「解析学基礎/常微分方程式」の版間の差分

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Ninomy (トーク | 投稿記録)
ベルヌーイの微分方程式とリッカチの微分方程式
K.ito (トーク | 投稿記録)
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479 行
#<math>(x^2+1)f'(x)+3xf(x)=(x^2+1)^{5 \over 2},f(1)={1 \over 3}</math>
 
=== 原子核の崩壊速度 ===
線型微分方程式のひとつの応用例として、原子核の崩壊に関するものを見てみよう。
 
493 行
 
と解ける。適当に文字を置き換えると、[[高等学校理科 物理II 原子と原子核]]の1.2.3で述べた式が導かれたことになる。
 
== 一階定数係数連立線型常微分方程式と高階定数係数線型常微分方程式 ==
=== 連立線型常微分方程式と行列の指数関数 ===
上の節では一階の線型常微分方程式の解法を述べた。その中でも最もやさしい定数係数の方程式
:<math> y'=ay </math>
の解は、変数分離法により簡単に求まり、
:<math>y=Ce^{xa}</math>
であった。ただし、C=y(0)である。
 
次に、''n''本の一階定数係数線型常微分方程式を連立させた方程式
:<math>
\begin{cases}
y_1'=a_{11}y_1+a_{12}y_2+\cdots a_{1n}y_n \\
y_2'=a_{21}y_1+a_{22}y_2+\cdots a_{2n}y_n \\
\vdots \\
y_n'=a_{n1}y_1+a_{n2}y_2+\cdots a_{nn}y_n
\end{cases}
</math>
を考えよう。この方程式は、行列を用いて
:<math>\mathbf{y}'=A\mathbf{y} \cdots \bigstar</math>
と表すことができる。ただし
<math>\mathbf{y}=\begin{pmatrix}
y_1 \\
y_2 \\
\vdots \\
y_n
\end{pmatrix},A=\begin{pmatrix}
a_{11}&a_{12}&\cdots&a_{1n} \\
a_{21}&a_{22}&\cdots&a_{2n} \\
\vdots&&&\vdots\\
a_{n1}&a_{n2}&\cdots&a_{nn} \\
\end{pmatrix}
</math>である。
 
方程式が1本のときの例から類推すれば、この連立方程式の解は
:<math>e^{xA}</math>
のようなものが定義できれば、それを用いて表せそうである。しかし、行列の指数関数をどうやって定義すればよいだろうか?そのために、そもそも実数上の関数としての指数関数がどのように定義されるかを考えてみると、次のようにしてテイラー展開で定義できることが思い出される。
:<math>e^x=\sum_{k=0}^\infty \frac{x^k}{k!}</math>
行列であっても、この式に代入することは可能そうである。すなわち、次のように定義する。
 
'''定義''' 正方行列''A''に対して、<math>e^{xA}:=\sum_{k=0}^\infty \frac{(xA)^k}{k!}</math>
 
この級数が収束するのか、またどの程度よい収束をするのかが問題だが、結論から言えば一様絶対収束する。詳しい証明は省くが、ゆえにこの級数を項別微分することができ、
:<math>(e^{xA})'=Ae^{xA}</math>
が成り立つ。
 
このことから、連立線型微分方程式は初期条件を与えると次のように解けることがわかる。
 
'''定理'''
::<math>\mathbf{y}=e^{xA}\mathbf{y}(0)</math>
:は、方程式<math>\bigstar</math>の初期値<math>\mathbf{y}(0)=\begin{pmatrix}c_1 \\ c_2 \\ \cdots \\ c_n\end{pmatrix}</math>における解になっている。
 
実際に解になっていることは代入によって確かめることができる。
 
=== 高階定数係数線型常微分方程式 ===
次に、''n''階の定数係数線型常微分方程式
:<math> y^{(n)}=a_{n-1}y^{(n-1)}+\cdots+a_1y'</math>
を考える。この方程式は、実は次のようにして連立常微分方程式とみなして行列を使って表せる。
:<math>\frac{d}{dx}\begin{pmatrix}y \\ y' \\ \vdots \\ y^{(n-2)} \\ y^{(n-1)}\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
0&1&0&\cdots&0 \\
0&0&1&\cdots&0 \\
\vdots&&&&\vdots \\
0&0&0&\cdots&1 \\
a_1&a_2&a_3&\cdots&a_{n-1}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}y \\ y' \\ \vdots \\ y^{(n-2)} \\ y^{(n-1)}\end{pmatrix}
</math>
よって、上の節で述べた方法により初期値問題を解くことができる。
 
