「高等学校工業 原動機/熱力学の基礎」の版間の差分

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前投稿の要約欄での、蒸気表の引用元の記述ミス。w:en:Water (data page) 13:35, 21 June 2013の英語版ウィキペディアより蒸気表のデータを引用した。
熱伝導の節を追加。
477 行
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== 熱の伝わり方 ==
機械工学では、材料内での熱の伝わる仕組みについて考える必要がある。
たとえば、自動車エンジンとかボイラとかを想像していただければ、納得していただけるだろう。
 
そもそも、熱とは何か。熱と温度の違いは何か。
物体を加熱すれば温度が上昇することから、熱とは、それを受け取ることによって、温度が上がるエネルギーであろう。(潜熱とか融解熱とかは、簡単化のため、しばらく、考えないことにする。)
そして、熱は、外部から手を加えなければ、自然と温度の高い所から、温度の低いところへと移動していく。
その結果、温度の高かった場所は、熱を手放し、だんだんと温度は低くなる。逆に、温度の低かった場所は温度が高くなる。そして、いつしか、ふたつの箇所の温度は同じになる。
いっぽう、熱が、温度の低いところから、温度の高い所へと自然に移動することは、ない。
こうして、熱は温度の高いところにあった熱は拡散していく。
熱と温度の違いに付いては、詳しくは、物理の高校教科書などを参照していただければ、ふつうは書いてあるので、それらを参照していただきたい。
 
静止した物体での熱の伝わり方には、大きく分ければ、熱伝導と熱放射の二つに分けられる。
 
熱放射(thermal radiation)とは何か。実は、絶対零度以外の温度を持つ、どの物体も、電磁波を出している。その放射する電磁波が、人間の眼に見えないのは、単に放射電磁波の周波数が、人間の目の可視領域で無いからという理由である。
この放射する電磁波は、常温では周波数が低く、赤外線の領域である。高音になるほど、物体の放射電磁波の周波数が高くなり、可視領域へと入っていく。溶鉱炉などで、高温で溶けた金属が光るのは、この放射光によるものである。
この放射光もエネルギーを高温側から低温側に輸送する。
熱放射は、別名では熱輻射(ねつふくしゃ)とも言う。
 
=== 熱伝導率 ===
さて、熱伝導の定義では、以上のような放射光による熱エネルギの輸送とは、区別した別の定義を用いる。
熱伝導の定義を説明する。
まず、金属塊でも、木材でも何でもいいが、なんらかの固体を想像していただきたい。
このような固体の物体に、加熱などで温度差を生じさせると、分子の熱振動によって、物体内部で熱の輸送現象がおこる。この個体内部に対する、高温部から低温部への、熱の輸送を、'''熱伝導'''(heat conduction)という。
放射は、便宜上、熱伝導としては扱わない。熱伝導と放射とを区別するのは、物理学分野での、そういった定義の決まりなので、読者には、従っていただくしか無い。また、気体や液体などの流体に対しては、対流という温度差によって生じる流れが生じるので、この流体に対する熱の輸送のメカニズムは、熱伝導とは区別する。詳しくは、「熱伝達」に関する項目で解説する。
 
 
まず、個体内部の温度差に対する熱伝導の仕組みを、数式を用いて定量化しよう。
 
結論から話すと、以下の定義をまずは覚えて頂きたい。
 
* 熱流束:
物体内を移動した熱のエネルギーを、単位面積で割ったもの。記号はqで表すのが一般的。単位は[W/m<sup>2</sup>]
 
* 温度勾配:
材料内の2地点の、温度差を、2地点の距離で割った値。温度差をΔTとして、距離をdとすれば、
温度勾配はΔT/dである。単位は[K/m]あるいは[℃/m]である。
 
* 熱伝導率:
熱伝導における、熱流束と温度勾配との比例係数で、熱流束を温度勾配で割った値を'''熱伝導率'''(thermal conductivity)という。記号はλが一般。
熱伝導率の定義より、
 
<math>q = \lambda \frac{\Delta T}{d} </math> [W/m<sup>2</sup>]
 
が成り立つ。
 
そして、熱伝導率λは、実は物性値である。物性値とは、物質の種類によって、値がほとんど決まるという種類の値である。
さて、このような一連の定義は、本当に妥当なのか。定義そのものも、妥当性の確認を、実験的になされなければならない。このような熱伝導の公式の提唱と実験は、物理学者のフーリエ達によってなされた。
なので、このような歴史的経緯から、上記の式の、
 
<math>q = \lambda \frac{\Delta T}{d}</math>
 
は、フーリエの業績をたたえて、フーリエの式、あるいは'''フーリエの法則'''(Foulier's Law)と呼ばれる様になった。
このフーリエの法則の公式は、熱伝導の基本法則である。
固体内の熱伝導については、安心してフーリエの法則の公式を用いて良い。
ただし、あくまでも、「固体」内での場合である。流体については、対流現象のため、通常では、フーリエの式は使えないので、間違って流体にフーリエの式を適用しないように注意のこと。
 
