「高等学校化学I/物質と原子」の版間の差分

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== 物質を構成する実体原子 ==
物質は元素からされり立っている。この、元素というものは、物質を構成する粒ひとつひとつの性質について言った言葉である。したがって、実際の「物質を構成している最少の粒を言うものと元素とでは、言葉の意味が異なってくる。物質は原子という構造によって構成されており、元素という要素によって成立している。
 
物質は、'''原子'''<small>( Atom )</small>と呼ばれる、小さないくつかの粒子(これらを素粒子と呼ぶ)が集まった構造を持つ'''粒'''で構成されている。物質は原子という小さな構造から作られていると考えることができる。
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; イオン : イオンは、原子がある条件のもとで電荷を持った粒。
 
== 原子の構造 ==
原子とは、物質を構成する粒子一粒の呼び名である。膨大な数の原子が相互に結び付きあって、私たちの体や、他の様々なものは形作られている。原子そのものも、素粒子と呼ばれる粒が構造的に結びついて構成されているが、化学では、原子を基本としてその性質を分析していく。
 
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原子はあまりに小さいため、特殊な電子顕微鏡などを用いなければ観察することができない。その直径は約100億分の1メートル<small>( 1&times;10<sup>-10</sup>m = 0.1nm )</small>である。つまり、原子をだいたい10億個くらい並べればやっと1cmである。原子がどれほど小さいか、想像することができるだろうか?
 
=== 原子の基本構造 ===
[[Image:Atom.svg|frame|right|He原子のボーアモデル]]
原子は、中心にある'''原子核'''と、その周り(電子殻)を飛び回るいくつかの'''電子'''(黄色)の構造である。原子の構造は簡単には説明できないほど複雑だが、高等学校の化学においては一般的に、ボーアの原子模型と呼ばれるモデルを使って理解する。右に示した図は、ヘリウム原子(He)のボーアモデルである。ボーアモデルでは、原子の化学的な性質を全て説明することはできない。その意味でこのモデルは不十分ではあるが、高等学校の化学の範囲ではこのモデルでも十分にイメージをつかめる内容を扱っているため、紹介した。原子の構造について記述するときは、基本的にこのモデルを用いて行う。
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<small>考えられている、というのは、原子があまりに小さく、直接観察することができないためである。科学者がさまざまな実験・考察を積み重ね、それらを総合的に判断した結果、「原子は中心に原子核、周囲には電子という構造をしている」ととらえるのが最も妥当だと考えられている。このことについては、ウィキペディアの[[w:原子|「原子」項の「歴史」セクション]]や[[w:ラザフォード散乱|ラザフォード散乱]]に記事があるので、興味のある人は参考にすると良いだろう。</small>
 
=== 電子殻と価電子 ===
 
原子の構造のうち、電子が並んでいる原子核の周りの部分について、より詳しく見ていこう。
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また、いちばん外側の電子殻にある電子を'''最外殻電子'''と呼ぶ。最外殻電子は原子の性質に大きな影響を与える。ある原子とある原子との接点が、実際には電子殻であるため、原子の結合の仕方などはこの最外殻電子の個数が重要になってくる。原子の性質を決める最外殻電子を特別に'''価電子'''と呼ぶ。最外殻にそれ以上電子が入ることのできない状態を'''閉殻'''という。閉殻になっている原子の価電子の個数は'''0'''であると約束する。
; 価電子 : 最外殻電子のうち、閉殻構造を取っていない電子の数。0~7個。
 
=== 電荷 ===
以上が、原子の構造である。幾つもの用語や名称が用いられたが、その意味をしっかりと把握することが大事である。
 
さらに、原子の構造を理解する助けとして、これから先になって必要になってくる概念である'''電荷'''という言葉については、ここで簡単な説明を加えておく。
; 電荷 : 粒子にある電気的な性質のこと。プラスの量とマイナスの量があり、当然ながら0も存在する。
この電荷という概念は、[[高等学校物理]]などでも扱う。電荷を持った粒子がどのような振る舞いをするかについて興味を持ったなら、そちらを参考にすると良い。
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: +3e + -3e = 0
となる。これは、原子全体では電荷を持っていないということである。このことがらを利用すれば、原子全体の電荷や、原子の名称などから、それにいくつの陽子や電子が含まれているかを計算することができる。
 
== 原子に関する諸概念 ==
 
=== 原子の分類 ===
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元素を原子番号の順に並べて、かつ周期律に併せて配列した表を'''[[元素記号|周期表]]'''という。周期表の縦の列を'''族'''といい、同族内では性質のよく似た元素が並ぶ。周期表の横の列を'''周期'''と呼び、周期の番号は電子殻の数と一致する。
 
== 物質の形成分子とイオン ==
物質は、元素という成分から成り立っていることは前述の通りである。しかし、物質が原子という小さな構造によって構成されているという側面もある。そこで、原子同士がどのような構造を形成して物質が形作られているのか、といった視点から物質を分けることもできる。高等学校化学では主に、'''イオンからなる物質''''''分子からなる物質''''''原子からなる物質'''の三種類を考える。
 
これらの物質に関して理解する前に、まずは物質を構成する原子の''異なった姿''である'''分子''''''イオン'''について知ろう。
 
=== 分子 ===
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<small>一般的に、陽イオンは「~イオン」、陰イオンは「~化物イオン」と呼ばれる。また、多原子イオンであれば、それがイオンになる前の分子の名前に「~イオン」や「~化物イオン」と付けて呼ばれることが多い。上述の例で言うなら、アンモニアのイオンはアンモニウムイオンである。</small>
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== 物質の構成 ==
 
