「高等学校国語総合/伊勢物語」の版間の差分

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口語訳を記述中。
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69 行
:やなぐい - 矢を入れて背負って持ち運ぶ道具。
 
=== 二 ===
 
 
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== 東下り ==
*大意
 
=== 一 ===
*本文/現代語訳
 
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昔、男ありけり。その男、身を要(えう)なきものに'''思ひなして'''、「京にはあらじ、東の方(かた)に住むべき国求めに。」とて行きけり。もとより友とする人、一人、二人して行きけり。道知れる人もなくて惑ひ(まどい)行きけり。三河(みかわ)の国八橋(やつはし)といふ所に至りぬ。そこを八橋と言ひけるは、水ゆく川の'''蜘蛛手'''(くもで)なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ八橋といひける。
 
その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯(かれいい)食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
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とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。
 
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昔、(ある)男がいた。その男は、わが身を役に立たないものと思い込んで、「京には、おるまい、東国のほうに住める国を探しに(行こう)。」と思って出かけた。以前から友人とする者一人二人といっしょに出かけた。(一行の中には)道を知ってる人もいなくて、迷いながら行った。
 
三河(みかわ)の国の八橋(やつはし)という所についた。そこを八橋といったのは(=「八橋」という理由は)、水の流れているのがクモの足のように八方に分かれているので、橋を八つ渡してあるので八橋といった(のである)。(一行は、)その沢のほとりの木陰に、(馬から)下りて座って、乾飯(かれいい)を食べた。
 
その沢に、かきつばたがたいそう美しく(=または「趣深く」と訳す)咲いていた。ある人が言うには、「かきつばたという五文字を和歌の句の上に置いて、旅の心を詠め。」と言ったので、(主人公の)男が詠んだ。
 
:唐衣を着ているうちに なじんでくる褄(つま)のように、慣れ親しんだ妻(つま)が(都に)いるので、(妻を都に残して)はるばると(遠くまで)やってきた旅を(しみじみと悲しく)思うことよ。
 
と詠んだので、一行は皆、乾飯の上に涙を落として、(乾飯が涙で)ふやけてしまった。
 
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*語句(重要)
:'''思ひなして''' - 思い込んで。
:'''句の上に据ゑて''' - 和歌の五・七・五・七・七の各句の上に文字を置いて歌を詠む手法。このような技巧を'''折句'''(おりく)と言う。
 
*唐衣の句について(重要)
:「唐衣」(からころも)は枕詞(まくらことば)であり、「着」に掛かる。「唐衣」の本来の意味は、中国風の着物である。「唐衣」は、衣服の美称としても用いられる。
:「唐衣着つつ」は序言葉であり、「なれ」を導く。
:「着」と「来」を掛けている掛詞(かけことば)。
:「はるばる」は、副詞「遥遥」(はるばる)と動詞「張る張る」との掛詞。
:「褄」と「妻」が掛詞。「着」「なれ」「褄」「張る」は、「衣」の縁語。
 
*語句
[[ファイル:杜若 勧修寺.JPG|thumb|かきつばた]]
:三河の国 - 現在の愛知県の東部。
:八橋 - 現在の愛知県の知立(ちりゅう)市、八橋。
:蜘蛛手(くもで) - クモの脚のように水流などが四方八方に分かれるさま。
:乾飯 - 携帯用の干した飯。水や湯で戻してから食べる。
:かきつばた - アヤメ科の植物。
:武蔵(むさし)の国 - 現在の東京都・埼玉県と神奈川県の一部。
:下総(しもつふさ)の国 - 現在の千葉県北部と茨城県の南部。
:すみだ河 - 現在の東京都の東部を流れる隅田川。
 
=== 二 ===
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行き行きて、駿河(するが)の国にいたりぬ。
 
宇津(うつ)の山にいたりて、わが入らむとする道はいと暗きに、蔦(つた)・楓(かえで)は茂り、もの心細く '''すずろなる'''目を見ることと思ふに修行者(すぎょうざ)会ひたり。
 
「かかる道はいかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なりけり。
 
京に、その人の御(おおん)もとにとて、文(ふみ)書きてつく。
 
:駿河なる宇津の山辺の '''うつつ'''にも 夢にも人に あはぬなりけり
 
富士の山を見れば、五月の'''つごもり'''に、雪いと白う降れり。
 
:時知らぬ 山は富士の嶺(ね) いつとてか 鹿の子(かのこ)まだらに 雪のふるらむ
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その山は、ここにたとへば、比叡(ひえ)の山を二十(はたち)ばかり重ね上げたらむほどして、なりは塩尻(しおじり)のやうになむありける。
 