=== 具体的な行列に対する計算法 ===
では、具体的な係数行列が与えられたとき、どのようにすれば行列の指数関数が計算できるかを見てみよう。
==== 対角行列の場合 ====
対角行列
:<math>D=\begin{pmatrix}
c_1&0&\cdots&0 \\
0&c_2&\cdots&0 \\
\vdots&&&\vdots \\
0&0&\cdots&c_n
\end{pmatrix}</math>
に対して<math>e^{xD}</math>を計算してみよう。
 
すぐにわかるように、
:<math>D^k=\begin{pmatrix}
c_1^k&0&\cdots&0 \\
0&c_2^k&\cdots&0 \\
\vdots&&&\vdots \\
0&0&\cdots&c_n^k
\end{pmatrix}</math>
である。よって、各成分ごとの計算から
<math>e^{xD}=\begin{pmatrix}
e^{c_1x}&0&\cdots&0 \\
0&e^{c_2x}&\cdots&0 \\
\vdots&&&\vdots \\
0&0&\cdots&e^{c_nx}
\end{pmatrix}</math>
である。
 
==== 対角化可能な行列の場合 ====
行列''A''が<math>P^{-1}AP=D</math>と対角化可能な場合も行列の指数関数は容易に計算できる。なぜならば、
:<math>A^k=(PDP^{-1})^k=PD^kP^{-1}</math>
なので、これを代入することで
:<math>e^{xA}=Pe^{xD}P^{-1}</math>
となり、対角行列の指数関数は容易に計算できるからである。
 
==== 対角化不可能な行列の場合 ====
係数行列が対角化不可能なときは上記のようにはいかず、一般にはジョルダン標準形を用いることになる。しかし、特殊な場合にはそこまでの計算をする必要はない。たとえば、固有値がすべて等しい場合には次のようにして計算することができる。
 
''n''次正方行列''A''の''n''個の固有値がすべて<math>\lambda</math>のとき、この行列の固有多項式は<math>(t-\lambda)^n</math>なので、ケイリー・ハミルトンの定理より
:<math>(A-\lambda I)^n=O</math>
である。このことを用いると、
:<math>\begin{align}
e^{xA}
&=e^{\lambda xI+x(A-\lambda I)} \\
&=e^{\lambda x}\sum_{k=0}^\infty \frac{x^k(A-\lambda I)^k}{k!} \\
&=e^{\lambda x}\sum_{k=0}^{n-1} \frac{x^k(A-\lambda I)^k}{k!} \\
\end{align}
</math>
と有限回の計算で指数関数を計算することができる。
 
=== 具体例 ===
二階の線型常微分方程式の具体例として、ばねにつながれた物体の運動を記述してみよう。ばねにつながれた物体の時刻''x''における変位を''y''とする。このとき、ばねから物体が受ける力は(負の比例定数で)変位に比例することが知られている。このことを用いて物体の運動方程式を記述すると、
:<math>y''=\frac{-k}{m}y</math>
となる。ただし''k''はばね定数と呼ばれる正の数、''m''は物体の質量である。
 
この方程式を行列を用いて書き直すと、
:<math>
\frac{d}{dx}\begin{pmatrix}y \\ y'\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}0&1 \\ \frac{-k}{m}&0 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}y \\ y'\end{pmatrix}
</math>
と表せる。<math>A=\begin{pmatrix}0&1 \\ \frac{-k}{m}&0 \end{pmatrix}</math>とする。この行列は対角化できるので、指数関数が計算できて、
:<math>e^{xA}=
\begin{pmatrix}
\cosh(i\sqrt{\frac{k}{m}}x) & -i\sqrt{\frac{m}{k}}\sinh(i\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
i\sqrt{\frac{k}{m}}\sinh(i\sqrt{\frac{k}{m}}x) & \cosh(i\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
\cos(\sqrt{\frac{k}{m}}x) & \sqrt{\frac{m}{k}}\sin(\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
-\sqrt{\frac{k}{m}}\sin(\sqrt{\frac{k}{m}}x) & \cos(\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
\end{pmatrix}
</math>
である。初期条件を
<math>\begin{pmatrix} y(0) \\ y'(0)\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} y_0 \\ v_0 \end{pmatrix}</math>
で定めると、解は
:<math>\begin{pmatrix} y \\ y'\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
\cos(\sqrt{\frac{k}{m}}x) & \sqrt{\frac{m}{k}}\sin(\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
-\sqrt{\frac{k}{m}}\sin(\sqrt{\frac{k}{m}}x) & \cos(\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix} y_0 \\ v_0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}y_0\cos(\sqrt{\frac{k}{m}}x)+v_0\sqrt{\frac{m}{k}}\sin(\sqrt{\frac{k}{m}}x) \\
-y_0\sqrt{\frac{k}{m}}\sin(\sqrt{\frac{k}{m}}x)+v_0\cos(\sqrt{\frac{k}{m}}x) \end{pmatrix}</math>
と求められた。これがばねによって振動する物体の時刻''x''における変位と速度である。