「民法第709条」の版間の差分

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:財産的損害と精神的損害がある。
:財産的損害は、積極的損害(直接の被害額)と消極的損害(不法行為がなければ得られたはずの利益=逸失利益)がある。
:損害の内容については学説上対立がある。差額説は、不法行為によって減少した価値を金銭評価したものが損害の実質であるとする。損害事実説は、ある損害それ自体の内容を金銭評価したものが損害の実質であるとする。
:精神的損害は、被害者の精神的苦痛である。
==== 因果関係 ====
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:不法行為において因果関係が持つ意味は、因果関係を認めうる範囲で加害者に賠償責任を負わせる点にある。ここで、いわゆる事実的因果関係(「あれなくばこれなし」の関係)を前提にすると、因果関係の範囲が広くなりすぎ、損害賠償の範囲が過大になりすぎることになる。
:したがって、不法行為法では、事実的因果関係が成立していることを前提にしつつ、[[民法第416条]]を準用し、損害賠償させるべき範囲をより狭く限定している。これを'''相当因果関係'''といい判例上確立した準則である(富貴丸事件:大連判大正15年5月22日)。ただし、相当因果関係の概念に関しては、学説において有力かつ強い批判がなされている。
======相当因果関係が認められた例不法行為と被害者の自殺======
:裁判において、従来、自殺は行為者の意思が大きく関与し、不法行為から、そのような意思の形成が生じるとは通常は認められず、加害者側において自殺を予見し又は予見しうる状況にあったと認めることは困難であるとして相当因果関係を認めることに慎重であったが、近年においては、当該不法行為により災害神経症状態を惹起し、統計的に自殺率の高いうつ病等を罹患、その後自殺した事例については、相当因果関係を認めるものもある。ただし、この場合であっても、被害者(自殺者)の性格的傾向等の心因的要因の寄与を認め、第722条2項を類推適用し、損害額を減額する傾向にある。
*交通事故と被害者の自殺([[#被害者の自殺|最判平成5年09月09日]])
:;相当因果関係を認めない例
:*交通事故と被害者の自殺([[#被害者の自殺|最判昭和50年10月03日]])
:*教師の違法な懲戒と生徒の自殺([[#違法な懲戒|最判昭和52年10月25日]])
:;相当因果関係を認めた例
:*交通事故と被害者の自殺([[#被害者の自殺2|最判平成5年09月09日]])
:*過重労働と自殺([[民法第715条#過重労働|最判平成12年03月24日]] [通称:電通損害賠償事件])
===== 因果関係の立証責任 =====
不法行為に基づく損害賠償請求を行うためには、原告側が侵害行為と損害の間の因果関係を立証しなければならない。しかし、公害事件や医療過誤事件など、一般市民である被害者には挙証が難しいケースも多い。このため、判例法理や立法的解決によって立証責任の軽減が図られてきた。
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#;同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間における相殺の許否
#:双方の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。
#<span id="被害者の自殺"></span>[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=66834&hanreiKbn=02 損害賠償請求](最高裁判決 昭和50年10月03日) [[民法第416条]]
#;交通事故により負傷した被害者の自殺と事故との相当因果関係が否定された事例
#:*(最高裁・原審が支持する原々審判決)
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54204 損害賠償請求](最高裁判決 昭和50年10月24日)[[国家賠償法第1条]]1項,民訴法185条(現247条),民訴法394条(現312条1, 3項)
#:*:事故と自殺の条件関係自体は推認できるが,仮に被害者の性格変化が自殺に影響を及ぼしていてもそのような性格変化が受傷から通常生じるとは認められず,加害者側において自殺を予見し又は予見しうる状況にあったと認めることは困難
#;医師が化膿性髄膜炎の治療としてしたルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)の施術とその後の発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定したのが経験則に反するとされた事例
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54204 損害賠償請求([東大ルンバールショック事件])](最高裁判決 昭和50年10月24日)[[国家賠償法第1条]]1項,民訴法185条(現247条),民訴法394条(現312条1, 3項)
#:重篤な化膿性髄膜炎に罹患した三才の幼児が入院治療を受け、その病状が一貫して軽快していた段階において、医師が治療としてルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)を実施したのち、嘔吐、けいれんの発作等を起こし、これにつづき右半身けいれん性不全麻癖、知能障害及び運動障害等の病変を生じた場合、右発作等が施術後15分ないし20分を経て突然に生じたものであつて、右施術に際しては、もともと血管が脆弱で出血性傾向があり、かつ、泣き叫ぶ右幼児の身体を押えつけ、何度か穿刺をやりなおして右施術終了まで約30分を要し、また、脳の異常部位が左部にあつたと判断され、当時化膿性髄膜炎の再燃するような事情も認められなかつたなど判示の事実関係のもとでは、他に特段の事情がないかぎり、右ルンバ一ルと右発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定するのは、経験則に反する。
#;医師が化膿性髄膜炎の治療としてしたルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)の施術とその後の発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定したのが経験則に反するとされた事例
