「高等学校政治経済/政治/保守と革新、右翼と左翼」の版間の差分

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妊娠中絶はキリスト教の問題であり、日本での左右とは、別問題。
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== 「左翼」と「右翼」 ==
日本語では、自国や自民族が持っている元来の文化、伝統、風習、思想等を重視した政治思想とその支持者のことを'''右翼'''(うよく)とよぶ。一方、現在の政治・経済のあり方に批判的で、特に国王・貴族・特権層による専制政治や資本主義のあり方に対して変革を求める政治思想とその支持者を'''左翼'''(さよく)とよぶ。
 
語源は、一般的な説では、フランス革命のときの国民議会の用語らしく、議会の陣営についての用語である。フランス革命のときの議会で、王党派・貴族派といった伝統勢力の議席が、議長から見た方向で議事堂の右側に多く、いっぽう、革新派の議席が議事堂の左側に多かったのが、由来である。(※ 高校「政治経済」は世界史の教科ではないので、高校生はまだ「右翼」「左翼」の由来に深入りしなくて良い。)
なお、英語でも、右翼思想のことを「right」(ライト)という。みぎ方向をあらわす英単語 right と同じスペルである。左翼思想のことは「left」(レフト)という。ひだり方向をあらわす英単語 left と同じスペルである。
 
なお、英語でも、右翼思想のことを「right」(ライト)または right wing という。みぎ方向をあらわす英単語 right と同じスペルである。左翼思想のことは「left」(レフト)または left wing という。ひだり方向をあらわす英単語 left と同じスペルである。
 
政治学や政策の議論で「右寄り」(みぎより)・「左寄り」(ひだりより)とか言ったら、それぞれ、「右寄り」なら右翼寄りの思想のことであり、「左寄り」なら左翼寄りの思想のことである。
あるい政治学などで「左右」(さゆう)とか言ったら、右翼と左翼の両方をまとめて言及してるのである。
 
=== 大まかな右翼・左翼の理念・政策の違い ===
{| class="wikitable" style="text-align:center;"
|-
|+ おもに近現代の日本における右翼と左翼
!左翼!!理念・政策!!右翼
|-
!左翼 !! 理念・政策 !! 右翼
|インターナショナリズム||世界観||ナショナリズム
|-
|多民族と日本民族は平等 || 民族 || 日本民族(和人)を優先
|権利を優先||権利と義務||義務を優先
|-
|否定的 || 軍事力の強化 || 肯定的
|個人を尊重する||個人と社会の関係||国家や共同体を尊重する
|-
|権利を優先 || 権利と義務 || 義務を優先
|国家に対して批判的・懐疑的||国家に対する態度||国家への忠誠を優先
|-
|個人を尊重する || 個人と社会の関係 || 国家や共同体を尊重する
|否定的。<br />権限に制限を加えるか廃止をめざす。||国王・皇帝・天皇||肯定的。<br />場合によっては王の直接政治(親政)を望む。
|-
|多様性や変化を認める || 家族や郷土に対して || 旧来のものを尊重する
|検討||伝統に対して||保持
|-
|ソビエトの陣営に協力的<br />日米安保に反対<br />アメリカに懐疑的 || 冷戦中の外交方針 || アメリカの陣営に協力的<br />日米安保を強化<br />ソビエトに懐疑的
|否定的||軍事力の強化||肯定的
|-
|国家に対して批判的・懐疑的 || 国家に対する態度 || 国家への忠誠を優先
|多様性や変化を認める||家族や郷土に対して||旧来のものを尊重する
|-
|否定的。<br />権限に制限を加えるか廃止をめざす。|| 天皇・国王・皇帝 || 肯定的。<br />場合によっては王の直接政治(親政)を望む。
|植民地争奪の[[w:帝国主義|帝国主義]]戦争||太平洋戦争について(日本)||防衛戦争またはアジアの解放戦争
|-
|検討 || 古来からの封建的な伝統に対して || なるべく保持
|護憲(穏健)<br />天皇制の廃止などのために改憲(急進)||日本国憲法に対して(日本)||改憲
|-
|植民地争奪の[[w:帝国主義|帝国主義]]戦争 || 太平洋戦争について(日本) || 防衛戦争またはアジアの解放戦争
|-
|第9条の戦力不保持を維持(護憲、穏健)<br />天皇制の廃止などのために改憲(急進) || 日本国憲法の改憲に対して(日本) || 第9条を改憲して戦力保持を明記
|-
|自己決定権の一つとして全面肯定||妊娠中絶について(米国)||認めない
|}
 
