「量子力学/量子力学の発展」の版間の差分

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光電効果のプランク定数の値を確認したのはミリカン。アインシュタインではない。
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一方、ボーアの[[w:定常状態|定常状態]]を基礎に置く理論は[[w:ヴェルナー・ハイゼンベルク|ヴェルナー・ハイゼンベルク]]によって発展され、1925年には行列形式の量子力学が完成しました。ハイゼンベルクの理論は物理量を非可換な行列に置き換えるもので、この物理量の非可換性によって、物理量は必ずしも同時決定可能ではなく、同時決定可能でない物理量の間にはそれらの[[w:交換関係|交換関係]]によって決まる'''[[w:不確定性原理|不確定性関係]]''' (uncertainty relation) が生じることが次第に認識されるようになりました。物理量の非可換性はシュレーディンガーの理論においても同様に成り立ち、両者の理論は等価です(このことはシュレーディンガー自身よって最初に明らかにされました)。この不確定性は被測定系に対する測定器系の相互作用が量子力学において無視できないことを示しています。
 
=== 前期量子論の意義 ===
[[Image:Light-wave.svg|thumb|right|250px|図1. 電磁波は波動である]]
先に述べた通り、古典的な電磁気理論はマクスウェルによって完成されました。古典電磁気学の基本方程式は[[w:マクスウェルの方程式|マクスウェル方程式]]と呼ばれる一組の方程式であり、この方程式から、電磁場の源となる電荷や電流が存在しない空間において、マクスウェル方程式は[[w:電場|電場]]と[[w:磁場|磁場]]に関する[[w:波動方程式|波動方程式]]となり、電磁場の変形が[[w:縦波と横波|横波]]として伝播していくことが導かれます。この空間を伝わる電磁場の振動は[[w:電磁波|電磁波]]と呼ばれます。ハインリヒ・ヘルツによる電磁波の発見は[[w:無線通信|無線通信]]への道を拓き、[[w:グリエルモ・マルコーニ|グリエルモ・マルコーニ]]らによって無線通信技術が確立されて行きました。
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このように熱放射と光電効果に関する発見は基礎理論の発展に大きな影響を及ぼしたのですが、応用面でも、黒体放射の理論は熱放射の色から物体の温度を推定することなどに利用され、光電効果の理論は、物質の構成元素の分析や、[[w:太陽電池|太陽電池]]のような[[w:光起電力効果|光起電力効果]]を利用した装置などに利用されるなどの点で大きな役割を果たしています。
 
* 黒体放射の発見(キルヒホッフによる溶鉱炉の研究から)
* 光電効果の発見(ヘルツによる電磁波の観測実験から)
* 荷電粒子によって原子が構成されているという発見(原子モデルの議論)
* 物質波の発見(光電効果におけるアインシュタインの考察に発想を得てド・ブロイが考案)
 
物理学者はいかにしてこれらの発見を説明しようとしたのか? 説明の過程で何が古典力学と矛盾したのか? それらを吟味し、あるいは新たな観点に立って説明を与えることによって、量子力学の重要な概念が浮かび上がります。
以上に挙げた例は、ボーアやハイゼンベルク、[[w:ジョン・フォン・ノイマン|ジョン・フォン・ノイマン]]や[[w:ポール・ディラック|ポール・ディラック]]らによって理論的・数学的に整備される以前の量子論で主に取り扱われたものであり、以下に述べることは理論形成の過渡期における量子論が主となります。この過渡期の理論は'''[[w:前期量子論|前期量子論]]''' (old quantum theory) と呼ばれています。読者によっては、古い不完全な理論を扱うことに興味が持てないということもあるでしょうが、量子力学の理論がどのように古典論と繋がっているかを考える上で、前期量子論の時代やそれ以前に提起された問題とその解決法を学ぶことは大いに重要であり、また量子力学的な直感を作る上でこれらの概念が非常に大切であることを強調しておきます。
 
=== 黒体放射 ===
[[Image:Iron-Making.jpg|thumb|250px|図2. 19世紀の製鉄の様子と、高炉の図(高炉は空洞放射と近似できる)]]
'''黒体''' (black body) とは、外部から入射する熱放射をあらゆる波長に渡って完全に吸収し、また放出できる物体を理想化したものです。現実の物体で黒体として振る舞うものは存在しませんが、[[w:ブラックホール|ブラックホール]]のように近似的に黒体と見なせるものは存在します。
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この比例定数 <math>h = 6.626 \times 10^{-34}~ \mathrm{[J \cdot s]}</math> は、後に'''[[w:プランク定数|プランク定数]]''' (Planck constant) と呼ばれ、物理学における基本定数と見なされるようになりました。
 
