「法学入門」の版間の差分

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では、次の例はどうなるだろうか。「ここから先は、ひとりで行ってはいけない」これは、上にみた例に「ここから先は」と「行って」が条件に加わっている。上の例では、文理解釈と反対解釈は、概念上、全体を構成する一対の意味の総和であった。つまり、上の例では、縮小解釈や拡張解釈の概念を用いる必要はなかったが、この例では、新たな条件が加わることで、観念的な解釈から具体的な解釈を考える一歩を踏み出すことになる。言い換えると、上の例では字句の表現そのものに重点あり、この条件が加わった例では字句表現の事実、つまり、字句表現とそれが指し示す事実の在り方に重点がある。さらに、事実の在り方は、この例の場合、「ここから先」の字句からも分かるように、或る基準の前後でふたつの状態があり、それぞれに「ひとりで」の字句がどう関わるのか、それは、後の状態から「ひとりで」が条件化されると考えられるが、この例の対象がひとりの人であった場合の「ひとりで」の意味から前の状態をも考えることになる。そうすると、或る人が、どこからかひとりで来て、そして、ここから先はひとりで行ってはいけない、ということだけを考えると、この例は、この或る人にとっての禁止を意味することになる。また別に、何人かのうちの或る人が、どこからか皆と一緒に来て、そして、ここから先はひとりで行ってはいけない、と考えれば、この例は、この或る人にとっての制限を意味することになる。つまり、この例の条件以前の対象の状況ないし状態を考えることによって、条件と対象の関係的性質を理解するとともに、字句解釈の一側面というものを理解する切っ掛けとなる。次に、この例の字句を言い切った後の状況、例えば、この例を、確実な伝達を目的とするものであったとして、伝達されたものの評価を得てから遡って「ひとりで」の意味を改めてみてみると、どこからかひとりで来た人の場合、「ひとりで」の字句そのままの意味、つまり、字句は指示であることが分かる。なぜなら、この人は、この字句の条件について関係する他の人はいないからである。他方、どこからか皆と一緒に来た人の場合、「ひとりで」の字句は、この人が条件について関係可能性のある他の人がいるため、伝達確実性の目的によって、「ひとりで」の字句の意味は「ひとりであることの不確実性」と実質化され、場合によっては「ふたりで」あっても制限される可能性を持つことになる。この場合の字句は指示ではなく例示となる。この例からも一瞥できるように、字句の解釈は、字句を用いることになった目的によって(目的解釈)、同じ字句は文理解釈ともなり、また、縮小あるいは拡張解釈ともなる。
 
では、次に、「合意がなければならない」という字句の意味を考えてみよう。この例は、先に揚げたふたつの例と異なっているところがある。それは、「合意」とあるところから分かるように、この字句は名宛人がひとりではなく少なくともふたりであること、すなわち、先の例よりも社会性の強い字句である。「合意」とは、普通には、相対する人同士の意思の合致を意味するが、相対する人たちのどういう状態を以って意思の合致と言えるのかは一通りではない。注意すべきは、一般的な「意思」という言い方は総称的なものであり、実体は、(各自の)意思+(各自のその)意思の解釈+(その)解釈に拠った言明という三つの部分から成り立っている。つまり、意思は何らかの言明によってはじめて相対する人に伝わるもの(理解ではない)であるということである。…
 
====判例解釈====