「高等学校理科 生物基礎/細胞とエネルギー」の版間の差分

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嫌気の意味は前のとおりで正しい。偏性嫌気と勘違いしていた。
「好気呼吸」や「嫌気呼吸」の用語を本文中から除去。ついでに加筆。
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=== 呼吸(異化) ===
:(※ 2015年からの新課程では用語の言い換えがあり、「好気呼吸」→「呼吸」、「嫌気呼吸」→「発酵」「解糖」と言い換え。「好気呼吸」および「嫌気呼吸」の用語は教科書では用いられないことになっている。しかし、医学書などの専門書では、2015年を過ぎた現代でも、まだ「嫌気」などの用語が残っている。(たとえ、もし生物学会が「嫌気」と言う用語を廃止したとしても、医学会が生物学会に従う義務はまったく無い。)このため、当分は「好気」「嫌気」などの用語を紹介する必要があると判断し、当ページにて「嫌気呼吸」などの表記を記述する。)
:しかし、「嫌気呼吸」の用語は医学書などでは見当たらない。酸素がなくても生きられる種類の微生物について「嫌気性の微生物」などの用法が医学書などで見受けられる。検定教科書でも、「嫌気性の細菌」などの用法が見られる(数研出版の『生物基礎』など)。
:このため、本wikibooks本ページの教科書本文では、「好気呼吸」「嫌気呼吸」の用語は用いない。
 
われわれ人間の呼吸では、おもにグルコース(C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>)などの炭水化物を分解して、生命活動に必要なエネルギーを取り出している。このグルコースの分解反応で酸素が必要なため、人間は呼吸で酸素を取り入れている。呼吸によるグルコースの分解で、グルコースに蓄えられていたエネルギーを取り出しており、さまざまな生態活動のエネルギーになっている。
 
そもそも「『呼吸』とは何か?、という問題があるが、検定教科書によって説明が違うので、呼吸とは何かについては、説明を後回しにしたい。
なお、呼吸におけるグルコースのように、呼吸につかわれてエネルギーを取り出す元になっている物質を'''呼吸基質'''(こきゅう きしつ)という。
 
それよりも重要なこととして、
人間や魚類の呼吸は、細胞での酸素を用いる呼吸のためであり、このときの細胞での酸素を用いた呼吸を'''好気呼吸'''(こうきこきゅう)という。細胞での好気呼吸によるグルコースの分解は、おもにミトコンドリアで行われている。
:「呼吸」では、酸素を使用する。
:「呼吸」では、エネルギー源としてグルコース(ブドウ糖)を分解するが、タンパク質や脂肪を分解する場合も「呼吸」という(※ 啓林館の教科書で、タンパク質の分解なども呼吸という見解)。
:「呼吸」の結果、その生体内でATPが合成される。
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われわれ人間の呼吸では、エネルギー源として、おもにグルコース(C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>)などの炭水化物を分解してすることにより、生命活動に必要なエネルギーを取り出している。このグルコースの分解反応で酸素が必要なため、人間は呼吸で酸素を取り入れている。呼吸によるグルコースの分解で、グルコースに蓄えられていたエネルギーを取り出しており、さまざまな生態活動のエネルギーになっている。
 
木材などの燃焼と、生物の呼吸は、酸素を使用する点と、エネルギーが放出される点では似ているが、しかし燃焼が急激に熱と光を放出してすぐに終わってしまうのに比べて、呼吸では段階的に分解することでエネルギーを取り出してATPにエネルギーを蓄えるという点で、燃焼と呼吸には違いがある。
 
なお、呼吸におけるグルコースのように、呼吸につかわれてエネルギーを取り出す元になっている物質を'''呼吸基質'''(こきゅう きしつ)という(※ 啓林館の教科書で「呼吸基質」の紹介が見られるが、他社の教科書で見られず、あまり重要視されて無い用語である。)
 
 
人間や魚類の呼吸は、細胞での酸素を用いる呼吸のためであり、このときの細胞での酸素を用いた呼って二酸化炭素をはきだす行為を'''好気呼吸'''(こうきこきゅう)という。細胞での好気呼吸によるグルコースの分解は、おもにミトコンドリアで行われている
 
細胞での呼吸によるグルコースの分解は、おもにミトコンドリアで行われている。
 
そのため、ミトコンドリアを持たない微生物では、呼吸の仕組みが、人間や魚類などとは違っている。
微生物には、酸素を用いないで呼吸を行うものもあり、このような無酸素の呼吸を'''嫌気呼吸'''(けんきこきゅう)という。
 
