「初等整数論/多項式」の版間の差分

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今から一般に変数が1つの多項式を扱う。多項式は <math>P(x)</math> で表す。何が変数なのか明らかな場合は <math>P</math> と省略して書く。
 
2つの多項式が恒等多項か方程式か明示として等しいとは、その係数がすべて一致するのは面倒なことをいう。値が等しい場合と紛らわしいので、<math>P(x) \equiv Q(x)</math> という記号をもって、これ両者恒等多項であるとして等しいことを表すことにする。また <math>P \not\equiv Q</math> はそうでないある <math>a</math> つまり一致しない係数が存在して <math>P(a) \neq Q(a)</math> となることを意味するいう
つまり <math>P(x) \equiv Q(x)</math> とは <math>P(x)-Q(x)</math> の係数がすべて 0 であることを意味し、<math>P \not\equiv Q</math> は <math>P(x)-Q(x)</math> が 0 ではない多項式であることを意味する。
 
さて、整数と同様の公理を満たすことを確認しなければならない。
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その前にいくつか他の定理を準備する。
 
0 ではない多項式の次数、すなわち <math>a_n\neq 0</math> となる最大の <math>n</math> を <math>|A|</math> と表すこととする。(普通は <math>\deg A</math> と書くがここでは省略のためこう書くことにする)
 
'''定理 i''' <math>|A| > |B|</math> のとき、<math>|A+B| = |A|.</math>
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'''定理 ii''' <math>A(x) \neqnot\equiv 0, \ B(x) \neqnot\equiv 0</math> ならば、<math>|AB| = |A| + |B|.</math> 特に <math>A(x)B(x)\not\equiv 0.</math>
 
<math>B = b_mx^m + b_{m-1}x^{m-1} + \cdots + b_1x + b_0 \ \ (b_m \neq 0)</math> とする。
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さていよいよ次の定理を証明する。
 
'''定理 iii''' <math>A(x)C(x) \equiv B(x)C(x) \wedge C(x) \neqnot\equiv 0 \Rightarrow A(x) \equiv B(x).</math>
 
仮にある多項式において <math>A(x)C(x) \equiv B(x)C(x) \wedge</math> であるとき <math>C(x) (A(x)-B(x))\neqequiv 0</math> であるのに。ここで <math>A(x) \not\equiv B(x)</math> であったとすると、<math>C(x) \not\equiv 0</math> と仮定しているから定理 ii より <math>C(x)(A(x)-B(x)) \not\equiv 0</math> となり矛盾
 
このとき <math>A(a) \neq B(a)</math> となる数 <math>a</math> が存在する。ここで仮定より <math>A(a)C(a) = B(a)C(a)</math>
 
<math>\iff C(a)(A(a) - B(a)) = 0</math> となるが、<math>A(a) \neq B(a) \iff A(a) - B(a) \neq 0, \ C(a) \neq 0</math> より <math>C(a)(A(a) - B(a)) \neq 0</math> となり矛盾する。
 
よって定理は背理法によって証明される。
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多項式 <math>A(x) = a_nx^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_1x + a_0</math> について、
 
<math>A(x) = 0</math> が恒等式 <math>\iff A(x)\equiv 0\iff a_n = 0 \wedge a_{n-1} = 0 \wedge \cdots \wedge a_1 = 0 \wedge a_0 = 0.</math>
 
'''証明'''<br />
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====== 定理 5 ======
零点を持たない多項式 <math>A, B</math> について <math>gcm\gcd(A, B) = G, \, lcm\textrm{LCM}(A, B) = L</math> とすれば <math>AB \simeq GL.</math>
 
'''証明'''<br />
仮定より <math>L = A'B = AB'</math> とおける。<math>AB</math> は公倍多項式なので、定理 3 より <math>AB = DL \cdots (1)</math> とおける。
 
<math>A, B</math> は零点を持たないので、先ほどの式を代入して <math>AB = DA'B = DAB' \Rightarrow A = DA', \, B = DB'.</math> よって、<math>D</math> は <math>A, B</math> の公約多項式。定理 4 より <math>G = DE \cdots (2)</math> とおく。このときもちろん <math>E(x) \neq 0.</math>
 
<math>G \, | \, A, B \iff DE \, | \, DA', DB'</math> となる。ここで、(1) より <math>ADA'=DEA'', BDB'=DEB''</math> どちらにも零点がないので、<math>D</math>とおくと定理 は零点を持たない。したがって、<math>E \, | \, A', B'</math>iii より <math>A' = EA'', \ B' = EB''</math> とおきであるから最初の式に代入すると
 
<math>L = EA''B = EB''A</math> を得る。ここで <math>|E| > 0</math> とすれば、<math>A''B = B''A</math> が公倍多項式となり、<math>L</math> の最小性に反する。従って <math>E</math> は定数項となり、<math>E = e</math> とおけば (2) より <math>G = eD.</math> (1) より
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====== 定理 6 ======
<math>A, B</math> が互いに素で、零点を持たないとするとき、<math>A \, | \, BC \Rightarrow A \, | \, C</math>
 
'''証明'''<br />
2つの多項式は零点を持たなず、<math>gcm\gcd(A, B) = 1</math> なので定理 5 より <math>lcm(\textrm{LCM}[A, B)] = AB.</math>
 
仮定より <math>BC</math> は <math>A, B</math> の公倍多項式。定理 3 より <math>lcm(\textrm{LCM}[A, B)] \, | \, BC \iff AB \, | \, BC.</math>
よって定理 iii より <math>A \, | \, C.</math>
 
<math>B</math> は零点を持たないので <math>A \, | \, C.</math>
 
 
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注意 : 係数比較の定理は、有理数や実数上、あるいは代数体上では正しいが、有限体上ではかならずしも正しくない。すなわち有限体上では値がつねに 0 であるが、多項式として 0 ではないものが存在する。そのため、一般に多項式と、多項式の表す関数(多項式関数)は区別しなければならない。
さて、以上で整数の場合と同じような議論を進めることが出来たが、そこでは'''多項式が零点を持たないこと'''が重要な条件になっている。零点を持たない場合にも通用する方法を探ろうとすると解析的な手法を用いなければならず、初等整数論の域を超えてしまうのでここではそういった話をしない。
 
代数学の基本定理を前提とすれば簡単であるが、循環論法を極力避けるためにここではそれを仮定しなかった。
 
[[Category:初等整数論|たこうしき]]