「民法第709条」の版間の差分

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===== 因果関係の立証責任 =====
不法行為に基づく損害賠償請求を行うためには、原告側が侵害行為と損害の間の因果関係を立証しなければならない。しかし、公害事件や医療過誤事件など、一般市民である被害者には挙証が難しいケースも多い。このため、判例法理や立法的解決によって立証責任の軽減が図られてきた。
 
;蓋然性説:因果関係の100%までを原告側で立証する必要はなく、蓋然性が認められる範囲まで立証すれば、その時点で因果関係が推定され、その後は被告側が反証に成功しない限り因果関係は肯定されるとする理論。
 
;疫学的因果関係:公害など、多くの因子が被害に絡む場合に、侵害行為と被害発生との間に統計的な有意性が認められれば因果関係を肯定しようという理論。[[w:四日市ぜんそく|四日市ぜんそく]]訴訟で用いられた。
 
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===== 損害賠償の範囲 =====
:不法行為から生じた全損害について賠償させるのは、被告にとって過酷であることから、相当因果関係説によって損害賠償の範囲が制限される。
:判例は債務不履行責任における損害賠償の範囲の規定([[民法第416条|416条]])を不法行為に類推適用し、原則として「通常生ずべき損害」の賠償で足り、「当事者がその損害を予見し、または予見することができたとき」は「特別の事情によって生じた損害」まで賠償する必要があると考えている(富貴丸事件:大連判大正15年5月22日)。ただし、学説上は、有力な反対意見があり長年議論されている([[#特別事情|判例;大隈健一郎裁判官反対意見参照]])。
===== 損害賠償額の算定 =====
:物の滅失に関する損害賠償額は、物の交換価格による。交換価格の算定基準時が問題になるが、原則として物の滅失時とする。ただし被害者があらかじめその物の転売を予定していて、滅失後に高騰することを「予見し、又は予見することができたとき」([[民法第416条|416条2項]])のであれば、騰貴時とすることも考えられる(富貴丸事件判決)。
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#:会社を被申請人とする仮処分命令が、同会社に対しては被保全権利が存在しないとして取り消された場合においても、右会社の取締役が会社の営業と競合する事業を個人として営んでいたため、仮処分申請人が被申請人を右取締役個人とすべきであるにもかかわらず、これを右会社と誤認した等判示の事実関係のもとにおいては、右仮処分命令を取り消す判決が確定しても、この一事をもつて、ただちに右申請人に過失があつたものとすることはできない。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55036 抵当権設定登記抹消登記手続等請求](最高裁判決 昭和44年2月27日)
#;不法行為による損害と弁護士費用
#:不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=70377 約束手形金請求](最高裁判決 昭和45年5月22日)[[民法第715条]],[[手形法第43条]]
#;偽造手形の取得者の損害賠償請求権と手形法上の遡求権との関係
#: 対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額につき、ただちに損害賠償請求権を行使することができ、手形の所持人としてその前者に対し手形法上の遡求権を有することによつては、損害賠償の請求を妨げられることはない。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54169 損害賠償請求](最高裁判決 昭和45年7月24日)[[民法第147条]]1号,[[民法第149条]],[[所得税法第9条]]1項21号,民訴法235条(現[[民事訴訟法第147条|147条]])
#;一部請求の趣旨が明示されていない場合の訴提起による時効中断の範囲
#:一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは、訴提起による消滅時効中断の効力は、右債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶ。
# <span id="訴訟物の個数"></span>[http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51932 損害賠償請求](最高裁判決 昭和48年4月5日)民事訴訟法第186条(現[[民事訴訟法第246条|第246条]]),民事訴訟法224条1項(現[[民事訴訟法第133条|第133条]]2項),[[民法第722条]]2項
#;身体傷害による財産上および精神上の損害の賠償請求における請求権および訴訟物の個数
#:同一事故により生じた同一の身体傷害を理由として財産上の損害と精神上の損害との賠償を請求する場合における請求権および訴訟物は、一個である。(→[[民法第722条#訴訟物|過失相殺への適用]])
# <span id="特別事情"></span>[http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51910 損害賠償請求](最高裁判決 昭和48年6月7日)[[民法第416条]],[[民事訴訟法第746条]]<!--旧法-->,[[民事訴訟法第755条]]<!--旧法-->,[[民事訴訟法第756条]]<!--旧法-->
#;不法行為による損害賠償と民法416条
#:不法行為による損害賠償についても、[[民法第416条]]の規定が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。
#:*<small>'''[[w:大隅健一郎|大隅健一郎]]反対意見'''(適宜抽出引用及び改行)
#:*:債務不履行の場合には、当事者は合理的な計算に基づいて締結された契約によりはじめから債権債務の関係において結合されているのであるから、債務者がその債務の履行を怠つた場合に債権者に生ずる損害について予見可能性を問題とすることには、それなりに意味があるのみならず、もし債権者が債務不履行の場合に通常生ずべき損害の賠償を受けるだけでは満足できないならば、特別の事情を予見する債権者は、債務不履行の発生に先立つてあらかじめこれを債務者に通知して、将来にそなえる途もあるわけである。これに反して、多くの場合全く無関係な者の間で突発する不法行為にあつては、故意による場合はとにかく、過失による場合には、予見可能性ということはほとんど問題となりえない。(略)その結果、民法416条を不法行為による損害賠償の場合に類推適用するときは、立証上の困難のため、被害者が特別の事情によつて生じた損害の賠償を求めることは至難とならざるをえない。
