「高等学校国語総合/伊勢物語」の版間の差分

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43 行
しだいに夜も明けてゆき、(男が蔵の中を)見れば、連れてきた女もいない。男は地だんだ(じだんだ)を踏んで泣いたが、'''どうしようもない'''。
 
:(歌:) 露を見たあの人(=女)が、'''真珠'''(しんじゅ)か何かと尋ねたときに、「露ですよ」と答えて、(自分も露のように)消えてしまえばよかったのになあ。
(歌:)
露を見たあの人(=女)が、'''真珠'''(しんじゅ)か何かと尋ねたときに、「露ですよ」と答えて、(自分も露のように)消えてしまえばよかったのになあ。
 
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その沢に、かきつばたがたいそう美しく(=または「趣深く」と訳す)咲いていた。ある人が言うには、「かきつばたという五文字を和歌の句の上に置いて、旅の心を詠め。」と言ったので、(主人公の)男が詠んだ。
 
:(歌) 唐衣を着ているうちに なじんでくる褄(つま)のように、慣れ親しんだ妻(つま)が(都に)いるので、(妻を都に残して)はるばると(遠くまで)やってきた旅を(しみじみと悲しく)思うことよ。
 
と詠んだので、一行は皆、乾飯の上に涙を落として、(乾飯が涙で)ふやけてしまった。
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(なので、)京に(いる)、その人(=主人公の恋人、唐衣の句の妻)の所にと、手紙を書いて、ことづけた。
 
:(歌:) 駿河にある宇津の山の「うつ」のように、「うつつ」('''現実''')にも夢にも、あなた(主人公の恋人)に会わないことだなあ。
 
富士の山を見ると、五月の'''下旬'''(げじゅん)なのに、雪がたいそう白く降りつもっている。
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ちょうどその時、(都鳥があらわれ、)白い鳥でくちばしと脚とが赤い、鴫ほどの大きさである鳥が、水の上で'''気ままに動きながら'''魚を(捕って)食べている。京では見かけない鳥なので、(渡し守を除いて)一行の人は誰も知らない。渡し守に(この鳥のことを)尋ねると、「これこそが(有名な)都鳥(だよ)。」と言うのを(一行は)聞いて、
 
:(歌) 都という語を'''名前に持っているならば'''、さあ訪ねるぞ都鳥よ、私が(恋しく)思っている(あの)人は(都で無事で)いるかどうかと。
と詠んだので、舟の上の一行は皆(感極まり)泣いてしまった。
 
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== 筒井筒 ==
*概要
:ある夫婦の、夫が浮気をした。夫婦がヨリを戻したことを、伊勢物語の作者が夫の浮気を棚に上げて、もとの妻の一途さを美談に仕立て上げただけである。
当然、浮気相手の女のほうの一途は思いは、夫には無視をされている。当時は一夫多妻制であるので、夫の行為は、べつに違法ではない。
 
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しかし、妻が不快なそぶりを見せないので、夫は浮気を疑った。なので、妻の本音を見ようと、出かけたふりをして庭の植え込みに隠れて妻の様子を見た。
 
:妻は和歌を詠み、隠れて聞いていた夫は感動したので、この妻を大切にしようと思い、もう新しい女のところへは通わなくなった。
 
 
いっぽう、べつの場所の新しい女のほうは、男からは見捨てられ、さんざんである。だが伊勢物語の作者から言わせれば、ぜんぜん新しいほうの女に同情していない。作者が言うには、新しい女の振る舞いが奥ゆかしくないからだとか、たしなみが足りないだとか、新しい女は、さんざんの言われようである。
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昔、田舎(いなか)わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて(いでて)遊びけるを、大人(おとな)になりにければ、男も女も恥ぢ'''かはして'''ありけれど、男は'''この女をこそ得め'''と思ふ。女は'''この男を'''と思ひつつ、親の'''あはす'''れども、'''聞かで''' '''なむありける'''。さて、この隣の男のもとより、'''かくなむ'''
 
:筒井筒 井筒にかけし '''まろ'''がたけ 過ぎにけらしな 妹(いも)見ざるまに
  
女、返し、
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:比べ来し(こし) 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰(たれ)かあぐべき
  
など言ひ言ひて、つひに'''本意'''(ほい)のごとく'''あひにけり'''
 
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昔、田舎で暮らしていた人の子供たちが、井戸の周りで遊んでいたが、大人になったので男も女も'''互いに'''(たがいに)恥かしがったが、男は'''この女をぜひ妻にしよう'''と思い、女は'''この男をぜひ夫にしよう)'''と思いながら(暮らしていて)、親が(他の人と)'''結婚させよう'''とするけれど'''聞き入れないで'''いた。
そして、この隣に住む男のところから、'''このように(歌を言ってきた)'''
 
:'''私の'''(=男のほう)背丈も、(もう)井戸の背丈を越してしまったことだよ。あなたと会わないでいるうちに。丸い井戸の、井戸の囲いと、幼いころに高さを比べた私の背丈は。
 
女の返歌は、
 
:(歌) 私の(=女のほう)髪も、(もう)肩をすぎるほど長くなりました。(幼いころに)あなたと長さを比べあってきた振り分け髪も。(この髪を)あなたでなく、誰が上げましょうか。(あなた以外にはいません。)
 
