「有限群論序論」の版間の差分

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103 行
 
===群の定義===
さて、群とは、任意の元について、逆元の定義された、モノイドだった。すなわち、まとめると、次のような1から3を満たす代数構造(''G'',·)を群と呼ぶ。
 
1.単位元の存在
120 行
''a'' · (''b'' · ''c'') = (''a'' · ''b'') · ''c''
が成り立つ。
 
これらに加えてさらに
 
4.交換法則
∀ ''a'',''b'' ∈ ''G'' に対して''a'' · ''b''=''b'' · a
 
が成り立つ群を特に'''可換群'''または'''アーベル群'''という。
 
===群に関する基本的な定理===
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でなければならない。
 
==正規部分群と= 群の準同型定理例 ===
群の公理だけからわかることについてみてきたが、その公理を満たすような対象として具体的にどのようなものがあるかということも重要である。ここではそのような例を挙げてみる。
 
まず、代数構造の例として述べた2つの例についてみてみよう。ここで挙げた2つのうち、<math>(\mathbb{Z},+)</math>は群である。一方で、<math>(\mathbb{R},\cdot)</math>は群ではない。0の逆元が存在しないからである。一方、<math>\mathbb{R}^\times :=\mathbb{R} \setminus \{0\}</math>は積を演算として群である。これらの群は明らかにアーベル群である。
群は、代数構造の中でも、比較的基本的なもので、前提とするルールが少なく、幅広い対象に応用できる。逆に、幅広い対象に応用できるように、ルールを少なくしているともいえよう。そのような幅広い対象に応用できるものに、共通して使える有用な定理が存在すれば、幅広い対象に対して新しい知見を見出すことができるという点で非常に有用であると言えよう。
 
一方、次のような群の例もある。集合''X''上の全単射<math>f:X \to X</math>をすべて集めた集合をSym(''X'')とする。Sym(''X'')は写像の合成を演算として群になる。単位元は恒等写像、逆元は逆写像である。これは一般にアーベル群にはならない。
ここで紹介する準同型定理は、群の基本的な定理である。群論を学ぶからには、よく理解し、使いこなせるようになるべきである。
 
特に<math>X=\{1,2,3,\cdots,n\}</math>のとき、Sym(''X'')を<math>\mathfrak{S}_n</math>と書き、これを''n''次の'''対称群'''という。
 
対称群の元のうち、<math>i_l(1 \le l \le m-1)</math>を<math>i_{l+1}</math>に、<math>i_m</math>を<math>i_1</math>に写し、他の元は動かさない写像を、<math>(i_1 \ i_2 \ i_3 \ \cdots \ i_m)</math>と表記する。このような元を'''巡回置換'''と呼ぶ。対称群の元はいくつかの巡回置換の積として表される。特に<math>m=2</math>の巡回置換を'''互換'''と呼ぶ。巡回置換はいくつかの互換の積として表されるので、結局対称群の元はいくつかの互換の積として表される。群の言葉を使わずに言えば、すべての並び替えはあみだくじを使って実現することができる。
 
=== 部分群= ==
=== 部分群 ===
群''G''が与えられたとき、群''G''の部分群''H'' &sub; ''G''とは、集合として、''H'' &sub; ''G''であり、なおかつ、''H''が群であるものを指す。
 
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必要性は明らかだろう。十分性は以下のように示される。''a'' &isin; ''H''とすると、条件より、''a'' &middot; ''a''<sup>-1</sup> = ''e'' &isin; ''H''である。 よって''a'' &isin; ''H''かつ''e'' &isin; ''H''なので、 条件より''e'' &middot; ''a''<sup>-1</sup> = ''a''<sup>-1</sup> &isin; ''H''である。最後に、''a'' &isin; ''H'' , ''b'' &isin; ''H''とすると、''b'' &isin; ''H''より''b''<sup>-1</sup>&isin; ''H''なので、''a'' &middot; ( ''b''<sup>-1</sup> ) <sup>-1</sup> = ''a'' &middot; ''b'' &isin; ''H''。よって''H''は''G''の部分群である。
 
=== 準同型写像生成元と巡回群 ===
群''G''の部分集合''S''は、一般に部分群になるとは限らない。しかし、''S''の元とその逆元をいくつか掛け合わせた元全体、すなわち
これまではひとつの群についてばかり考えてきたが、ここでは2つの群の間の写像について考えよう。
:<math>\langle S \rangle :=\{x_1 x_2 \cdots x_n | x_i \in S \ or \ x_i^{-1} \in S \}</math>
は''G''の部分群になる。これを''S''が生成する部分群という。特に<math>\langle S \rangle = G</math>のとき''S''を''G''の'''生成系'''といい、''S''の元を''G''の'''生成元'''という。
 
ただ一つの元からなる生成系を持つ群を'''巡回群'''という。巡回群は明らかにアーベル群である。
''G''と'' G' ''を群とする。写像<math>f:G \to G'</math>が'''準同型写像'''である(あるいは単に準同型である)とは、次の条件を満たすことである。
 
'''例''' 互換の全体は対称群の生成系である。
<math>f(x \cdot y) = f(x) \cdot f(y) , \forall x,y \in G</math>
 