== ※ 発展 ==
:(※ 本章では嫌気呼吸を重点的に説明する。好気呼吸のしくみは複雑であるので、そのため生物IIで好気呼吸について説明されるだろう。)
=== 発酵 ===
{{コラム|発酵|
 
さて、細菌やカビなどの一部の微生物には 、必ずしも酸素を使わなくてもグルコースなどの炭水化物を分解できる生物がいる。酵母菌や乳酸菌は、そのような菌である。酵母菌によるアルコール発酵や乳酸菌による乳酸発酵などの発酵は、これらの菌が生存のために栄養から必要なエネルギーを得るために化学反応を行った結果であり、酵母菌や乳酸菌の発酵では酸素を用いていない。
=== 好気呼吸 ===
まずは、好気呼吸について整理しよう。
われわれ人間の肺呼吸は、細胞での好気呼吸のために、酸素を身体各部の細胞に血管などを用いて送り込んでいるのである。魚類の「えら呼吸」も、酸素を細胞に送り込んでいるので、細胞での好気呼吸のためである。植物の呼吸もしており酸素を取り入れており、植物の呼吸は好気呼吸である。なお、光合成は呼吸ではない。
人間・魚類の呼吸も植物の呼吸も、これらの呼吸は、細胞では、どれもミトコンドリアが酸素を使ってグルコースなどを分解する反応である。
 
このような、酸素を使わないでグルコースなどの有機物を分解する活動は、'''発酵'''という。
=== 嫌気呼吸 ===
==== 嫌気呼吸とは ====
さて、細菌やカビなどの一部の微生物には 、必ずしも酸素を使わなくてもグルコースなどの炭水化物を分解できる生物がいる。酵母菌や乳酸菌は、そのような菌である。酵母菌によるアルコール発酵や乳酸菌による乳酸発酵などの発酵は、これらの菌が生存のために栄養から必要なエネルギーを得るために化学反応を行った結果であり、酵母菌や乳酸菌の発酵では酸素を用いていない。
 
酵母菌(こうぼきん)が、ワインなどのアルコールを作る醸造(じょうぞう)の反応も、発酵である。酵母菌は、グルコースを分解して、アルコールとともにATPを合成している。ちなみに、パンを膨らませるイースト菌も、じつは酵母菌の一種である(※ 数研出版の教科書で「パンを膨らませる」「酵母」という言い方をしている)。
このような、酸素を使わないでグルコースなどの炭水化物を分解する活動も呼吸にふくめる場合がある。これらの菌などがおこなう無酸素の化学反応でグルコースなどの炭水化物を分解することを'''嫌気呼吸'''(けんきこきゅう)という。
 
また、乳酸菌(にゅうさんきん)が、チーズやヨーグルトなどを作る反応も、発酵である。乳酸菌も、グルコースを分解してチーズなどを作るとともに、ATPを合成している。
そのため、酸素が少ない環境、あるいは酸素が無い環境でも、栄養があれば、嫌気呼吸をする菌は生きられる。
 
酵母菌も乳酸菌も、発酵の結果としてATPを合成している。
微生物による腐敗も、その微生物の嫌気呼吸である場合が普通である。
 
発酵(はっこう)と腐敗(ふはい)の区別は、ある微生物の呼吸の結果の生産物が、人間によって健康的な生産物の場合が発酵で、有害な生産物の場合が腐敗(ふはい)である。つまり発酵と腐敗の分類は、人間の都合による。
 
なお、酸素の無い環境のことを「嫌気」(けんき)または「嫌気的」(けんきてき)などという。いっぽう、酸素のある環境のことを「好気」(こうき)または「好気的」という。
微生物の種類によって、嫌気呼吸の生産物の方法は違うが、基本的にはATPを生産している。
「嫌気」という言い方を使うなら「発酵」とは、グルコースなどの有機物が嫌気的に分解されることが発酵である、と言える。
 
嫌気呼吸による、このような酸素を用いない分解では、ミトコンドリアを用いていない。微生物は細胞質基質で嫌気呼吸を行っている。
 
酵母菌は、嫌気呼吸と好気呼吸の両方の呼吸が比べると、発酵きる。そは、同じ量ため、アルコール発酵させる場合分解した際は、酸素得られるATP無い環境に置く。量が発母菌ミトコンドリアを持っており少なく母菌では得られるATP好気量が(呼吸はミトコンドリアによで得られATPの量の)約20分の1である。
 
