「高等学校国語総合/伊勢物語」の版間の差分
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あづさ弓 |
さらぬ別れ |
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「芥川」「東下り」などは、業平をもとにしていると考えられる。だが「筒井筒」は、べつの庶民をもとにしたと考えられている。
業平に関する話を上げれば、とくに「東下り」が代表的な作品である。
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しだいに夜も明けてゆき、(男が蔵の中を)見れば、連れてきた女もいない。男は地だんだ(じだんだ)を踏んで泣いたが、'''どうしようもない'''。
:(歌:) 露を見たあの人(=女)が、'''真珠'''(しんじゅ)か何かと尋ねたときに、「露ですよ」と答えて、(自分も露のように)消えて'''しまえばよかったのになあ'''。
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*語句(重要)
:・(女)'''の'''(え得まじかりける) 女で。「の」は助詞で、同格の助詞を表す。この文では「女で、手に入れることのできない女を」の意味。
:・'''え得(う)まじかりける''' - 「え・・・(打消し)」で、・・・することが出来ない。「え」は副詞。この場合は、「手に入れることが出来ない。」
:・'''年を経て''' - 長年にわたって。
:・よばひわたり - 求婚しつづけて。「よばひ」は言い寄るの意味。複合動詞で「よばふ」「わたる」。複合動詞の「・・・わたる」の意味は「・・・しつづける」。
:・'''率て(いて)行きければ''' - 連れていったところ。
:・'''知らで''' - 知らないで。「・・・で」は'''打消'''(うちけし)の接続助詞。
:・'''神''' - かみなり。
:・'''いみじう''' - ひどく。たいそう。形容詞「いみじ」の連用形「いみじく」のウ音便。
:・足ずり - くやしさとか悲しさのため、じだんだを踏むこと。
:・'''かひなし''' - どうしようもない。
:・白玉 - 真珠
:・'''まし''' - 反実仮想の助動詞。「・・・だったら良かったのになあ」。「消えなましものを」の意味は、(自分も)「消えてしまえばよかったのになあ。」
:「'''露'''」と「'''消ゆ'''」は'''縁語'''(えんご)。
*語句
:・芥川 - 詳細は不明。諸説あり。 1:大阪府高槻(たかつき)を流れる川。 2:ごみを捨てるための川。 3:架空の川。
:・鬼 - もとは死者の霊という意味だが、怪物などの意味もある。
:・やなぐい - 矢を入れて背負って持ち運ぶ道具。
=== 二 ===
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*語句(重要)
:・仕う(つこう)まつる - お仕えする。「仕う」の謙譲語。「仕へまつる」のウ音便。
:・下臈(げろう) - 藤原国経(くにつね)。長良の長男。「太朗」は長男の意味。
:・参り - 参上する。謙譲語。「行く」「来る」の謙譲語。
:・(参り)給ふ - 参上なさる。「給ふ」は補助動詞で尊敬を表す。尊敬されているのは堀川の大臣(おとど)、および、太郎国経である。伊勢物語の作者が尊敬している。
*語句
:・二条の后 - 藤原長良(ふじわらのながら)の娘、高子(たかいこ)。
:・堀川の大臣 - 藤原基経(もとつね)。長良の三男。太政大臣(だいじょうだいじん)。京の堀川に邸宅があった。
:・太朗国経の大納言 - 藤原国経(くにつね)。長良の長男。「太朗」は長男の意味。
=== 品詞分解 ===
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*語句(重要)
:・'''思ひなして''' - 思い込んで。
:・'''句の上に据ゑて''' - 和歌の五・七・五・七・七の各句の上に文字を置いて歌を詠む手法。このような技巧を'''折句'''(おりく)と言う。
*唐衣の句について(重要)
:・「唐衣」(からころも)は枕詞(まくらことば)であり、「着」に掛かる。「唐衣」の本来の意味は、中国風の着物である。「唐衣」は、衣服の美称としても用いられる。
:・「唐衣着つつ」は序言葉であり、「なれ」を導く。
:・「着」と「来」を掛けている掛詞(かけことば)。
:・「はるばる」は、副詞「遥遥」(はるばる)と動詞「張る張る」との掛詞。
:・「褄」と「妻」が掛詞。「着」「なれ」「褄」「張る」は、「衣」の縁語。
*語句
[[ファイル:杜若 勧修寺.JPG|thumb|かきつばた]]
:・三河の国 - 現在の愛知県の東部。
:・八橋 - 現在の愛知県の知立(ちりゅう)市、八橋。
:・蜘蛛手(くもで) - クモの脚のように水流などが四方八方に分かれるさま。
:・乾飯 - 携帯用の干した飯。水や湯で戻してから食べる。
:・かきつばた - アヤメ科の植物。
=== 二 ===
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*語句(重要)
:・'''すずろなる''' - 思いがけない。
:・'''つごもり''' - 月の終わり。「つきごもり」(「月篭り」)の変化したもの。
