「分子生物学」の版間の差分

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M s/ウィルス/ウイルス/6
 
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生命は、細胞が体をつくり生かすのに必要な遺伝情報を保ち、取り出し、読み取る力をもつおかげで成り立っている。生命を形づくる全ての起源となる[[w:生殖細胞|生殖細胞]]が分裂することで、それが担ってきた遺伝情報は全身に行き渡り、また生殖細胞を通じて次の世代へと引き継がれていく。“gene”という英語の名称は、その遺伝子の様相を正確にあらわした言葉である: そこには“遺伝”という概念は存在しない。このように自らを複製し、継承することを至上の目的とすることから、[[w:見田宗介|見田宗介]]は、“生成子”という言葉を提唱した。[[w:リチャード・ドーキンス|リチャード・ドーキンス]]は、“生成子”としての遺伝子が、しばしば選択の単位として働くことに着目し、[[w:利己的遺伝子|利己的遺伝子]]理論を提唱した。
 
どの生物でも遺伝情報は[[w:DNA|DNA]]によって担われている<ref>なお、ある種の[[w:ウルス|ウルス]]は遺伝情報を[[w:DNA|DNA]]ないし[[w:RNA|RNA]]によって伝えているが、ウルスは、宿主の細胞に寄生し宿主細胞の酵素を借りて始めて自己複製を行えることから、定義上、生物とは見なされない。</ref>。これは、[[w:フレデリック・グリフィス|フレデリック・グリフィス]]による肺炎双球菌の形質転換実験、そしてこれに続いて[[w:オズワルド・アベリー|オズワルド・アベリー]]が形質を担う物質を[[w:in vitro|in vitro]]で追跡したことによって、証明された。遺伝情報を担う物質を[[w:遺伝子|遺伝子]]と呼んでおり、これゆえに“DNAは遺伝子の本体である”と言われる。
 
DNA鎖は、'''[[w:ヌクレオチド|ヌクレオチド]]'''が長くつながることによって作られる。ヌクレオチドは糖とリン酸、[[w:核酸#核酸塩基|核酸塩基]]から構成されていて、この糖はDNAでは[[w:デオキシリボース|デオキシリボース]]、RNAなら[[w:リボース|リボース]]である。核酸塩基はDNAでもRNAでも4種類あるが、それらは完全に同一ではない;すなわち、DNAにおいては'''[[w:アデニン|アデニン (A) ]]'''、'''[[w:グアニン|グアニン (G) ]]'''、'''[[w:シトシン|シトシン (C) ]]'''、'''[[w:チミン|チミン (T) ]]'''の4種類の核酸塩基が使われるが、RNAにおいてはチミンに代わり'''[[w:ウラシル|ウラシル (U) ]]'''が使われる。このとき、核酸塩基の違いに従って4種類のヌクレオチドがあることになるが、それらは核酸塩基が異なるのみであるから、ヌクレオチドの種類はその塩基によって区別される。
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遺伝子調節タンパクはいくつかの'''DNA結合モチーフ'''を持っている。DNA結合モチーフとは、DNAとの結合に関与する特定のアミノ酸配列からなる部分のことで、これによって、遺伝子調節タンパクはしっかりとDNAと結合する。[[w:ジンクフィンガー|ジンクフィンガー]],[[w:ロイシンジッパー|ロイシンジッパー]],また[[発生学]]でお馴染みの[[w:ホメオドメインフォールド|ホメオドメイン]]などがその例である。
 
細菌やウルスの転写調節はもっとも単純で、よく解明されている。まずは、大腸菌の[[w:トリプトファン|トリプトファン]]合成系を例に取る。大腸菌においては、トリプトファンをつくる生合成経路の酵素は5つの遺伝子によって指令されるが、この5つの遺伝子は染色体上の1ヶ所にまとまっていて、1個のプロモーターから転写されて1本の長いmRNA分子が作られ、このmRNAから5個のタンパク質が合成される。このように膚接して存在し、関連して発現する遺伝子群を'''[[w:オペロン|オペロン]]'''と言うが、これは原核生物に特有の構造である。このオペロンにおいて、プロモーター内には遺伝子調節タンパクが結合する短い塩基配列: '''[[w:オペレーター|オペレーター]]'''がある。ここに遺伝子調節タンパクが結合すると、RNAポリメラーゼのプロモーターへの結合が妨げられ、このオペロン全体の転写が抑制される;すなわちトリプトファン合成酵素が作られなくなる。この遺伝子調節タンパクを'''トリプトファン・リプレッサー'''と呼ぶが、これは[[w:アロステリック効果|アロステリック・タンパク]]で、[[w:フィードバック阻害|フィードバック調節]]を行なっている。つまり、トリプトファン分子と結合しているときだけオペレーターDNAと結合できるのであって、周囲のトリプトファン濃度が下がってトリプトファンと結合できなくなると、タンパクの三次元構造が変化して、DNAに結合できなくなる。するとRNAポリメラーゼはプロモーターに結合できるようになるので、トリプトファンが合成される。そしてトリプトファンがある程度生産されて濃度が高まると、リプレッサーはトリプトファンと結合して活性化し、トリプトファン合成を抑制するようになるのである。
 
リプレッサーはその名のとおりに反応を抑制するものだが、細菌の遺伝子調節タンパクには、これとは逆に反応を加速させるものがあり、これを'''アクチベーター'''と呼ぶ。リプレッサーと同様、アクチベーターもフィードバック調節を行なっていることが多い。例えば、細菌のアクチベーターであるCAPは、[[w:環状アデノシン一リン酸|サイクリックAMP:cAMP]]に結合してはじめてDNAに結合できる。従って、CAPによって活性化される遺伝子は、細胞内のcAMP濃度が上昇するとスイッチが入り、転写が活性化する。
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RTKに結合する細胞内シグナルタンパクのうち、中心的な役割を果たすのが'''Ras'''である。これはGTP結合タンパクの一種であるが、Gタンパクとは区別されて'''単量体GTP結合タンパク'''と通称される。RasはGタンパクのαサブユニットと似ており、ほぼ同じ作用機構で分子スイッチとして働く。活性型のRasは、一連のタンパクキナーゼが順番にリン酸化を進めては活性化するリン酸化の連鎖反応を引き起こす。
 
また、このような協同作業を必要とせず、より直接的な経路によって遺伝子の発現調節を行なう受容体もある。サイトカインが結合する受容体は、細胞膜に不活性状態で存在する遺伝子調節タンパクを活性化する。活性化された調節タンパクは直接核内に向かい、対応する遺伝子の転写を促進する。これらのサイトカイン受容体は酵素活性を持たないが、細胞質チロシンキナーゼJAKと結合しており、サイトカインが受容体に結合するとこれが活性化する。有名なサイトカインにインターフェロンがあり、これはウルス感染に対して抵抗性を高めるので、遺伝子クローニングによって大量生産され、ウルス性肝炎などの治療に用いられている。
 
== 脚注 ==