「高校化学 合成高分子化合物」の版間の差分

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== ポリアミド系合成繊維 ==
アミド結合によって重合した化合物を'''ポリアミド'''(polyamide)という。
 
=== ナイロン66 ===
アジピン酸 HOOC-(CH<sub>2</sub>)<sub>4</sub>-COOH とヘキサメチレンジアミン H<sub>2</sub>N-(CH<sub>2</sub>)<sub>6</sub>-NH<sub>2</sub> との縮合重合によって、6,6-ナイロンが得られる。
 
この、ポリアミドを繊維にしたものを'''ナイロン'''(nylon)という。 ナイロン6-6は、6,6-ナイロンとも言う。
 
:: [[ファイル:Nyron66_formula.svg|700x700ピクセル|ナイロン66の合成式。]]
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=== ナイロン6 ===
'''カプロラクタム'''(caprolactam)という環状のアミド結合を持つ化合物があるが、このカプロラクタムに少量の水を加えて加熱すると、環のアミド結合が開き、そして他の開環したカプロラクタムと重合してナイロン6というポリアミド繊維になる。
 
:: [[ファイル:Nylon6_formula_jp.svg|700x700ピクセル|ナイロン6の合成式。]]
 
また、このように、環状分子が開環して 鎖状のポリマーに重合することを'''開環重合'''(かいかんじゅうごう、ring-opening polymerization)という。アミド結合を持つ環状化合物を'''ラクタム'''という。ナイロン6は1941年に日本で開発された。
 
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=== (※ 発展:) アラミド繊維 ===
[[ファイル:CNX_Chem_20_04_kevlar1.png|右|サムネイル|300x300ピクセル|アラミド]]
 
: ※ 検定教科書の範囲。教科書で「参考」などとして頻出。
 
アミド結合の間にベンゼン環を導入した芳香族ポリアミドを'''アラミド'''(aramid)といい、それを繊維にしたものをアラミド繊維という。
 
アラミド繊維の一例として、原材料にテレフタル酸ジクロリドという芳香族2価カルボン酸のクロロ化物と、p-フェニレンジアミンとを重合させると、p-フェニレンテレフタルアミドという化合物になる。
 
ひじょうに丈夫であり、引っ張り強度も高く、耐熱性・難燃性もすぐれるので、防弾チョッキや消防服などに使用される。{{clear}}
 
== ポリエステル系合成繊維 ==
エステル結合 -COO- によって連なった高分子化合物を'''ポリエステル'''(polyester)という。
 
ポリエステルは、合成繊維のほかにも、合成樹脂としても使われる。{{clear}}
 
=== ポリエチレンテレフタラート ===
テレフタル酸 HOOC-C<sub>6</sub>H<sub>4</sub>-COOH と、エチレングリコール HO-(CH<sub>2</sub>)<sub>2</sub>-OH の間で縮合重合を行うと、'''ポリエチレンテレフタラート'''という鎖状の重合高分子になる。 略称はPETである。
 
: [[ファイル:Polyethylene_terephthalate_formula_jp.svg|700x700ピクセル|ポリエチレンテレフタラートの生成式。]]
 
[[ファイル:Ester_in_PET_jp.svg|サムネイル|500x500ピクセル|ポリエチレンテレフタラートのエステル結合。]]
このPETは水を吸いにくい性質が有る。 飲料用の容器のPETボトルは、このポリエチレンテレフタラートを用いている。
 
また、ポリエステル繊維は しわ になりにくいので、衣服にも用いられる。
 
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== 付加重合 ==
 
=== アクリル系合成繊維 ===
 
==== ポリアクリロニトリル ====
[[ファイル:Acrylonitrile-2D.png|サムネイル|150x150ピクセル|アクリロニトリル]]
[[ファイル:Polyacrylonitrile-PAN.png|サムネイル|ポリアクリロニトリルの構造式]]
'''アクリロニトリル''' CH<sub>2</sub>=CH-CN を重合させようとすると、CH<sub>2</sub>=CH-CN の二重結合の部分であるビニル基 CH<sub>2</sub>=CH-が、付加重合をして一重結合になることで、他の分子との結合が可能になる。
 
