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1 行
{{:pathnav|高等学校の学習|高等学校理科|高等学校 化学I/|pagename=酸素を含む脂肪族化合物/Tab|frame=1|small=1}}
 
== アルコールの構造と分類 ==
165 行
 
動物の体内に存在する油脂は、グリセリンと脂肪酸のエステルである。
 
 
 
== エーテル ==
酸素原子に2個の炭化水素基が結合した構造 <chem>R-O-R'</chem> をもつ化合物を'''エーテル(ether)'''という。エーテル中での-O-の結合を、エーテル結合という。
{| class="wikitable" style="text-align:center; float: right;"
!示性式
!名称
!構造式
!沸点(℃)
|-
|CH{{sub|3}}-O-CH{{sub|3}}
|ジメチルエーテル
|[[ファイル:Dimethyl-ether-2D-flat.png|100x100ピクセル|ジメチルエーテル]]
|-25℃
|-
|C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|2}}H{{sub|5}}
|ジエチルエーテル
|[[ファイル:Diethyl-ether-2D-flat.png|150x150ピクセル|ジエチルエーテル]]
|34℃
|-
|C{{sub|2}}H{{sub|5}}-O-C{{sub|}}H{{sub|3}}
|エチルメチルエーテル
|
|7℃
|}
 
=== エーテルの性質 ===
エーテルは1価アルコールと構造異性体の関係にある。たとえばジメチルエーテルとエタノールは互いに異性体である。
 
エーテルはヒドロキシ基 -OH を持たないため、水に溶けにくく、水素結合をしないため、エーテルの沸点・融点はアルコールよりも低い。 たとえば、沸点はジメチルエーテル CH<sub>3</sub>-O-CH<sub>3</sub> の融点は-145℃であり沸点は -25℃ であり、分子量が同程度のエタノール(沸点78℃)とくらべて、かなり低い。
 
また、エーテルは、ナトリウムとも反応しない。
 
アルコールを濃硫酸と混合して脱水縮合させることでエーテルが生成する。
 
=== ジエチルエーテル ===
ジエチルエーテル(diethyl ether)は無色で揮発性の液体であり、引火しやすいため取り扱いに注意が必要である。麻酔性がある。 ジエチルエーテルは水には溶けにくく、有機物をよく溶かすので、有機溶媒としても用いられる。油脂などの有機化合物を抽出するさいの溶媒として、ジエチルエーテルが用いられる。
 
エタノールに濃硫酸を加えて130~140°Cで加熱するとジエチルエーテルが生成する。
 
単にエーテルというと、ジエチルエーテルを指す。
 
=== エーテルの合成 ===
ナトリウムアルコキシド <chem>R-ONa</chem> とハロゲン化炭化水素 <chem>R'X</chem> の縮合によってエーテルが生成する。
 
<chem>R-ONa + R'X -> R-O-R' + NaX</chem>
 
 
== カルボニル化合物 ==
原子団 [[ファイル:カルボニル基.svg|カルボニル基]]をカルボニル基(carbonyl group)という。カルボニル基[[ファイル:カルボニル基.svg|100x100ピクセル|カルボニル基]]をもつ化合物のことをカルボニル化合物(carbonyl compound)という。
 
カルボニル基の少なくとも1個の水素Hがついた結合の化合物を'''アルデヒド'''(aldehyde)という。
 
官能基 -CHO を '''ホルミル基'''<ref>アルデヒド基とも</ref>という。
[[ファイル:Aldehyde.png|サムネイル|アルデヒドの一般形]]
また、カルボニル基に2個の炭化水素基が結合した化合物 R -CO- R’ のことを'''ケトン'''という。ケトンの官能基 -CO- を'''ケトン基'''という。
 
カルボニル化合物には、アルデヒド、ケトン、カルボン酸などがある。
 
{{-}}
 
== アルデヒド ==
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!示性式
!名称
!構造式
|-
|HCHO
|'''ホルムアルデヒド'''
|[[ファイル:Formaldehyde-2D.svg|100x100ピクセル|ホルムアルデヒド]]
|-
|CH{{sub|3}}CHO
|'''アセトアルデヒド'''
|[[ファイル:Acetaldehyde-2D-flat.svg|130x130ピクセル|アセトアルデヒド]]
|}
 
=== 性質 ===
[[高校化学 酸素を含む脂肪族化合物#アルコール|アルコール]]で学んだように、第一級アルコールを酸化するとアルデヒドが得られ、アルデヒドを酸化するとカルボン酸になる。
 
* 還元性
 
アルデヒド基には'''還元性'''があり、他の物質を還元して自らは酸化されやすい。つまりアルデヒドはカルボン酸になりやすい。
 
: <math>\mathrm{R-CHO} \xrightarrow{+ \mathrm O (*)} \mathrm{R-COOH}</math>
:: (*) 酸素を受け取る酸化反応が起こる。
 
そのため、アルデヒドは'''銀鏡反応'''や'''フェーリング反応'''といった還元性の有無を調べる反応により検出することができる。
 
* 水溶性
 
分子量の小さいアルデヒドやケトンは、水に溶けやすい。
 
=== 銀鏡反応 ===
[[ファイル:MiroirArgent.JPG|サムネイル|250x250ピクセル|銀鏡反応]]
アンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドをくわえて加熱すると、銀イオン Ag<sup>+</sup> が還元されて、銀 Ag が析出する。これを'''{{Ruby|銀鏡|ぎんきょう}}反応'''(silver mirror test)といい、アルデヒドのような還元性のある物質を検出することに利用される。 試験管に銀が付着して鏡のようになることから、銀鏡という名前が付いている。
 
銀鏡反応は、以下のような反応である。 このアンモニア性硝酸銀水溶液にアルデヒドなどの還元性のある物質を加え、湯浴で加熱すると、ジアンミン銀(I)イオンが還元されて単体の銀が析出し、試験管の壁に付着する。アルデヒド自身は酸化されてカルボン酸となる。
 
: RCHO + 2[Ag(NH{{sub|3}}){{sub|2}}]{{sup|+}} + 3OH{{sup|-}} &#x2192; RCOOH + 4NH{{sub|3}} + H{{sub|2}}O + 2Ag↓
 
