「高等学校生物/生物I/遺伝情報とDNA」の版間の差分

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不完全優性など、現代カリキュラムでは後回しにされてコラム送りになってることを追記。
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<small> [[高等学校生物]] > 生物I > 遺伝 </small>
 
== 遺伝子の本体 ==
:※ 1990年代のかつて、DNAなどの話題は生物IIによくある話題だったが、現代では『生物基礎』に移動。なお、専門『生物』の教科書には下記のDNAの単元が書かれてないので、受験勉強の時には、まちがえてDNAの単元を飛ばさないように気をつけること。
 
=== DNAの構造 ===
[[File:DNAのヌクレオチド構造.svg|thumb|300px|DNAのヌクレオチド構造]]
[[File:DNAの並び方.png|thumb|DNAの並び方の説明図。アデニン(A)はチミン(T)と結びつく。グアニン(G)はシトシン(C)と結びつく。]]
[[画像:ADN animation.gif|thumb|right|DNAの立体構造]]
 
'''DNA'''(デオキシリボ核酸、英: deoxyribonucleic acid)の構造は、'''ヌクレオチド''' (nucleotide) と呼ばれる構成単位をもち、ヌクレオチドは'''リン酸'''と'''糖'''と'''塩基'''の化合物である。ヌクレオチドの糖は'''デオキシリボース'''(deoxyribose) である。DNAでは、ヌクレオチドがいくつも結合して、二重らせん構造をつくっている。
 
塩基には4種類あり、'''アデニン'''(adenin)、'''チミン'''(thymine)、'''シトシン'''(cytosine)、'''グアニン'''(guanine)という4種類の塩基である。ヌクレオチド一個に、4種の塩基のうち、どれか一個が、ふくまれる。
 
生殖細胞では、減数分裂で染色体が半分になることから、遺伝子の正体とは、どうやら染色体に含まれている物質であろう、という事がモーガンなどの1913年ごろのショウジョウバエの遺伝の研究によって、突き止められていた。
 
遺伝子に含まれる物質にはタンパク質や核酸(かくさん)など、さまざまな物質がある。どの物質こそが遺伝子の正体なのかを突き止める必要があった。核酸の発見は、1869年ごろ、スイスの生化学者ミーシャーによって、膿(うみ)から取り出した細胞の核に、リン酸をふくんだ物質があることが発見され、この物質はタンパク質とは異なることが調べられた。ミーシャ-の発見したのが核酸である。この当時では、まだ核酸が遺伝子の正体だとは気づかれていなかった。なお、膿は、白血球を多くふくむ。
 
1949年、オーストリアの[[w:エルヴィン・シャルガフ|エルヴィン・シャルガフ]]は、
いろいろな生物の持つDNAを抽出して調べ、どの生物でもアデニン(A)とチミン(T)とは量が等しく1:1であり、グアニン(G)とシトシン(C)とは量が等しく1:1であることを発見した。
 
:A:T = 1:1  、 G:C = 1:1
 
このことから、シャルガフは、アデニンはチミンと結合する性質があり、グアニンはシトシンと結合する性質があると考えた。
DNAの、このような、アデニン(A)とチミン(T)とが等量で結合する性質があること、グアニンとシトシンも等量で結合する性質があることを、まとめて、相補性(そうほせい)という。
 
1953年、アメリカの[[w:ジェームズ・ワトソン|ジェームズ・ワトソン]]とイギリスの[[w:フランシス・クリック|フランシス・クリック]]は、
シャルガフの塩基組成の研究や、イギリスの[[w:モーリス・ウィルキンス|モーリス・ウィルキンス]]のX線回折の研究をもとにして、研究を行った。そしてワトソンとクリックは、DNAが'''二重らせん構造'''であることを発見した。
これによると、2本のヌクレオチド鎖が、アデニンとチミン、グアニンとシトシンで対合し、柱状になり、それがらせん状にねじれている。
<gallery widths=200px heights=200px>
File:Adenin.png|アデニン(A)
File:Timina.svg|チミン(T)
File:Guanine chemical structure 2.png|グアニン(G)
File:Citosina-es.svg|シトシン(C)
</gallery>
 
{{-}}
[[File:DNA chemical structure.svg|thumb|400px|DNAにおける水素結合の例。]]
[[ファイル:Base pair GC.svg|thumb|left|水素結合。 DNAにおける2つの塩基対の内の1つであるグアニンとシトシン間の水素結合。]]
二重らせん上のアデニンAとチミンTなど、らせんで対になった塩基どうしの結合は、'''水素結合'''(すいそ けつごう)という、水素を仲立ちとした弱い結合をしている。塩基上の水素原子が、向かいあった塩基の窒素原子や酸素原子などと、弱く結合するのが、DNAの場合での水素結合である。
 