:・'''うつつ''' - 現実。
:・「'''うつつにも 夢にも人の あはぬなりけり'''」 - 当時は恋しい人などを強く思っていると、相手の夢に自分が現れると考えられていた。「もう、恋人(妻)は自分のことなど忘れているのだろうなあ」と嘆いているという解釈が通釈。
*語句
:・駿河の国 - 現在の静岡県の中央部。
:・宇津の山 - 現在の静岡県にある宇津ノ野(うつのや)峠。
:・修行者 - 仏道修行のため、諸国をめぐり歩く僧侶。
:・鹿子(かのこ)まだら - 茶褐色に、白い斑点(はんて)があるような状態。
:・比叡(ひえ)の山 - 現在の京都と滋賀県の境にある山。
=== 三 ===
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*語句
:・わびあへる - 「わぶ」の意味は、ここでは「嘆く」(なげく)。「わびあへる」の意味は、「嘆きあっている」。「わぶ」には他にも多くの意味があり、「悩む」「わびさびを感じる」「謝る・わびる」などの意味もある。
:・遊びつつ - 自由に動き回る、気ままに動き回る、などの意味。
:・'''名にし負はば''' - 未然形+助詞「ば」で仮定を表す。名前に持っているならば。
*語句(地名など)
:・武蔵(むさし)の国 - 現在の東京都・埼玉県と神奈川県の一部。
:・下総(しもつふさ)の国 - 現在の千葉県北部と茨城県の南部。
:・すみだ河 - 現在の東京都の東部を流れる隅田川(すみだがわ)。
[[File:Lachmöwe (Larus ridibundus) 4.jpg|thumb|ユリカモメ。]]
:・都鳥- カモメ科のユリカモメの別名と思われている。
=== 品詞分解 ===
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この作品の主人公の家についての説には、 1:商人で田舎で行商をしている。 2:地方官 などの説がある。
:・恥ぢ'''かはして''' - お互いに恥ずかしがって。「・・・かはし」の意味は「互いに・・・しあう」。
:・この女を'''こそ得め''' - 「こそ」と「得め」が係り結びになってる。「得め」は已然形。「こそ」は係助詞で強意を表す。「この女こそ、結婚するべき女だ」というような意味。
:・この男を - 後ろに「こそ得め」などが省略されている。
:・'''あはす''' - 結婚させる。
:・'''聞かで''' - 聞かないで。「・・・で」は'''打消'''(うちけし)の接続助詞。
:・'''なむありける''' - 係り結び。「ける」は助動詞「けり」の連体形。「なむ」が係助詞。
:・'''かくなむ''' - このように。後ろに「言ひおこせる」などを補って訳す。
:・まろ - 私。自称の代名詞。
:・妹(いも) - 男が女を慣れ親しんで呼ぶ、呼び名。
:・'''本意'''(ほい) - 念願かなって。本来の望みどおりに。「ほんい」の撥音「ん」が表記されない形。
:・'''あひにけり''' - 結婚した。
*語句
:・振り分け髪 - この時代の子供の髪型の一つ。長い髪を左右に分けておろし、肩のあたりで切りそろえる。
:・筒井 - 井戸の本体であり、円状に掘った井戸のこと。
:・井筒 - 井戸の囲い。井戸の地上部分の囲い。
:・(井筒に)かけし - (井筒で)測り比べた。
=== 二 ===
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*語句(重要)
:・もろともに - いっしょに
:・さりけれど - そうではあるけれど。「さありけれど」。ここでの「さ」の内容は、男が河内の女に通うようになったこと。
:・気色(けしき)- 態度、ありさま、そぶり、振る舞い、様子。
:・異心(ことごころ) - 浮気心。
:・たつた山 - 現在の奈良県にある龍田山。この和歌では動詞「立つ」と掛けている。
:・風吹けば沖つ白波 - 序言葉であり、「たつた山」を導く。
:・かなし - ここでは「いとしい」の意味。
*語句
:・河内 - 現在の大阪府の南部。
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*語句(重要)
:・まれまれ - ごくまれに。たまに。ときたま。
:・'''つくりけれ''' - 逆接で訳す。「けれ」は係り結びの結びだが、ここでは逆接に訳さないと、文脈の意味が通らない。
:・'''心にくく''' - ここでは「奥ゆかしく」。
:・手づから - 自分の手で。
:・心憂がりて(うがりて) - 嫌に思って。嫌気が差して。「心憂し」(こころうし)の変化した形。
:・ '''雲な隠しそ''' - 「な・・・そ」で禁止を表す。「雲よ、隠すな」の意味。
:・からうじて(かろうじて) - 副詞「からくして」のウ音便。意味は「やっとのことで」、「ようやく」。副詞のかかる先は「言へり」。
:・ '''頼まぬものの''' - 意味は「もう、あてにはしないけれど」。「頼む」の意味は「あてにする」。「ものの」は逆接の接続助詞。
:・住まずになりにけり - ここでの意味は、河内の女の家に行かないこと。「住」とあるのは、おそらく、河内の女の家に行って寝泊りしないことか。
*語句
:・飯匙(いいがい) - しゃもじ。
:・笥子(けこ)のうつはもの - 食器。