以上の表では、おもに現代の日本における、右翼と左翼の違いをあらわした。このように、「右翼」「左翼」の分類には色々な要素が絡むので、組み合わせのパターンは複雑である。しかも、各国ごとに「右翼」の経済政策と「左翼」の経済政策が違うし、同じ国であっても時代ごとに「右翼」の経済政策と「左翼」の経済政策とは違う。そのため、きれいに「右翼」「左翼」と分けられないことも珍しくない
 
また、戦前(第二次世界大戦前)の過去の時代においては、この右翼と左翼の分類が当てはまらない場合も多い。上記の表は、あくまでも、戦後の20世紀広範から21世紀初頭のころの政治の左右の考え方の分類である。
#日本の戦時中の政治体制は治安維持法による言論の抑圧などから、ふつう軍国主義(「右翼」)とされる。しかし、経済政策はソ連の五か年計画の影響を強く受けていた(参考:[[w:革新官僚]])。
 
#環境政策。例えば、ドイツの[[w:同盟90/緑の党|緑の党]]は、結成時には右翼的な環境保護グループが中心となっていたが、のちに学生運動出身の左派グループが合流して成立した(ただし、後に右翼的なグループは党を離脱する)。
 
:・ 第二次世界大戦前の過去の時代においては、右翼が政府の欧米強調と路線に反対して、右翼が中華民国や東南アジアの革命家などとの連帯を唱えて、ともに欧米と戦おうという「アジア主義」を唱えていた時代すらもある。これは、現代の中国韓国との対応とは状況が違う。
:伝統に関しては、明治維新の前後の時代には、富国強兵を唱える政治家たちこそが、江戸時代の伝統を、近代化には邪魔な不合理なものだとして、江戸時代の伝統を廃止しようとしていた時代すらもある。
 
平成日本の今でこそ、軍事力の強化と伝統の保存は、ともに右翼的であるとされているが、明治時代の日本では違ったのである。
 
このように、同じ国であっても時代ごとに「右翼」の政策と「左翼」の政策とは違う。そのため、政策にもとづいては、あまり、きれいに「右翼」「左翼」と分けられないことも珍しくない。
 
:※ しかし、学問的には正確ではないだろうが、明治時代〜大正の政治についての世間一般の評論での「右翼」「左翼」は、たいていの場合、自由民権運動で有名な板垣退助の政党やその流れを組む政党を「左翼」とみなし、それに対立したとされる政党(伊藤博文などの政党)を右翼的であると見なす場合が多い。
 
また、外国も含めると、各国ごとに「右翼」の政策と「左翼」の政策が日本とは違う場合もある。
 
:冷戦中のソビエト連邦では、軍事力の強化こそが、世界の社会主義革命に必要だとされていた。(ソ連は共産党の一党独裁なので、ソ連内でソビエト共産党が左右のどちらなのかは、考えないとする。)一方、冷戦当事の日本では、軍事力をあまり保持しない事こそが平和主義であり左翼思想であるとされ、そのような平和主義は、平等を唱える社会主義との組み合わせが良いとされた。
 
:また、日本の戦後(第二次大戦後)の右翼はアメリカと協調的であるが、しかしアメリカ文化を日本に取り入れることで、そのぶん、日本の旧来の文化や伝統を、日本人が目にする機会も少なくなっただろう。また、第二次大戦中を思い起こせば、アメリカは「鬼畜米英」などと言われ、当事の日本で右翼とされる政治運動から見れば、アメリカが敵だった時代もある。
 
その他、日本の戦時中の政治体制は治安維持法による言論の抑圧などから、ふつう軍国主義(「右翼」)とされる。しかし、経済政策はソ連の五か年計画の影響を強く受けていた(参考:[[w:革新官僚]])。
 
その他、近年のヨーロッパの環境政策では、例えば、ドイツの[[w:同盟90/緑の党|緑の党]]は、結成時には右翼的な環境保護グループが中心となっていたが、のちに学生運動出身の左派グループが合流して成立した(ただし、後に右翼的なグループは党を離脱する)。
 
このように、右翼と左翼が必ずしも対立するわけではなく、場合によってはお互いに協力することさえある。特に右翼と左翼とで考え方が対立することが多いのは、軍事力や民族についてである。
 
===軍事力に対する考え方===
=== 軍事力に対する考え方 ===
====右翼====
==== 右翼 ====
右翼の場合、現代の政治では(日本だけではなく多くの外国でも)、もし(外国からの侵略などに対抗する防衛戦争などで)軍事力が必要とあらば軍事力の行使も躊躇(ちゅうちょ)しない、というような思想を持つことが多い。もしくは、自国に軍事力があることで、自国への侵略戦争を回避できるので、自国の軍事力を肯定的に扱おう、という立場である。
右翼の場合、21世紀の現代の政治では(日本だけではなく多くの外国でも)、もし(外国からの侵略などに対抗する防衛戦争などで)軍事力が必要とあらば軍事力の行使も躊躇(ちゅうちょ)しない、というような思想を持つことが多い。もしくは、自国に軍事力があることで、自国への侵略戦争を回避できるので、自国の軍事力を肯定的に扱おう、という立場である。
 
