「集合論」の版間の差分

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紹介されてる用語に英語を併記。
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== 集合とはなにか? ==
集合(set)とは、物の集まりであって、何か物を持ってきたときにそこに属すのか属さないのかどちらかに必ず定まるもののことである。例えば、「標高8500m以上の山」「都道府県であって、人口500万人未満のもの」「すべての二等辺三角形」「正の奇数すべて」などは集合である。ただし、「頭がいい人」のような、何が属して何が属さないのかが曖昧なものは集合とは呼ばないことにする。
 
集合に属している物のことを'''元''' (element)と呼ぶ。先ほどの例から、「標高8500m以上の山」という集合では、「エベレスト、K2、カンチェンジュンガ、ローツェの4つの元がある」などと言う。「正の奇数すべて」の集合は、「1,3,5,...という無限個の元から成っている」と言える。元が集合に属していることを「<math>\in</math>」という記号で表す。例えば、自然数の全体という集合を<math>\mathbb{N}</math>とすると、<math>1 \in \mathbb{N}</math>と書ける。
 
なお、元が1つもない集合も集合とみなすことにする。そのような集合を'''空集合''' (empty set、null set)と呼び、<math>\phi</math>で表す。
 
== 記法と演算 ==
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=== 部分集合 ===
集合Sのすべての元が集合Tに属しているとき、SはTの'''部分集合''' (subset)であるといい、<math>S \subset T</math>と表す。空集合は任意の集合の部分集合である。また、S自身もSの部分集合である。S自身以外の部分集合をSの'''真部分集合'''といい、TがSの真部分集合であることを<math>T \subsetneq S</math>とあらわす。
 
元が集合に属しているという関係と、元がひとつだけの集合が別の集合の部分集合であるという関係とは似て非なるものである。すなわち、<math>x \in X</math>と<math>\{ x \} \subset X</math>とは、同値ではあるが表していることは異なる。この違いにはよく注意すべきである。
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=== 集合算 ===
集合Sと集合Tの元をあわせた集合を'''和集合''' (sum)ないしは'''合併''' (union)といい、<math>S \cup T</math>と表す。例えば、<math>\{1,2,3\} \cup \{3,4,5\} = \{1,2,3,4,5\}</math>である。
 
集合Sから集合Tの元を除いたものを'''差集合''' (difference set)といい、S-Tないしは<math>S \setminus T</math>と表す。例えば、<math>\{1,2,3\} \setminus \{3,4,5\} = \{1,2\}</math>である。
 
集合Sと集合Tの共通する元の集合を'''積集合''' (intersection)ないしは'''共通部分''' (meet)といい、<math>S \cap T</math>と表す。例えば、<math>\{1,2,3\} \cap \{3,4,5\} = \{3\}</math>である。
 
これらに関しては、次の性質(ド・モルガンの法則)が成り立つ。SとTをXの部分集合とすると、
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:<math>(S \cup T) \cap S = S</math>
 
集合Sと集合Tの元の組の集合を'''直積''' (direct product)といい、<math>S \times T</math>と表す。例えば、<math>\{ 1,2 \} \times \{ 3,4 \} = \{ (1,3),(1,4),(2,3),(2,4) \}</math>である。
 
== 写像 ==
我々は、関数という概念を既に知っている。fが関数(function)であるとは、xという数に対して別の数f(x)がただひとつ定まることであった。ここでは、関数の概念を一般化した写像という概念を考える。すなわち、集合XとYについて、任意の<math>x \in X</math>に対して<math>f(x) \in Y</math>がただひとつ定まるとき、この対応fはXからYへの'''写像''' (mapping)であるといい、
:<math>f:X \to Y , x \mapsto f(x)</math>
と書くことにする。2つの写像<math>f_1,f_2:X \to Y</math>について、
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と定める。
 
2つの写像<math>f:X \to Y</math>と<math>g:Y \to Z</math>があるとき、写像<math>h:X \to Z , x \mapsto g(f(x))</math>が定まる。これをfとgの'''合成''' (composite)といい、<math>g \circ f</math>と書く。
 
=== 像と逆像 ===
写像<math>f:X \to Y</math>とXの部分集合Sがあるとき、Yの部分集合<math>\{ f(x)|x \in S \}</math>をfによるSの'''像''' (image)といい、<math>f(S)</math>と書く。
 
写像<math>f:X \to Y</math>とYの部分集合Tがあるとき、Xの部分集合<math>\{ x|f(x) \in T \}</math>をfによるTの'''逆像''' (inverse image)といい、<math>f^{-1}(T)</math>と書く。
 
特に<math>T= \{ y \}</math>のときには<math>f^{-1}( \{ y \} )</math>を単に<math>f^{-1} (y)</math>と書くこともしばしばある。しかし、この記号は少し紛らわしいので注意すべきである。<math>f(S)</math>と<math>f^{-1}(T)</math>はどちらも集合であるのに対して、<math>f(x)</math>は集合の元だが<math>f^{-1}(y)</math>は集合である。
 
