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==DNAの複製==
[[File:DNA replication split.svg|thumb|250px|複製中のDNA]]
[[ファイル:Dnareplication.png|right|300px|thumb|'''DNA複製の模式図''': 空色で示したテンプレート鎖 (Template Strands) が複製時の鋳型となる。DNA複製分岐点 (Replication Fork) においてDNAがほどける。分岐点は次第に上方に移動していく。左側のリーディング鎖においては分岐点の移動に伴って緑色のDNAポリメラーゼが連続的に相補鎖を複製していく。赤い矢印は酵素の移動方向を示す。右側のラギング鎖においてもDNAポリメラーゼが働くが、本文中に説明した理由により、DNA合成は不連続となり岡崎フラグメントと呼ばれる断片になってしまう。この断片をDNAリガーゼがつなぎ合わせていく]]
 
''wikipediaの記事“[[w:DNA複製|DNA複製]]”も参照''
 
細胞が分裂するとき、それが担ってきた膨大な遺伝情報は正確に複写されねばならない:さもなければ、連続性という生命の重要な要素は失われ、複雑多様な環境のなかにあって細胞の秩序を維持することはできない。そのために、細胞にはDNAを迅速に複製し、またそれを校正するしくみが備わっている。
 
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# リーディング鎖では、RNAプライマーゼによるプライマーRNA合成に続いてDNAポリメラーゼⅢが結合、“滑る留め金”タンパク質によって鋳型DNA鎖に保持されつつ連続的にDNA合成
# ラギング鎖では、“返し縫”による断続的なプライマーRNA、DNA断片(岡崎フラグメント)の合成
# リボヌクレアーゼHおよびDNAポリメラーゼⅠによるプライマーRNAのDNAへの置換
# DNAリガーゼによる岡崎フラグメントの連結
 
では、それぞれのプロセスについての詳細を以下に述べる。
; 複製フォークの形成(DNA二本鎖の開裂と一本鎖DNAの安定化)
 
: DNAを複製するには、まずDNAの二本鎖を分離しなければならないが、二本鎖を形づくる塩基間の水素結合は極めて安定なので、熱でこれを行なうには100℃近い温度が必要となる:言うまでもなく、生体内では不可能な温度である。これを可能にするため、酵素である'''[[w:ヘリカーゼ|ヘリカーゼ]]'''が使われる。ヘリカーゼは[[#真核細胞の染色体|2章]]で触れた複製起点に結合してその部分の二重らせんを開裂し、さらに'''[[w:一本鎖DNA結合タンパク質|一本鎖DNA結合蛋白質:SSB]]'''が結合して、一本鎖DNAが再び二本鎖に戻ってしまわないよう安定化する。これによって、Y字形の'''複製フォーク'''が2個形成され、ここに複製に関与する各種タンパク質が結合し、新しいDNAの合成を行なう。これらのタンパク質はDNA鎖上を移動しながら複製を行なうので、これに伴って複製フォークも移動する。2個の複製フォークは、複製起点を中心としてDNA鎖の両側へと進んでいく。
; DNA合成
 
: DNAの複製に当たって重要な役割を果たすのが、'''[[w:DNAポリメラーゼ|DNAポリメラーゼIII:DNA polIII]]'''である。これはDNA鎖に結合し、'''滑る留め金'''とよばれるタンパク質によって鎖上に保持されつつ、DNA鎖の3’末端に次々とヌクレオチドを付加していくもので、従って5’→3’という一方向にしか動けない。
: さて、ここで問題が生じる。すなわち、[[#遺伝子・ゲノム・DNA|1章]]で触れたとおりDNAの二本鎖は互いに逆向きで、そして、複製フォークでの複製は2本の鎖の両方に対して同時に新しい娘鎖を合成するかたちで進んでいく。DNA鎖の1本が5’→3’の方向で動いているとき、もう一方の鎖は3’→5’の方向で動いていく。そして、DNAポリメラーゼは'''5’→3’の方向でしか動けない'''。
 
: この問題の解決法が、いわゆる“返し縫”である。つまり、DNAポリメラーゼは複製フォークの中で5’→3’方向に戻りながら、短い断片を次々と合成するのである。この断片を'''[[w:岡崎フラグメント|岡崎フラグメント]]'''と呼ぶ。
さて、ここで問題が生じる。すなわち、[[#遺伝子・ゲノム・DNA|1章]]で触れたとおりDNAの二本鎖は互いに逆向きで、そして、複製フォークでの複製は2本の鎖の両方に対して同時に新しい娘鎖を合成するかたちで進んでいく。DNA鎖の1本が5’→3’の方向で動いているとき、もう一方の鎖は3’→5’の方向で動いていく。そして、DNAポリメラーゼは'''5’→3’の方向でしか動けない'''。
: このとき、連続的に鎖が作られる側を'''リーディング鎖'''、“返し縫”によって不連続に作られる側を'''ラギング鎖'''と呼ぶ。
 
