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==解説==
本条は、[[{{wikipedia|詐害行為取消権]]について定める。}}
詐害行為取消(債権者取消)とは、債権の究極の担保となる債務者の一般財産を減少させる債務者の法律行為(詐害行為)があったとき、当該法律行為の効力を否定し一般財産から逸失した財産について、強制執行の対象とする制度である。このとき、詐害行為の相手方を'''受益者'''、受益者からさらに詐害行為の対象物などを得た者を'''転得者'''、詐害行為により逸失した財産を'''逸失財産'''という。
 
===要件===
#債権の存在
#詐害行為の存在
##債務者が無資力となること
##無資力に至る事情 - 悪質性より詐害行為と認定されやすい。
##*当該法律行為により初めて無資力となったか、いっそう悪化したか。
##*相当の対価のある行為か、不相応あるいは無償行為であるか。
##*処分財産が軽微なものか重要なものか。特に不動産は重要なものと解釈される。
##*法律行為の目的・動機の正当性。
##*:正当のものとされる例;弁済のための誠実な現金資金への換価、生活費・子女の教育費のための処分、事業継続のための資産処分
##*債務者・受益者間に通謀の事実があれば詐害行為と認められやすい(次項)。
##受益者または転得者の悪意
###転得者なし - 受益者においてのみ善意・悪意を判定すれば足りる。
###転得者あり
####受益者・転得者共に善意の場合
####:詐害行為ではない。
####受益者・転得者共に悪意の場合
####:受益者に原状回復または価額賠償、転得者に原状回復のいずれも求めることができる。
####受益者悪意・転得者善意の場合
####:転得者に取消権行使はできず、受益者のみに原状回復または価額賠償ができるが、一般には後者のみ。
####受益者善意・転得者悪意の場合
####:転得者に原状回復を請求できる。この時、受益者は担保責任を負わない。
##法律行為の性質 - 財産権を目的とする行為(本条第2項)
##:財産権を目的としない行為の例;身分行為(結婚、離婚)、相続(相続・遺贈の承認・放棄 [[#相続放棄|最判昭和49年09月20日]])
##:*遺産分割協議は取消権行使の対象とされ([[#遺産分割協議|最判平成11年06月11日]])、離婚時の財産分与についても事情によっては対象となりうる([[#財産分与|最判昭和58年12月19日]])。
#裁判所への請求
#:受益者または転得者を被告として、詐害行為の取消し及び原状回復の訴訟により行使される([[民法第424条の6]])。
===効果===
:詐害行為とされた法律行為が取消される。
:#当該法律行為は債権者、受益者または転得者の関係でのみ取消し、逸失財産を債務者に取り戻す、これが不能の場合は価格賠償を求めることができる。([[民法第424条の6]]←判例準則)
:#原則として、債権者は自己の債権の範囲内においてのみ当該法律行為を取り消すことができる。([[民法第424条の8]]←判例準則)
:#取消しの結果、債務者に戻されるべきではあるが、取消権を行使した債権者に戻すことができ、その例がほとんどである。([[民法第424条の9]]←判例準則)
==参照条文==
*'''[[否認権]]''' - 倒産処理(破産・会社更生・民事再生)において倒産処理手続開始前になされた倒産者等の行為の効力を否定して倒産財団の回復を図る、詐害行為取消権と同源の権能。
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==判例==
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=57373&hanreiKbn=02  詐害行為取消請求](最高裁判決 昭和30年10月11日)
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=57577&hanreiKbn=02 抵当権設定契約無効確認等請求] (最高裁判決 昭和32年11月01日)
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52827&hanreiKbn=02 詐害行為取消請求](最高裁判決 昭和36年07月19日)
*#:抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は、家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53031&hanreiKbn=02 詐害行為取消並売掛代金請求](最高裁判決 昭和37年10月12日)[[民法第147条]]
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=56259&hanreiKbn=02 詐害行為取消請求] (最高裁判決 昭和39年01月23日) [[商法第141条]],[[有限会社法第75条]]1項
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53084&hanreiKbn=02 詐害行為取消請求](最高裁判決 昭和39年11月17日)
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52993&hanreiKbn=02 強制執行の目的物に対する第三者異議等](最高裁判決  昭和40年03月26日)民訴法549条,民訴法239条,民訴法227条
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=55085&hanreiKbn=02 強制執行異議](最高裁判決 昭和43年11月15日)民訴法549条
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=51912&hanreiKbn=02 詐害行為取消本訴ならびに家屋明渡反訴各請求](最高裁判決 昭和46年09月21日)[[民法第760条]]
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52007&hanreiKbn=02 売掛代金請求](最高裁判決 昭和46年11月19日)[[民法第425条]]