 
フーリエの法則の物理的な意味について、考えよう。
まず、仮に読者が熱伝導のフーリエの法則を知らなかったとして、定式化までの再発見の道筋をたどってみよう。
熱が一方向のみに伝わるように問題設定したほうが定式化しやすいので、空間内を厚さdの平らで広い壁で遮蔽し、壁の片側を高温に熱して温度<math>T_1</math> にしたとする。壁の向こう側は温度<math>T_2</math> だとしよう。
<math>T_1</math> > <math>T_2</math>
とする。)
壁の先の温度の蓄積能力は十分に大きく、熱流による温度変化の影響は微小だとして、壁の温度を時間によらず一定としよう。壁の温度が一定でないと、熱流束が一定にならずに非定常になり解析が複雑になるので、簡単化のための、問題設定の便宜である。
 
フーリエら先人たちは、壁が平らでない場合での熱伝導の定式化も研究しているが、初学者には難解なので、そのような事例は、ここでは考えず、壁は平らとしよう。
壁の温度が一定でない、非定常温度の場合もフーリエは数学的解析によって研究しているが、高校レベルを超える難解な計算なので、今回は考えない。
 
さて、温度差があると、熱は高温から低温へと輸送されるのだった。まず2点の温度差を
 
<math> \Delta T=T_1-T_2 </math>
 
とすると、この温度差に、熱の移動量は比例することになる。しかし、まだ、2点間の壁の厚さによる影響を考慮していないのである。複数個の壁を用意し、厚さの異なる壁を複数個ほど用意したとして、各壁の両側の温度差を同じにして実験をすれば、当然、壁が厚いほど、熱は移動しにくいだろう。
 
<math> \Delta \frac{T}{d} </math>
 
は、この条件を満たしている。
 
=== 熱伝達率 ===
流体については、温度差によって対流が起こるため、通常の解析では、流体での熱の伝わりの解析にはフーリエの式は使えない。読者に注意するが、間違って、流体に対してフーリエの式を用いてはいけない。
では、次に、その流体での熱の伝わりかたの仕組みを考えよう。
 
流体だって、固体と同じように、温度を持ってるし、温度は分子の振動だから、熱伝導は起こる。そして物性値としての熱伝導率を、気体や液体も物質であることに変わりはないから、流体も熱伝導率を持っている。
しかし、流体では対流もおこるので、流体内での温度変化が熱伝導によるものか、対流によるものか区別をしづらい。
一般の設計実務では、流体での熱の輸送に関する計算では、熱伝導のフーリエの式は用いない。
かわりに熱伝達の公式を用いる。
 
まず、高温の温度<math>T_1</math> の壁1番と、低温の温度<math>T_2</math> の壁2番に、流体が挟まれているとしよう。壁の大きさは、両方とも同じとしよう。両方の壁は十分に広く長いとする。簡単のため、流体は密閉されてるとしよう。断熱材と二つの壁で密閉しよう。断熱材は壁は覆わないとする。
このとき、流体を通過する熱流束''q''は
 
<math>q=h(T_1-T_2) </math> [W/m<sup>2</sup>]
 
で表せる。ここで比例定数hは、'''熱伝達率'''(heat transfer coefficient)もしくは伝熱係数や熱伝達係数などという。hの単位は[W/(m^2・K)]である。
熱伝達率を記号hの代わりに記号αで現すこともある。<math>T_2</math> 、<math>T_1</math> は流体に接している高温物体の固体の温度と低温物体の固体の温度である。
熱伝導の式と異なるところは、厚さに影響しないことである。そもそも対流が起こり、その対流の影響のほうが熱伝導よりも強いので、流体の熱伝達の式には、厚さを含めるのは不合理である。
ここで熱伝達率hは、流路の形状や流速や温度差などによって変わる値であり、物性値ではない。流体の物性によっても熱伝達率hの値は変化をするが、しかし物性以外の影響も受けて値が変化するので熱伝達率hは物性値ではない。このhの値の決め方は、装置ごとに実験による測定によって決める。
文献などを見れば、様々な条件での熱伝達率の測定結果の値が載っていたり、実験式が載っている場合があるが、その値や実験式は設計用の参考値であり、設計者にとっては推定値である。最終的に熱伝達率を正確に決定する際には、装置ごとに熱伝達率を実験で確認する必要がある。
 
 
=== 熱通過率 ===
熱伝導や熱伝達など、熱の移動を総称して、'''熱通過'''という。
 
熱伝導を行う固体と、熱伝達を行う流体とを統一的に扱えるように、熱輸送の概念が定義される。
熱伝導の公式も熱伝達の公式も、両方とも、温度差qによって熱流束が発生することには変わらないので、以下のようにして、熱輸送率kの定義式が、温度<math>T_1</math> と温度<math>T_2</math> の2点に対して定義される。
 
