「簿記/総論/総説」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
Akaniji (トーク | 投稿記録)
M →‎簿記学: 前後テンプレートの絶対パスを相対パス化
Akaniji (トーク | 投稿記録)
節レベル変更 for 全章通覧
1 行
=== 簿記の意義 ===
簿記とは、事業の所有する財産や資本に生じた変動を、漏れなく記録計算整理して、その結果を明らかにする方法である。
 
6 行
簿記は、如何にせば、かかる資本の循環を計算的に正しく把握し、その成果を明らかにすることができるかを研究するものである。けだし複雑化した今日の事業経営に対しては、一定の法則と形式とを備える把握方法によらなければ、その会計を完全に整理することができないのであって、簿記は即ちこの記帳法則とその適用とを研究するものである。
 
=== 簿記の目的 ===
簿記の目的は、これを大別して2つとすることができる。
; (1) 主目的 : 簿記は各期間の正しい業績を確かめ、かつ一定時点における事業の財政状態を明らかにするため、財産及び資本の変動を秩序正しく記録計算することを主なる目的とする。経営活動の結果いかなる成果を収め得たか、また財政の現状はいかがなったかを正しくしることが、経営者にとり必要なことは言をまたぬところであって、彼はこれをもって過去の経過を回顧する手段となすと同時に、将来採るべき方針を定める基礎とすることができるのである。いかに小規模単純なる事業でも、全然見聞や記憶だけによって経営を進めることは困難である。いわんや現今のように高度に発達した経済社会においては、経営活動は複雑を極め、これを見聞ないし記憶のごとき推算を基礎として管理するごときはほとんど不可能で、経営者は簿記の助を藉って(借りて)始めて経営活動を認識し、その成果を知り、もって合理的な経営生活を営み得るのである。従来事業経営に従事する者の簿記知識の欠乏が、事業失敗の原因となったことは決して少なくない。
; (2) 副目的 : 簿記の副目的には種々ある。第一に、簿記は企業の他の計算制度に対して重要なる資料を提供する。即ち原価計算のためには原価要素の収集分類をなし、統計のためにはその数字材料を提供する。第二に、企業の債権者または将来債権者たらんとする者に対して、信用程度を判断する材料を供し、投資者には彼の投資の安否判断の手段を与える。一般にかかる企業の利害関係者は、企業の経営記録ないしその結果に接し得て、始めて合理的な判断をなし得ること、経営者におけると変わりがない。第三に、簿記は保険事故の発生した時その当事者に対して賠償額または賠償請求額の算定基礎を提供し、訴訟事件の場合にはその正当なることを証明する手段として役立つ。第四、国家その他公共団体に対して簿記は課税の基礎を提供し、各種統制のための手がかりを供する。経済統制の強化に伴い、この目的は次第にその重要性を増大する。
 
=== 簿記の種類 ===
簿記は記録計算法の目的と方法との相違から、単式簿記と複式簿記とに分かたれる。
; (1) 単式簿記 : 単式簿記 Single Entry Book-keeping, einfache Buchhaltungは、財産の変動のみを記録するもので、特別の記帳原理を有せず、もっぱら常識的に記録計算を行う簿記法である。それゆえ、これが習得は容易であるという長所を有つも、一方資本に関する記録計算を欠くゆえ、一期間の純損益は確かめ得るも、その由来を知り得ない。しかもその財産計算といえども不完全であって、多くは財産の一部即ち他人との貸借および金銭の収支等を記録するにとどまる。かくて単式簿記は財産や資本の正確な記録計算をなすよりは、むしろ記帳技術の簡易を望む小規模単純な企業の会計整理に用いられる簿記である。
17 行
: 次に簿記は応用せられる事業の種類によって、商業簿記・工業簿記・農業簿記・銀行簿記・保険簿記・運送簿記・倉庫簿記など種々に分かたれる。これらはすべて単式または複式どれかの方法によって記帳せられるのであるが、業種の性質上その方法には幾分の相違を有する。しかしその根本原理に至っては、毫も異なるものではないから、これら諸簿記中の一種を会得すれば、他はその事業に特有な記帳形式を特別に研究することによって、容易に理解し得られる。しかして上記諸簿記の中で、商業簿記は単式および複式の記帳法を会得し、他の簿記を研究する基礎として最も適当しており、この意味でそれは一般簿記とも称すべきものである。けだし商業はその取引が単純でかつ最も典型的であり、しかも他の事業も大抵商業的活動の一面を有するからである。
 
=== 簿記学 ===
簿記学は、事業経営上生起する諸種の事象を、計数的に記録計算整理する方法を研究する学問である。簿記が学問であるかまたは技術であるかは縷々論ぜられるところであるが、簿記はそのいずれをも有し得る。換言すれば、簿記は二つの方面を有し、簿記理論は簿記学を形成し、簿記法は簿記技術を構成する。学問としての簿記は業績の確定を目的として、財産や資本の変動を計算整理する方法の理論的研究であり、簿記技術は抽象的な簿記理論の研究ではなくて、実際的立場から簿記遂行に関する諸知識を与えるものである。もちろんこれら両者は、相依り相たすけて相互の完全を期し得るのであって、前者は後者の助を藉って(借りて)完全な研究をなし得べく、また後者は前者の研究成果を得て始めてその完璧を期することができる。本書はかかる見地から、簿記理論を簡明に説き、主として簿記技術を説明することを目的とする。