の関係がある。
理想気体の状態方程式より、
T
∝
p
V
{\displaystyle T\propto pV}
であるから、
T
c
V
∝
p
c
V
1
+
c
=
c
o
n
s
t
.
{\displaystyle T^{c}V\propto p^{c}V^{1+c}=\mathrm {const.} }
あるいは、
p
V
1
+
1
c
=
p
V
γ
=
c
o
n
s
t
.
{\displaystyle pV^{1+{\frac {1}{c}}}=pV^{\gamma }=\mathrm {const.} }
を得る。
一様な物質中に一定ではない温度分布があるときの、温度分布の時間変化を考察しよう。
E
(
x
,
t
)
{\displaystyle E({\boldsymbol {x}},t)}
を
(
x
,
t
)
{\displaystyle ({\boldsymbol {x}},t)}
におけるエネルギー密度とする。
T
(
x
,
t
)
{\displaystyle T({\boldsymbol {x}},t)}
は温度である。
C
V
{\displaystyle C_{V}}
を物質の単位体積あたりの熱容量とする。
C
V
{\displaystyle C_{V}}
は比熱と密度の積に等しい。
v
(
x
,
t
)
{\displaystyle {\boldsymbol {v}}({\boldsymbol {x}},t)}
を熱の流れのベクトルとする。
このとき、
V
{\displaystyle V}
を物体中のある領域、
S
{\displaystyle S}
をその境界とすれば、
∫
V
∂
E
∂
t
d
V
=
−
∮
S
v
⋅
d
S
{\displaystyle \int _{V}{\frac {\partial E}{\partial t}}dV=-\oint _{S}{\boldsymbol {v}}\cdot dS}
が成り立つ。
ガウスの定理より、
∮
S
v
⋅
d
S
=
∫
V
∇
⋅
v
d
V
{\displaystyle \oint _{S}{\boldsymbol {v}}\cdot dS=\int _{V}\nabla \cdot {\boldsymbol {v}}\,dV}
となるから、
∫
V
∂
E
∂
t
d
V
=
−
∫
V
∇
⋅
v
d
V
{\displaystyle \int _{V}{\frac {\partial E}{\partial t}}dV=-\int _{V}\nabla \cdot {\boldsymbol {v}}\,dV}
となる。
また、
∫
V
∂
E
∂
t
d
V
=
∫
V
C
V
∂
T
∂
t
d
V
{\displaystyle \int _{V}{\frac {\partial E}{\partial t}}dV=\int _{V}C_{V}{\frac {\partial T}{\partial t}}dV}
となるから、
C
V
∂
T
∂
t
+
∇
⋅
v
=
0
{\displaystyle C_{V}{\frac {\partial T}{\partial t}}+\nabla \cdot {\boldsymbol {v}}=0}
を得る。
次に、フーリエの法則によれば
v
=
−
λ
∇
T
{\displaystyle {\boldsymbol {v}}=-\lambda \nabla T}
が成り立つ。クラウジウスの原理によれば、低温の部分から、高温の部分に自然に熱が伝わることはないから、
λ
>
0
{\displaystyle \lambda >0}
である。
λ
{\displaystyle \lambda }
は熱伝導率という。
これを代入すると、熱伝導方程式
C
V
∂
T
∂
t
−
λ
△
T
=
0
{\displaystyle C_{V}{\frac {\partial T}{\partial t}}-\lambda \triangle T=0}
を得る。熱拡散係数を
α
=
λ
C
V
{\displaystyle \alpha ={\sqrt {\frac {\lambda }{C_{V}}}}}
と定義すれば、熱伝導方程式は、
∂
T
∂
t
=
α
△
T
{\displaystyle {\frac {\partial T}{\partial t}}=\alpha \triangle T}
となる。
エンリコ・フェルミ著、加藤正昭訳『フェルミ熱力学』三省堂、1973年。
^ オストヴァルトの原理は「第二種永久機関は実現不可能である。」という原理である。ケルヴィンの原理は「一様な温度を持つ一つの熱源から正の熱を取り出し、これをすべて仕事に変換するだけで、他には何の変化も起こさないような過程は、実現不可能である」という原理である。ケルヴィンの原理はトムソンの原理と呼ばれることもある。これは、William Thomson に与えられた称号 Lord Kelvin(ケルヴィン卿)に由来する。
^ 理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存するから、微分の独立変数を記入する必要はない。