そのため、:(※ 範囲外:)酸素が少ない環境、あるいは酸素が無い環境でも、栄養エネルギー源となる有機物があれば、嫌気呼吸発酵をする菌は生きられる。
乳酸菌と酢酸菌は原核生物であり、ミトコンドリアを持たない。
 
:(※ 範囲外:)日常語において「発酵(はっこう)と腐敗(ふはい)の区別は、ある微生物の呼吸の結果の生産物が、人間によって健康的な生産物の場合が発酵で、有害な生産物の場合が腐敗(ふはい)である。つまり発酵腐敗の分類は、人間の都合による。
 
※ 専門『生物』科目で細かいことを習う。
}}
 
==== アルコール発酵 ====
:※ 数研の教科書で、下記のような詳細を説明している。
 
酵母菌(こうぼきん)のアルコール発酵での化学反応式は、まずグルコースC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>から'''ピルビン酸'''C<sub>3</sub>H<sub>4</sub>O<sub>3</sub>に分解される。この、グルコースからピルビン酸を得る過程を'''解糖系'''(かいとうけい、glycolysis)という。解糖系でATPが2分子つくられる。そしてピルビン酸が、無酸素の状態では酵素デカルボキシラーゼによってアセトアルデヒドCH<sub>3</sub>CHOによって分解され、そのアセトアルデヒドがNADHという物質によってエタノールC<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OHへと変えられる。
 
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==== 乳酸発酵 ====
:※ 数研の教科書で、下記のような詳細を説明している。
乳酸発酵(にゅうさんはっこう)とは、乳酸菌が行う嫌気呼吸である。
 
乳酸発酵(にゅうさんはっこう)では、まずグルコースC<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>が解糖系によって、ピルビン酸へと分解され、このときATPが2分子できる。そしてピルビン酸がNADHによって乳酸:C<sub>3</sub>H<sub>6</sub>O<sub>3</sub>に変えられる。
 
: <big>C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub> → 2C<sub>3</sub>H<sub>6</sub>O<sub>3</sub> + 2ATP</big>
 
==== ※ 範囲外 :酢酸発酵 ====
:※ 『生物基礎』科目では酢酸発酵を扱わない。
 
酢酸菌(さくさんきん)は、 酸素O<sub>2</sub>を用いて、エタノールを酢酸CH<sub>3</sub>COOH に変える。
: <big>C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>OH + O<sub>2</sub> → CH<sub>3</sub>COOH + H<sub>2</sub>O</big>
 
'''酢酸発酵では酸素を用いる'''ため、一般的な無酸素の発酵とは区別して、酸化発酵とよぶ。
 
酢酸発酵のとき、酢酸のほかに水ができる。
 
==== 筋肉と乳酸 ====
筋肉では、はげしい運動などをして酸素の供給が追いつかなくなると、グルコースやグリコーゲンなどを解糖をして、エネルギーを得る。筋肉での解糖のときに、乳酸(にゅうさん、lactate)ができる。
反応のしくみは、乳酸発酵と、ほぼ同じである。
 
== 発展:好気呼吸の仕組み ==
:※ 啓林館の『生物基礎』教科書で、呼吸の仕組みの概略を説明している。『生物基礎』の検定教科書では下記ほど細かくなく、下記は旧『生物I』用のものであるが、いちいち書き直すのがメンドウなので、そのまま掲載。なので高校生は、高校1年の段階では、下記内容の暗記の必要は無い。
 
== 発展:好気呼吸の仕組み ==
[[ファイル:Ja-CellRespiration.svg|thumb|700px|right|解糖系とクエン酸回路。]]
好気呼吸は細胞質基質とミトコンドリアで起こる。とくにミトコンドリアを中心に、呼吸によって多くのATPが合成される。
 
好気呼吸は細胞質基質とミトコンドリアで起こる。とくにミトコンドリアを中心に、呼吸によって多くのATPが合成される。
 
* 解糖系
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電子e<sup>-</sup>は、最終的に酸素原子に渡され、酸化酵素の働きで水素イオンと反応し水になる。この水の生成反応のときの反応エネルギーを用いて、マトリックスの水素が膜間へと運ばれており、さきほど述べたようにATPが合成されている。
 
好気呼吸でのATPの収支は、グルコース1分子あたり解糖系で2分子のATP、クエン酸回路で2分子ATP、電子伝達系で最大34分子ATPであり、合計で最大38分子のATPになる。
 
[[Category:高等学校教育|生1さいほう]]