#:*:そこで、この不都合を回避しようとすれば、公平の見地からみて加害者において賠償するのが相当と認められる損害については、特別の事情によつて生じた損害を通常生ずべき損害と擬制し、あるいは予見しまたは予見しうべきでなかつたものを予見可能であつたと擬制することとならざるをえないのである。そうであるとするならば、むしろ、不法行為の場合においては、各場合の具体的事情に応じて実損害を探求し、損害賠償制度の基本理念である公平の観念に照らして加害者に賠償させるのが相当と認められる損害については、通常生ずべきものであると特別の事情によつて生じたものであると、また予見可能なものであると否とを問わず、すべて賠償責任を認めるのが妥当であるといわなければならない。不法行為の場合には、無関係な者に損害が加えられるものであることからいつて、債務不履行の場合よりも広く被害者に損害の回復を認める理由があるともいえるのである。
#:*:不法行為による損害賠償責任が認められるためには、行為と損害との間に、その行為がなかつたならば当該損害は生じなかつたであろうという関係が存しなければならないが、かような事実的な因果の連鎖は際限のないものであるから、法律上の問題としては、右のような事実的因果関係の存在を前提としながら、そのうちどの範囲の損害を行為者に賠償させるのが妥当かという考慮が必要とされる。これがいわゆる法律上の因果関係の問題であるが、従来法律上の因果関係の問題として論じられていたものの中には、過失の問題、賠償額の算定(いかなる価格によるべきか、その価格の算定は何時を基準とすべきか)の問題など、本来因果関係の範疇の外にある問題が混入していることを注意しなければならない。また、行為との間に事実的因果関係のある損害につきどこまで行為者に賠償させるのが妥当かということは、いうまでもなく価値判断の問題であつて、事実として確定されるものではない。それは、各個の事件ごとに、その事実関係の中から、不法行為制度の基本理念である公平の観念に照らして導かれるべきものであつて、不法行為における損害賠償責任の正しい限界づけは、個々の判例の中から類型的に帰納されえても、一般的な公式によつて定められるべきものではない。
#:*:以上述べたところは財産的損害の賠償についてであつて、慰籍料については、裁判所が、諸般の事情を斟酌して、自由裁量により決することをうるものと考える。</small>
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52072 慰藉料請求](最高裁判決 昭和49年3月22日)
#;責任能力のある未成年者の不法行為と監督義務者の不法行為責任
#:未成年者が責任能力を有する場合であつても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。([[民法第714条#解説]]参照)
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=66816 損害賠償請求](最高裁判決 昭和49年6月27日)
#;将来の支出が予想される手術費用の損害賠償が認められた事例
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52130 損害賠償、敷金返還請求](最高裁判決 昭和50年1月31日)[[民法第415条]],[[商法第665条]]<!--旧法-->
#:交通事故により顔面に負傷した被害者の傷痕及び大腿部の採皮痕がケロイド状醜痕としてのこり、これを除去するための美容的形成手術費等の将来の支出が治療上必要であり、かつ、確実と認められるときには、右支出による損害の賠償を現在の請求として求めることができる。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54204 損害賠償請求](最高裁判決 昭和50年10月24日)[[国家賠償法第1条]]1項,民訴法185条(現247条),民訴法394条(現312条1, 3項)
#;医師が化膿性髄膜炎の治療としてしたルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)の施術とその後の発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定したのが経験則に反するとされた事例
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54197 損害賠償代位請求、損害賠償請求](最高裁判決 昭和50年10月24日)[[国家公務員等退職手当法第2条]]1項1号,[[国家公務員共済組合法第88条]],国家公務員災害補償法(昭和41年法律第67号による改正前のもの)15条
#:重篤な化膿性髄膜炎に罹患した三才の幼児が入院治療を受け、その病状が一貫して軽快していた段階において、医師が治療としてルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)を実施したのち、嘔吐、けいれんの発作等を起こし、これにつづき右半身けいれん性不全麻癖、知能障害及び運動障害等の病変を生じた場合、右発作等が施術後15分ないし20分を経て突然に生じたものであつて、右施術に際しては、もともと血管が脆弱で出血性傾向があり、かつ、泣き叫ぶ右幼児の身体を押えつけ、何度か穿刺をやりなおして右施術終了まで約30分を要し、また、脳の異常部位が左部にあつたと判断され、当時化膿性髄膜炎の再燃するような事情も認められなかつたなど判示の事実関係のもとでは、他に特段の事情がないかぎり、右ルンバ一ルと右発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定するのは、経験則に反する。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54219 損害賠償請求](最高裁判決 昭和51年9月30日)[[予防接種法第2条]]2項,予防接種実施規則(昭和33年9月17日厚生省令第27号。ただし昭和45年7月11日厚生省令第44号による改正前のもの)4条
##インフルエンザ予防接の実施と医師の問診
##:インフルエンザ予防接種を実施する医師が予診としての問診をするにあたつては、予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するために、接種直前における対象者の健康状態についてその異常の有無を概括的、抽象的に質問するだけでは足りず、同条掲記の症状、疾病及び体質的素因の有無並びにそれらを外部的に徴表する諸事由の有無につき、具体的に、かつ被質問者に的確な応答を可能ならしめるような適切な質問をする義務がある。
##予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて実施されたインフルエンザ予防接種により接種対象者が死亡又は罹病した場合と結果の予見可能性の推定
##:インフルエンザ予防接種を実施する医師が、接種対象者につき予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて接種をした場合に、その異常な副反応により対象者が死亡又は罹病したときは、右医師はその結果を予見しえたのに過誤により予見しなかつたものと推定すべきである。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53250 損害賠償](最高裁判決 昭和53年10月20日)[[自動車損害賠償保障法第3条]]
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53272 慰藉料](最高裁判決 昭和54年3月30日)