これまでに学習してきた原子・分子・イオンという粒を使って、実際の物質がどのように構成されているかを見て行こう。このセクションの多くは具体的な物質の紹介になっている。具体的にどのような物質を扱わなければ、化学の理論のおおくはつまらないものになるだろう。できるだけ身近な物質を集めて紹介している。また、ウィキペディアへのリンクも付けているので、参考にしてほしい。分子の名称は、一般的に用いられているものを示した。ここで挙げた以外の名称で呼ばれる物質もあるため、注意が必要である。
 
=== 分子からなる物質 ===
[[Image:Carbon-dioxide-crystal-3D-vdW.png|thumb|120px|ドライアイスのモデル]]
分子が構成単位になっている結晶を'''分子結晶'''という。
分子は基本的に独立した一粒である。身近な例を挙げるなら、水や多くの気体などの構成単位は、分子である。分子が構成単位になっている結晶<small>( 固体 )</small>を'''分子結晶'''という。分子結晶は融点・沸点が低く、やわらかい。また電気を通さない。ずっと拡大すると、分子が規則正しく並んでいるのも、分子結晶の特徴である。
分子結晶は融点・沸点が低く、やわらかい。また電気を通さない。
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
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! 物質の名前 !! 分類 !! 分子式 !! 簡単な性質
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| [[w:水|水]] || 化合物 || H<sub>2</sub>O || イオンからなる物質を溶かす。氷は分子結晶である。
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| [[w:ブドウ糖|ブドウ糖]] || 化合物 || C<sub>6</sub>H<sub>12</sub>O<sub>6</sub>|| 砂糖の簡単な姿。
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| [[w:二酸化炭素|ドライアイス]] || 化合物 || CO<sub>2</sub> || 二酸化炭素の固体。温度があがると、液体にならずに一気に気体になる。
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<small>水は、実際には不純物を含んでいることが多い。純粋な水はあまり存在しない。</small>
 
=== イオンからなる物質 ===
NaCl(塩化ナトリウム)という化合物は、ナトリウムイオンNa<sup>+</sup>と塩化物イオンCl<sup>-</sup>がお互いに偏った電荷を補い合おうとして結合する。このようにイオン同士がひきつけあってできた結合を'''イオン結合'''という。また、イオン結合によってできた固体を'''イオン結晶'''という。イオン結晶は融点・沸点が高く、硬いがもろい。これらは基本的にイオンが並びあって出来ており、水に解ければ簡単にそれぞれのイオンに分かれる。そのため、固体のときは電気を通さないが、液体あるいは水溶液に電解した状態では電気をよく通すという性質を持っている。
NaCl(塩化ナトリウム)という化合物は、ナトリウムイオンNa<sup>+</sup>が塩化物イオンCl<sup>-</sup>にイオンを受け渡して生成される。
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
このようにイオン同士がひきつけあってできた結合を'''イオン結合'''という。
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! 物質の名前 !! 分類 !! 組成式 !! 簡単な性質
また、イオン結合によってできた固体を'''イオン結晶'''という。
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イオン結晶は融点・沸点が高く、硬いがもろい。
| [[w:塩化ナトリウム|食塩]] || 化合物 || NaCl || 塩酸と水酸化ナトリウムを中和して得られる。
また固体のときは電気を通さないが、液体あるいは水溶液に電解した状態では電気をよく通す。
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| [[w:酸化銅(II)|酸化銅]] || 化合物 || CuO || 銅を燃やすと得られる。水素と反応する。
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=== 原子からなる物質 ===
原子からなる物質には、自由電子を共有する'''金属結合'''によってできるものと、'''共有結合'''によってできるものとがある。金属結合によってできた物質は'''金属光沢'''を持ち、熱や電気をよく通し、'''展性'''<small>( たたくと広がる性質 )</small>・'''延性'''<small>( 引っ張ると延びる性質 )</small>を持つ。また共有結合によってできた物質は硬く、融点が高い。例えば、ダイヤモンドは炭素原子が共有結合してできた物質である。
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
 
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金属結合によってできた物質は'''金属光沢'''を持ち、熱や電気をよく通し、'''展性'''(たたくと広がる性質)・'''延性'''(引っ張ると延びる性質)を持つ。
! 物質の名前 !! 分類 !! 組成式 !! 簡単な性質
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| [[w:鉄|鉄]] || 単体 || Fe || 身近な金属。
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| [[w:銅|銅]] || 単体 || Cu || 身近な金属。10円玉の材料。
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| [[w:銀|銀]] || 単体 || Ag || よく知られている金属。電気をよく通す。
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| [[w:金|金]] || 単体 || Au || よく知られている金属で、最上級のものをあらわすことに用いられる。金メダルなど。
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| [[w:ダイヤモンド|ダイヤモンド]] || 単体 || C || 最も硬い鉱物。
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<small>このセクションで用いられた「共有結合」「イオン結合」「金属結合」に関しては、化学IIで扱う。そのため、ここではそのような種類がある、という理解に留めておいてかまわない。</small>
また共有結合によってできた物質は硬く、融点が高い。
 
== 関連項目 ==