どちらにせよ、「右翼」とは、他の思想よりも、自国の戦争への参加を想定している。
 
==== 左翼 ====
左翼は、21世紀の現代の日本の政治や国際政治では、なるべく平和的に話し合うことで解決しよう、という立場である。そして、軍事力を最小限とする(または撤廃する)ことでこちらから攻め込まないことをアピールする一方、軍事力以外の力や手段で交渉を有利に進めようとする。そして、「軍事力に頼らない安全保障政策こそが、戦争を回避するのだ」という立場である。
 
つまり、右翼と左翼は、安全保障に関しての政策が、反対どうしの立場である。
 
ただし、以上の説明は、あくまで21世紀の現在の日本での「左翼」の傾向である。
===民族観===
====右翼====
右翼の場合、自国の民族の伝統や歴史を重視し、それらを守っていこうという立場である。そして、個人は民族的な文化と伝統によって育まれ、価値観や人生観も民族の独自のものが作られていることを重視する考え方をもつ。そのため、一人一人の個性よりも、民族や国民が持つ大まかな特徴を重視する。
 
20世紀以前では、左翼の外交方針は、必ずしも戦争回避ではない。フランス革命などを考えれば、革命派である左翼こそが、周辺の王権主義の国家との戦争を躊躇(ちゅうちょ)しなかったような時代もあるだろう。
こうした民族観は民族自決・植民地からの独立運動をうながしていった一方、自民族が他民族に対して<ruby>優越<rt>ゆうえつ</rt></ruby>すると考える極端な思想も作り出した。
====左翼====
左翼の場合、ナショナリズムが戦争につながっていったことに対する反省から、自国の民族を中心に考えるよりも互いに尊重しようという立場をとることが多い。また、民族もまた変化するものであり、個人ごとの差があることを重視するため、「Aという民族はBである」というような[[w:ステレオタイプ|ステレオタイプ]]な民族観には自民族のものも含めて否定的である。
 
また、冷戦中は、社会主義が左翼とされたが、しかし外国の、いくつかの国で、社会主義を実現するためには武力的な革命すらも躊躇しない(キューバなどの社会主義国の革命)という考えや運動もあった。
===妊娠中絶(米国)===
アメリカの場合では妊娠中絶の是非が右翼と左翼の対立につながることが珍しくない。アメリカの右翼は厳格なキリスト教を思想の基盤にしていることが多い。「産めよ増やせよ」「汝姦淫することなかれ」などの、聖書の教えを忠実に守る立場からは、妊娠中絶はいかなる場合でも「神の教えに反する」「性の乱れにつながる」として反対する。
 
また、その社会主義国のソ連は、同じく社会主義国の中華人民共和国と国境紛争などの戦争をしていた時代もある(1969年の中ソ国境紛争)。
一方、アメリカの左翼(リベラル派とも言われる)は、妊娠中絶は自己決定権のひとつとして全面的に肯定する傾向がある。そして、右翼の主張に対しては「女性の権利を軽視している」として批判する一方、性教育などを進めることで「性の乱れにつながる」という意見に対抗しようとする。
 
 
=== 民族観 ===
==== 右翼 ====
「右翼」の場合、自国の民族の伝統や歴史を重視し、それらを守っていこうというのが、現代の立場である。そして、個人は民族的な文化と伝統によって育まれ、価値観や人生観も民族の独自のものが作られていることを重視する考え方をもつ。そのため、一人一人の個性よりも、民族や国民が持つ大まかな特徴を重視する。
 
こうした民族観は民族自決・植民地からの独立運動をうながしていった一方、自民族が他民族に対して<ruby>優越<rt>ゆうえつ</rt></ruby>すると考える極端な思想も作り出した。
 
==== 左翼 ====
「左翼」の場合、現代では、ナショナリズムが戦争につながっていったことに対する反省から、自国の民族を中心に考えるよりも互いに尊重しようという立場をとることが、多い。また、民族もまた変化するものであり、個人ごとの差があることを重視するため、「Aという民族はBである」というような[[w:ステレオタイプ|ステレオタイプ]]な民族観には自民族のものも含めて否定的である。
 