なお水素結合が見られるのは生物だけに限らず、一般の化学物質などでも多く見られる。たとえば水分子の安定性でも、水素結合が関わっている。
 
DNAの場合の水素結合では、アデニンはチミンの塩基対では、塩基上の2箇所で水素結合をする。シトシンとグアニンの塩基対では、塩基上の3箇所で水素結合をする。
 
 
二重らせんの幅は2.0nmで、らせん1回転(1ピッチ)の長さは3.4nm、らせん1回転中に10対のヌクレオチド対がある。
 
=== DNAの働き ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
[[Image:aspartame2.png|thumb|400px|ペプチド結合の例。いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基COOHと、もういっぽうのアミノ酸のアミノ基NH<sub>2</sub>が結合する。ペプチド結合のとき、COOHからOHが取り除かれ、NH<sub>2</sub>のHが取り除かれ、1分子の水 H<sub>2</sub>O ができる。]]
DNAの働きには、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることがある。
 
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。このため、DNAの塩基の並び方が異なると、遺伝情報も異なる。病気などの例外をのぞけば、ある生体で合成されたタンパク質、たとえば皮膚のタンパク質のコラーゲンや、骨のタンパク質や、筋肉のタンパク質のミオシンなど、どのタンパク質も、その生体のDNAの情報をもとに合成されたタンパク質である。
 
DNAは、細胞核の中で、RNA(アールエヌエー)というタンパク質合成用の塩基配列の物質をつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、
RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
 
 
タンパク質の構造は、アミノ酸がいくつも結合した構造である。したがって、タンパク質を構成するアミノ酸の順序などの配列や、アミノ酸の数などによって、タンパク質の性質が異なる。なお、アミノ酸どうしの化学結合をペプチド結合という。
 
:(※ タンパク質の合成の仕組みについて、くわしくは、単元『[[高等学校生物/生物基礎‐遺伝情報とタンパク質の合成]]』などの章で説明する。)
 
DNAは、受精卵の時から、細胞分裂の際は、必ず複製されている。
DNAは配偶子形成の際半分になり、配偶子が受精すると合わさって元に戻る。
こうしてDNAは遺伝情報を子孫に伝えている。
 
:(※ 生殖細胞とDNAの分配の仕組みについて、くわしくは、『[[高等学校生物 生物I‐遺伝情報の分配]]』などの章で説明する。)
 
=== DNA量の変化 ===
配偶子形成の際のDNA量の変化は、原細胞のときを2と置くと、一次母細胞のときは4であり、二次母細胞のときは2となり、卵細胞・精細胞のときは1になり、受精卵のときに2にもどる。
体細胞分裂の際のDNA量の変化は、母細胞のときを2と置くと、前期~終期のときが4であり、娘細胞の時に2にもどる。
 
=== DNAと生物の共通性・多様性 ===
DNAを設計図としタンパク質を作る仕組みは全ての生物で共通している。
しかし、塩基配列が少しずつ変化(ATCGが入れ替わったり、増えたり)して、
生物の多様性が生まれた。
 
=== ゲノム ===
ゲノム(genome)とはある生物の遺伝子の全体のことである。
2003年にヒトゲノムの解読が完了した。
これにより、ヒトの遺伝子の全体が明らかとなった。
現在では、ゲノム研究は、食品や医療などに応用されている。
 
 
=== (※ ほぼ範囲外:) 遺伝子の本体の研究 ===
:※ 2010年代の生物基礎・生物の教科書では、形質転換やファージなどの話題が、あまり見当たらない。
:※ 数研出版や第一学習社など、いくつかの教科書にあるが、コラム送りになっている。
 
1869年、スイスの[[w:フリードリッヒ・ミーシェル|フリードリッヒ・ミーシェル]]は、
細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。
当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、
今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
 
* グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
 
グリフィスの実験結果は次の通り。
:生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
 
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
{{-}}
 
* アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
 
実験結果
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
 
* バクテリオファージの増殖実験
[[Image:Tevenphage.svg|thumb|left|T2ファージの構造]]
 
細菌に規制するウイルスのことをバクテリオファージまたは単にファージという。
 
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T2ファージというファージの一種のウイルスを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で、できている。
 
彼らは、放射性同位体の<sup>35</sup>S(硫黄の放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
{{-}}
[[File:ハーシーとチェイスの実験.svg|thumb|800px|ハーシーとチェイスの実験]]
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
 