アクリロニトリルを付加重合させたものを'''ポリアクリロニトリル'''という。ポリアクリロニトリルを主成分とした繊維を'''アクリル繊維'''という。 ポリアクリロニトリルは疎水性であり、そのままでは染色しづらいので、ポリアクリロニトリル繊維に添加物として酢酸ビニル CH<sub>2</sub>=CH-OCOCH<sub>3</sub> などの原子団を混ぜて、染色性を高める。
 
アクリル繊維の肌触りは羊毛に似ていて、やわらかい。
 
また、アクリロニトリルと塩化ビニルを共重合させた繊維は燃えにくく、カーテンなどに用いられている。
 
; 炭素繊維
 
アクリロニトリルを窒素などの不活性気体中で、温度200℃ から段階的に温度を上げ 温度3000℃程度の高温で熱分解すると、炭素を主成分とする'''炭素繊維'''(カーボンファイバー)が得られる。炭素繊維は強度が優れている。
 
カーボンファイバーは、テニスラケットなどのスポーツ用品や釣竿に用いられている。 航空機の翼の材料の一つにも、カーボンファイバーは用いられている。{{clear}}
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=== ポリビニルアルコール系合成繊維 ===
 
==== ビニロン ====
 
; 原料 : ポリビニルアルコール
 
[[ファイル:Pva.png|サムネイル|150x150ピクセル|ポリビニルアルコールの構造式]]
酢酸ビニルCH<sub>2</sub>=CH-OCOCH<sub>3</sub> を付加重合させて、ポリ酢酸ビニル[-CH<sub>2</sub>-CH(OCOCH<sub>3</sub>)-]<sub>n</sub> を作り、これを水酸化ナトリウムNaOHでけん化すると'''ポリビニルアルコール''' -[CH<sub>2</sub>-CH(OH)]- <sub>n</sub> とCH<sub>3</sub>COONaになる。
 
ポリビニルアルコールは、ヒドロキシ基を多く持ち、水溶性が高いので、そのままでは繊維には使えない。洗濯のりとして、ポリビニルアルコールは用いられる。
 
ポリビニルアルコールは、硫酸ナトリウム水溶液へ入れると凝固する。なので、繊維にするために、ポリビニルアルコールを細孔から硫酸ナトリウム水溶液へ送り出す。これは、単に塩析をしただけなので、凝固しても親水性は変わらない。
 
; アセタール化
 
硫酸ナトリウム水溶液で凝固させたポリビニルアルコールを、ホルムアルデヒド水溶液HCHOで処理すると、ポリビニルアセタールになり(アセタール化)、 これを'''ビニロン'''(vinylon)という。
[[ファイル:Synthesis_of_vinylon.png|中央|600x600ピクセル|ビニロンの合成]]
このアルデヒドで環にする反応を'''アセタール化'''という。アセタール化によって親水基のOH基が減ったので、ビニロンは水に溶けなくなり、繊維として使える。ビニロンには親水基が残っているため、ビニロンの繊維は吸湿性を持つ。
 
ビニロンは、防護ネットや漁網などに用いられる。 ビニロンは1939年に日本の桜田一郎によって開発された合成繊維である。
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; 酢酸ビニル
 
酢酸ビニルそのものの作り方は、エチレンCH<sub>2</sub>=CH<sub>2</sub> に適当な触媒(たとえば酢酸パラジウム)を用いて、酢酸CH<sub>3</sub>COOH と反応させると、酢酸ビニルCH<sub>2</sub>=CH-OCOCH<sub>3</sub> が得られる。
 
: <math> \mathrm{ 2CH_2=CH_2 + 2CH_3COOH + O_2 \rightarrow 2CH_2=CH-OCOCH_3 + 2H_2O }</math>
 
