「民法第375条」の版間の差分

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==制度趣旨==
なぜこのような制度があるのか。後順位抵当権者([[民法第373条|373条]])や一般債権者保護のための規定だと言われる。無制限に利息や遅延損害金を担保するならば、被担保債権額が著しく増大する可能性があるため'''第三者に不測の損害を与える'''からというのである。
*SはAに1000万円を借り自らの所有する不動産(2500万円相当)に一番抵当権を設定してこれ(被担保債権額が1000万円あること、利息は年1割5分である事、弁済期に弁済しなかった場合の遅延損害金は年1割5分の1・46倍(利息制限法4条1項)であること)を登記した。3年後さらにBは登記を調べた上でSに1000万円を貸し、Sは同不動産に二番抵当権を設定した。その後Bが抵当権を実行したとき、SはAの債権について利息と遅延損害金を全く払っていないことが明らかとなった。
本事例において375条が無いと、一番抵当権者Aの取り分が非常に多くなり二番抵当権者の利益は著しく害されてしまう。しかも、弁済期が到達していれば利息は遅延損害金に転化してさらに増大するわけであるが、利息の支払いが滞納しているか、またいつ弁済期が到来するのかは登記からではわからない('''[[w:不動産登記法|不動産登記法]]は被担保債権の弁済期を抵当権の登記事項として要求していない''')。そこで利息・遅延損害金の担保範囲を2年に限定すれば、最大でも1000万円+1000万円×0.15×1.46×2=1438万円がAの一番抵当権による被担保債権額となる(2500万円から残りが1062万円である)とわかる。よってBは不測の損害を被らずに済む。
 
*SはAに1000万円を借り自らの所有する不動産に一番抵当権を設定したが、利息を4年間にわたって滞納した。SはBからも500万円を借り同不動産に二番抵当権を設定、'''その後'''Aは4年分の利息に付き特別の登記をした。さらにその後SはCからも100万円を借り同不動産に三番抵当権を設定した。
抵当権者は全ての利息・遅延損害金を抵当権で担保できないというわけではない。たとえばこの事例の場合、通常Aは2年分の利息しか優先的に受け取ることしかできない。しかし、''ただし、それ以前についても、満期後に特別の登記をしたときは''一番抵当権の優先的効力を4年分に及ぼすことができる(本条1項但書)。しかしその効果が発生するのは''その登記の時から''である。この事例では二番抵当権者Bが出現した後に特別の登記をしているため、Cに対してしかこの優先的効力を対抗することはできない。375条は'''第三者に不測の損害を及ぼさないため'''の規定だからである。
 
===債権額そのものは縮減しない===
*SはAに1000万円を借り自らの所有する不動産に一番抵当権を設定した。利息は年1割、遅延損害金は年2割であった。
他にもB・C・Dに対し多額の借金があり2年後の弁済期にAに債務を返済することができないままさらに1年が経過し、SはAに対し1300万円を支払った。
 
この場合、抵当権の被担保債権額は特別の登記が無い以上1300万円を超えることができないとはいえ、AのSに対する消費貸借'''契約に基づく債権額'''までが減るわけではない。抵当権の効力によって優先的弁済を受けられる範囲が制限されるというだけである。よって1300万円を支払ったところでSは抵当権の消滅を主張することはできず、'''抵当権は残額'''100万円'''について残存'''する。
 
===他に債権者のいないとき===
*SはAに1000万円を借り'''自らの所有'''する不動産に一番抵当権を設定したが、Aに債務を返済しないまま3年が経過した。
Aが抵当権を実行したところ、Aの他に配当を受けようとする債権者はいなかった。
*SはAに1000万円を借り、Bは'''物上保証人'''として自らの所有する不動産に一番抵当権を設定したが、Aに債務を返済しないまま3年が経過した。Aが抵当権を実行したところ、Aの他に配当を受けようとする債権者はいなかった。
本条の趣旨を第三債権者保護のための規定であると理解したとき、本事例では守られるべき第三者は存在しない。したがって'''競売手続に他の債権者が関与していなければ'''、'''本条は'''―その明文には反するが―'''適用されない'''と解されている(通説)。
 
*SはAに1000万円を借り自らの所有する不動産に一番抵当権を設定し'''Cにこれを売却'''したが、Aに債務を返済しないまま3年が経過した。Aが抵当権を実行したところ、Aの他に配当を受けようとする債権者はいなかった。
'''目的不動産が債務者から第三取得者にわたった場合'''についても、'''通説は'''同様に'''本条の適用を否定'''する。第三取得者は抵当権設定者の有する負担をそのまま承継するのが当然であるという価値判断である。もっとも、抵当権の存在は登録免許税の高さゆえにそれが必ず登記されるわけではなく、保護すべき第三者の中に当該不動産の第三取得者を含ませるべき場合もあるという価値判断もありうる。
*Sは、Aに金銭を借りて自らの持つ不動産に抵当権を設定し、この不動産を'''自らの経営する法人'''Bに売却した。