=== フェーリング反応 ===
[[ファイル:Kupfer(II)-Ionen1.jpg|サムネイル|209x209ピクセル|左から硫酸銅(II)水溶液、テトラアンミン銅(II)イオン Cu(NH<sub>3</sub>)<sub>4</sub>の溶液(フェーリング液もこれと似た色)、フェロシアン化銅(II)Cu<sub>2</sub>[Fe(CN)<sub>6</sub>](フェーリング反応後の酸化銅(Ⅰ)沈殿と似た色の沈殿)(注: フェーリング反応ではありませんが、似た色をしているので参考に掲載しています)]]
'''フェーリング液'''(Fehling′s solution)と呼ばれる液体にアルデヒドを加えて加熱すると、フェーリング液中の銅(II)イオンCu<sup>2+</sup>が還元されて、酸化銅(I) Cu<sub>2</sub>Oの赤色沈殿が生成することから、アルデヒドが還元性をもつことを確認することができる。この反応をフェーリング反応という。なお、アルデヒド自身はこのフェーリング反応で酸化されてカルボン酸となる。
 
* 参考
 
: フェーリング液とは、硫酸銅(Ⅱ)、酒石酸ナトリウムカリウムと、水酸化ナトリウムの混合水溶液である。硫酸銅(Ⅱ)水溶液をA液、酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液をB液として、A液とB液とを使用直前に混合して調整する。これは、フェーリング液が不安定で、長期間保存することができないためである。A液は硫酸銅(Ⅱ)水溶液なので青色をしているが、これにB液を加え混合したフェーリング液は、銅(Ⅱ)の錯イオンを生じて深青色の水溶液となる。
 
=== ホルムアルデヒド ===
[[ファイル:Formaldehyde-2D.svg|サムネイル|100x100ピクセル|ホルムアルデヒド]]
'''ホルムアルデヒド'''(HCHO)はもっとも単純な構造のアルデヒドであり、水に溶けやすい無色刺激臭の気体である。いわゆる「ホルマリン」(formalin)はホルムアルデヒドの約37%水溶液であり、動物標本の保存溶液や、消毒剤として用いられる。
 
(※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。)
 
ホルムアルデヒドはメタノールを酸化することで得られる。銅線を加熱して酸化銅(Ⅱ)とし、これを試験管に入れたメタノールに近づけると、メタノールが酸化されてホルムアルデヒドを生じる。
 
: CH{{sub|3}}OH + CuO &#x2192; HCHO + H{{sub|2}}O + Cu
 
なお、銅線を加熱して酸化銅にする方程式は
 
: 2Cu{{sub|2}} + O &#x2192; 2CuO
 
なので、これとまとめて、反応式を
 
: 2CH{{sub|3}}OH + O{{sub|2}} &#x2192; 2HCHO + 2H{{sub|2}}O
 
と書く場合もある。
 
なお、ホルムアルデヒドがさらに酸化されると、ギ酸になる。ギ酸も条件によってはさらに酸化されて二酸化炭素と水を生じる。
 
: ※ 毒性については、検定教科書によって記述が分かれる。実教出版はホルムアルデヒドに毒性があるとしてるが、東京書籍は記述してない。
 
: (※ 範囲外: )世間一般的には、ホルムアルデヒドは健康に悪いと考えられている。かつて建築業界で、建築材の接着剤などから発生するホルムアルデヒド蒸気による健康被害として『シックハウス症候群』が社会問題になったことがあるくらいである。(※ チャート式に、シックハウス症候群について書いてある。)
 
=== アセトアルデヒド ===
[[ファイル:Acetaldehyde-2D-flat.svg|サムネイル|130x130ピクセル|アセトアルデヒド]]
'''アセトアルデヒド'''(CH{{sub|3}}CHO)は分子中に炭素が2つあるアルデヒドであり、水や有機溶媒によく溶ける。
 
(※ 分子量の小さいアルデヒドは一般に、水溶性である事を思い出そう。そもそもカルボニル基が水溶性。)
 
実験室ではアセトアルデヒドは、エタノールを酸化することで得られる。エタノールに酸化剤として硫酸酸性の二クロム酸カリウムK<sub>2</sub>Cr<sub>2</sub>O<sub>7</sub> 水溶液を加え加熱すると、アセトアルデヒドが生じる。
 
: 3C{{sub|2}}H{{sub|5}}OH + Cr{{sub|2}}O{{sub|7}}{{sup|2-}} + 8H{{sup|+}} &#x2192; 3CH{{sub|3}}CHO + 2Cr{{sup|3+}} + 7H{{sub|2}}O
 
また、工業的にはアセトアルデヒドの製法は、塩化パラジウム PdCl<sub>2</sub> と塩化銅 CuCl<sub>2</sub> を触媒に用いて、酸素によってエチレンを酸化することでも得られる。
 
: 2CH<sub>2</sub>=CH<sub>2</sub> + O<sub>2</sub> → 2CH<sub>3</sub>CHO
 
アセトアルデヒドは、酢酸の原料や防腐剤として用いられる。
 
アセトアルデヒドがさらに酸化されると、酢酸になる。
 
: CH<sub>3</sub>CHO → CH<sub>3</sub>COOH
 
== 飲酒とアセトアルデヒド ==
(※ 高校化学の範囲内。第一学習社の検定教科書に記述あり。)
 
日本酒や洋酒など、市販のアルコール飲料は、エタノールの水溶液である。
 
ヒトが酒(エタノール水溶液)を飲むと、おもに腸でエタノールが吸収され、血管を通って肝臓に運ばれ、そして肝臓で酵素によってアセトアルデヒド CH<sub>3</sub>CHO に分解される。さらに別の酵素によって、酢酸 CH<sub>3</sub>COOH に変化する。そして最終的に、二酸化炭素と水に分解される。
 
== ※ 範囲外: カルボニル基の極性 ==
(※ 範囲外:) 検定教科書には書かれてないが、カルボニル基には極性があり、Cがδ<sup>+</sup>の電荷を帯びており、Oがδ<sup>ー</sup>の電荷をおびている。
 
二重結合を介して、
 
: <big><big>C</big><sup>δ<sup>+</sup></sup> <big>=</big> <big>O</big><sup>δ<sup>ー</sup></sup></big>
 
のように分極している。
 
また、カルボニル基をもつ簡単な分子は水に溶けやすい理由として、おそらく、カルボニル基の酸素原子が、溶液の水素分子と水素結合をするためであろう、と考えられている。(※ 参考文献: サイエンス社『工学のための有機化学 新訂版』、新井貞夫、185ページ) つまり、C=Oは親水基であろうと考えられている。(※ 参考文献: 『チャート式シリーズ 新化学I』平成19年第5刷)
 
[[ファイル:Ketone-general.svg|サムネイル|ケトンの一般式]]
 