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
 
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
 
{{-}}
== 遺伝子と染色体 ==
=== 性染色体 ===
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異なる3つの形質に対し、組み換え価を求め、その組み換え価から遺伝子距離を求める'''三点交雑'''(three-point cross)により、
[[w:キイロショウジョウバエ|キイロショウジョウバエ]]の遺伝子の配列を図示し、これを'''染色体地図'''(chromosome map)と呼ぶ。
 
== 遺伝子の本体 ==
=== DNAの構造 ===
[[File:DNAのヌクレオチド構造.svg|thumb|300px|DNAのヌクレオチド構造]]
[[File:DNAの並び方.png|thumb|DNAの並び方の説明図。アデニン(A)はチミン(T)と結びつく。グアニン(G)はシトシン(C)と結びつく。]]
[[画像:ADN animation.gif|thumb|right|DNAの立体構造]]
 
'''DNA'''(デオキシリボ核酸、英: deoxyribonucleic acid)の構造は、'''ヌクレオチド''' (nucleotide) と呼ばれる構成単位をもち、ヌクレオチドは'''リン酸'''と'''糖'''と'''塩基'''の化合物である。ヌクレオチドの糖は'''デオキシリボース'''(deoxyribose) である。DNAでは、ヌクレオチドがいくつも結合して、二重らせん構造をつくっている。
 
塩基には4種類あり、'''アデニン'''(adenin)、'''チミン'''(thymine)、'''シトシン'''(cytosine)、'''グアニン'''(guanine)という4種類の塩基である。ヌクレオチド一個に、4種の塩基のうち、どれか一個が、ふくまれる。
 
生殖細胞では、減数分裂で染色体が半分になることから、遺伝子の正体とは、どうやら染色体に含まれている物質であろう、という事がモーガンなどの1913年ごろのショウジョウバエの遺伝の研究によって、突き止められていた。
 
遺伝子に含まれる物質にはタンパク質や核酸(かくさん)など、さまざまな物質がある。どの物質こそが遺伝子の正体なのかを突き止める必要があった。核酸の発見は、1869年ごろ、スイスの生化学者ミーシャーによって、膿(うみ)から取り出した細胞の核に、リン酸をふくんだ物質があることが発見され、この物質はタンパク質とは異なることが調べられた。ミーシャ-の発見したのが核酸である。この当時では、まだ核酸が遺伝子の正体だとは気づかれていなかった。なお、膿は、白血球を多くふくむ。
 
1949年、オーストリアの[[w:エルヴィン・シャルガフ|エルヴィン・シャルガフ]]は、
いろいろな生物の持つDNAを抽出して調べ、どの生物でもアデニン(A)とチミン(T)とは量が等しく1:1であり、グアニン(G)とシトシン(C)とは量が等しく1:1であることを発見した。
 
:A:T = 1:1  、 G:C = 1:1
 
このことから、シャルガフは、アデニンはチミンと結合する性質があり、グアニンはシトシンと結合する性質があると考えた。
DNAの、このような、アデニン(A)とチミン(T)とが等量で結合する性質があること、グアニンとシトシンも等量で結合する性質があることを、まとめて、相補性(そうほせい)という。
 
1953年、アメリカの[[w:ジェームズ・ワトソン|ジェームズ・ワトソン]]とイギリスの[[w:フランシス・クリック|フランシス・クリック]]は、
シャルガフの塩基組成の研究や、イギリスの[[w:モーリス・ウィルキンス|モーリス・ウィルキンス]]のX線回折の研究をもとにして、研究を行った。そしてワトソンとクリックは、DNAが'''二重らせん構造'''であることを発見した。
これによると、2本のヌクレオチド鎖が、アデニンとチミン、グアニンとシトシンで対合し、柱状になり、それがらせん状にねじれている。
<gallery widths=200px heights=200px>
File:Adenin.png|アデニン(A)
File:Timina.svg|チミン(T)
File:Guanine chemical structure 2.png|グアニン(G)
File:Citosina-es.svg|シトシン(C)
</gallery>
 
{{-}}
[[File:DNA chemical structure.svg|thumb|400px|DNAにおける水素結合の例。]]
[[ファイル:Base pair GC.svg|thumb|left|水素結合。 DNAにおける2つの塩基対の内の1つであるグアニンとシトシン間の水素結合。]]
二重らせん上のアデニンAとチミンTなど、らせんで対になった塩基どうしの結合は、'''水素結合'''(すいそ けつごう)という、水素を仲立ちとした弱い結合をしている。塩基上の水素原子が、向かいあった塩基の窒素原子や酸素原子などと、弱く結合するのが、DNAの場合での水素結合である。
 
