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平行宇宙
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この位相のずれというのがデコヒーレンスにおいて本質的だとも思います。光の話になってしまいますが、ヤングの干渉実験やニュートンリングの実験で綺麗な縞模様が出来るというのはあくまでも、理想的な(静的な)状況で実験しているからで、もしも外界からのノイズに悩まされた環境下で実験しても上手くいかないでしょう。光の波だけでなく、物体がもつ量子の波についても状況は同じと思われます。量子干渉の波は非常に細かいので、すぐに外界からの影響でつぶされてしまうわけです。
 
==量子宇宙==
 
量子力学の理論を信じれば、物体はさまざまな相反する状態を無数に取ることができる…この事が人々に様々な空想を与えました。量子力学を私達の宇宙全体へと応用すれば、その宇宙全体は相反する異なる量子状態を取る事が出来るはずです。そのため、私達の今見ている宇宙とは違う量子宇宙が無数に存在する。これを専門用語ではレベル3マルチバースとか言うらしいです。
 
物体を量子力学で取り扱うには、とりあえずハミルトニアンが決まっていれば良いでしょう。物理詳しくない方の為に説明しておきますと、「ハミルトニアン」というのは物体の全エネルギーを運動量pと座標qで書いたものです。さらに量子力学ではpとqを微分演算子で置き換えます。原理的にこれがわかっていれば、これをシュレーディンガー方程式に載せれば解く事が出来ます。ここで「解く事が出来る」というのは、「人間に解けるか」はともかくとして、原理的には答が存在するべきものという意味です。
 
宇宙に存在する粒子全ての位置と運動量、それらの相互作用を考慮した、私達の住む宇宙のもつ完全なハミルトニアンは、人間がそれを理解できるかはともかくとして、確実に存在するでしょう。そして原理的にはその解が無数に存在し、その中からただ一つの解(私達が今見ている宇宙)を選び出す方法を量子力学自身は用意していない。
 
それなら宇宙は異なる量子状態をたくさん持っていて、時々違う状態へとワープしても良さそうなものです。でも私達自身がそれを経験した覚えが無い。量子力学の多世界解釈に対してもそうなのですが、なぜ私達の世界が量子遷移で移り変わっていかないのかを説明しないといけません。覚えてないだけか?
 
観測によって状態がただ一つに選ばれる事を人間はうすうす気づいていましたが…そこで「私達の住む宇宙は私達が観測して選ばれた結果だ!」と主張しても、そうすると人類が存在しなかった原始時代なら宇宙は無数に存在したのか、という事になりそうです。宇宙の外側には誰もいないはずなので、宇宙の状態を一つに決めてくれる観測者もいません。
 
一見した所、「観測」を「デコヒーレンス」で置き換えても、状況は変わらないように思えます。宇宙の外側にはデコヒーレンスの原因となる「外部環境」は存在しない。
 
この問題については、筆者個人はそれなりの考えを持っていますが、もったいぶった言い方をすると「砂漠のバラ」とでも言うのか、そんな感じかも知れません。私達が見ている巨視的な宇宙はすべて「集団的自由度」であることに気をつけなくてはいけないでしょう。
 
==数学的基礎==