= ケトン =
ケトン基(-CO-)を分子中に含む物質を一般に'''ケトン'''と呼ぶ。右には主なケトンを示す。
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!示性式
!名称
!構造式
|-
|CH{{sub|3}}COCH{{sub|3}}
|'''アセトン'''
|[[ファイル:Aceton_(chemical_structure).svg|150x150ピクセル|アセトン]]
|}
{{-}}
 
=== 一般的な性質 ===
第二級アルコールを酸化するとケトンが得られる。逆に、ケトンを還元すると、第二級アルコールになる。
 
ケトンはアルデヒドと同様にC=Oの二重結合を持つ。このアルデヒド基・ケトン基のC=Oの二重結合をまとめてカルボニル基と呼ぶことがあるが、ケトンはアルデヒドと異なり、ケトンは還元性を持たない。そのため、ケトンは、銀鏡反応やフェーリング反応を起こさない。
 
また、アルデヒドはさらに酸化されてカルボン酸となるが、ケトンは酸化されにくい。
 
=== アセトン ===
'''アセトン'''(CH{{sub|3}}COCH{{sub|3}})はもっとも単純な構造のケトンである。アセトンは無色の芳香のある液体(沸点56℃)であり、アセトンは水に混ざりやすい。また、アセトンは、有機溶媒としても用いられる場合がある。
 
実験室でのアセトンの製法は、第二級アルコールである2-プロパノール(CH{{sub|3}}CH(OH)CH{{sub|3}})を酸化することで得られる。2-プロパノールに酸化剤の硫酸酸性二クロム酸カリウム水溶液を加え加熱すると、アセトンを生じる。
 
: 3CH{{sub|3}}CH(OH)CH{{sub|3}} + Cr{{sub|2}}O{{sub|7}}{{sup|2-}} + 8H{{sup|+}} &#x2192; 3CH{{sub|3}}COCH{{sub|3}} + 2Cr{{sup|3+}} + 7H{{sub|2}}O
 
また、アセトンは酢酸カルシウムの乾留によっても、実験室でアセトンを得ることができる。酢酸カルシウムの固体を試験管に入れ、加熱すると、アセトンを生じる。
 
: (CH{{sub|3}}COO){{sub|2}}Ca &#x2192; CH{{sub|3}}COCH{{sub|3}} + CaCO{{sub|3}}
 
工業的には、クメン法によって作られる。
 
== ヨードホルム反応 ==
水酸化ナトリウム水溶液のような塩基性溶液中、アセトンにヨウ素を反応させると、特有の臭気をもつ'''ヨードホルム''' CHI<sub>3</sub> の黄色沈殿が生成する。この反応を'''ヨードホルム反応'''(iodoform reaction)という。
 
このヨードホルム反応は、アセチル基 CH<sub>3</sub>CO- を持つケトンやアルデヒド、または部分構造 CH<sub>3</sub>CH(OH)-(1-ヒドロキシエチル基)を持つアルコールが起こす。
 
酢酸はCH<sub>3</sub>CO-構造を含むが、酢酸はカルボン酸であり、ケトンやアルデヒドではないのでヨードホルム反応は起こさない。酢酸エチルも、ヨードホルム反応を起こさない。
 
ヨードホルム反応の起きる代表的な化合物は、アセトン、アセトアルデヒド、エタノール、2-プロパノールなどである。
 
= カルボン酸 =
カルボキシ基 -COOH を含む化合物を'''カルボン酸'''という。
{| style="text-align:center" cellspacing="0" border="1" align="right"
!示性式
!名称
!構造式
|-
|HCOOH
|'''ギ酸'''
|[[ファイル:Formic_acid.svg|100x100ピクセル|ギ酸]]
|-
|CH{{sub|3}}COOH
|'''酢酸'''
|[[ファイル:Acetic_acid_2.svg|140x140ピクセル|酢酸]]
|}
 
=== カルボン酸の性質 ===
[[高校化学 酸素を含む脂肪族化合物#アルデヒド|アルデヒド]]の部分で学んだように、アルデヒドを酸化するとカルボン酸が得られる。
 
カルボン酸の酸性の原因は、COOHの部分の水素Hが水溶液中で電離するからである。
{| class="sortable wikitable"
|+カルボン酸の性質
!分類
!名称
!示性式
!融点(℃)
!その他
|-
| rowspan="3" |飽和モノカルボン酸
|ギ酸
|HCOOH
|8.40℃
|アリから発見
|-
|酢酸
|CH{{sub|3}}COOH
|16.7 ℃
|食酢の成分
|-
|プロピオン酸
|CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}COOH
| -20.8℃
|乳製品に含まれる
|-
| rowspan="2" |不飽和モノカルボン酸
|アクリル酸
|CH{{sub|2}}=CHCOOH
|14℃
|塗料、接着剤など
|-
|メタクリル酸
|CH{{sub|2}}=CHCOOCH{{sub|3}}
|16℃
| --
|-
| rowspan="2" |飽和ジカルボン酸
|{{ruby|蓚|シュウ}}酸
|HOOC-COOH
|187℃(分解)
|ホウレン草などに存在
|-
|アジピン酸
|HOOC–(CH{{sub|2}}){{sub|4}}–COOH
|153℃
|ナイロンの原料
|-
| rowspan="2" |不飽和ジカルボン酸
|フマル酸
|C{{sub|2}}H{{sub|2}}(COOH){{sub|2}}
|300℃(封管中)
|植物に含まれる
|-
|マレイン酸
|C{{sub|2}}H{{sub|2}}(COOH){{sub|2}}
|133℃
|合成樹脂の原料
|-
| rowspan="2" |ヒドロキシ酸
|乳酸
|CH{{sub|3}}CH(OH)COOH
|17℃
|ヨーグルトの成分
|-
|酒石酸
|(CH(OH)COOH){{sub|2}}
|170℃
|ブドウの果実中に存在
|}
鎖式
 
分子中の炭素数が少ないカルボン酸を低級カルボン酸、炭素の多いカルボン酸を高級カルボン酸という。低級カルボン酸はカルボキシ基(-COOH)の性質が強く現れ、水に溶けて酸性を示す。この酸性の強さは、硫酸や硝酸・塩酸などの強酸よりは弱く、炭酸より強い。一方、高級カルボン酸は炭化水素としての性質が強く現れ、水に溶けにくい油状の固体である。
 
分子中のカルボキシ基の個数による分類もある。ギ酸や酢酸のように分子中にカルボキシ基を1つ持つカルボン酸を1価カルボン酸(モノカルボン酸: mono-carboxylic acid)といい、カルボキシ基を2つ持つカルボン酸を2価カルボン酸(ジカルボン酸: di-carboxylic acid)という。
 