なお水素結合が見られるのは生物だけに限らず、一般の化学物質などでも多く見られる。たとえば水分子の安定性でも、水素結合が関わっている。
 
DNAの場合の水素結合では、アデニンはチミンの塩基対では、塩基上の2箇所で水素結合をする。シトシンとグアニンの塩基対では、塩基上の3箇所で水素結合をする。
 
 
二重らせんの幅は2.0nmで、らせん1回転(1ピッチ)の長さは3.4nm、らせん1回転中に10対のヌクレオチド対がある。
 
=== DNAの働き ===
[[File:Amino acid strucuture for highscool education.svg|thumb|300px|アミノ酸の一般的な構造。図中のRは、アミノ酸の種類によって、ことなる。]]
[[Image:aspartame2.png|thumb|400px|ペプチド結合の例。いっぽうのアミノ酸のカルボキシル基COOHと、もういっぽうのアミノ酸のアミノ基NH<sub>2</sub>が結合する。ペプチド結合のとき、COOHからOHが取り除かれ、NH<sub>2</sub>のHが取り除かれ、1分子の水 H<sub>2</sub>O ができる。]]
DNAの働きには、主にタンパク質の設計図となることと、遺伝情報を子孫に伝えることがある。
 
DNAの遺伝子の働きかたを決める要因は、塩基の並び方で決定される。この塩基の並び方で、細胞で合成されるタンパク質が異なるため、DNAはタンパク質の設計図となっている。このため、DNAの塩基の並び方が異なると、遺伝情報も異なる。病気などの例外をのぞけば、ある生体で合成されたタンパク質、たとえば皮膚のタンパク質のコラーゲンや、骨のタンパク質や、筋肉のタンパク質のミオシンなど、どのタンパク質も、その生体のDNAの情報をもとに合成されたタンパク質である。
 
DNAは、細胞核の中で、RNA(アールエヌエー)というタンパク質合成用の塩基配列の物質をつくる。RNAの情報は、DNAの情報を元にしている。RNAは、核の外に出ていきリボソームと結合し、消化器官で食品のタンパク質から分解・吸収したアミノ酸を材料にして、
RNAの塩基配列に従ってアミノ酸をつなぎかえることで、タンパク質を作っている。
 
 
タンパク質の構造は、アミノ酸がいくつも結合した構造である。したがって、タンパク質を構成するアミノ酸の順序などの配列や、アミノ酸の数などによって、タンパク質の性質が異なる。なお、アミノ酸どうしの化学結合をペプチド結合という。
 
:(※ タンパク質の合成の仕組みについて、くわしくは、単元『[[高等学校生物/生物基礎‐遺伝情報とタンパク質の合成]]』などの章で説明する。)
 
DNAは、受精卵の時から、細胞分裂の際は、必ず複製されている。
DNAは配偶子形成の際半分になり、配偶子が受精すると合わさって元に戻る。
こうしてDNAは遺伝情報を子孫に伝えている。
 
:(※ 生殖細胞とDNAの分配の仕組みについて、くわしくは、『[[高等学校生物 生物I‐遺伝情報の分配]]』などの章で説明する。)
 
=== DNA量の変化 ===
配偶子形成の際のDNA量の変化は、原細胞のときを2と置くと、一次母細胞のときは4であり、二次母細胞のときは2となり、卵細胞・精細胞のときは1になり、受精卵のときに2にもどる。
体細胞分裂の際のDNA量の変化は、母細胞のときを2と置くと、前期~終期のときが4であり、娘細胞の時に2にもどる。
 
=== DNAと生物の共通性・多様性 ===
DNAを設計図としタンパク質を作る仕組みは全ての生物で共通している。
しかし、塩基配列が少しずつ変化(ATCGが入れ替わったり、増えたり)して、
生物の多様性が生まれた。
 
=== ゲノム ===
ゲノム(genome)とはある生物の遺伝子の全体のことである。
2003年にヒトゲノムの解読が完了した。
これにより、ヒトの遺伝子の全体が明らかとなった。
現在では、ゲノム研究は、食品や医療などに応用されている。
 
 
=== (※ ほぼ範囲外:) 遺伝子の本体の研究 ===
:※ 2010年代の生物基礎・生物の教科書では、形質転換やファージなどの話題が、あまり見当たらない。
 
1869年、スイスの[[w:フリードリッヒ・ミーシェル|フリードリッヒ・ミーシェル]]は、
細胞核内の物質を発見しヌクレイン(nuclein)と呼んだ。
当時は、遺伝子の本体はタンパク質であると考えられていたが、
今日では、ヌクレインはDNAと呼ばれ、遺伝子の本体であることが明らかになっている。
 
