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==条文==
(債権の譲渡における相殺権)
;第469条
#債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
#債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
#:一# 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
#:二# 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
# [[民法四百六十六466|第466条]]4項の場合における前二項の規定の適用については、これらの規定同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「[[民法第466条|第四百六十六条]]4項の相当の期間を経過した時」とし、[[民法四百六十六466条の3|第466条の3]]の場合におけるこれら同項の規定の適用については、これらの規定同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
===改正経緯===
2017年改正前の条項は以下のとおり。有価証券概念が整理され、「[[w:指図債権|指図債権]]」は「指図証券」として規定され、旧本条の趣旨は必要な改正を加え、[[民法第520条の2]]に継承された。
 
([[w:指図債権|指図債権]]の譲渡の[[w:対抗要件|対抗要件]])
;第469条
:指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の[[w:裏書|裏書]]をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
 
==解説==
改正第469条は相殺の担保的機能を定めた。はっきりいって定期預金口座のある銀行保護のために確立した最高裁判例を明文化したものである(口座開設者への融資金 > 預金の額(=もともとの預金の額 ー 譲渡の額) になるのは銀行にとって不愉快。それを容認するより相殺して譲受人からの引き出し要求をブロックしてしまう)。
指図債権の譲渡の対抗要件についての規定である。
 
第3項については、[[民法第468条|前条]]第2項の趣旨と同じ。
*次の場合を考える。譲渡人G1が指図債権をG2とG3に二重譲渡した。このうちG1はG2に債権譲渡したことを債務者Sに通知したが、G3に債権譲渡したことは通知せず、「Sが債務を負担する」という文句のありG1の裏書きのある指図証券を所持している。履行期にG3が証券を呈示して弁済を請求し、G2も履行を催告した。Sはどうすればよいか。
譲渡人からの債権譲渡の通知は指名債権譲渡の対抗要件であるが、指図債権の債権譲渡の対抗要件ではないので、もし債務者SがG3への弁済の有効性を主張するとG2はSの主張に対抗できない。SがG2に履行してもG3が弁済を求めると、弁済せざるをえない。
 
改正民法
;(指図証券の譲渡)第五百二十条の二
:指図証券の譲渡は、その証券に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、その効力を生じない。
;(指図証券の裏書の方式)第五百二十条の三
:指図証券の譲渡については、その指図証券の性質に応じ、[[w:手形法|手形法(昭和七年法律第二十号)]]中裏書の方式に関する規定を準用する。
;(指図証券の所持人の権利の推定)第五百二十条の四
:指図証券の所持人が裏書の連続によりその権利を証明するときは、その所持人は、証券上の権利を適法に有するものと推定する。
;(指図証券の善意取得)第五百二十条の五
:何らかの事由により指図証券の占有を失った者がある場合において、その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは、その所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。
;(指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限)第五百二十条の六
:指図証券の債務者は、その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き、その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
 
;(指図証券の質入れ)第五百二十条の七
:第五百二十条の二から前条までの規定は、指図証券を目的とする質権の設定について準用する。
;(指図証券の弁済の場所)第五百二十条の八
指図証券の弁済は、債務者の現在の住所においてしなければならない。
;(指図証券の提示と履行遅滞)第五百二十条の九
:指図証券の債務者は、その債務の履行について期限の定めがあるときであっても、その期限が到来した後に所持人がその証券を提示してその履行の請求をした時から遅滞の責任を負う。
 
 
 
改正民法では事例の場合G2への指図債権の債権譲渡は'''無効'''である。
 
裏書の効力は権利移転的効力・資格授与的効力・担保的効力があるが、改正民法には資格授与的効力(第520条の4)が定められている。ただし残り二つは解釈上認められる(はずである)。資格授与的効力は裏書の連続により所持人に証券上の権利があることが法律上の推定を受けることをいう。
*次の場合を考える。裏書が連続していない証券の所持人がその証券を呈示して債務者が「不連続の裏書に資格授与的効力がない」ことを理由に弁済を拒絶した。
この場合所持人は裏書の実質的な連続を立証すれば債務者に債務の履行を求めることができる。
*次の場合を考える。Sが債務を負担する証券がGに裏書きされた。しかしGは紛失してしまい、Iが所持しており裏書人欄にはG・Hによる裏書の連続があった。Gは証券を呈示しなければSからの弁済を受けることができない。そこでGは証券の紛失を主張して指図債権譲渡の事実を否定しIに証券の返還を請求した。
この場合資格授与的効力があるのでIはGへの返還義務を負わない。ただしGはIがHが無権利者であったことを知っていたか知らなかったことについて重過失があったことを立証すれば返還してもらえる。
 
期限に定めの無い債務の場合、債権者(所持人)の請求時から履行遅滞になる(ただし金銭消費貸借契約の場合催告したのち相当の期間が経過した後から)。期限の定めがある場合は原則的に期限到来時から履行遅滞になる。しかし証券呈示の時から履行遅滞になることを定めた。
 
;改正第四百六十九条
#債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
#債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
#:一 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
#:二 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
#第四百六十六条第四項の場合における前二項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「[[民法第466条|第四百六十六条]]第四項の相当の期間を経過した時」とし、第四百六十六条の三の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条の三の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
 
改正第469条は相殺の担保的機能を定めた。はっきりいって定期預金口座のある銀行保護のために確立した最高裁判例を明文化したものである(口座開設者への融資金 > 預金の額(=もともとの預金の額 ー 譲渡の額) になるのは銀行にとって不愉快。それを容認するより相殺して譲受人からの引き出し要求をブロックしてしまう)。
 
==参照条文==
*[[民法第467条]](指名債権の譲渡の対抗要件)
*[[民法第472条]](指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
 
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[[第3編 債権 (コンメンタール民法)#1|第1章 総則]]<br>
[[第3編 債権 (コンメンタール民法)#1-4|第4節 債権の譲渡]]
|[[民法第468条]]<br>(懸賞広告債権報酬を受譲渡における権利債務者の抗弁
|[[民法第470条]]<br>(指図債権の併存的債務者の調査引受権利等要件及び効果
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