脂肪族の1価カルボン酸を'''脂肪酸'''という。
 
=== ギ酸 ===
[[ファイル:Formic_acid_85_percent.jpg|サムネイル|ギ酸]]
'''ギ酸''' HCOOH は常温常圧では刺激臭のある無色の液体で、水溶液は酸性を示す。ギ酸は人体に有害で皮膚や粘膜を侵す。
 
ギ酸はホルミル基を持つため、還元性があり、酸化剤と反応させるとギ酸自身は酸化されて二酸化炭素となる。
[[ファイル:FormicAcid-Aldehyde_and_Carboxyl-ja.svg|中央|300x300ピクセル|ギ酸の分子構造]]
ギ酸は濃硫酸を加えて加熱すると一酸化炭素を生じる。
 
<chem>HCOOH -> H2O + CO ^</chem>
 
=== 酢酸 ===
[[ファイル:AceticAcid012.jpg|右|サムネイル|氷酢酸]]
'''酢酸''' CH{{sub|3}}COOH は常温常圧では刺激臭のある無色の液体で、水溶液は酸性を示す。
 
亜鉛などの金属と反応して水素を発生する。
 
: Zn + 2CH{{sub|3}}COOH &#x2192; (CH{{sub|3}}COO){{sub|2}}Zn + H{{sub|2}}↑
 
また、酢酸は弱酸だが炭酸よりは強い酸であるため、炭酸塩と反応して二酸化炭素を生じる。
 
: CH{{sub|3}}COOH + NaHCO{{sub|3}} &#x2192; CH{{sub|3}}COONa + H{{sub|2}}O + CO{{sub|2}}↑
 
また、酢酸は融点が17℃であり、純度の高い酢酸は冬場になると氷結してしまう。そのような酢酸を'''氷酢酸'''と呼ぶ。
 
酢酸は次のように2分子が水素結合で結合した二量体として存在する。
 
このため、酢酸の気体から分子量を測定する実験をすると、実験方法によっては、酢酸の分子量の約60の2倍の値である分子量120ほどの実験値が得られる場合もある。
 
これはその他のカルボン酸にも見られる。
[[ファイル:Acetic_Acid_Hydrogenbridge_V.2.svg|サムネイル|酢酸の二量体]]
カルボン酸が同程度の分子量のアルコールやアルカンよりも沸点や融点が高いのは、カルボン酸がこのように二量体を形成するからである。
 
=== マレイン酸とフマル酸 ===
'''マレイン酸'''と'''フマル酸'''(COOHCH=CHCOOH)はどちらも不飽和ジカルボン酸であり、シス-トランス異性体の関係にある。
{| class="wikitable"
|+幾何異性体
!マレイン酸(シス形)
!フマル酸(トランス形)
|-
| [[ファイル:Maleic_acid.svg|マレイン酸]] 
| [[ファイル:Fumaric_acid-structure.svg|フマル酸]] 
|}
マレイン酸とフマル酸の化学的性質は大きく異なる。
 
マレイン酸は160℃で加熱すると脱水反応を起こし'''無水マレイン酸'''になる。これは、2つのカルボキシ基の位置関係の違いによるものである。カルボキシ基の位置が遠いトランス形のフマル酸ではこの反応は起こらない。
[[ファイル:Maleic_acid_dehydration-ja.svg|中央|マレイン酸の脱水]]
{{コラム|水溶性の差と化学極性|マレイン酸は水に溶けやすいが、フマル酸は水に溶けにくい。この溶解性の差は、化学極性の違いだろうと考えられている<ref>三省堂『化学I・IIの新研究』、卜部吉庸 著</ref>。 (シス型である)マレイン酸のほうが極性分子である と考えられており、いっぽう(トランス型である)フマル酸は無極性分子である と考えられている。}}
 
=== その他のカルボン酸 ===
カルボン酸は果物に多く含まれている。たとえばブドウに含まれる酒石酸や、柑橘類に含まれるクエン酸、リンゴに含まれるリンゴ酸はいずれもカルボン酸である。
 
分子中にCOOH基とOH基をもつカルボン酸を'''ヒドロキシ酸'''(Hydroxy acid)という。
 
乳酸は、糖類の発酵によって生じる。
 
==== 光学異性体 ====
[[ファイル:Lactic-acid_enantiomer_jp.svg|サムネイル|500x500ピクセル|乳酸の光学異性体]]
乳酸(lactic acid)は、ヨーグルトなどの乳製品に含まれているヒドロキシ酸であるが、この乳酸は炭素原子に結合している4つの原子や原子団が、4つとも異なる。このように、4本のうでにそれぞれ異なる置換基が結合した炭素原子を、'''不斉炭素原子'''(asymmetric carbon atom)という。たとえば、乳酸(CH{{sub|3}}CH(OH)COOH)には不斉炭素原子が1個存在する。
[[ファイル:Lactic_acid-stereocenter.svg|中央|300x300ピクセル|乳酸の不斉炭素原子]]
上図を見ると分かるように、*印をつけた炭素原子の周りに、それぞれ色分けされた4つの異なる置換基が結合しているのが分かる。この*印がついた炭素原子が不斉炭素原子である。
 
ここで上の構造式は平面上に書かれているが、現実にはこの分子は立体として存在する。不斉炭素原子を中心とした正四面体の各頂点に、結合軸が配置しているのである。すると、構造式が上のように同一であっても、立体的にはどう動かしても重ね合わせることのできないものが存在する。これらは、たがいに鏡に写した関係にある。
 
このように、構造式が同一であるにもかかわらず立体的には重ね合わせることのできない異性体を'''光学異性体'''(optical isomer)といったり、あるいは'''鏡像異性体'''(enantiomer)とよぶ。
 
光学異性体の一方をL体といい、もう一方をD体という。
 
L体とD体との関係のたとえとして、よく、右手と左手との関係にたとえられる(検定教科書でも、そういう例えが多い)。
 
光学異性体は、L体とD体とで、融点や密度などほとんどの物理的性質は同じだし、化学反応に対する化学的性質も同じである。しかし、偏光に対する性質や、また、味や におい などの生理作用が異なる。 偏光については、L体とD体とで、偏光をする向きが逆方向である。
 
乳酸のほかにも、アミノ酸の一種であるアラニンにも不斉炭素原子が存在し、よって光学異性体が存在する。
 
なお、乳酸は、近年では、生分解性樹脂の原料としても、活用されている。
 
<!--
== 不斉合成 ==
 
* ラセミ体
 
香料などに使われるメントールはアルコールの一種であるが、メントールには''l''体と''d''体とがあり、このうち香料としての作用があるのは''l''体のみである。光学異性体をもつ化合物を、通常の方法で化学合成して作ろうとすると、''l''体と''d''体との等量混合物(「ラセミ体」という)ができてしまう。
 