などと言い合って、(それから、しばらくして、)ついに(二人は)'''本来の望み'''どおりに '''結婚をした'''
 
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*語句(重要)
:田舎(いなか)わたらひ - 田舎で生計を立てて暮らすこと。
 
この作品の主人公の家についての説には、 1:商人で田舎で行商をしている。  2:地方官   などの説がある。
 
:恥ぢ'''かはして''' - お互いに恥ずかしがって。「・・・かはし」の意味は「互いに・・・しあう」。
:この女を'''こそ得め''' - 「こそ」と「得め」が係り結びになってる。「得め」は已然形。「こそ」は係助詞で強意を表す。「この女こそ、結婚するべき女だ」というような意味。
:この男を - 後ろに「こそ得め」などが省略されている。
:'''あはす''' - 結婚させる。
:'''聞かで''' - 聞かないで。「・・・で」は'''打消'''(うちけし)の接続助詞。
:'''なむありける''' - 係り結び。「ける」は助動詞「けり」の連体形。「なむ」が係助詞。
:'''かくなむ''' - このように。後ろに「言ひおこせる」などを補って訳す。
:まろ - 私。自称の代名詞。
:'''本意'''(ほい) - 念願かなって。本来の望みどおりに。「ほんい」の撥音「ん」が表記されない形。
:'''あひにけり''' - 結婚した。
 
*語句
:振り分け髪 - この時代の子供の髪型の一つ。長い髪を左右に分けておろし、肩のあたりで切りそろえる。
:筒井 - 井戸の本体であり、円状に掘った井戸のこと。
:井筒 - 井戸の囲い。井戸の地上部分の囲い。
:(井筒に)かけし - (井筒で)測り比べた。
 
=== 二 ===
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さて、年ごろ経る(ふる)ほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内(かふち)の国高安(たかやす)の郡(こおり)に、行き通ふ所いできにけり。さりけれど、このもとの女、悪し。」(あし)と思へるけしきもなくて、いだしやりければ、男、異心(ことごころ)ありてかかるにやあらむ。」と思ひ疑ひて、前栽(せんざい)の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧(けしょう)じて、うち眺めて(ながめて)、
 
:風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半(よは)にや君が ひとり越ゆらむ
  
と詠み(よみ)けるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
352 ⟶ 370行目:
そうでありながら、もとの女は不快に思ってる様子が無いので、男はこのもとの女が浮気をしてるのではと疑わしく思ったので、(男は)庭の植え込みの中に隠れて、河内に行ったふりをして、女の様子を見ると、女はたいそう美しい化粧をして物思いにぼんやりと外を眺めて(和歌を詠み)
 
:(歌) 風が吹くと、沖の白波が「立つ」(たつ)というが、(夫は)竜田山(「たつたやま」)を一人で越えているのだろうか。
 
と詠んだのを(男は)聞いて、(男は)このうえもなく(女を)いとしいと思い、河内(の女の所)へは行かなくなった。
361 ⟶ 379行目:
=== 三 ===
*大意
新しい女のほうは、はじめのほうころこそ奥ゆかしかったが、仲が慣れていくうちに気をゆるして、女は、たしなみが無くなり、なので男は幻滅した。
新しい女のほうも和歌を詠んだり手紙をよこしたりしたが、もう、男は通わなかった。
 
370 ⟶ 388行目:
まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙(いいがい)取りて、笥子のうつはものに盛りけるを見て、心憂がりて(うがりて)行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
 
:君があたり 見つつを居らむ(をらむ) 生駒山(いこまやま) 雲な隠しそ 雨は降るとも
  
と言ひて見出だす(みいだす)に、からうじて、大和人(やまとびと)、「来む(こむ)と言へり。喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
  
:君来むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれば 頼まぬものの 恋ひつつぞ経る
  
と言ひけれど、男住まず(すまず)なりにけり。
 
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ごく稀(まれ)に、あの高安(の女の所)に来てみると、女は始めのころは奥ゆかしく取り繕っていたけれども、今では気を許して、(食事のときには、女が)自分の手でしゃもじを取ってご飯を食器に盛ったのを(男は)見て、嫌気がさして(高安の女の所に)行かなくなってしまった。
 
そうなったので、あの(高安の)女は、大和のほうを見やって、
 
:(歌) あなたのいらっしゃるあたりを眺めながら暮らしましょう。だから生駒山の雲よ、隠すな。(たとえ)雨は降っても。
 
と歌を詠んで外を見やると、やっとのこと、大和の人(男)が「行こう」と言った。
 
(高安の女は)喜んで待つが、(しかし、男は訪れず、女は使いをよこすが、男は)何度も来ないで、(月日が)過ぎてしまった。
 
:(歌) あなたが来ると言った夜ごとに、(訪れてくれずに、時が)過ぎ去ってしまうので、もう(訪れを)あてにはしておりませんが、(私は)あなたを恋しく思いながら暮らしています。
 
と言ったが(=歌を詠んだけれども)、男は通って来なくなってしまった。
 
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(第二十三段)
 
*語句