== 熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂 ==
高温に熱すると柔らかくなり、冷やすと固くなる樹脂を<span style="font-size: large;">'''熱可塑性樹脂'''</span>(ねつかそせい じゅし、thermoplastic resin)という。
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File:Glikol.svg|エチレングリコール
</gallery>
 
== 天然ゴム ==
[[ファイル:Latex-production.jpg|サムネイル|333x333ピクセル|ラテックスを取っているところ。ゴムの製造に使われる]]
ゴムノキの幹に傷をつけると、その木から白い樹液が取れるが、このゴムノキの白い樹液を'''ラテックス'''(latex)という。このラテックスは白くて粘性がある。
 
ラテックスは疎水コロイド溶液であり、炭素にタンパク質が保護作用をした保護コロイドによるコロイド溶液である。
 
ラテックスに酢酸などの酸を加えて凝固させたものが'''天然ゴム'''(natural rubber)あるいは'''生ゴム'''(なまゴム,raw rubber)である。生ゴムの主成分は'''ポリイソプレン'''であり、これは'''イソプレン''' C<sub>5</sub>H<sub>8</sub>(示性式はCH<sub>2</sub>=C(CH<sub>3</sub>)CH=CH<sub>2</sub>である。)が付加重合したものである。
 
生ゴムには、弾性はあるものの、生ゴムの弾性は弱い。ゴム材料に弾性を持たせるには、加硫(= 硫黄を添加して加熱する処理)という処理が必要である。
[[ファイル:PolyIsopreneCorrected.png|左|サムネイル|320x320ピクセル|ポリイソプレン(シス型)の構造.]]
イソプレンの構造式を見ると、2箇所の二重結合の間に単結合がある部位がある。二重結合があるため、シス形とトランス形の二通りがあろうが、一般の生ゴムの場合はシス形ポリイソプレンである。
 
いっぽう、マレー半島などのアカテツ科の樹液からとれるグッタペルカは、トランス型のポリイソプレンである。グッタペルカは常温ではプラスチック結晶状の硬い固体である。50度以上の温度で柔らかくなる。
 
== 加硫 ==
生ゴムに硫黄Sを数%加えて加熱すると、弾性が増す。この弾性の増したゴムを'''弾性ゴム'''(だんせいゴム、elastic rubber)や加硫ゴムと言い、この生ゴムに硫黄を加えて弾性ゴムを得る一連の操作を'''加硫'''(かりゅう、vulcanization、cure)という。
[[ファイル:Vulcanisation.GIF|中央|サムネイル|700x700ピクセル|ポリイソプレンへの加硫の模式図]]
ポリイソプレンの2重結合の部分に硫黄原子Sが結合し、S原子は2個の原子と結合できるから、S原子が他の二重結合とも結びつき、S原子がポリイソプレンを橋架けして、(-S-S-)といった結合が生じるをする。このような高分子鎖などを橋架けをする反応を'''架橋結合'''(かきょう けつごう)または'''架橋'''(cross linkage)という。
 
加硫ゴムは、2重結合が減った結果、化学反応性が低下するので、耐薬品性が増す。
 
; エボナイト
 
生ゴムに30%~40%の硫黄を加硫して加熱した得られる黒色のかたいプラスチック状の物質を'''エボナイト'''(ebonite)という。
 
== 合成ゴム ==
天然以外に製造したイソプレンを架橋したゴムや、'''ブタジエン'''などを架橋させたゴムなどを、'''合成ゴム'''(synthetic rubber)という。 ブタジエンも単量体に二重結合を持っている。
 
合成ゴムには、イソプレンゴムやブタジエンゴムの他にも、'''クロロプレンゴム'''や'''スチレン・ブタジエンゴム'''や'''ブチルゴム'''などがある。
 
=== 付加重合による合成ゴム ===
ブタジエンゴムとクロロプレンゴムは付加重合によりゴム化する。
 
ブタジエンゴムでは、ブタジエンCH<sub>2</sub>=CH-CH=CH<sub>2</sub>から、ブタジエンゴム[-CH<sub>2</sub>-CH=CH-CH<sub>2</sub>-]n へとなる。シス型とトランス型があり、弾性に富むのはシス型のほうである。シス型を多く得るには'''チーグラー触媒''' TiCl<sub>4</sub>-Al(C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>)<sub>3</sub> を用いる。
 