:・大和 - 現在の奈良県。
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*語句(重要)
:・ねむごろに - 親切、熱心。
:・あはむ - 動詞「あふ」(あう)の意味は、「結婚する」。
:・'''開けで''' - あけないで。「・・・で」は打消の助詞。
*語句
:・宮仕へ - 都や貴族に仕える仕事。
=== 二 ===
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*語句(重要)
:・あらたまの - 単なる枕詞であり、「年」に係る(かかる)。
:・'''指'''(および) - 「および」は指。 (※ 学校のテストでは、平仮名で「および」と書かれて出題される場合もあるので注意。)
:・'''え追ひつかで''' - 「え・・・(打消し)」で、不可能の意味「・・・できない」の意味を表す。「え追ひつかで」の意味は「追いつくことが出来ない」「追いつけない」。ここでの「・・・で」は打消の助動詞。
:・'''いたづらに なりにけり''' - 死んでしまった。
*語句
:・新枕 - 男女が始めて共寝すること。
:・あづさ弓・ま弓・つき弓 - 梓(あずさ)・檀(まゆみ)・槻(つき)は、それぞれ弓の材質。ここでの「あずさ弓」は単なる和歌の序言葉であり、あまり意味は無い。
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== さらぬ別れ ==
恋愛の話ではなく、母と子の家族愛についての話である。
「さらぬ別れ」とは死別のこと。べつに、まだ、この親子は死んでないし、作中でも親子は死なない。
男とは在原業平のことであり、母とは伊登内親王(いとないしんのう)。
=== 一 ===
*大意
昔、男がいた。母は皇女だった。大人になった男は、あまり母に会えなかった。年老いた母から手紙が来て、死ぬ前に会いたいという歌が書いてあった。
男も、母に長生きしてほしいという歌を詠んだ。
*本文/現代語訳
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昔、男ありけり。身は賤し(いやし)ながら、母なむ宮なりける。その母、長岡(ながおか)といふ所に住み給ひけり。子は京に宮仕へしければ、'''まうづ'''(もうず)としけれど、しばしば'''えまうでず'''。ひとつ子さへありければ、いと'''かなしうし'''給ひけり。さるに、十二月(しはす)ばかりに、とみの事とて、御文(ふみ)あり。おどろきて見れば、歌(うた)あり。
:老いぬれば '''さらぬ別れ'''の ありといへば いよいよ'''見まくほしき'''君かな
かの子、いたううち泣きて詠める。
:世の中に さらぬ別れの なく'''もがな''' 千代(ちよ)もと祈る(いのる) 人の子のため
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昔、男がいた。(男の)官位は低かったが、母は皇女であった。その母は長岡という所に住んでいらっしゃた。
子は京で宮仕えをしていたので、母のもとに参上しようとしたけれど、たびたびは参上できない。(男は、母の)一人っ子でさえあったので、たいへんかわいがっていらっしゃった。
そうしているうちに十二月ごろに、急な用事だといって、(母からの)お手紙があった。(男が)驚いて(手紙を)見ると、歌がある。
:(母の歌:) 年老いたら、避けることのできない別れ(='''死別''')があるというので、ますます'''会いたいと思う'''あなたであることよ。
この子(=男)は、たいそう泣いて、歌を呼んだ。
:(男の歌:) 世の中に避けることの出来ない別れ(=死別)が無ければ'''いいのになあ'''、親に先年と生きてほしいと思う、子供のために。
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(第八十四段)
*語句
:・身は賤し(いやし)ながら 身分は低いけれど。官位は低いけれど。
:・まうづ(もうず) - 参上する。謙譲語であり、「行く」「来る」の謙譲語。
:・'''かなしうし''' - かわいがる。形容詞「かなし」の連体形「かなしく」のウ音便「かなしう」の後ろに、サ変動詞「す」の連用形「し」が付いた形。「かなしくし」のウ音便。
:・'''えまうでず''' - 参上することができない。「え・・・ず(打消し)」の意味は「・・・できない」。
:・'''さらぬ別れ''' - 避けることのできない別れ。死別のこと。
:・'''見まくほしき''' - 見たい。会いたい。 動詞「見」 + 助動詞「ま」(助動詞「む」の古い形) + 接尾語「く」 + 形容詞「ほしき」(終止形「ほし」) 。「'''まくほし'''」が転じて助動詞「'''まほし'''」になったと考えられている。
:・'''もがな''' - 希望を表す終助詞。
*語句
:・長岡 - 現在の京都府長岡のあたり。かつて都が長岡にあった。長岡京。784年(延暦3年)~794年(延暦13年)。桓武天皇によって長岡に遷都されていた。長岡京のあと、平安京に794年に遷都した。
:・とみのこと - 急な用事。
=== 品詞分解 ===
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