: DNAポリメラーゼが5’→3’の方向でしか動けないことは先に述べたが、これはDNAポリメラーゼが持っている校正機能による。DNAポリメラーゼは、3’末端において正確な塩基対があるときだけ、そこにヌクレオチドを付加することができる。つまり、3’末端に塩基対がなければ、DNAポリメラーゼは動けないわけで、ヘリカーゼがDNA鎖を開裂しただけでは、DNAポリメラーゼはその機能を発揮できないのだ。
この問題の解決法が、いわゆる“返し縫”である。つまり、DNAポリメラーゼは複製フォークの中で5’→3’方向に戻りながら、短い断片を次々と合成するのである。この断片を'''[[w:岡崎フラグメント|岡崎フラグメント]]'''と呼ぶ。
: そこで登場するのが'''[[w:プライマーゼ|RNAプライマーゼ]]'''で、これには校正機能がないので、まったく新しくポリヌクレオチド鎖を作りはじめることができる。RNAプライマーゼはDNAを鋳型として、10ヌクレオチド程度の短いRNAの分子を作る。こうしてできたRNAを'''[[w:プライマー|プライマー]]RNA'''と呼び、これが鋳型鎖と塩基対を構成すると、この塩基対を使ってDNAポリメラーゼが合成を開始する。
 
: 上記の原理より想像されるとおり、リーディング鎖においては、プライマーRNAは最初に複製起点で複製が開始されるときにしか必要ないが、ラギング鎖においてはたえず新しいプライマーRNAが必要になる。このため、複製フォークが動いて塩基対を形成していない部分が露出すると、ラギング鎖沿いには間隔を置いて新しいプライマーRNAが合成される。このプライマーの3’末端からDNAポリメラーゼがDNA鎖を作りはじめ、次のプライマーのところまでDNA鎖を伸ばしていくのである。
このとき、連続的に鎖が作られる側を'''リーディング鎖'''、“返し縫”によって不連続に作られる側を'''ラギング鎖'''と呼ぶ。
 
DNAポリメラーゼが5’→3’の方向でしか動けないことは先に述べたが、これはDNAポリメラーゼが持っている校正機能による。DNAポリメラーゼは、3’末端において正確な塩基対があるときだけ、そこにヌクレオチドを付加することができる。つまり、3’末端に塩基対がなければ、DNAポリメラーゼは動けないわけで、ヘリカーゼがDNA鎖を開裂しただけでは、DNAポリメラーゼはその機能を発揮できないのだ。
 
そこで登場するのが'''[[w:プライマーゼ|RNAプライマーゼ]]'''で、これには校正機能がないので、まったく新しくポリヌクレオチド鎖を作りはじめることができる。RNAプライマーゼはDNAを鋳型として、10ヌクレオチド程度の短いRNAの分子を作る。こうしてできたRNAを'''[[w:プライマー|プライマー]]RNA'''と呼び、これが鋳型鎖と塩基対を構成すると、この塩基対を使ってDNAポリメラーゼが合成を開始する。
 
上記の原理より想像されるとおり、リーディング鎖においては、プライマーRNAは最初に複製起点で複製が開始されるときにしか必要ないが、ラギング鎖においてはたえず新しいプライマーRNAが必要になる。このため、複製フォークが動いて塩基対を形成していない部分が露出すると、ラギング鎖沿いには間隔を置いて新しいプライマーRNAが合成される。このプライマーの3’末端からDNAポリメラーゼがDNA鎖を作りはじめ、次のプライマーのところまでDNA鎖を伸ばしていくのである。
 
この結果、ラギング鎖上には多数の断片的なDNA(岡崎フラグメント)やRNA(プライマーRNA)ができる。これらを元にしてDNA鎖を作り上げるために、さらにいくつかの酵素が働く。
 
; プライマーRNAからDNAへの置換とDNA鎖の連結
: まず、'''[[w:リボヌクレアーゼ|リボヌクレアーゼH: RNaseH]]'''によってプライマーRNAが除去され、'''DNAポリメラーゼI'''によってDNAに置き換えられる。プライマーRNAは校正されないままに作られたためにエラーがありうるが、DNAポリメラーゼⅠには校正機能があるから、その配列は信頼できる。これに続いて、'''DNAリガーゼ'''がDNA断片をつなぎあわせて、連続したDNA鎖を作り上げる。
 
; 染色体末端での挙動
さて、上記のようにしてDNAの複製は進んでいくのだが、複製フォークが染色体の末端に近づくにつれ、重大な問題が生じる。末端においては、岡崎フラグメントの合成を始めようにも、必要なプライマーRNAを合成する余地がないため、複製のたびにDNA鎖の末端部分が少しずつ失われてしまうのである。これを解決するために、染色体の末端にあるのが、[[#真核細胞の染色体|2章]]で触れた'''テロメア'''である。これは特殊な反復配列で、この部分に'''[[w:テロメラーゼ|テロメラーゼ]]'''という酵素が結合し、染色体の末端にテロメア配列の繰り返しを付加するので、これを鋳型として、ラギング鎖の複製を最後まで進めることができる。
: さて、上記のようにしてDNAの複製は進んでいくのだが、複製フォークが染色体の末端に近づくにつれ、重大な問題が生じる。末端においては、岡崎フラグメントの合成を始めようにも、必要なプライマーRNAを合成する余地がないため、複製のたびにDNA鎖の末端部分が少しずつ失われてしまうのである。
さて、上記のようにしてDNAの複製は進んでいくのだが、複製フォークが染色体の末端に近づくにつれ、重大な問題が生じる。末端においては、岡崎フラグメントの合成を始めようにも、必要なプライマーRNAを合成する余地がないため、複製のたびにDNA鎖の末端部分が少しずつ失われてしまうのである。: これを解決するために、染色体の末端にあるのが、[[#真核細胞の染色体|2章]]で触れた'''テロメア'''である。これは特殊な反復配列で、この部分に'''[[w:テロメラーゼ|テロメラーゼ]]'''という酵素が結合し、染色体の末端にテロメア配列の繰り返しを付加するので、これを鋳型として、ラギング鎖の複製を最後まで進めることができる。
 
==DNAの修復==