#:<u>訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確認を持ちうるものであることを必要とし,かつそれで足りる。</u>
#:*重篤な化膿性髄膜炎に罹患した三才の幼児が入院治療を受け、その病状が一貫して軽快していた段階において、医師が治療としてルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)を実施したのち、嘔吐、けいれんの発作等を起こし、これにつづき右半身けいれん性不全麻癖、知能障害及び運動障害等の病変を生じた場合、右発作等が施術後15分ないし20分を経て突然に生じたものであつて、右施術に際しては、もともと血管が脆弱で出血性傾向があり、かつ、泣き叫ぶ右幼児の身体を押えつけ、何度か穿刺をやりなおして右施術終了まで約30分を要し、また、脳の異常部位が左部にあつたと判断され、当時化膿性髄膜炎の再燃するような事情も認められなかつたなど判示の事実関係のもとでは、他に特段の事情がないかぎり、右ルンバ一ルと右発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定するのは、経験則に反する。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54219 損害賠償請求](最高裁判決 昭和51年9月30日)[[予防接種法第2条]]2項,予防接種実施規則(昭和33年9月17日厚生省令第27号。ただし昭和45年7月11日厚生省令第44号による改正前のもの)4条
##'''インフルエンザ予防接の実施と医師の問診'''
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##'''予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて実施されたインフルエンザ予防接種により接種対象者が死亡又は罹病した場合と結果の予見可能性の推定'''
##:インフルエンザ予防接種を実施する医師が、接種対象者につき予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて接種をした場合に、その異常な副反応により対象者が死亡又は罹病したときは、右医師はその結果を予見しえたのに過誤により予見しなかつたものと推定すべきである。
#<span id="違法な懲戒"></span>[https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=64110 損害賠償等](最高裁判決 昭和52年10月25日)
#;高校教師の違法な懲戒権の行使と生徒の自殺との間の相当因果関係が否定された事例
#:高校生が、授業中の態度や過去の非行事実につき担任教師から三時間余にわたり応接室に留めおかれて反省を命ぜられたうえ、頭部を数回殴打されるなど違法な懲戒を受け、それを恨んで翌日自殺した場合であつても、右懲戒行為がされるに至つた経緯等とこれに対する生徒の態度等からみて、教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、生徒が右懲戒行為によつて自殺を決意することを予見することが困難な状況であつた判示の事情のもとにおいては、教師の懲戒行為と生徒の自殺との間に相当因果関係はない。
# [http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53272 慰藉料](最高裁判決 昭和54年3月30日)
#;妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲するに至つた女性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否
#:妻及び未成年の子のある男性が他の女性と肉体関係を持ち、妻子のもとを去つて右女性と同棲するに至つた結果、右未成年の子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、'''右女性の行為'''は、特段の事情のない限り、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。
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#;管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法とはいえないとされた事例
#:自動車営業所の管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないため、同人を通常業務である点呼執行業務から外し、営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令は、右作業が職場環境整備等のために必要な作業であり、従来も職員が必要に応じてこれを行うことがあったなど判示の事情の下においては、違法なものとはいえない。
#<span id="被害者の自殺2"></span>[http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=63037&hanreiKbn=02  損害賠償反訴、同附帯](最高裁判決 平成5年09月09日)[[民法第416条]]
#;交通事故と被害者の自殺との間に相当因果関係があるとされた事例
#:交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において、その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとしても、右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであって被害者に大きな精神的衝撃を与え、その衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、被害者が、災害神経症状態に陥り、その状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったなど判示の事実関係の下では、右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係がある。