「高等学校工業 原動機/熱力学の基礎」の版間の差分

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蒸気に関する記述を追加。蒸気表は英語版ウィキペディアen:Water (data page) 13:35, 21 June 2013より引用。
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工業熱力学では、式中の温度と圧力は、特に断らない限り、式中の温度は絶対温度(単位はケルビン[K])であり、また式の圧力は、絶対圧である。
 
== 状態方程式 ==
式中の温度は特に断らない限り絶対温度(単位はケルビン[K])である。
 
物理学や化学などでの熱力学で知られるボイル・シャルルの法則では、理想気体の状態方程式は次の形である。
 
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機械工学では、蒸気の熱計算でエンタルピーやエントロピーを使うことがある。
 
== 蒸気の性質 ==
=== 用語 ===
本章では、「蒸気」と言った場合、特に断らない限り、水蒸気とする。化学など、ただし、他の学問分野では、水蒸気以外のものも、たとえばアルコール蒸気なども、蒸気に分類するので、化学の教科書などを参照するときは注意が必要である。
また、室温や常温での水の蒸発などのように、蒸気は、沸点から低くても発生する。だが、本章では、沸点への加熱によって蒸気を発生させた場合を中心に、特に断りがない限りは、扱うとする。
 
液体の沸騰する温度は、その液体に加わる外部からの圧力によって変わる。
誤解をされやすいが、実は蒸気は沸点以上にも加熱することができる。
「蒸気は沸点以上に加熱できない。」という考えは、大気圧状況に解放された容器内の沸騰水にのみ対してしかなりたたない。
沸点以上の加熱の例は、たとえば、金属製の強固な密閉容器中に、水と空気を閉じ込めて、沸騰させれば、容器密閉のため圧力は大気圧一定ではないので、加熱を続ければ沸騰開始時の温度よりも蒸気の温度は上がる。本章で解説しようとしてるのは、このような、大気圧での沸点以上に加熱された蒸気の性質である。
 
このように大気圧以外の圧力状況でも、水の沸騰を扱うことから、本分野では水の沸点は、必ずしも大気圧状況での沸点100℃とは限らない。
 
このような理由から、以下の飽和圧力、飽和温度の定義が必要である。
 
* 飽和圧力
ある一定の温度の条件化で液体が沸騰するときの圧力を'''飽和圧力'''(saturation pressure)という。また、ある一定の圧力下で、液体が沸騰するときの沸点の温度を'''飽和温度'''(saturation temperature)と言う。 液体の飽和温度は、圧力が下がれば飽和温度も低下するのが一般である。
 
飽和温度と飽和圧力の状況のもとにある水を、'''飽和水'''(saturated water)という。
 
 
沸騰している液体から発生する蒸気は、飽和温度と飽和圧力の状態にあると考えられるので、この蒸気を'''飽和蒸気'''(saturated steam)という。
沸騰の間、液体が全て気体に変わって無くなるまでの液体が残っている間は、大気中に蒸気を開放するなどして圧力を沸騰開始時のままに一定に保てば、蒸気の温度は飽和温度から変化しない。
 
* 湿り飽和蒸気
飽和蒸気と飽和水との混合物を湿り飽和蒸気という。これに対して、湿り飽和蒸気を加熱させるなどして飽和水を全て飽和蒸気に変えて、水分をまったく含まなくなった直後の飽和蒸気を、乾き飽和蒸気という。
 
湿り飽和蒸気の質量1kgあたりに対して、x[kg]が飽和蒸気であるとき、x[kg]の値を'''乾き度'''(dryness)と言い、(1-x)の値を'''湿り度'''(wetness fraction)という。日本語での「湿り度」の表記が、地学用語などの「湿度」(humidity)と似ているが、定義は別物であるので混同しないように注意のこと。
乾き度xを用いて乾き飽和蒸気の定義を説明すれば、乾き度x=1に成った直後と同じ状態の温度・圧力の蒸気を乾き飽和蒸気という。乾き度x=0の状態は、飽和水である。
 
=== 各種の線図 ===
[[Image:IsothermesAndrews.png|thumb|350px|right|P-v線図(画像はフランス版)<br> "Liquide-vapour"が気液共存の領域で、湿り蒸気。<br>
"Courbe de rosée"とある、緑領域と水色領域との、境界線の黒線が、飽和蒸気線である。
"Courbe d'ebulition"は飽和水線のこと。]]
蒸気の性質は、温度や圧力の各条件の値によって、様々な場合があり、ひとつの式では条件と蒸気の状態を表現しにくいことから、グラフによって、条件と蒸気状態との対応を表現する場合がある。そのためのグラフとして以下に述べるような各種の線図がある。
代表的な線図として、蒸気の温度と体積の関係をグラフ表示したT-v線図がある。
他にも、蒸気の圧力と体積の関係をグラフ表示したP-v線図がある。
さらに他にも、蒸気の圧力と温度の関係をグラフ表示したP-T線図がある。
 