しかし近年、特別な触媒を用いた合成によって、さまざまな光学異性体の化合物の''l''体と''d''体とを区別して、そのうちの一方だけを選択的に合成できる手法が確立された(不斉合成、「ふせい ごうせい」)。
[[ファイル:Menthol_synthesis.png|サムネイル|600x600ピクセル|ミルセンをもとにした、メントールの不斉合成]]
そのような不斉合成の例として、''l''-メントールの不斉合成がある。
 
メントールには図のように、環状部分があり、そのため、表裏があり、そのため、無計画な合成反応では''l''体と''d''体とが生じてしまう。(キシレンやベンゼンなど、最初から環の形をした化合物に置換基を足していく方法だと、''l''体だけを合成することはできない。)
 
日本の野依良治(のより りょうじ)は、''l''-メントールをめざす(不斉)合成のさい、ミルセンという非環状アルケン化合物をもとに、メントルの非環状部分に近い構造を先に合成しておき、あとから別の反応で、このメントールの環状部分に相当する部分に閉じる方法をもちいることにより、高収率で''l''-メントールを不斉合成する方法を発見した。野依はそのほかにも不斉合成に関する業績を多く持ち、その業績によりノーベル化学賞を2001年に受賞した。
[[ファイル:BINAP_Enantiomers_Structural_Formulae_V.1.svg|サムネイル|300x300ピクセル|BINAP触媒]]
また、この''l''-メントールなどの不斉合成の際に用いる触媒であるBINAP(バイナップ)触媒は、野依が開発した。
[[ファイル:BINAP_3D.png|左|サムネイル|BINAP触媒の立体構造]]
 
: BINAP触媒のビナフチル骨格は、図のようにねじれた構造になっており、そのねじれが時計まわり、または反時計まわりのいずれかになっている。時計回りと反時計まわりとの間の相互変換は、かさ高い-P(C6H5)2(ジフェニルホスフィノ)基と上下のナフチル基で向かい合った(ぺリ位という位置)水素によって妨げられる。すなわち、一定の方向のねじれを有するため、特定の立体構造を選択できる。
 
なお、ミルセンそのものは、松やハッカや月桂樹などの植物に含まれる化合物でもある。(※ ウィキペディア日本語版『ミルセン』による)工業的には、松などに含まれるビネンなどの熱分解で合成できる。
 
: なお、BINAP触媒そのものにも、時計まわりのものと反時計まわりのものがあり、それぞれ鏡像異性体の関係である。(乳酸のような不斉炭素原子による不斉を中心不斉と呼ぶのに対して、BINAPのそれは軸不斉と呼ぶ。大学以上の内容です。)
-->
== 入試範囲 ==
 
=== 水溶液中の水素結合 ===
カルボン酸が比較的に水に溶けやすいものが多いのは、水素結合によると考えられている。
 
水溶性については、カルボン酸は水と水素結合を形成するため、カルボン酸は水に溶けやすい。(※ 参考文献: 山口良平『ベーシック有機化学』、東京化学同人、2015年2版、P152) また、カルボン酸と同程度の分子量のアルコールよりも、カルボン酸は水溶性が高い。(※ 参考文献: 新井貞夫、『工学のための有機化学』、サイエンス社、2014年新版、P212)
 
とはいえ、酢酸こそ水に溶けやすいものの、無水酢酸は水に溶けにくい(検定教科書の範囲)のように例外的な事例もある。(※ 高校教科書で紹介しないのも、このように、それなりの理由があるのだろう。)
 
== ※ 範囲外: カルボン酸の電離しやすさの理由 ==
{{コラム|カルボン酸の電離しやすさの理由 (※ 範囲外)|酢酸はカルボン酸であるが、「酢酸の水素が電離する際に、なんでカルボキシ基の側の水素だけが電離するのか? メチル基の側の水素は電離しないのは、なぜだろう?」という疑問を思う高校生もだろう。
 
答えのヒントをいうと、カルボン酸の二重結合がヒントである。
 
もちろん化学は実験にもとづく学問であるから、実験結果は最終的に覚えてもらわないといけないわけで、「酢酸の水素が電離する際に、カルボキシ基の側の水素だけが電離する。けっしてメチル基の側の水素は電離しない。」という事も、覚えてもらう必要がある。
 
[[File:Resonance CH3COO delocalize.svg|thumb|300px|left|酢酸イオンの共鳴の構造 (※ 高校範囲外なので、覚えなくて良い)]]
 
いくつかの理由が考えられているが、有力説のひとつとして、「共鳴」構造という理論がある。
 
* 「共鳴」
図のように、電離した結果、二重結合の結合手は1本ぶん余るが、その結合手はけして、どちらか片方の酸素原子Oに局在してるのではなくて、両方の酸素原子に共有されている、と考えられている。}}
 
 
 
== エステル ==
カルボン酸とアルコールを反応させると脱水反応が起こり、構造式 -COO- で表される'''エステル結合'''(ester bond)を持つ化合物が生成する。このようなエステル結合をもつ化合物を'''エステル'''(ester)といい、エステルを生成する脱水反応を'''エステル化'''(esterification)という。
[[File:Esterification-ja.png|500px|center|エステル化]]
比較的小さな分子量のエステルは果物に似た香りを持つため、香料に使用されるものもある。また、自然界にも、果実の香り成分として、小さな分子量のエステルが存在している。
 
エステルは水には溶けにくく、有機溶媒に溶ける。
 
エステルは水と反応してカルボン酸とアルコールに分解される。このようにエステルに水を加えて分解する反応を'''加水分解'''という。
[[File:氧化酯基.PNG|400px|center|加水分解]]
エステル化反応は可逆反応であり、エステル化と同時に加水分解も起こっている。そのため、エステルを多く生成するためにしばしば脱水剤や触媒として濃硫酸が用いられる。
 
== 酢酸エチル ==
酢酸とエタノールの混合物に触媒として濃硫酸をくわえて加熱すると、'''酢酸エチル'''(さくさんエチル、ethyl acetate)CH3-COO-C2H5 が得られる。
:CH<sub>3</sub>-CO-OH + H-O-C<sub>2</sub>H<sub>5</sub> → CH<sub>3</sub>-COO-C<sub>2</sub>H<sub>5</sub> + H<sub>2</sub>O
 