*#:債権者が、受益者を被告として、債務者の受益者に対する弁済行為を取り消し、かつ、取消にかかる弁済額の支払を求める詐害行為取消訴訟手続において、受益者は、弁済額を債権者の債権額と自己の債権額とで按分し、後者に対応する按分額につき、支払を拒むことはできない。
*#<span id="相続放棄"></span>[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=54191&hanreiKbn=02 詐害行為取消、株金等支払請求](最高裁判決 昭和49年09月20日)[[民法第939条]]
*#;相続の放棄と詐害行為取消権
*#:相続の放棄は、[[詐害行為取消権]]行使の対象とならない。
*#::相続の放棄のような身分行為については、民法第424条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右'''取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しない'''ものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=54215&hanreiKbn=02  詐害行為取消請求](最高裁判決  昭和50年12月01日)
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=70401&hanreiKbn=02 詐害行為取消、所有権移転登記抹消登記手続等請求] (最高裁判決  昭和49年12月12日)
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53269&hanreiKbn=02 土地所有権確認等](最高裁判決 昭和53年10月05日)民法第425条
*#:不動産の引渡請求権者は、目的不動産についてされた債務者の処分行為を詐害行為として取り消す場合に、直接自己に対する所有権移転登記手続を請求することはできない。
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53334&hanreiKbn=02  求償金、不当利得返還、詐害行為取消等](最高裁判決  昭和54年01月25日)
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53360&hanreiKbn=02 詐害行為取消等](最高裁判決 昭和55年01月24日)
*#:不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされた場合には、その登記が右債権成立後に経由されたときであつても、詐害行為取消権は成立しない。
*#<span id="財産分与"></span>[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=56354&hanreiKbn=02 詐害行為取消](最高裁判決 昭和58年12月19日)
*#;離婚に伴う財産分与と詐害行為の成否
#:離婚に伴う財産分与は、[[民法第768条]]3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない。
#:*「不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りる」場合は詐害行為となりうる。
*[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52444&hanreiKbn=02 所有権移転登記抹消登記手続](最高裁判決  平成4年02月27日) [[民法第392条]]
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=7315252444&hanreiKbn=02  詐害行為取所有権移転登記抹、貸金登記手続](最高裁判決  平成84年02月0827) [[民法第392条]]
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=5254573152&hanreiKbn=02 所有権移転登記抹 詐害行為取登記手続、貸金](最高裁判決 平成10806022208日)[[民法第145条]]
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=5221752545&hanreiKbn=02 貸金及び詐害行為取所有権移転登記抹請求事件登記手続] (最高裁判決 平成1110年06月1122日)[[民法第907145条]]
#;詐害行為の受益者と取消債権者の債権の消滅時効の援用
*[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52424&hanreiKbn=02 詐害行為取消請求事件](最高裁判決 平成17年11月08日)旧会社更生法第(平成14年法第律第154号による改正前のもの)78条1項1号,[[会社更生法第86条]]1項1号
#:詐害行為の受益者は、[[詐害行為取消権]]を行使する債権者の債権の消滅時効を援用することができる。
*#<span id="遺産分割協議"></span>[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=5244452217&hanreiKbn=02 所有権移転登記抹貸金及び詐害行為取登記手続請求事件] (最高裁判決 平成41102062711) [[民法第392907条]]
#;遺産分割協議と詐害行為取消権
#:共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。
*#[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52424&hanreiKbn=02 詐害行為取消請求事件](最高裁判決 平成17年11月08日)旧会社更生法第(平成14年法第律第154号による改正前のもの)78条1項1号,[[会社更生法第86条]]1項1号
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