線図上で飽和水の条件をプロットした点を、つなげた曲線を'''飽和水線'''(saturation water line)または'''飽和液線'''(saturation liquid line)という。
線図上で飽和蒸気の条件をプロットした点を、つなげた曲線を'''飽和蒸気線'''(saturation vapour line,あるいはsaturation steam line)という。
 
==== 臨界点 ====
[[Image:IsothermesAndrews.png|thumb|350px|right|臨界点は"Point crittique".(フランス語)]]
水蒸気の線図では、常温・常圧から高温へとなるに従い、飽和液線と飽和蒸気線の両線は近づく。そして、次の点の、圧力22.064MPa、温度373.946℃の点で、飽和水線と飽和蒸気線とが交わる。この点を'''臨界点'''(critical point)という。
 
 
(なお、「臨界点」という言葉は、他の分野でも違う意味で用いられることが多いので、混同しないように注意のこと。)このときの比体積は、0.00310559m^3/kgである。
蒸気の臨界点のときの圧力を臨界圧力といい、蒸気の臨界点のときの温度を臨界温度という。
 
この臨界圧力を超えた状態を超臨界という。超臨界の物体の物性は、一般の液体や気体とは異なる。
なお、水にかぎらず、他の分子でも超臨界の現象は存在する。二酸化炭素やメタンでも超臨界現象は存在する。
詳しくは高校の範囲を超えるので省略する。
 
 
==== エントロピ線図およびエンタルピ線図 ====
[[Image:TS-Wasserdampf engl.png|thumb|540 px|温度対水/蒸気のための具体的なエントロピー相図。赤いドームの下の領域では、液体の水と水蒸気が平衡状態で共存する。臨界点は、ドームの上部にある。液体の水はドームの左側にある。蒸気はドームの右側にあります。青い線/曲線は等圧線一定の圧力を示す。グリーンライン/曲線があるisochors一定の特定のボリュームを示す。赤い曲線は、一定の品質を示しています。]]
[[File:HS-Wasserdampf engl.png|thumb|300px|蒸気のムーリエ・エンタルピ-エントロピ線図]]
 
蒸気を用いた工業の熱機関の解析などで、P-v線図やT-v線図やP-T線図などでは、実用に供しない場合がある。
たとえば、P-v線図では、グラフ上の各曲線は、それぞれ温度が一定であるが、実際の気体の状態変化は温度が一定とは限らない。同様にT-v線図でも、実際の熱機関内の気体の状態変化は、圧力一定とは限らない。P-T線図も同様である。
もちろん、P-v線図などを、熱機関の解析の実務に用いる場合もある。
ともかく、P-v線図などでは都合の悪い場合があるので、代わりに、エンタルピまたはエントロピとの関係をグラフで表示した線図が用いられる場合がある。
たとえば、エンタルピ-圧力線図や、エンタルピ-エントロピ線図や、温度-エントロピ線図などが用いられる場合がある。
 
また、線図には湿り蒸気の性質は記載されていないので、これらの線図とは別に、数表によって湿り蒸気のエンタルピやエントロピを記載した'''飽和蒸気表'''がある。
 
 
 
{| class="wikitable" border="1"
| [[Image:Mollier enthalpy entropy chart for steam - US units.svg|thumb|300px]] || [[Image:Pressure-enthalpy chart for steam, in US units.svg|thumb|300px]] || [[Image:Temperature-entropy chart for steam, US units.svg|thumb|300px]]
|-
| 蒸気用エンタルピーエントロピー(H-S)線図 || 蒸気の圧力 - エンタルピー(p-h)線図 || 蒸気用温度エントロピー(T-S)線図
|}
 
