「初等整数論/多項式」の版間の差分

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Angol Mois (トーク | 投稿記録)
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さて、式は次の2つに分けることができる。
 
* どんな値を変数 <math>x, y, z, \cdots</math> に代入しても <math>=</math> で結ばれた左右の値が常に等しくなる式
* ある値について <math>=</math> で結ばれた左右の値が等しくならないことがある式
 
どの式もこの2つに分けられることが分かるだろう。前者を「(<math>x, y, z \cdots</math>に関する)恒等式」、後者を「方程式」という。恒等式の変数が明らかな場合は略される
 
'''例'''
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よって定理は証明される。
 
== 剰余について除法の原理 ==
さて、整数の整除についての根幹を成す定理は[[初等整数論/整除性#除法の原理|定理 1.2]] であるが、幸いにも多項式にも同様の定理が成り立つことが言える。
 
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'''証明'''<br />
多項式の次数を <math>|A|</math> と表すこととする。(普通は <math>deg A</math> と書くがここでは省略のためこう書くことにする)
 
<math>|A| < |B|</math> のとき、
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(i) (ii) より数学的帰納法から証明される。
 
 
次は除法が一意であることを証明する。仮にある多項式 <math>A</math> が <math>B</math> で割ったときに、二通りに書けたとする。
 
<math>\begin{align}
A & = BQ + R \ \ & (|R| < |B|) \\
A & = BQ' + R' \ \ & (|R'| < |B|) \\
\end{align}</math>
 
すると <math>B(Q - Q') + (R - R') = 0 \iff B(Q - Q') = R' - R</math> となる。すなわち <math>R' - R</math> は <math>B</math> を因数に持つことになる。しかし仮定より <math>|R| - |R'| < |B|</math> なので、<math>B</math> に 0以外の0次以上の多項式をかけても次数が <math>B</math> より小さくなることはない。したがって <math>Q - Q' = 0</math> とならざるをえない。これによって <math>R' - R = 0</math> が導かれ、結局 <math>Q = Q', \, R = R'</math> となり、ただ一通りにしか書けないことが証明される。
 
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さて、長くなってしまったが、これで我々の必要としていた定理が導かれた。
 
=== 剰余の定理 ===
<math>P(x)</math> を <math>(x - a)</math> という多項式で割ったときの式を、定理 1.2 に従って
 
<math>P(x) = (x-a)Q(x) + b</math> とする。余りが0次なのは、1次式で割っているからである。
 
ここで、<math>P(a) = (a - a)Q(x) + b = b</math> となる。つまり、余りの値が分かるのである。これより、次の定理が従う。
 
 
'''定理'''
 
<math>P(x)</math> を <math>(x - a)</math> で割ったときの余りは <math>P(a)</math>
 
 
特に <math>P(a) = 0</math> のとき、<math>P(x) = (x - a)Q(x)</math> と書ける。つまり、'''<math>P(x)</math> は <math>(x-a)</math> を因数に持つ'''。この定理は剰余の定理の特別な場合だが、重要であるため「因数定理」という名前が付いている。
 
== 係数比較 ==
多項式に関する定理で重要な定理に次のものがある。
 
'''定理'''
 
多項式 <math>A(x) = a_nx^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_1x + a_0</math> について、
 
<math>A(x) = 0</math> が恒等式 <math>\iff a_n = 0 \wedge a_{n-1} = 0 \wedge \cdots \wedge a_1 = 0 \wedge a_0 = 0.</math>
 
'''証明'''<br />
<math>\Leftarrow</math> は自明だろう。<math>\Rightarrow</math> を <math>n</math> に関する数学的帰納法で証明する。
 
<math>A(x) = a_nx^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_1x + a_0</math> とする。このとき <math>A(x) = 0</math> は恒等式だから異なる <math>n+1</math> 個の値 <math>x_0, x_1, \cdots , x_n</math> を代入しても <math>A(x_0) = \cdots = A(x_n) = 0.</math>
 
因数定理より、<math>A(x) = (x - x_0)Q(x)</math> と書ける。このとき、<math>Q(x)</math> の最高次の係数は <math>a_n</math> であることは簡単に分かる。また、<math>A(x_1) = (x_1 - x_0)Q(x_1) = 0</math> なのだが、<math>x_1 - x_0 \neq 0</math> より <math>Q(x_1) = 0.</math> 再び因数定理より、
 
<math>Q(x) = (x - x_1)Q'(x)</math> と書ける。このときの <math>Q'</math> の最高次の係数も <math>a_n</math> であることが簡単に分かる。これを代入して <math>A(x) = (x-x_0)(x-x_1)Q'(x).</math> これを繰り返せば
 
<math>A(x) = a_n(x-x_0)(x-x_1) \cdots (x-x_{n-1}).</math>
 
<math>A(x_n) = a_n(x_n-x_0)(x_n-x_1) \cdots (x_n-x_{n-1}) = 0</math> だが、<math>x_n-x_0 \neq 0, x_n-x_1 \neq 0 \cdots x_n - x_{n-1} \neq 0</math> より
 
<math>a_n = 0</math> となる。したがって <math>A(x) = a_{n-1}x^{n-1} + a_{n-2}x^{n-2} + \cdots + a_1x + a_0</math> となる。つまり、<math>n-1</math> 次式でこの定理が正しければ <math>n</math> 次式でも正しい。数学的帰納法である。
 
さて、0次式の場合は自明である。1次式の場合は、<math>A(x) = ax + b</math> に <math>\alpha \neq \beta</math> の2つを代入して
 
<math>a\alpha + b = 0, \ a\beta + b = 0</math> したがって <math>a(\alpha - \beta) = 0.</math>
 
ところで <math>\alpha - \beta \neq 0</math> より <math>a = 0</math> よって <math>b = 0.</math>
 
以上より数学的帰納法によって証明される。
 
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