「高等学校数学II/式と証明・高次方程式」の版間の差分

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==== 複素数 ====
===== 導入 =====
二次方程式 <math>ax^2+bx+c = 0</math> の解の公式 <math>x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}</math> で、判別式 <math>\sqrt{b^2-4ac}</math> がマイナスの場合、x軸との交点は無かった。
 
 
二次関数の方程式で解の無い式を、解の公式に無理矢理に当てはめると、解の公式にあるルート部分 <math>\sqrt{b^2-4ac}</math> (「判別式」という)の中身がマイナスになる。たとえば <math>\sqrt{-2}</math> や <math>\sqrt{-3}</math>のようになる。
 
ヨーロッパの数学では、中世に2次関数の研究が行われていた当初、解の公式をあてはめてみてルートの中身がマイナスになる方程式の場合は、単に「解が無い場合」というふうに考えていたので、当初の理論では、2乗してマイナスになる数については考える必要が無いと思われていた。
 
ところが、それから数学の研究が3次関数や4次関数へと進み、3次方程式の解の公式 や 4次関数の解の公式 が発見された際、2乗してマイナスになる数が、解を持つ公式の中に出てきた。つまり、たとえば 3次関数の方程式
:<math> a x^3 + b x^2+ c x + d = 0 \qquad (a \ne 0)</math>
で解をもつ場合でも、つまり、<math> a x^3 + b x^2+ c x + d</math> をグラフに書いた時にx軸と交わる場合でも、解の公式のなかに2乗するとマイナスになる数があらわれる場合のあることが分かってきた。
 
 
このため、2乗してマイナスになる数の研究が中世〜近世ごろのヨーロッパで始まった。
 
このような、2乗してマイナスになる数というのが、これから読者の学ぶ「虚数」(きょすう)である。
 
 
さらに虚数の研究が進むと、数学の「三角関数」(さんかく かんすう)といわれる分野や、「微分積分」(びぶん せきぶん)と言われる分野などの公式の多くが、虚数をつかうと公式が簡単な形になったり、また理解しやすくなることが分かってきた。そして20世紀以降、数学にかぎらず物理学や電気工学などの色々な分野でも、それらの分野における式計算をラクにするために虚数が活用されるようになった。
 
 
さて、慎重な読者のなかには「二乗してマイナスになる数を式に導入しても矛盾しないだろうか?」と心配する人もいるかもしれないが、しかし大丈夫である。なぜなら、そもそも、3次関数などの解をもつ場合の公式から、虚数の理論が誕生したのであるから、3次関数などの解の公式に矛盾のないかぎり、虚数の理論にも矛盾のしようが無いだろう。
 
そして21世紀の現在まで、3次関数の公式には、間違いは知られてなく、今でも3次関数の解の公式は正しい公式である。
 
なお現代では、3次関数や4次関数の公式には、あまり実用性が無いので、高校では学ばない。高校生の読者の勉強時間にも限りがあるので、3次関数や4次関数の公式に深入りする必要は無い。
 
 
さて、虚数の性質については、通常の数とは性質のちがう部分がいくつかのあるので、注意ぶかく学習する必要がある( たとえば虚数には、大小関係が無い)。
 
では、これから読者は、虚数の性質を学んでいこう。
 
===== 複素数 =====
2乗して負になる数、というものを考える。このような数は、中学で習った実数の中にはないことがわかる。なぜならば、正の数でも負の数でも2乗すると符号が打ち消して正の数になってしまうからである。そこで高校では、2乗して負になるという性質を持つ数の概念を新しく導入することにする。
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除法の定義は、分子と分母に、分母と共役な形の式を 掛け算 しただけである。
 
(※ 上記のように複素数に四則演算を定義しても矛盾が起きない。なぜなら、3次方程式や4次方程式の解の公式で、このような複素数の四則演算によって、実数解が導けるという事実が存在するからである。なので読者は、方程式の理論と複素数との理論との整合性について、心配をする必要は無い。)
 
 
乗法や除法の定義式を暗記する必要は無く、計算の際には、必要に応じて分配法則や共役などの、必要な式変形を行えばいい。
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{{コラム| 複素数では大小関係が無い |
複素数どうしについて、その大小関係は定義しない。その理由は、どのように大小関係を定義しても、便利な性質を満たすことができないからである。具体的に言えば、既に述べた実数の大小関係についての「不等式の基本性質(1)(2)(3)(4)」にあたる式を成り立たせることができないのだ。
検定教科書では説明が大幅に省略されてるが、複素数そのものや虚数そのものには、大小関係が定義されない。つまり、2個以上の複素数について、不等号は定義されない。
 
たとえば、<math>a+bi<a'+b'i</marh>であることを、<math>a^2+b^2<a'^2+b'^2</math>であることとして定義してみよう。このように定義すると、たとえば1+2i<2-3iであり、また2+3i<3+4iである。ところが、(1+2i)+(2+3i)=3+5i,(2-3i)+(3+4i)=5+iであり、3+5i>5+iとなってしまう。これは基本性質(2)が成り立たないことを意味する。
複素数に大小関係を定義してみても、無駄だからである。
 