== 蒸気表 ==
:: &nbsp;
{| border="1" cellspacing="0" cellpadding="6" style="margin: 0 0 0 0.5em; background: white; border-collapse: collapse; border-color: #C0C090;"
! align="center" colspan="6"| 蒸気表
|-
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Temp.
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Pressure
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|''H'' of liquid
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Δ<sub>vap</sub>''H''
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Δ<sub>vap</sub>''W''
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|''ρ'' of vapor
|-
| 0 °C
| 0.612 kPa
| 0.00 J/g
| 2496.5 J/g
| 126.0 J/g
| 0.004845&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 10 °C
| 1.227 kPa
| 42.0 J/g
| 2473.5 J/g
| 130.5 J/g
| 0.009398&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 20 °C
| 2.536 kPa
| 83.8 J/g
| 2450.9 J/g
| 135.1 J/g
| 0.01728&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 30 °C
| 4.242 kPa
| 125.6 J/g
| 2427.9 J/g
| 139.7 J/g
| 0.03036&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 40 °C
| 7.370 kPa
| 167.2 J/g
| 2404.9 J/g
| 144.2 J/g
| 0.05107&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 50 °C
| 12.33 kPa
| 209.0 J/g
| 2381.4 J/g
| 148.7 J/g
| 0.08285&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 60 °C
| 19.90 kPa
| 250.8 J/g
| 2357.6 J/g
| 153.0 J/g
| 0.1300&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 70 °C
| 31.15 kPa
| 292.7 J/g
| 2332.9 J/g
| 157.3 J/g
| 0.1979&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 80 °C
| 46.12 kPa
| 334.6 J/g
| 2307.7 J/g
| 161.5 J/g
| 0.2931&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 90 °C
| 70.10 kPa
| 376.6 J/g
| 2282.6 J/g
| 165.5 J/g
| 0.4232&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 100 °C
| 101.32 kPa
| 419.0 J/g
| 2256.3 J/g
| 169.4 J/g
| 0.5974&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 110 °C
| 143.27 kPa
| 460.8 J/g
| 2229.5 J/g
| 173.1 J/g
| 0.8264&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 120 °C
| 198.50 kPa
| 503.2 J/g
| 2201.4 J/g
| 176.7 J/g
| 1.121&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 130 °C
| 270.13 kPa
| 545.8 J/g
| 2172.5 J/g
| 180.2 J/g
| 1.497&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 140 °C
| 361.4 kPa
| 588.5 J/g
| 2142.8 J/g
| 183.2 J/g
| 1.967&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 150 °C
| 476.0 kPa
| 631.5 J/g
| 2111.8 J/g
| 186.1 J/g
| 2.548&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 160 °C
| 618.1 kPa
| 674.7 J/g
| 2080.0 J/g
| 188.7 J/g
| 3.263&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 170 °C
| 792.0 kPa
| 718.5 J/g
| 2047.0 J/g
| 190.6 J/g
| 4.023&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 180 °C
| 1002.7 kPa
| 762.5 J/g
| 2012.2 J/g
| 192.8 J/g
| 5.165&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 190 °C
| 1254.9 kPa
| 807.0 J/g
| 1975.8 J/g
| 194.5 J/g
| 6.402&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 200 °C
| 1554.3 kPa
| 851.9 J/g
| 1937.3 J/g
| 195.6 J/g
| 7.868&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 210 °C
| 1907.9 kPa
| 897.5 J/g
| 1897.5 J/g
| 196.3 J/g
| 9.606&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 221.1 °C
| 2369.8 kPa
| 948.5 J/g
| 1850.2 J/g
| 196.6 J/g
| 11.88&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 229.4 °C
| 2769.6 kPa
| 987.9 J/g
| 1812.5 J/g
| 196.2 J/g
| 13.87&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 240.6 °C
| 3381.1 kPa
| 1040.6 J/g
| 1759.4 J/g
| 195.1 J/g
| 16.96&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 248.9 °C
| 3904.1 kPa
| 1080.3 J/g
| 1715.8 J/g
| 193.7 J/g
| 19.66&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 260.0 °C
| 4695.9 kPa
| 1134.8 J/g
| 1653.9 J/g
| 190.8 J/g
| 23.84&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 271.1 °C
| 5603.4 kPa
| 1195.9 J/g
| 1586.5 J/g
| 186.9 J/g
| 28.83&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 279.4 °C
| 6366.5 kPa
| 1240.7 J/g
| 1532.5 J/g
| 183.3 J/g
| 33.18&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 290.6 °C
| 7506.2 kPa
| 1302.3 J/g
| 1456.3 J/g
| 177.4 J/g
| 39.95&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 298.9 °C
| 8463.9 kPa
| 1350.0 J/g
| 1394.8 J/g
| 172.2 J/g
| 45.93&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 310.0 °C
| 9878.0 kPa
| 1415.7 J/g
| 1307.7 J/g
| 164.2 J/g
| 55.25&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 321.1 °C
| 11461 kPa
| 1483.9 J/g
| 1212.7 J/g
| 154.5 J/g
| 66.58&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 329.4 °C
| 12785 kPa
| 1537.9 J/g
| 1133.2 J/g
| 145.6 J/g
| 76.92&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 340.6 °C
| 14727 kPa
| 1617.9 J/g
| 1007.6 J/g
| 130.9 J/g
| 94.25&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 348.9 °C
| 16331 kPa
| 1687.0 J/g
| 892.0 J/g
| 117.0 J/g
| 111.5&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 360.0 °C
| 18682 kPa
| 1797.0 J/g
| 694.0 J/g
| 91.0 J/g
| 145.3&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 371.1 °C
| 21349 kPa
| 1968.3 J/g
| 365.0 J/g
| 47.0 J/g
| 214.5&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| 374.4 °C
| 22242 kPa
| 2151.2 J/g
| 0 J/g
| 0 J/g
| 306.8&nbsp;kg/m<sup>3</sup>
|-
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Temp.
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Pressure
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|''H'' of liquid
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Δ<sub>vap</sub>''H''
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|Δ<sub>vap</sub>''W''
| bgcolor="E0E0E0" align="center"|''ρ'' of vapor
|-
|}<br clear="left">