* グリフィスの実験
[[Image:Griffith_experiment_ja.svg|thumb|400px|right|[[w:グリフィスの実験|グリフィスの実験]]]]
1928年イギリスの[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]は、
肺炎レンサ球菌とネズミを用いて[[w:グリフィスの実験|実験]]を行った。
肺炎レンサ球菌には、被膜を持っていて病原性のあるS(smooth)型菌と、被膜が無く病原性のないR(rough)型菌の2種類がある。
被膜の有無と病原性の有無の、どちらも遺伝形質である。
通常の菌の分裂増殖では、S型とR型との違いという遺伝形質は変わらない。
 
グリフィスの実験結果は次の通り。
:生きたS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。
:生きたR型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌をネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こさない。
:加熱殺菌したS型菌に生きたR型菌を混ぜてネズミに注射すると、ネズミは肺炎を起こして死ぬ。死んだネズミの血液を調べるとS型菌が繁殖していた。
 
これはR型菌の形質が、加熱殺菌したS型菌に含まれる物質によって、S型菌の形質へ変化したためであり、
これを'''形質転換'''(transformation: nuclein)と呼ぶ。
{{-}}
 
* アベリーの実験
1943年ころ、カナダの[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]は、グリフィスの実験での形質転換を起こした物質が何かを特定するため、タンパク質分解酵素とDNA分解酵素を用いて、S型菌・R型菌の実験を行った。
 
実験結果
:S型菌のタンパク質を分解した抽出液にR型菌を混ぜると、S型菌へ形質転換した。
:次にS型菌のDNAを分解した抽出液にR型菌を混ぜても、S型菌へ形質転換はしなかった。
これによって、R型菌の形質転換を起こしたのはDNAであることがわかった。
 
* バクテリオファージの増殖実験
[[Image:Tevenphage.svg|thumb|left|T2ファージの構造]]
 
細菌に規制するウイルスのことをバクテリオファージまたは単にファージという。
 
1952年、アメリカの[[w:アルフレッド・ハーシー|アルフレッド・ハーシー]]と[[w:マーサ・チェイス|マーサ・チェイス]]は、
T2ファージというファージの一種のウイルスを用いて[[w:ハーシーとチェイスの実験|実験]]を行った。
T2ファージは細菌に寄生して増殖するウイルスであるバクテリオファージの一種であり、
ほぼタンパク質とDNAからできている。T2ファージの頭部の中にDNAが含まれる。それ以外の外殻(がいかく)はタンパク質で、できている。
 
彼らは、放射性同位体の<sup>35</sup>S(硫黄の放射性同位体)および<sup>32</sup>P(リンの放射性同位体)を目印として用い、硫黄をふくむタンパク質には<sup>35</sup>Sで目印をつけ、<sup>32</sup>PでDNAに目印をつけた。DNAは P(リン)をふくむがS(硫黄)をふくまない。彼らの実際の実験では、タンパク質に目印をつけた実験と、DNAに目印をつけた実験とは、それぞれ別に行った。
{{-}}
[[File:ハーシーとチェイスの実験.svg|thumb|800px|ハーシーとチェイスの実験]]
実験では、それらの放射性同位体をもつT2ファージを大腸菌に感染させ、さらにミキサーで撹拌し、遠心分離器で大腸菌の沈殿と、上澄みに分けた。
大腸菌からは、<sup>32</sup>Pが多く検出され、あまり<sup>35</sup>Sは検出されなかった。このことからT2ファージのDNAが大腸菌に進入したと結論付けた。また、上澄みからはT2ファージのタンパク質が確認された。つまり上澄みはT2ファージの外殻をふくんでいる。
 
さらに、この大腸菌からは、20~30分後、子ファージが出てきた。子ファージには<sup>35</sup>Sは検出されなかった。
 
これによって、DNAが遺伝物質であることが証明された。
 
 
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== 参考文献 ==
* 田中隆荘ほか『高等学校生物I』第一学習社、2004年2月10日発行、pp.110-154
* [https://web.archive.org/web/20141016171612/http://www.nhk.or.jp/kokokoza/library/2013/tv/seibutsu/ 『NHK高校講座 生物』第16-21回]
* [http://www.weblio.jp/cat/academic/sbtgy 生物学用語辞典 - Weblio 学問]
 
[[Category:高等学校教育|生1いてん]]