<math>q=k(T_1-T_2) </math> [W/m<sup>2</sup>]
 
式の形は、熱伝達と類似してるが、熱輸送率の場合は、熱を伝えるものが固体か流体かは問わない。
同様に、熱を伝える仕組みが熱伝導か熱輸送かを、熱輸送率の場合は、問わない。
たとえば、平板に対して、熱輸送率を定義した場合、平板の熱輸送率''k''は、熱伝導率を''λ''、平板の厚さを''d''とすれば、平板の熱輸送率''k''は、
 
<math>k=\frac{\lambda}{d} </math>
 
となる。
 
 
=== 複数の壁を重ねた場合の熱通過率 ===
複数の壁を重ねた場合の熱通過率を考えよう。(「熱伝導」ではなく、「熱通過」率としたのには、このほうが計算がしやすくなるという理由があるため。)
まず、壁が2枚だとして、厚さ<math>d_1</math> 、熱伝導率<math>k_1</math> の平らな壁1番に、厚さ<math>d_2</math> 、熱伝導率<math>k_2</math>の平らな壁2番を隙間なく重ねて、接触させたとしようたとしよう。壁1番と壁2番の接合面の温度は<math>n_1</math> としよう。この両壁の接合部の温度<math>n_1</math> は未知数である。
そうすると、壁1番を通過した熱流束qは、すべて壁2番を通ると考えることができるので以下の式になる。
 
<math>q=\lambda_1 \frac{T_1-n_1}{d_1} </math>
 
<math>q=\lambda_2 \frac{n_1-T_2}{d_2} </math>
 
である。
そして、求めたい複数の壁を重ねた場合の熱通過率は、
 
<math> q=k(T_1-T_2) </math>
 
である。
まず、各壁の熱伝導率の式を、熱通過率の式に変換したほうが、計算しやすいので、変換しよう。すると以下の式になる。
 
<math>q=\frac{\lambda_1}{d_1} (T_1-n_1) </math>
 
<math>q=\frac{\lambda_2}{d_2} (n_1-T_2) </math>
 
次のようにして、熱流束を、熱伝達率で割って、右辺を温度だけの式にする。
 
<math>\frac{q}{\lambda_1 /d_1} =(T_1-n_1) </math>
 
<math>\frac{q}{\lambda_2 /d_2} =(n_1-T_2) </math>
 
2式を足し合わせれば、未知数<math>n_1</math>が消える。
 
<math>\frac{q}{\lambda_1 /d_1}+\frac{q}{\lambda_2 /d_2}=(T_1-n_1)+(n_1-T_2)=T_1-T_2 </math>
 
これより
 
<math>q(\frac{1}{\lambda _1/d_1}+\frac{1}{\lambda_2/d_2})=T_1-T_2 </math>
 
 
そして、q/(T_1-T_2)が、両壁を合成した熱通過率kなので、
 
<math>k=\frac{q}{T_1-T_2}=\frac{1}{\frac{1}{\lambda _1/d_1}+\frac{1}{\lambda _2/d_2}} </math>
 
である。
 
各壁の熱通過率を、壁1番の熱通過率<math>k_1</math> と、壁2番の熱通過率<math>k_2</math> とすると、合成した熱通過率を以下の形に書ける。
 
<math>k=\frac{1}{\frac{1}{\lambda _1/d_1}+\frac{1}{\lambda _2/d_2}} =\frac{1}{(1/k_1)+(1/k_2)} </math>
 
これより、
 
<math>\frac{1}{k}=\frac{1}{k_1}+\frac{1}{k_2} </math>
 
である。
 
 
=== 熱伝導を行う平板が、熱伝達を行う流体に挟まれてる場合 ===
この場合の、熱輸送率の求め方も、同様に、熱流束の式を立てて連立方程式で計算すればいい。
 
結果を言うと、合成の越通過率をkとして、壁の高温側の流体の熱伝達率を<math>h_1</math> 、壁の厚さをdとして、壁の熱伝導率をλ、壁の低温側の熱伝達率を<math>h_2</math> とすると、(温度の変数は、計算の過程で消える。)
 
<math>\frac{1}{k} = \frac{1}{h_1}+\frac{d}{\lambda}+\frac{1}{h_2} </math>
 
になる。
 
右辺のd/λが、一項だけ他の項と違い変わって見えるかもしれないが、この項については、壁の熱輸送率を<math>k_w</math> とすれば、
 
<math>\frac{1}{k_w}=\frac{d}{\lambda} </math>
 
だから、
 
<math>\frac{1}{k} = \frac{1}{h_1}+\frac{1}{k_w}+\frac{1}{h_2} </math>
 
とも書ける。
 
一般には、
 
<math>\frac{1}{k} = \frac{1}{h_1}+\frac{d}{\lambda}+\frac{1}{h_2} </math>
 
の式が、流体に挟まれた平板壁の合成の熱輸送率の公式として使われる。