酢酸エチルは、果実のような香りをもつため、香料として用いられる。
酢酸エチルは、沸点77℃であり、揮発性の液体であり、水より軽い。
 
== けん化 ==
エステルは、水酸化ナトリウムのような強塩基の水溶液をくわえて加熱すると、カルボン酸の塩とアルコールに加水分解される。このような、強塩基によるエステルの分解反応を'''けん化'''(saponification)という。
: R-COO-R' + NaOH &rarr; R-COONa + R'-OH
 
== カルボン酸以外のエステル ==
カルボン酸とアルコールの反応だけではなく、オキソ酸とアルコールとの間の脱水反応もエステル化と呼ぶ。例えば、アルコールであるグリセリンと、オキソ酸である硝酸が脱水・エステル化すると、'''ニトログリセリン'''を生じる。ニトログリセリンは爆発性のある物質で、ダイナマイトなどに用いられる。
:CH{{sub|2}}(OH)-CH(OH)-CH{{sub|2}}OH + 3HNO{{sub|3}} &rarr; CH{{sub|2}}(ONO{{sub|2}})-CH(ONO{{sub|2}})-CH{{sub|2}}ONO{{sub|2}}
:[[File:Nitroglycerin vzorec.png|center|thumb|ニトログリセリン]]
 
 
== 予備知識 ==
 
{| class="wikitable" align=right
|+ カルボン酸の分類
|-
|- style="background:silver"
! 分類 !! 名称 !! 化学式 !! 融点(℃) || 備考
|-
| rowspan="6" |飽和<br>モノカルボン酸
| ギ酸 || HCOOH || 8 || アリの体内で発見された
|-
| 酢酸|| CH{{sub|3}}COOH || 17 || 食酢の主成分
|-
| プロピオン酸 || CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}COOH || ー21 || 乳製品によく含まれる
|-
| 酪酸(らくさん) || CH{{sub|3}}CH{{sub|2}}CH{{sub|2}}COOH || ー5 || バターの成分
|-
 
| パルミチン酸 || C{{sub|15}}H{{sub|31}}COOH || 63 || 油脂に含まれる {{sub|}}
|-
| ステアリン酸 || C{{sub|17}}H{{sub|35}}COOH|| ー5 || 油脂に含まれる
|-
 
| rowspan="4" | 不飽和<br>モノカルボン酸
| メタクリル酸 || CH{{sub|2}}=C(CH{{sub|3}})COOH || 16 || 合成樹脂の原料
|-
| オレイン酸 || C{{sub|17}}H{{sub|33}}COOH || 13 || C,C間の二重結合が1個
|-
| リノール酸 || C{{sub|17}}H{{sub|31}}COOH || ー5 || C,C間の二重結合が2個
|-
| リノレン酸 || C{{sub|17}}H{{sub|29}}COOH || ー11 || C,C間の二重結合が3個
|-
 
| rowspan="2" | 飽和<br>ジカルボン酸
| シュウ酸 || (COOH){{sub|2}} || 182℃で<br>分解 || 還元性あり。<br>酸化還元滴定で使用。<br>カタバミに含まれる。
|-
| アジピン酸 || [[File:Adipic acid 2.svg|150px|アジピン酸]] || 153 || ナイロンの原料
|-
 
| rowspan="2" | 不飽和<br>ジカルボン酸
| マレイン酸 || [[File:Maleic acid.svg|マレイン酸|150px]] || 133 || 幾何異性体。シス形。
|-
| フマル酸 || [[File:Fumaric acid-structure.svg|フマル酸|150px]] || 300 || 幾何異性体。トランス型。
|-
 
| rowspan="2" | ヒドロキシ酸
| 乳酸 || [[File:Lactic acid-stereocenter.svg|120px|center|乳酸の不斉炭素原子]] || 17 || ヨーグルトなど<br>乳製品に多い。
|-
| 酒石酸 || [[File:Tartaric acid 2.svg|130px|酒石酸..]] || 170 || ブドウの果実中にある。
|-
 
|}
<br />
 
「油脂」の定義は、あまり化学的に厳密ではない。よく用いられる定義は、「油脂は、グリセリン (C<sub>3</sub>H<sub>5</sub>)OHと脂肪酸とのエステルである」という定義である。しかし、高級脂肪酸とのエステルに限定する場合もある(啓林社の教科書)。
 
一般に、パルミチン酸などの脂肪酸を化学式に含むものを、「油脂」という場合が多い。
 
 
動植物の体内の「油」や「脂肪」といわれるものには、この組成(グリセリン (C<sub>3</sub>H<sub>5</sub>)OHと脂肪酸とのエステル)のものが多いので、(特別あつかいしてか、)「油脂」という用語がある。(※ 検定教科書や大学教科書では、厳密性を重視してか、こういう説明は無い。しかし、こういう背景事情が無いと、なぜ、こういう用語があるのか意味不明だろう。)
 
 
 
英語の fat and oil が、日本語の「油脂」の意味に近い。(実教出版の化学資料集では、fats and oils を油脂の英訳としている。)
 
 
ただし、一般に単に「油」 oil とだけ言った場合、かならずしもグリセリンや脂肪酸を含むとは限らないので、気をつける必要がある。
 
 
 
 
さて、カルボン酸には、パルミチン酸のように脂肪の成分になっているものが多い。
 
このため、鎖状の炭化水素基と1つのカルボキシル基からなる鎖状モノカルボン酸を'''脂肪酸'''という。なお、「油脂」を加水分解すると、脂肪酸とグリセリンが得られる (定義から当然。脂肪酸とグリセリンの化合物を「油脂」というから)(反応式については、詳しくは後の節で後述する)。
 
 
さて、脂肪酸のうち、炭素間の結合がすべて単結合のものを'''飽和脂肪酸'''という。いっぽう、脂肪酸のうち、二重結合や三重結合を含むものを'''不飽和脂肪酸'''という。
 
脂肪酸の構造中、不飽和化(二重結合や三重結合が多いほど)しているほど、融点は低い。
 
いっぽう、飽和脂肪酸(つまり単結合ばかりの脂肪酸)は比較的、融点が高い(つまり、融けにくい)。
 
そのため飽和脂肪酸は、室温で固体のものが多い。
 
 
いっぽう、不飽和脂肪酸は、融点が低い。なので不飽和脂肪酸は、室温で液体のものが多い。
 
また脂肪酸は、分子中の炭素数によっても分類され、炭素の多いものを'''高級脂肪酸'''、少ないものを'''低級脂肪酸'''という。
 
天然の油脂を構成する脂肪酸には、炭素数が16〜18の高級脂肪酸のものが多い。
 
 
さて、冒頭の表中に「ヒドロキシ酸」とある。分子中にヒドロキシ基 -OH とカルボン基 -COOH の両方をもつカルボン酸のことを'''ヒドロキシ酸'''という。乳酸やクエン酸、リンゴ酸や酒石酸がヒドロキシ基である。
 
