「民法第95条」の版間の差分

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以上の観点からは、'''表意者保護'''と'''取引の安全'''の'''調和'''こそが本条の趣旨であると理解されなければならない。[[w:意思主義|意思主義]](本文)と[[w:表示主義|表示主義]](但書)の調和·調整と言い換えることもできよう。後に述べるような要素の錯誤とは何か、ではなく、'''保護されるべき表意者とはどのようなものか'''という問題こそが――たとえ判例学説のいずれに立つにせよ――95条をいかに解釈・運用すべきかという問題の本質なのであり<ref>判例の実質的な判断記述は何かを巡っては様々な議論がなされている。参考文献内田民法Ⅰ「もう一歩前へー錯誤の要件をめぐる新たな視点」の項参照</ref>、取引の経緯や社会的関係、当該取引社会における慣行、さら政策的判断なども判断材料に加えつつ、当該表意者がどのような状況に置かれていたかという詳細な認定を基に絞りをかけていかなければならないのである。法理論はそのための説明方法に過ぎない。
 
== 「無効とする」とは ==
=== 誰が「無効」を主張できるか ===
* AはBとの土地の売買契約において、当該土地を含む一体が高速道路の建設予定地になっており値上がりが予想されるという話をBから聞きこれを購入したが、この計画は頓挫した。しかし、その土地から温泉が出たためA自身がこの土地を利用して温泉旅館の建設を始めた。BはAの錯誤を理由に錯誤無効の主張ができるか。
::錯誤による意思表示は[[w:無効|無効]]となる。しかし、本条の目的は表意者の保護と取引安全にあることから、'''表意者'''が意思表示の瑕疵を認めず、又は錯誤による無効を主張する意思がないのに、'''相手方'''や'''第三者'''から無効をすることは表意者保護の観点からも、取引安全の保護という観点からも適当でないので'''原則として許されない'''([http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=28123&hanreiKbn=01 最高裁昭和40年9月10日判決·民集19巻6号1512頁]、なお本設例とは別の事例)。したがって、本来の無効とは異なるので、[[w:取消|取消]]的無効と呼ばれることがある。
 
::ただし、'''第三者が表意者に対する債権を保全するため必要がある場合'''において、'''表意者が意思表示の瑕疵を認めているとき'''は、表意者自らは当該意思表示の無効を主張する意思がなくても、'''第三者たる債権者'''は表意者の意思表示の錯誤による無効を主張することが許される(最高裁昭和45年3月26日·民集24巻3号151頁·[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&amp;hanreiSrchKbn=02&amp;hanreiNo=27360&amp;hanreiKbn=01 最高裁判例情報])。
 
=== 「錯誤無効」は善意の第三者にも対抗できるか ===
* AはBとの間の土地売買契約を締結し当該不動産を売り渡して登記を移転した。BはさらにAB間の'''事情を知らないCにこれを転売して登記を移転'''したところAは錯誤による無効を主張しCに対して不動産の引渡しを求めた。
 
*:95条は[[民法第94条|94条]](虚偽表示)や[[民法第96条|96条]](詐欺の場合)と違い'''第三者保護の規定が無い'''。'''96条3項の趣旨を類推'''して第三者を保護すべきだとの説(我妻など有力説)もあるが判例はこれを否定し錯誤による無効は善意の第三者にも'''常に対抗できる'''としている(大判大11.3.22)。法があえて95条に関して第三者保護の規定を置かず表意者保護を徹底する趣旨であるという理由である。しかし、だまされて契約を結んだ者が目的物が第三者の手に渡ってしまえば保護されず、ドルとポンドを間違えるような者が絶対的に保護されるというのはあまりに'''不均衡'''である。したがって、判例を前提とすれば'''非常に強い効果'''をもたらす''錯誤無効''を認めるのには'''より慎重'''にならなければならず、保護の必要性がそれだけ大きい者に対してしか錯誤無効を認めるべきでないということになるであろう。
 
=== 瑕疵担保規定とどちらが優先するか ===
 
== 「表意者」とは ==