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==== 自由主義の要素 ====
[[ファイル:Thomashillgreen.jpg|thumb|right|150px|トマス・ヒル・グリーン(1836年-1882年)はイギリスの哲学者。オックスフォード大学の奨学生として学んで同大学で哲学を教え、後に教授職を得た。19世紀のイギリスの自由主義の影響を受け、自由が他者との関係において最善の自己を発展させるための権力として理解することを主張した。著作には『倫理学序説』、『政治的服従の原理』など。]]
[[ファイル:Thomashillgreen.jpg|thumb|right|150px|トマス・ヒル・グリーン(年-年)]]
自由主義を構成するいくつかの思想的な特徴の一つとして挙げられるのが個人主義(individualism)である。個人主義は自由主義の基礎であり、人間はまず個人としての存在であり、個人としての人間に価値が置かれるべきである。これは同時に人間は均等に道徳的能力を持っていることを示唆している。したがって、個々人の道徳的な判断は尊重されなければならない。個人主義の思想は個人の自由(freedom, liberty)の理念とも関連しており、これは個人の信条の中立性と選択の可能性を提起する。自由主義のこのような人間性についての認識は理性(reason)とも関連しており、自由主義では世界が合理的な構造を持っており、それは人間の理性によって解明することが可能であると考える。このように理性の役割を強調するために自由主義は進歩することができる存在として捉えられている。個人主義の思想は自由だけでなく平等(equality)の理念にも派生しており、個人主義者は人間は少なくとも道徳的な能力に関しては平等な能力を備えて生まれてくると考える。したがって、全ての個人は投票権などについても政治的平等でなければならない。自由主義は寛容(toleration)によっても特徴付けられる。寛容は個人的自由と社会的発展の手段の両方を保障するものと自由主義では考えられているため、文化的な多様性や政治の多元性をを積極的に評価する。同様の理由で自由主義は競合する利害の中立的な調和と均衡を支持する。自由主義によれば、権威や社会的関係などは常に合意(consent)に基づいたものでなければならず、政府も同様に統治されることについての合意に基づかなければならない。つまり社会や共同体の本質とは自らの利益を追求する個人の相互間の契約にある。この合意と契約に基づく社会秩序の理論から導き出される論理的な帰結として政府は社会秩序を安定化することを保証する機関と見なされる。つまり政府は個人主義の価値を侵害することは制限されなければならず、その制約を確実なものとするために立憲主義(constitutionalism)が確立されなければならない。立憲主義の目的とは政府機構をいくつかに分離することで相互に政府権力を抑制させ、個人の権利が政府権力によって侵されないように成文憲法によって規定することにある。ただし、このような自由主義の一般的な内容は時代によって一様ではない。
 
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==== 現代の民主主義 ====
[[ファイル:Joseph Alois Schumpeterjosephaloisschumpeter.jpg|thumb|right|150px|ヨセフ・シュンペーター(1883年-1950年)はオーストリア出身の経済学者であり、社会学者。研究者であったが、オーストリアで戦間期に大蔵大臣に就任した経験を持ち、後にハーバード大学で経済学を教えた。古典的な民主主義論に代わる現代の民主主義の理論構築に寄与した。彼の著作には『資本主義・社会主義・民主主義』など。]]
近代的な民主主義のモデルを提唱した人物の一人であるミルが強調する点は個々人の能力をより高い調和のもとで向上させることを促進する点である。このような民主主義の見方は本質的に教育的な要素を含むものであり、投票権は女性に対しても拡大されうる権利とされている。さらにミルは地方自治体の独立した権威をも提唱している。あらゆる政治的な意見に平等に価値があることを信じ、結果としてミルは全ての個々人に均等に付与する投票権から成り立つ多元的な民主主義体制を主張する。しかしながら、このような民主主義の性質はアレクシス・ド・トクヴィルによって「多数派の専制」をもたらし得る可能性が指摘されている。つまり多数派が常に正しい選択を行うとは限らないため、ミルも熟議民主主義(deliberative democracy)もしくは議会制民主主義を支持している。このような民主主義は政治的決断に主眼を置いた民主主義であったが、ヨセフ・シュンペーターは別の着眼から民主主義の枠組みを提唱している。シュンペーターの民主主義は人民の代表を選出する政治的方法に主眼を定めている。選出された議員により構成された議会は政府がどのように存続されているかを審査して存続させるべきかどうかを判断する役割を担っている。ここでの民主主義のモデルは自由や平等の価値観に基づいていないものであり、それまでの熟議民主主義の立場から批判されるモデルである。ただし、シュンペーターは自身の民主主義の在り方を維持するためには素質を持つ政治家の存在、特定の領域に限定された政治的決断、政府の行政機能を担う近代的官僚制の準備、そして民主主義の方法を使用する国民自身の自制心が不可欠であると論じている。
 
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====委譲モデル====
[[ファイル:Kenneth_Arrow,_Stanford_University.jpg|thumb|right|150px|(年-年)ケネス・アロー(年-年)]]
 
===選挙===
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===警察行政===
====治安維持====
[[ファイル:Spinoza.jpg|thumb|right|150px|バールーフ・デ・スピノザ(年-年)]]
 