 
===光電効果===
;プランクの法則 と 光電効果 との関係
プランクがこの式を導いた段階では、プランク定数 <math>h</math> の値は熱放射の実験などの実験データによって値を決定できることに注目してください。けっしてプランクは光電効果の理論によって値を導いた'''のではない'''のです。(光電効果について知らなければ、次の節『光電効果』を先にお読みください。)
 
高校では光電効果の式でプランク定数にならいますが、実際の歴史では順序が逆で、次の節で後述するように、アインシュタインが、プランクの考えを参考にして、光電効果にアインシュタイン流の量子仮説を適用し、アインシュタインのアイデアを参考にミリカンが実験式にある比例係数を確かめ、光電効果の比例係数がプランク定数に近い値であることを確かめたのです。
 
 
=== 光電効果 ===
ハインリヒ・ヘルツはすでに述べた電磁波を発生させる実験の中で、紫外線を照射することで帯電した物体が電荷を容易に失う現象を発見しました。これは後に'''[[w:光電効果|光電効果]]''' (photoelectric effect) と呼ばれた現象です。ヘルツの発見から直ぐに光電効果に関する様々な実験が行われ、1902年には[[w:フィリップ・レーナルト|フィリップ・レーナルト]]によって、光の振動数と強度に関する振る舞いが報告されました。
レーナルトの実験から、実際には電子の速度は変わらず、物体から放出される電子の数が多くなることや、個々の電子の速度を左右するのは光の振動数であり、振動数の大きな光ほど飛び出す電子の速度は大きく、逆にある振動数を下回る光に対しては電子が飛び出さないこと、また光電効果が観測される振動数の光に対しては強度が弱い場合でも電子の放出が起こることも分かりました。
これらの現象を従来の光の波動論によって説明することには困難が伴います。光を波として考えた場合、物質中の電子が連続的な光のエネルギーを吸収して物質の外へ飛び出るためのエネルギーを得るためには、ある程度の時間を要すると考えられますが、レーナルトの結果によれば、微弱な光に対しても光電効果は即座に観測されます。また、光電効果で放出される電子の速度は光の振動数のみに依存することも、照射する光の強度が大きいほど電子に与えられるエネルギーが大きく、飛び出る電子の速度も大きくなるという直感的な予想に反するものです。
 
光電効果の理論的説明は、1905年にアインシュタイン光量子仮説の理論によって与えられ提唱しました。光が光子の集まりであることを仮定すれば、光と電子の相互作用は[[w:光子|光子]]という単位で行われることになり、光子 1 個が持つエネルギー <math>\varepsilon</math> はプランク定数と光の振動数の積 <math>h\nu</math> に等しい
:<math>\varepsilon = h\nu</math>
ことから、電子が得る運動エネルギーが光の振動数に依存することが理解できます。一定の振動数に満たない光について、電子が放出されないことについては、物質の内部と外部との間に物質表面を境にして、ポテンシャルエネルギーによる壁が存在することから説明できます。物質中の電子がこの壁を乗り越えるには、ある一定のエネルギーを得なければならないのですが、そのエネルギーを与えるために必要な振動数は、物質内外のポテンシャルエネルギーの差をプランク定数で割ったものでなければならないと、光量子仮説はしていせん。つまり、光電効果によって放出される電子のエネルギー <math>E</math> と光の振動数 <math>\nu</math> との間には以下の様な関係が成り立ちます。
:<math>E = h\nu - P.</math>
ここで <math>P</math> は'''[[w:仕事関数|仕事関数]]''' (work function) と呼ばれ、電子の放出に必要な最低限のエネルギーを表します。この関係を <math>E\text{-}\nu</math> グラフに表せば、直線の傾きからプランク定数を、直線が <math>E=0</math> の軸と交わる点から電子の放出が起こる振動数を得られることになります。
 
そして、ロバート・ミリカンにより、実際に実験値がこの式によく合うことが、確認されました。
 
=== 原子モデルと放射スペクトル ===