「集合論」の版間の差分

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== 写像 ==
我々は、関数という概念を既に知っている。fが関数であるとは、xという数に対して別の数f(x)がただひとつ定まることであった。ここでは、関数の概念を一般化した写像という概念を考える。すなわち、集合XとYについて、任意の<math>x \in X</math>に対して<math>f(x) \in Y</math>がただひとつ定まるとき、この対応fはXからYへの'''写像'''であるといい、<math>f:X \to Y , x \mapsto f(x)</math>と書くことにする。
 
=== 像と逆像 ===
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'''例''' 集合Xと部分集合Sが与えられているとする。このとき、<math>i:S \to X</math>をi(x)=xで定めると、これは単射である。このiを'''包含写像'''という。特にS=Xのとき、iは全単射である。このとき'''恒等写像'''と呼び、特に<math>id_X</math>と書く。
 
特に空集合は任意の集合の部分集合なので、空集合からは任意の集合へ包含写像を考えることができる(実質的には何も定めていない写像だが、集合論的に考えることはできる、ということである)。これを特に空写像という。
 
=== 写像の合成と逆写像 ===
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この写像は明らかに全射である。この写像のことを、'''標準的全射'''とか、'''自然な全射'''という。
 
== 濃度 ==
=== 濃度の概念 ===
この節では、集合の元の個数について考える。いま、素朴に「個数」と書いたが、この概念は自明な概念ではない。確かに、<math> \{ 1,2,3 \}</math>という集合の元の個数は3個である、といったことは、素朴に考えてもすぐに言うことができる。しかし、では元が「無限個」ある場合はどうしたらよいのだろうか?これは案外難しい。
 
そこで、個数という概念を直接定義するのではなく、2つの集合の元の個数がひとしいとはどういうことなのか、ということをまず定義することにしたい。これはそれほど難しくない。以下のようにすればよい。
 
'''定義''' 2つの集合AとBの間に全単射があるとき、AとBは対等であるという。
 
元が有限個の場合に、これまでの素朴な「個数がひとしい」という概念と一致していることは容易にわかる。
 
さて、この集合と集合が対等であるという関係は、同値関係である。そこで、この同値関係によるAの同値類をcard Aと書き、これをAの'''濃度'''という。2つの集合が対等であるということを、2つの集合の濃度がひとしいという言葉で言い換えただけである。これによって、任意の集合に適用できる「個数」にあたる概念を手に入れることができた。もちろん(くどいかもしれないが)この濃度の概念は有限集合の場合は素朴な「個数」の概念と一致する。
 
=== Bernsteinの定理 ===
2つの集合があったとき、その2つの集合の濃度がひとしいか否かというのはしばしば気になることである。しかし、2つの集合の濃度がひとしいということを示すには、今のところは全単射を具体的に構成するしかなく、これはしばしば大変なこともある。例えば、閉集合[0,1]と<math>\mathbb{R}</math>とは濃度がひとしいのだが、全単射を具体的に作るのは容易ではない。
 
そこで役に立つのが、次に挙げる定理である。
 
'''定理'''(Bernstein)<br />集合AとBがあり、AからBへの単射と、BからAへの単射があるとき、card A=card B
 
AからBへの単射があることと、BからAへの全射があることは同値であるから、定理のステートメントの「単射」をすべて「全射」と書き換えても構わない。
 
この定理を用いて、自然数の集合<math>\mathbb{N}</math>と、有理数の集合<math>\mathbb{Q}</math>が対等であることを示してみよう。<math>\mathbb{N}</math>から<math>\mathbb{Q}</math>へは自明な単射が存在するから、逆向きの単射を作ればよい。<math>\mathbb{Q}</math>から<math>\mathbb{N} \times \mathbb{N}</math>への単射は容易に作れるので、結局<math>\mathbb{N} \times \mathbb{N}</math>から<math>\mathbb{N}</math>への単射を作ればよい。<math>(a,b) \in \mathbb{N} \times \mathbb{N}</math>に対して<math>f((a,b))=2^{a-1}(2b-1)</math>と定めると、これは<math>\mathbb{N}</math>への単射である。したがって、これらを合成すると<math>\mathbb{Q}</math>から<math>\mathbb{N}</math>への単射が構成でき、Bernsteinの定理より<math>\mathbb{N}</math>と<math>\mathbb{Q}</math>は対等である。
 
=== 有限集合・可算集合・非可算集合 ===
これまで「有限」という言葉をナイーブに未定義のままで使ってきたが、ここできちんと定義しておく。
 
'''定義''' 集合Aが有限集合であるとは、単射<math>A \to \mathbb{N}</math>が存在することである。
 
これまでナイーブに想像していた概念と一致することを確認してほしい。形式的な話だが、特に空集合が有限集合であることも明言しておく。有限集合でない集合のことを無限集合という。
 
無限集合の中でも、特に<math>\mathbb{N}</math>と対等な集合は特別視して、可算集合という(可算無限集合ということもあるが、重言である)。先ほどの議論から、<math>\mathbb{Q}</math>は可算集合である。有限集合と可算集合を合わせて高々可算集合といい、高々可算でない集合のことを非可算集合という。
 
なぜ無限集合の中で可算集合を特別視するかというと、可算集合は「最も小さい」無限集合だからである。すなわち、
 
'''命題''' Aを無限集合とすると、全射<math>A \to \mathbb{N}</math>が存在する。
 
つまり、非可算集合とは、自然数の集合よりも大きい集合のことである。
 
次の命題とその証明は非常によく知られている。
 
'''命題''' <math>\mathbb{R}</math>は非可算集合である。
 
(証明)<br />
全射<math>p:\mathbb{N} \to \mathbb{R}</math>が存在したとすると、<math>n \mapsto </math>(<math>p(n)</math>の小数部分)と定めることで、全射<math>f:\mathbb{N} \to (0,1)</math>を作ることができる。したがって、任意の写像<math>f:\mathbb{N} \to (0,1)</math>が全射でないことを示せば十分である。
 
<math>f(n)</math>の小数第n桁目を<math>a_n</math>と定める。(ただし、小数による実数の表示は一意ではないので、ここでは同じ実数について無限に9が続く表示と無限に0が続く表示がある場合は後者を採用することにする。)このとき、数列<math>b_n</math>を
 
:<math>b_n=\begin{cases}0 & if \ a_n=1 \\ 1 & if \ a_n \ne 1\end{cases}</math>
 
と定め、cを、整数部分が0で、小数第n桁目が<math>b_n</math>であるような実数とする。すると、明らかにcはfの値域に入っていない。よって、fは全射ではない。//
 
この有名な議論を、Cantorの対角線論法という。