====警察国家====
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===意思決定の理論===
政策過程において意思決定は中心的な機能である。厳密には意思決定は政策形成の段階に位置づけることができるが、政策実施や政策評価においても政治的な影響を与える。意思決定は必ずしも団体や人物によっては同じ方法や原理に従って行われているわけではないが、民主的な政治体制であっても権威主義的な政治体制であっても、政策を分析する上で一般的な政治的意思決定の理論を参考にすることができる。ここでは合理主義モデル、漸進主義モデル、官僚主義モデルの三つのモデルから意思決定の理論を概観していく。
 
====合理主義モデル====
[[ファイル:HerbertSimon.jpg|thumb|right|150px|ハーバート・サイモン(1916年‐2001年)はアメリカの政治学者、組織論研究者。シカゴ大学でメリアムやラスウェルの指導を受けて政治学の博士号を取得する。イリノイ工科大学を経てカーネギーメロン大学で教授となる。組織における合理性、意思決定理論の研究を行い、人工知能や経済学で研究業績を残した。著作には『経営行動』、『システムの科学』など。]]
[[ファイル:HerbertSimon.jpg|thumb|right|150px|(年-年)ハーバート・サイモン]]
意思決定のモデルは基本的に人間の合理性として経済的利得を最大化する原理、もしくは功利性を最大化する原理を前提とする。このようなモデルはアンソニー・ダウンズの公的選択理論にも応用されており、この理論では人間が自己の物質的な満足を求めて利益を追求する存在として定義されている。このような立場では問題の本質が明確であること、目的の選択が個人的な選好に基づいていること、利用可能な手段が効率性の観点から評価することが可能であること、そして意思決定は目標を達成する最適な手段の選択を通じて行うことができることを根本的な前提としている。このような合理的な意思決定を主張した論者の一人であり、功利主義の理論家であったベンサムは社会全体の功利性を最大化することができるように計算した上で政策に関する意思決定を行うことを主張していた。ベンサムは快苦を基準として個々人の快楽を最大化し、苦痛を最小化する道徳的な原理を確立し、功利の概念で社会全体の快苦を定量化して計算することを試みていた。このような意思決定のモデルには明確に計算することが可能な合理性に基づいた説得力があり、政策立案者は規範的にこのような意思決定のモデルを実践することが求められる。しかし、合理的な計算は一意的に定義可能な個人の選考がなければ成立せず、もし集団や組織が集権的な組織形態を持っていなければ選好を一意的に定義することはできなくなるという問題がある。また現実的な問題として、意思決定における合理性はどれほど確実な原理であるのか明らかではないことがある。ハーバート・サイモンの研究では限定された合理性(bounded rationality)の概念が導入されており、意思決定は本質的には異なる価値判断と計算に基づいた諸成果を妥協させる活動として描き出されている。さらに合理的行為者のモデルの問題点として現実そのものではなく現実に関する信念や仮定によって意思決定が左右される可能性がある。特にイデオロギー的な価値観や世界観を意思決定の関係者が持っているならば、合理的な計算が行われるより前の状況の認識の段階で決定的な偏向が政策仮定に加わることになる。
 
====漸進主義モデル====
[[ファイル:Charles Edward Lindblom.jpg|thumb|right|150px|チャールズ・リンドブロム(1917年生)はアメリカの政治学者。イェール大学で経済学や政治学を教え、比較経済学会やアメリカ政治学会の会長を歴任している。政策決定の分析を通じて政策の変化とは政治的相互交流を通じた調整過程によって少しずつ変化する漸進主義のモデルを提唱した。著作には『政策形成の過程』、『民主主義の知性』などがある。]]
[[ファイル:Charles Edward Lindblom.jpg|thumb|right|150px|(年-年)チャールズ・リンドブロム]]
 
====官僚主義モデル====
[[ファイル:Graham T. Allison.jpg|thumb|right|150px|グレアム・アリソン(1940年生)はアメリカの政治学者。ハーバード大学で博士号を取得した後に同大学のケネディ行政大学院の教授となる。クリントン政権の下で防衛政策に国防総省のスタッフとして携わっている。キューバ危機の研究から対外政策の意思決定をモデル化した研究で知られている。著作には『決定の本質』、『核テロ』など。]]
[[ファイル:Graham T. Allison.jpg|thumb|right|150px|(年-年)グレアム・アリソン]]
 
=== 政策仮定の諸段階 ===
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====政策形成====
[[ファイル:Andrew Gamble at Policy Network event.jpg|thumb|right|150px|アンドリュー・ギャンブル(1947-年はイギリスの政治学者。ケンブリッジ大学で博士号を取得後、シェフィールド大学教授を経て、ケンブリッジ大学教授となる。著作には『自由経済と強い国家』、『資本主義の妖怪』など。]]
 
====政策実施====
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====政策評価====
[[ファイル:Thomas R. Dye.jpg|thumb|right|150px|トーマス・ダイ(年-年)]]
 
=== 公共政策の効果 ===
====社会的安定====
[[ファイル:Spinoza.jpg|thumb|right|150px|バールーフ・デ・スピノザ(年-年)]]
 
====物質的効用====
[[ファイル:Richard Titmuss.jpg|thumb|right|150px|(年-年)リチャード・ティトマス]]
 
====民主的統治====
[[ファイル:josephaloisschumpeter.jpg|thumb|right|150px|(年-年)ヨーゼフ・シュンペーター]]
 
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