もちろんこれは適当に考えた定義がたまたま不適切だったというだけのことだが、実は、他にどのように定義してもこのような困難からは逃れられないことが知られている。それゆえに、複素数には大小関係を定義しないのである。
 
複素数では、数直線のように一直線には書けないので、そもそも順序を明確な基準で定義できない事などが理由だろう。
 
もちろん、ある複素数 z=a+bi にその共役の複素数を掛けて、絶対値の2乗 a^2 + b^2 をとれば、その絶対値は実数なので、不等号を使えるが、しかしそれは実数の大小関係であるので、わざわざ複素数の大小関係を定義する必要が無い。
 
また、もし絶対値の2乗 a^2 + b^2 で大小関係の定義をしたとすると、+1 と ー1 の絶対値が同じなので大小関係を比較できず、無価値な理論になってしまう。
 
このように、もし複素数の理論に、むりやりに大小関係を定義してみても、無価値な結論がいくつも出てきてしまい、無駄になってしまう。近世ヨーロッパで複素数の研究ですぐれた研究成果を達成した数学者オイラーですら、研究の当初はためしに複素数の大小関係を定義してみたが、役立たない結論ばかりが得られたので、発想を転換して、複素数には大小関係を定義すべきでない という発想に切りかえたほどである。
}}
 
===== 負の数の平方根 =====
数の範囲を複素数にまで拡張すると、負の数の平方根も考えるようになことができる。
 
例として、 -5 の平方根について考えてみよう。<br>
 
 
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</math>
 
であるから、 -5 の平方根は <math> \sqrt{5}\ i </math> と <math> - \sqrt{5}\ i </math> である。
 
{| style="border:2px solid skyblue;width:80%" cellspacing=0
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|}
 
<math> \sqrt{-5} </math>とは、<math> \sqrt{5}\ i </math> のこととする。<math> - \sqrt{-5} </math>とは、<math> - \sqrt{5}\ i </math> のことである。
 
※ ある方程式の解として複素数を与えられたときに、よく<math>- \sqrt{5}\ i</math> のようなマイナスのルート何とかのほうの解を忘れやすいので、気をつけよう。
 
 
 
<math> \sqrt{5}\ i </math> とは、<math> \sqrt{-5} </math> のことである。<math> - \sqrt{5}\ i </math> とは、<math> - \sqrt{-5} </math> のことである。
 
なので、もし「ー5の平方根をすべて書け」という問題の答案で「 <math> \sqrt{5}\ i </math>」としか書かないと、<math> - \sqrt{-5} </math> を見落としていることになるので、気をつけよう。
 
とくに <math> \sqrt{-1}\ = \ i </math> である。
 
 
 
さて、-5 の平方根は、方程式<math>x^2=-5</math> の解でもある。
 
この方程式を移項することにより、-5 の平方根は、
:<math>
x^2+5=0
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の解であるともいえる。
 
さらに因数分解をすることにより、-5 の平方根は方程式
:<math>
(x + \sqrt{5}\ i)(x - \sqrt{5}\ i) =0
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:<math>\sqrt{-2}\ \sqrt{-6} = \sqrt{2}\ i \times \sqrt{6} \ i = \sqrt{12}\ i^2 = -2 \sqrt{3}</math>
 
このように、まず、マイナスの数の平方根が出てきた、まず虚数単位 i を用いた式に書き換える。
 
そのあと、かけ算をしていく。
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==== 2次方程式の判別式 ====
===== 2次方程式の解と複素数 =====
複素数の応用として、ここでは2次方程式の性質について述べる。任意の2次方程式は、解の公式によって解かれることを[[高等学校数学I 方程式と不等式#二次方程式|高等学校数学I]]で述べた。しかし、解の公式に含まれる根号の中身が負の数の場合には実数解が存在しないことに注意する必要がある。2次方程式
:<math>
ax^2+bx+c = 0
</math>
で、解の公式は、
:<math>
x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac} }{a}
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===== 2次式の因数分解 =====
* 導入
複素数を使うと、2次方程式を全ての場合において、因数分解できるようになる。
 
では、そもそも、「なぜ2次方程式を複素数を使ってまで因数分解する必要があるのか?」とか、「2次方程式を因数分解しても、3次以上の方程式で矛盾しないか?」という心配については、
:じつは3次方程式や4次方程式の解の公式で、因数分解を要求しているから、3次以下の2次方程式を因数分解しても大丈夫である。
 
3次方程式や4次方程式の解の公式で、実数解のある方程式を因数分解すると、実数解といっしょに虚数解も出て来る場合もある。
 
このため、けっして実数解と虚数解とは、対立しあうものではなく、3次以上の方程式において実数解を導出するために虚数解も必要になるのである。(説明 おわり)
 