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さらにどんどんと行き続けて、駿河の国に、たどり着いた。宇津の山に着いて、自分が(これから)分け入ろうとする道は、(木々が茂っているので)たいそう暗く(道も)狭い上に、蔦(つた)・楓(かえで)は茂り、
 
なんとなく心細く、'''思いがけない'''(つらい)目を見ることだろうと思っていると、(一行は)修行者に出会った。
 
「このような道に、どうして、おいでですか。」という人を見れば、(以前に京で)見知った人であった。
 
(なので、)京に(いる)、その人(=主人公の恋人、唐衣の句の妻)の所にと、手紙を書いて、ことづけた。
 
:(歌:)駿河にある宇津の山の「うつ」のように、「うつつ」('''現実''')にも夢にも、あなた(主人公の恋人)に会わないことだなあ。
 
富士の山を見ると、五月の'''下旬'''(げじゅん)なのに、雪がたいそう白く降りつもっている。
 
:(歌:)時節を知らない山とは富士の山のことだよ。(富士山は、いったい今を)いつだと思って、鹿の子(かのこ)まだらに 雪が降りつもっているのだろうか。
 
その(富士)山は、ここ(京)にたとえれば、比叡山を二十ほど重ね上げたようなくらい(の高さ)で、形は塩尻のようであった。
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*語句(重要)
:'''すずろなる''' - 思いがけない。
:'''つごもり''' - 月の終わり。「つきごもり」(「月篭り」)の変化したもの。
:'''うつつ''' - 現実。
:「'''うつつにも 夢にも人の あはぬなりけり'''」 - 当時は恋しい人などを強く思っていると、相手の夢に自分が現れると考えられていた。「もう、恋人(妻)は自分のことなど忘れているのだろうなあ」と嘆いているという解釈が通釈。
 
*語句
:駿河の国 - 現在の静岡県の中央部。
:宇津の山 - 現在の静岡県にある宇津ノ野(うつのや)峠。
:修行者 - 仏道修行のため、諸国をめぐり歩く僧侶。
:鹿子(かのこ)まだら - 茶褐色に、白い斑点(はんて)があるような状態。
:比叡(ひえ)の山 - 現在の京都と滋賀県の境にある山。
 
=== 三 ===
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なほ行き行きて、武蔵(むさし)の国と下総(しもつふさ)の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて 思ひやれば、限りなく遠くも来(き)にけるかなとわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
みな人もの侘しくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折りしも、白き鳥の、嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水の上に遊びつつ魚(いお)を喰ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
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さらにどんどんと行って、
昔、(ある)男がいた。その男は、わが身を役に立たないものと思い込んで、「京には、おるまい、東国のほうに住める国を探しに(行こう)。」と思って出かけた。以前から友人とする者一人二人といっしょに出かけた。(一行の中には)道を知ってる人もいなくて、迷いながら行った。
 
三河(みかわ)の国の八橋(やつはし)という所についた。そこを八橋といったのは(=「八橋」という理由は)、水の流れているのがクモの足のように八方に分かれているので、橋を八つ渡してあるので八橋といった(のである)。(一行は、)その沢のほとりの木陰に、(馬から)下りて座って、乾飯(かれいい)を食べた。
 
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(第九段)
 
*語句
[[File:Lachmöwe (Larus ridibundus) 4.jpg|thumb|ユリカモメ。]]
:都鳥- ユリカモメの別名と思われている。
 
(第九段)
 
:三河の国 - 現在の愛知県の東部。
:八橋 - 現在の愛知県の知立(ちりゅう)市、八橋。
:'''蜘蛛手'''(くもで) - クモの脚のように水流などが四方八方に分かれるさま。
:乾飯 - 携帯用の干した飯。水や湯で戻してから食べる。
[[ファイル:杜若 勧修寺.JPG|thumb|かきつばた]]
:かきつばた - アヤメ科の植物。
:武蔵(むさし)の国 - 現在の東京都・埼玉県と神奈川県の一部。
:下総(しもつふさ)の国 - 現在の千葉県北部と茨城県の南部。
:すみだ河 - 現在の東京都の東部を流れる隅田川。
:駿河の国 - 現在の静岡県の中央部。
:宇津の山 - 現在の静岡県にある宇津ノ野(うつのや)峠。
:修行者 - 仏道修行のため、諸国をめぐり歩く僧侶。
:鹿子(かのこ)まだら -
:比叡(ひえ)の山 - 現在の京都と滋賀県の境にある山。
 
=== 品詞分解 ===