「分子生物学」の版間の差分

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生物のDNAのかなりの部分をトランスポゾンが占めていて、例えばヒトゲノムでは45%がこの種の配列である。ただそれらは長い間に変異が蓄積したために、動く能力を失っているものが大半である。
 
==ウルス==
これらのトランスポゾンは、宿主とする細胞から離れる能力を本質的に欠いている。しかしはるか昔、おそらくある種のトランスポゾンが自分の核酸(つまりRNAかDNA)を外被に包み、細胞の外に出られるようになったのだと考えられている。これがすなわち'''[[w:ウルス|ウルス]]'''である。ウルスのゲノムはあまりに少なく、自らを複製して増殖するのに必要な酵素などを作ることができないので、細胞に感染し、その生合成装置を乗っ取って利用しなければならない。ウルスが細胞に感染すると、その複製装置を使ってゲノムを複製し、外被タンパクを合成し、細胞膜を破って宿主細胞を融解させつつ外部に出ていくことになる。
 
細菌に感染するウルスと真核生物に感染するウルスには類似点が多いが、'''[[w:レトロウイルス科|レトロウルス]]'''は真核細胞にしか見られない。それらはRNAのゲノムを持ち、多くの点でレトロトランスポゾンに似ている。両者において重要なのは、通常の流れ、つまりDNAをもとにしてRNAが合成される'''[[w:セントラルドグマ|セントラルドグマ]]'''が成立していないということである。これは、レトロウルスが持つ'''[[w:逆転写酵素|逆転写酵素]]'''の存在による。
 
レトロウルスが細胞に感染すると、いっしょに入った逆転写酵素が、RNAゲノムを元にして二本鎖DNAを合成する。ウルスゲノムが持つ'''[[w:インテグラーゼ|インテグラーゼ]]'''によって、それらの配列は宿主細胞のゲノムの任意の位置に組み込まれる。この状態では、ウルスは休眠状態にある。宿主細胞の分裂のたびに、そのゲノムに組み込まれたウルスのゲノムも複製され、娘細胞に伝えられる。やがて、宿主細胞のRNAポリメラーゼによって、組み込まれたウルスDNAが転写され、元のウルスゲノムとまったく同一の一本鎖RNAが大量に合成される。次に、これが宿主細胞の装置を使って翻訳され、ウルスの外殻タンパクや逆転写酵素などが作られ、これらがRNAゲノムと集合して、新しいウルス粒子を作るのである。
 
==転写:DNAからRNAへ==