また、大学レベルの話題になるが、「微分積分」(びぶん せきぶん)などの理論で、複素数を使った因数分解が必要になる場合などもある。
 
 
そういう応用を見越して、高校生は とりあえず、複素数をつかった2次方程式の因数分解を計算練習しよう。
 
 
*本論
 
2次方程式 <math>ax^2 + bx + c = 0</math> の2つの解 <math>\alpha</math> ,<math>\beta</math> がわかると、2次式
:<math>ax^2 + bx + c
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{{コラム| 複素数の平方根 (※発展) |
:※ 数学IIIの複素数平面で詳しく習うので、高校年の段階では深入りは不要。
 
今度は、複素数の平方根について考えてみよう。
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では、
:<math>\pm a i</math>の平方根はどのように表せるだろうか。
虚数単位<math>i</math>の平方根を考えると、これはzについての方程式 <math>z^2 = i</math> の解 z の値であるから、これを解けばよい。どのような複素数zならこの式を満たすことができるだろうか
 
まず、単純に両辺の平方根を考えると、<math>z = \pm \sqrt{i}</math>となる。ところが、ここから<math>\sqrt{i}</math>の値を考えるのは極めて難しい。
今度は両辺を2乗してみても、<math>z^2 = i \Rightarrow z^4 = -1 \Leftrightarrow z^4 + 1 = 0 \Leftrightarrow (z^2 + i)(z^2 - i) = 0</math>となり、解決しそうにはならない。
ならば、一見すると <math>z^2 = i</math>を満たすzを新しく'''虚数単位の平方根'''として定義する必要があるように思える。(じつは不要。)
 
 
では、どの複素数もこのzとなり得ないのだろうか。
これを確かめるため、zを複素数として話を進めてみよう。
 
zを複素数とすると、<math>z = x + yi</math>(x,yは実数)と表される。
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よって、<math>z=\pm\left(\frac{1}{\sqrt{2}}+\frac{1}{\sqrt{2}}i\right)</math><sub>■</sub>
 
zについての方程式<math>z^2 = i</math>は2次方程式であって、未知数<math>z</math>が複素数であると仮定した結果異なる2解が見つかった。このことから、複素数より広い範囲において更なる別の解がないことが分かる。
(つまり、'''虚数単位の平方根'''の定義は不必要)
 
不安の残る読者は、逆が成り立つことを示してみよう。
 
*問題例
** 問題
:<math>i \,\!</math>を虚数単位とするとき、次の問いに答えよ。
 
:(I) <math>-i,30i \,\!</math>の平方根を求めよ。
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== コラム: 5次方程式の「解の公式」は無い ==
2次方程式には解の公式があり、日本の中学や高校でも習う。2次方程式の解の公式を用いれば、どんな係数の2次方程式であっても解を求められる。3次方程式と4次方程式にも、じつは解の公式があり、係数がどんな係数であっても解を求められる。
:※ 検定教科書では、章末コラムや巻末の見開きなどで、目立たずに書いてある。
 
2次方程式には解の公式があり、日本の中学や高校でも習う。2次方程式の解の方程式では、方程式の係数が実数であるかぎりは、どんな係数であっても解を求められる。
 
 
3次方程式と4次方程式にも、高校ではあまり深入りしないが、じつは解の公式があり、係数が実数のどんな係数であっても解を求められる。
 
しかし、5次方程式では、そのような一般的な解の公式は無い。
 
もちろん、<math> x^5 -32 = 0 </math> のような特別な場合の方程式には、簡単に解が求められる。たとえば、<math> x^5 -32 = 0 </math> は解のひとつとして <math> x=2 </math> をもつ。しかし、特別な係数の組み合わせの場合に解を求めることができることと、一般的な解の公式の存在とは、意味が違う。5次方程式に、一般的な解の公式が存在しないとは、どんな係数の組み合わせであっても適用できる、普遍的な解の公式が無いという事である。
 
なお、その証明を理解するには、19世紀に生まれた「ガロア理論」という高度な数学を理解する必要があり、ここでその解説をすることはとても困難なので割愛する。
もちろん、
 
<math> x^5 -32 = 0 </math> のような特別な場合の方程式には、個々の解がある。
 
たとえば、<math> x^5 -32 = 0 </math> は解のひとつとして <math> x=2 </math> をもつ。
 
しかし、特別な係数の組み合わせの場合に解の存在することと、一般的な解の公式の存在とは、意味が違う。
 
 
5次方程式に、一般的な解の公式が存在しないとは、どんな実数係数の組み合わせであっても適用できる、普遍的な解の公式が無いという事である。
 
 
 
その根拠として、数学者アーベルや数学者ガロアなどによって、5次以上の方程式では、解の公式が無いことが証明されてしまった。ただし、その証明は高度すぎるので、高校生は学習しなくて良い。(また、工業的な実用性もまったく無い。)