=== 単射と全射 ===
写像<math>f:X \to Y</math>が<math>f(x)=f(x') \Rightarrow x=x'</math>(対偶を取れば、<math>x \neq x' \Rightarrow f(x) \neq f(x')</math>)を満たすとき、fは'''単射''' (injection)であるという。また、<math>f(X)=Y</math>を満たすとき、fは'''全射''' (surjection)であるという。全射かつ単射であることを'''全単射''' (bijection)であるという。
 
'''例''' 集合Xと部分集合Sが与えられているとする。このとき、<math>i:S \to X</math>をi(x)=xで定めると、これは単射である。このiを'''包含写像'''という。特にS=Xのとき、iは全単射である。このとき'''恒等写像''' (identity mapping)と呼び、特に<math>id_X</math>と書く。
 
特に空集合は任意の集合の部分集合なので、空集合からは任意の集合へ包含写像を考えることができる(実質的には何も定めていない写像だが、集合論的に考えることはできる、ということである)。これを特に空写像という。
 
写像<math>f:X \to Y</math>と<math>g:Y \to X</math>があって、<math>g \circ f =id_X</math>かつ<math>f \circ g =id_Y</math>を満たすとき、gはfの'''逆写像''' (inverse mapping)であるといい、<math>f^{-1}</math>と書く。
 
写像fに逆写像が存在することと、写像fが全単射であることは同値である。写像が全単射であることを証明するために、全射かつ単射であることを示すより、具体的に逆写像を構成してしまったほうが簡単な場合がしばしばある。
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== 同値関係と商集合 ==
=== 同値関係 ===
「~」が集合A上の二項関係であるとは、任意の<math>a,b \in A</math>について、a~bであるかまたはそうでないかが必ず定まることである。例えば、実数の集合における「=」「≦」などは二項関係である。さらに、二項関係であって次の3つを満たすもののことを'''同値関係''' (equivalent relation)と呼ぶ。
# <math>a \in A \Rightarrow a \sim a</math>(反射律)
# <math>a \sim b \Rightarrow b \sim a</math>(対称律)
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<math>C(a)= \{ x \in A | x \sim a \}</math>
 
すなわちC(a)とは、同値関係~によってaと同値な元全体の集合である。これを~に関するaの'''同値類''' (equivalent class)と呼ぶ。このように定めると、次の性質が成り立つことが容易にわかる。
# <math> C(a)=C(b) \Leftrightarrow a \sim b</math>
# <math> C(a) \neq C(b) \Rightarrow C(a) \cap C(b) = \phi</math>
この2番目の性質は、同値関係が与えられると、元の集合Aは、互いに交わらない部分集合族によって分割(直和分解)されることを表している。この、Aを分割する部分集合族のことを、Aを同値関係~で割った'''商集合''' (quotient set)といい、A/~と書く。集合の言葉できちんと書くと下のようになる。
 
<math> A/ \sim = \{ C(a) | a \in A \} </math>
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元が有限個の場合に、これまでの素朴な「個数がひとしい」という概念と一致していることは容易にわかる。
 
さて、この集合と集合が対等であるという関係は、同値関係である。そこで、この同値関係によるAの同値類をcard Aと書き、これをAの'''濃度''' (cardinality)という。2つの集合が対等であるということを、2つの集合の濃度がひとしいという言葉で言い換えただけである。これによって、任意の集合に適用できる「個数」にあたる概念を手に入れることができた。もちろん(くどいかもしれないが)この濃度の概念は有限集合の場合は素朴な「個数」の概念と一致する。
 
=== Bernsteinの定理 ===
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これまで「有限」という言葉をナイーブに未定義のままで使ってきたが、ここできちんと定義しておく。
 
'''定義''' <math>[n]=\{1,2,...,n\}</math>とする。特に<math>[0]=\phi</math>とする。集合Aが有限集合(finite set)であるとは、ある自然数nに対してAと<math>[n]</math>が対等であることである。
 
これまでナイーブに想像していた概念と一致することを確認してほしい。有限集合でない集合のことを無限集合(infinite set)という。
 
有限集合であるための同値な条件はこのほかにもあるが、ここではひとつ挙げておく。
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たとえば、偶数の集合は整数の集合の真部分集合だが、これらは対等である。有限集合ではこのようなことは起きない。
 
無限集合の中でも、特に<math>\mathbb{N}</math>と対等な集合は特別視して、可算集合(countable set)という(可算無限集合ということもあるが、重言である)。先ほどの議論から、<math>\mathbb{Q}</math>は可算集合である。有限集合と可算集合を合わせて高々可算な集合といい、高々可算でない集合のことを非可算集合という。
 
なぜ無限集合の中で可算集合を特別視するかというと、可算集合は「最も小さい」無限集合だからである。すなわち、