準同型であって特に全単射なものを'''同型'''という。少し紛らわしい表現だが、''G''から'' G' ''への同型写像があるときこの2つの群は同型であるといい、<math>G \cong G'</math>と書く。
 
明らかに準同型となる例として、部分群からもとの群への包含写像は単射な準同型であり、特に群の恒等写像は同型である。また、準同型の合成は準同型であり、同型の逆写像は同型である。以上から、2つの群が同型であるという関係は同値関係であることがわかる。
 
<math>f:G \to G'</math>を準同型とするとき、<math>\mathrm{Im} f = \{f(x) \in G'|x \in G \}</math>をfの'''像'''(image)といい、<math>\ker f = \{ x \in G | f(x) = e_{G'} \}</math>をfの'''核'''(kernel)という。imageはG'の、kernelはGの部分群であることはすぐわかる。
 
準同型は必ず単位元を単位元にうつす。すなわち、<math>e_G \in \ker f</math>である。また、準同型が単射であることは、<math>\ker f = \{ e_G \}</math>と同値である。この事実は準同型の単射性の判定を簡便にするためにしばしば役立つ。
 
群''G''から''G''自身への同型写像を''G''の自己同型という。任意の群に対して自己同型は必ず存在する(恒等写像)。また、''G''の自己同型全体をAut''G''と書くことにすると、この集合は写像の合成を演算として群となることがわかる(確かめよ)。これを''G''の'''自己同型群'''という。
 
===正規部分群===
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''g'' &isin; ''G'' , ''h'' &isin; ''H'' &rArr; ''g'' &middot; ''h'' &middot; ''g''<sup>-1</sup> &isin; ''H''
 
明らかにアーベル群の部分群は必ず正規部分群であるが、アーベル群でない群の部分群は、一般に正規部分群になるとは限らない。そのほかに、次のような例がある。
正規部分群の一例として、一般に群の準同型が与えられたとき、そのkernelは正規部分群である。
 
'''例''' 上でみたように、''n''次対称群の任意の元はいくつかの互換の積として表せる。その表し方は一意ではないが、積として表すときに用いる互換の個数が偶数か奇数かは表し方によらず元のみによってきまることが知られており、偶数個で表せる元を'''偶置換'''、奇数個で表せる元を'''奇置換'''と呼ぶ。偶置換の全体は明らかに正規部分群となる。これを''n''次'''交代群'''といい、<math>A_n</math>と書く。
 
===正規部分群による商群===
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これが群であることを示さなくてはならないが、その前に正規部分群ならばこの演算がwell-definedであることを示さなくてはならない。この演算のwell-defined性さえ確かめれば、あと群になることはほとんど自明である。ここではとりあえず略して先へ進む。
 
== 準同型と準同型定理 ==
ここで紹介する準同型定理は、群の基本的な定理である。群論を学ぶからには、よく理解し、使いこなせるようになるべきである。
 
=== 準同型写像 ===
これまではひとつの群についてばかり考えてきたが、ここでは2つの群の間の写像について考えよう。
 
''G''と'' G' ''を群とする。写像<math>f:G \to G'</math>が'''準同型写像'''である(あるいは単に準同型である)とは、次の条件を満たすことである。
 
<math>f(x \cdot y) = f(x) \cdot f(y) , \forall x,y \in G</math>
 
準同型であって特に全単射なものを'''同型'''という。少し紛らわしい表現だが、''G''から'' G' ''への同型写像があるときこの2つの群は同型であるといい、<math>G \cong G'</math>と書く。
 
明らかに準同型となる例として、部分群からもとの群への包含写像は単射な準同型であり、特に群の恒等写像は同型である。また、準同型の合成は準同型であり、同型の逆写像は同型である。以上から、2つの群が同型であるという関係は同値関係であることがわかる。
 
<math>f:G \to G'</math>を準同型とするとき、<math>\mathrm{Im} f = \{f(x) \in G'|x \in G \}</math>をfの'''像'''(image)といい、<math>\ker f = \{ x \in G | f(x) = e_{G'} \}</math>をfの'''核'''(kernel)という。imageはG'の、kernelはGの部分群であることはすぐわかる。特にkernelは正規部分群でもあることがわかる。
 
準同型は必ず単位元を単位元にうつす。すなわち、<math>e_G \in \ker f</math>である。また、準同型が単射であることは、<math>\ker f = \{ e_G \}</math>と同値である。この事実は準同型の単射性の判定を簡便にするためにしばしば役立つ。
 
群''G''から''G''自身への同型写像を''G''の自己同型という。任意の群に対して自己同型は必ず存在する(恒等写像)。また、''G''の自己同型全体をAut''G''と書くことにすると、この集合は写像の合成を演算として群となることがわかる(確かめよ)。これを''G''の'''自己同型群'''という。
 
===群の準同型定理===
前節までで、準同型定理を述べる準備は整った。次に述べるのが、準同型定理といわれるものである。
 
'''定理''' ''G''と''H''を群、<math>f:G \to H</math>を全射な群の準同型とするとき、<math>G/\ker f \cong H</math>