{{-}}
== 油脂 ==
[[File:油脂の構造.svg|thumb|300px|油脂の構造]]
 
[[File:Glycerol structure.svg|thumb|グリセリン]]
 
ごま油や牛脂などの'''油脂'''(ゆし、fats and oils)は、脂肪酸とグリセリン (C<sub>3</sub>H<sub>5</sub>)OH がエステル結合したものである。
 
つまり、ごま油も牛脂も、脂肪酸とグリセリン (C<sub>3</sub>H<sub>5</sub>)OH がエステル結合したものだという共通性がある。
 
 
なお天然の油脂を構成する脂肪酸には、パルミチン酸やステアリン酸のような高級脂肪酸が多い。
 
油脂のうち、室温で固体の油脂を'''脂肪'''(しぼう、fat)といい、液体の油脂を'''脂肪油'''(fatty oil)という。
 
脂肪は飽和脂肪酸により構成されているものが多く (飽和脂肪酸は融点が高いので)、いっぽう脂肪油は不飽和脂肪酸により構成されているものが多い。
 
 
油脂を構成する脂肪酸は様々であるが、天然に存在する脂肪酸は常に分子中の炭素の個数が偶数個となっている。飽和脂肪酸は直線状の分子となっているが、不飽和度が高くなるほど分子は折れ曲がった形状となる。以下に、油脂を構成する主な脂肪酸の例を示す。
{|border=1 cellspacing=0 align=center text-align=center style="text-align:center;"
|- style="background:silver"
! &nbsp; !! 飽和脂肪酸!!colspan="2" | 不飽和脂肪酸
|-
| 名称 || '''ステアリン酸''' || '''オレイン酸''' || '''リノール酸'''
|-
| 示性式 || C{{sub|17}}H{{sub|35}}COOH || C{{sub|17}}H{{sub|33}}COOH || C{{sub|17}}H{{sub|31}}COOH
|-
| 分子模型 || [[File:Stearic acid spacefill.gif|200px|ステアリン酸分子模型]] || [[File:Oleic-acid-3D-vdW.png|200px|オレイン酸分子模型]] || [[File:Linolenic-acid-3D-vdW.png|200px|リノール酸分子模型]]
 
|}
 
[[File:Breakfast - bread, margarine and honey.jpg|thumb|硬化油の例 - マーガリン]]
 
不飽和脂肪酸の炭素間二重結合では、『[[高等学校化学I/炭化水素#アルケン|アルケン]]』と同様に付加反応が起こる。油脂を構成する不飽和脂肪酸に、ニッケル Ni を触媒として用いて水素を付加させると、融点が高くなるため、常温では固体の油脂へと変化する。このようにして脂肪油から生じた固体の油脂を'''硬化油'''(こうかゆ、hardened oil)という。植物油をもととする硬化油はマーガリンなどに用いられる。硬化により飽和脂肪酸とすることには、長期間の保存の間に空気中の酸素が不飽和結合に付加して酸化されることを防ぐ役割もある。
 
{{-}}
 
== 油脂のけん化 ==
油脂に水酸化ナトリウムを加えて加熱すると、油脂は'''けん化'''されて、高級脂肪酸のナトリウム塩('''セッケン''')とグリセリンになる。
洗い物などでもちいる石鹸(せっけん)とは、このような高級脂肪酸のナトリウム塩である。
 
[[File:セッケンの反応式.svg|800px|]]<br />
 
さて、油脂1分子に、エステル結合が3つある。よって油脂1molのけん化には、水酸化ナトリウム3molが必要になる。
 
セッケンは弱酸と強塩基の塩であるが、水中ではセッケンは一部が加水分解し、弱塩基性を示す。
 
:R-COONa + H<sub>2</sub>O → R-COOH + Na<sup>+</sup> + OH<sup>-</sup>
 
セッケンの炭化水素基部分(図中 R- の部分)は疎水性である。セッケンのカルボキシル基COONaの部分は親水性である。
 
[[File:MicelleColor.png|thumb|right|250px|ミセル]]
水中では、多数のセッケンの疎水基の部分どうしが集まり、親水基を外側にして集まる構造のコロイド粒子の'''ミセル'''(micelle)になる。
 
セッケン分子のように、分子中に親水基と疎水基を合わせ持つ物質を'''界面活性剤'''(かいめん かっせいざい)という。
 
セッケン水に油を加えると、セッケンの疎水部分が油を向いて、多数のセッケン分子が油を取り囲むので、油の小滴が水中に分散する。このような現象を'''乳化'''(にゅうか、emulsification)という。そして、セッケンのように、乳化をおこさせる物質を'''乳化剤'''(にゅうかざい)という。
 
セッケンの洗浄作用の理由は、主に、この乳化作用によって、油を落とすことによる。
 
セッケンは水の表面張力を低下させる。
 
 
なお、マヨネーズに含まれる、卵黄のレシチンも、乳化剤である。
 
== 硬水との関係 ==
セッケンがカルシウムイオンCa<sup>+</sup>やマグネシウムイオンMg<sup>+</sup>などの溶けた硬水と混じると、水に溶けにくい塩 (R-COO)<sub>2</sub>Ca などが生じるので、セッケンの泡立ちが悪くなる。
 
 
== セッケン ==
油脂は脂肪酸とグリセリンのエステルであった。したがって、油脂に水酸化ナトリウム水溶液を加え加熱すると'''けん化'''して、高級脂肪酸のナトリウム塩を生じる。この高級脂肪酸の塩を'''セッケン'''という。脂肪酸は弱酸であり、水酸化ナトリウムは強塩基であるから、これらの塩であるセッケンの水溶液は弱塩基性を示す。
 
[[File:セッケンの反応式.svg|800px|]]<br />
 
セッケン分子は、水に溶けにくく油となじみやすい'''疎水性'''の炭化水素基と、水に溶けやすい'''親水性'''のイオン基からなる。
:[[File:セッケン分子の構造.svg|400px|セッケン分子の構造]]
 