== 「保守」と「革新」 ==
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{| class="wikitable" style="text-align:center;"
|-
|+ 20世紀後半の日本における保守と革新
!革新!!理念・政策!!保守
|-
! 革新 !! 理念・政策 !! 保守
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|社会主義または社会民主主義 || 政治理念 || [[w:保守主義|保守主義]]・宗教・自由主義(特に欧州)
|-
|所得の再分配を重視。<br />企業の経済活動への制限に積極的。<br />大きな政府を志向する。||経済政策||自由経済を推進。<br />企業の経済活動への制限に消極的。<br />小さな政府を志向する。
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|労働者・都市生活者・移民 || 主な支持層 || 農民(特に日本)・資産家・中間層
|-
|労働組合・市民団体 || 主な支持基盤 || 医師会などの業界団体・財界・宗教界
|-
|社会民主党(日本社会党)(日)<br />日本共産党(日)<br />労働党(英)<br />社会民主党(独)|| 政党 || 自由民主党(日)<br />保守党(英)<br />キリスト教民主同盟(独)<br />共和党(米)
|}
 
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また、ソビエト連邦が社会主義を政策に掲げたこともあり、「左翼」「革新」的な政策として、経済政策による低所得者への保護や、積極的な福祉施策などが「左翼」的な政策とされた。(じっさいには、アメリカ陣営の国でも、スウェーデンのように資本主義であるが福祉政策に積極的な国もあり、そんなに「左右」の分類は単純ではない。だが、戦後の日本では、福祉政策が「左翼」「革新」として扱われた。)
 
例外として、民間の評論家などの中には、少数勢力だが「憲法改正による自衛隊の追認には賛成だが、アメリカ追従の政治体制には反対」とかの例外の勢力もいたが(例えば三島由紀夫(みしま ゆきお)など)、しかし、20世紀後半の歴史では、そのような反米かつ自衛隊賛成の勢力は少数勢力だった。
 
 
一方、これら「右翼」「左翼」の用語とは別に、ある1つの政党が2つの派閥に内部分裂したとき、マスコミなどが便宜上、どちらかの派閥を「右派」(うは)と呼んで、もう一方を「左派」(さは)と呼ぶ場合もある。
第二次大戦後、日本の社会党内で政策をめぐって、社会党内で2大勢力に分裂するときが何度かあったが、このような場合に片方の勢力がマスコミなどによって「社会党右派」と呼ばれ、もう片方が「社会党左派」といわれた。
この場合、必ずしも、社会党右派の政策は右翼に対応しない。同様に、社会党左派の政策は、必ずしも左翼に対応しない。
 
さて、近年では、ほとんどの政党は、明確には右翼・保守、左翼・革新政策を打ち出さず、「中道」(ちゅうどう)を掲げる。
 
== 中道 ==
保守でも革新でもないことを政治理念とした政策を掲げる場合、中道(ちゅうどう)といわれる。あるいは、右翼でも左翼でもないことを政治理念とした政策のことも、中道といってもいい。
 
しかし、どちらかといえば右翼寄りな実態の場合、「中道右派」(ちゅうどう うは) という。一方、左翼寄りな実態の場合、「中道左派」(ちゅうどう さは)という。
 
「中道」は、建前(たてまえ)では、他党の右翼・左翼の極端な政策に対しては、現実に応じた緩やかな政策を示すとされる。または他党の保守・革新に対しては、資本主義体制を維持しつつも、格差の是正にも配慮するというような態度を取るとされる。そのため、保守・革新両方の支持層からも一定程度支持されることも多いとされる。
実際には明確に右翼・保守、左翼・革新政策を打ち出す政党は少ないため、ほとんどの政党は「中道右派」「中道左派」とされることが多い。
 
このように、ある政党が「中道」であれば支持層が広いため、「中道」が選挙に有利な場合もあると考えられているので、ある政党の実態が右翼政党または左翼政党であるにもかかわらず、選挙での支持をねらって形式的に「中道」の理念をかかげる政党が出現する可能性もある。
===中道===
さらに、保守でも革新でもないことを政治理念とした政策を掲げる場合、中道といわれる。右翼・左翼の極端な政策に対しては現実に応じた緩やかな政策を示す。または保守・革新に対しては、資本主義体制を維持しつつも、格差の是正にも配慮するという態度を取る。そのため、保守・革新両方の支持層からも一定程度支持されることも多い。また、特定の支持団体による固定票よりも、無党派層といわれる、普段は支持政党を持たない人々の動きに左右されやすい。
 
しかし、「中道」は、建前どおりなら、特定の支持団体による固定票を持たないため、普段は支持政党を持たない人々(無党派層といわれる)の動きに左右されやすいという、選挙に不利な点もある。
中道の政党としては、民進党(旧・民主党(日))・公明党(日)・民主党(米)・自由民主党(独・英)などがある。