摩耗性に優れているので靴底や、スチレンブタジエンゴムと配合させてタイヤなどに用いられる。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである(※ 参考文献: 数研出版の教科書より)。
 
クロロプレンゴムにもシス型とトランス型が有る。 クロロブレンの単量体(重合前のこと)の示性式は CH<sub>2</sub>=CCl-CH=CH<sub>2</sub> である。
 
=== 共重合による合成ゴム ===
以上のブタジエンゴムは1種類のブタジエンから合成する合成ゴムであった。重合の単位となる分子を単量体というが、このように1種類の単量体しか用いない場合とは違い、複数種の単量体を用いるゴムを'''共重合ゴム'''(きょうじゅうごうゴム)という。 たとえばスチレン・ブタジエンゴムはスチレンとブタジエンを単量体とした共重合ゴムである。
 
また、ゴムにかぎらず、単量体(monomer)が複数ある重合結合を'''共重合'''(copolymerlization)という。 共重合で生成した高分子化合物を共重合体(copolymer)という。
 
; スチレン・ブタジエンゴム
 
略称はSBR。 ブタジエン (CH<sub>2</sub>=CH&#x2212;CH=CH<sub>2</sub>) とスチレン(C<sub>6</sub>H<sub>5</sub>&#x2212;CH=CH<sub>2</sub>) が共重合したもの。
[[ファイル:SBR.png|左|サムネイル|243x243ピクセル|スチレン・ブタジエンゴムの構造式]]
耐磨耗性が良いので、タイヤなどに用いられることが多い(※ 参考文献: 実教出版の教科書より)。なお、タイヤの色が黒いのは、補強材として炭素を加えているからである(※ 参考文献: 数研出版の教科書より)。{{clear}}
 
; アクリロニトリル・ブタジエンゴム
 
略称はNBR。アクリロニトリル・ブタジエンゴムも共重合ゴムである。 耐油性が高く、このため石油ホースなどにも用いられてる(※ 参考文献: 東京書籍の教科書より)。
[[ファイル:Nitrile_Butadiene_Rubber.png|左|サムネイル|300x300ピクセル|アクリロニトリル・ブタジエンゴムの構造式]]
シアノ基(ニトリル基) R-C&#x2261;N の極性のため、耐油性が高い(※ 第一学習社の教科書で、この説を採用している。)。なお一般に、油は無極性であるので、極性の高い分子とは油は混じりにくい。
 
: ※ 参考書: 三省堂『化学I・IIの新研究』(卜部吉庸(うらべよしのぶ) 著)も、このシアノ基の極性による耐油性の説を採用している。
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== シリコーンゴム ==
つぎに述べるシリコーンゴムのように、炭素原子以外が骨格になっているゴムもある。
 
ジクロロジメチルシランを加水分解すると、ケイ素を含む重合体のポリメチルシロキサンが得られる。 これの架橋に、架橋剤として過酸化ベンゾイルなどの過酸化物の架橋剤を用いて架橋をすると、(-C-C-)といった架橋結合をもった'''シリコーンゴム'''が得られる。 シリコーンゴムの架橋には硫黄は用いない。
[[ファイル:Dimethylpolysiloxan.png|サムネイル|200x200ピクセル|シリコーン(架橋前の構造)]]
[[ファイル:Dimethylpolysiloxan.png|サムネイル|ポリジメチルシロキサン]]
付加重合による重合とは違い、シリコーンゴムは二重結合を持たないので、大気中の酸素による二重結合の酸化による劣化が少ないので、酸化しづらく耐久性などの性質が優れる。
 
なお、過酸化ベンゾイルは、非常に酸化能力が強く、危険物であり取り扱いには注意が必要であり、消防法による危険物としての適用を受ける。
 
== 発展: 高分子の立体規則性 ==