[[File:Micel olie in water.gif|thumb|ミセル]]
このセッケン分子は疎水部を内側に、親水部を外側に向けて寄り集まった状態で集まって粒子(ミセル)を形成し、水に溶けている。水溶液中に油が存在すると、セッケン分子が油の周囲を取り囲み、疎水部は油となじみ、親水部は外側へ向いて、微粒子を形成し水溶液中へ分散し、水溶液は白濁する。この現象を'''乳化'''という。
[[File:Mydlo micela-tuk.png|center|乳化作用]]
この乳化作用により、油汚れを洗浄することができる。
 
また、セッケンのように、水と油の界面に配列する物質を'''界面活性剤'''(かいめんかっせいざい)あるいは乳化剤(にゅうかざい)という。
 
食品でも、マヨネーズの油と水をくっつける、卵黄のレシチンも乳化剤である。
 
なお、一般に、水と油の界面に配列する物質が、食べられない物質の場合に「界面活性剤」という場合が多い。いっぽう、食品などからつくった場合などで、食べられる場合には「乳化剤」という場合が多い。明確には決まっていない(検定教科書でも、とくに決められてはいない)。
 
== 界面活性剤の分類 ==
 
陽イオン界面活性剤には、洗浄力は無く、柔軟剤などとして使われる。陽イオン界面活性剤による洗剤は、'''逆性セッケン'''とも言われる。
 
{| class="wikitable"
|+ 界面活性剤の分類
|-
! 分類 !! 構造 !! 特徴 !! 用途
|-
| 陰イオン性<br />界面活性剤 || [[File:硫酸アルキルナトリウム.svg|400px|]] || 親水基が<br />陰イオン || 台所用洗剤<br />シャンプー<br />洗濯用洗剤
|-
| 陽イオン性<br />界面活性剤 || [[File:アルキルトリメチルアンモニウム塩化物.svg|400px|]] || 親水基が<br />陽イオン || 柔軟剤<br />リンス<br />殺菌剤
|-
| 両性<br />界面活性剤 || [[File:Nアルキルベタイン.svg|550px|]] || 親水基に<br />陰イオンと陽イオンの<br />両方をもつ || 食器用洗剤<br />柔軟剤<br />リンス<br />シャンプー
|-
| 非イオン<br />界面活性剤 || ポリオキシエチレンアルキルエーテル<br />CH<sub>3</sub>-CH<sub>2</sub>-CH<sub>2</sub>-・・・-CH<sub>2</sub>-O(CH<sub>2</sub>CH<sub>2</sub>O)<sub>n</sub>H || 親水基が電離しない || 衣料用洗剤<br />乳化剤<br />
|-
|}
 
セッケンは、陰イオン性界面活性剤である。
 
両性界面活性剤は、酸性溶液中では陽イオンになり、塩基性溶液中では陰イオンになる。
 
== 合成洗剤 ==
しかし、セッケン分子はカルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応して水に溶けにくい塩を生じる。そのため、イオンを多く含む硬水や海水中では洗浄力が落ちる。
 
このようなセッケンの短所を改良したアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム R-C{{sub|6}}H{{sub|4}}-SO{{sub|3}}{{sup|-}}Na{{sup|+}}(略称:ABS)やアルキル酸ナトリウム R-SO{{sub|3}}{{sup|-}}Na{{sup|+}} (略称:AS)は、高級アルコールや石油などから人工的に合成される。
 
これらアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムやアルキル酸ナトリウムを'''合成洗剤'''(ごうせい せんざい、synthetic detergent)という。
 
* ASの製法
ASの製法は、高級アルコールの1-ドデカノール C<sub>12</sub>H<sub>25</sub>-OH に濃硫酸 H2SO4 を作用させるとエステル化されることで硫酸水素ドデシル C<sub>12</sub>H<sub>25</sub>-SO{{sub|3}}H ができ、この硫酸水素ドデシルを水酸化ナトリウムで中和することで硫酸ドデシルナトリウム C<sub>12</sub>H<sub>25</sub>-SO{{sub|3}}Na が得られる。
 
 
[[File:硫酸ドデシルナトリウムの合成式.svg|700px|硫酸ドデシルナトリウムの合成式 :C<sub>12</sub>H<sub>25</sub>-OH → C<sub>12</sub>H<sub>25</sub>-SO{{sub|3}}H → C<sub>12</sub>H<sub>25</sub>-SO{{sub|3}}Na]]
 
* ABSの製法
炭化水素基が結合したベンゼン(アルキルベンゼン)を濃硫酸とスルホン化すると、アルキルベンゼンスルホン酸が得られる。このアルキルベンゼンスルホン酸を水酸化ナトリウムで中和することでアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが得られる。
 
[[File:アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの合成式.svg|700px|アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの合成式]]
 
=== 合成洗剤の性質 ===
セッケン水溶液は弱塩基性である。いっぽう、合成洗剤は強酸と強塩基の塩であるため、加水分解せず、よってアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの水溶液は中性である。また、合成洗剤は、硬水中でも持ち手も、不溶性の沈殿を作りにくい。
 
合成洗剤の分子は、疎水部と親水部からなり、乳化作用により油汚れを洗浄することができる。
 
=== 洗濯用洗剤のビルダー ===
合成洗剤には、その洗剤としての働きを助けるため、界面活性剤以外にも、さまざまな成分が入っている。
 
ひとくちの合成洗剤といっても、台所用洗剤や洗濯用洗剤など、いろいろとあり、その種類によって、組成などの違う。
 
洗濯用洗剤では、合成洗剤の添加剤を'''ビルダー'''(builder)という。
 
 
たとえば、洗浄力を落とすカルシウムイオンやマグネシウムイオンを取り除くため(合成洗剤はセッケンとは違い、これらのイオンがある硬水でも洗浄力を持つが、それでも、これらのイオンが無い軟水のほうが良い洗浄効果をもつ)、'''ゼオライト'''(アルミノケイ酸ナトリウム)などが入ってる。
 
なお、かつてリン酸塩がこれらのイオンを除くための添加剤として用いられていたが、排水が河川などの富栄養化をまねき水質汚染の原因となるため、現在はあまり用いられてない。日本では、1980年ごろから、合成洗剤での水の軟水化のための添加剤がリン酸塩からゼオライトに切り換えられた。
 
そのほか、タンパク質汚れを落とすための分解酵素プロテアーぜや、油汚れを落とすための脂肪分解酵素リパーぜなど、酵素が添加されていたりする。
 
また、一般にアルカリ性のほうが汚れが落ちやすいので、炭酸ナトリウムが添加剤として加えられる。なお、台所洗剤やシャンプーでは、アルカリが身体を痛めるため、このようなアルカリ性の物質は加えられない。