「高等学校国語総合/伊勢物語」の版間の差分

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さらぬ別れ
作品の順序を重要度順に変更
1 行
*伊勢物語とは
'''歌物語'''(うたものがたり)。作者不詳。平安時代に成立だが、くわしい成立年は不詳。主人公は、'''在原業平'''(ありわらの なりひら)らしい人物であり、伊勢物語全体として業平の一代記のような構成になっている。業平は皇族出身なので、高貴な出自だが、いろんな女性に手をだしすぎて、評判が悪くなり、都にいづらくなり、地方にくだっていった。業平は、今で言うところの、いわゆるプレイボーイである。
 
伊勢物語の全体として、恋愛にちなんだ話が多い。
9 行
在原業平は『古今和歌集』での代表的な歌人の一人になっている。
 
「芥川」「東下り」(あずまくだり)・「芥川」(あくたがわ)などは、業平をもとにしていると考えられる。だが「筒井筒」(つついづつ)は、べつの庶民をもとにしたと考えられている。
 
※ 教科書では、とくに「東下り」が代表的な作品である。「東下り」は、詠まれた歌も多いので歌物語としての伊勢物語の教材に適切だし、業平のエピソードだし、当時の京都以外の様子も分かり、なかなか教育的である。
業平に関する話を上げれば、とくに「東下り」が代表的な作品である。
 
業平の官位が「五位の中将」(ごいのちゅうじょう)なので、ほかの古典作品では業平のことを「在中将」(ざいのちゅうじょう)とか「在五中将」(ざいごちゅうじょう)とかと言い、伊勢物語のことを「在五物語」(ざいごものがたり)などと言う。
 
:※ この記事での作品の順序は、重要度の順であり、原著の順ではない。
== 芥川(あくたがは) ==
:「東下り」と「筒井筒」が特に重要であるので、読者に時間の無いときは、この「東下り」「筒井筒」を優先して勉強すること。「芥川」も、やや重要度が高い。なぜなら「芥川」に、在原業平のプレイボーイとしてのエピソードが書かれているからである。業平はプレイボーイとしてのスキャンダルなどが結果で、京都に住みづらくなり、なので東国に下ることになったのである。この東国に下ったときのエピソードを元にした歌物語が「東下り」である。
*作品解説
業平が藤原高子に手を出した話をもとにしてると思われる。
 
*大意
平安時代の昔、ある男が、高貴な女に恋をして、その女を盗みだしてきて、芥川のほとりまで逃げてきた。夜もふけ雷雨になり、男は荒れた蔵に女を押し込んだ。男は戸口で見張りをしている。
しかし、女は鬼に食われてしまう。男は悲しんだ。
 
本当は、盗み出した女を、女の兄たちが取り返しにきたのを、鬼と言い換えている。
 
男は歌を詠んだ。その歌の内容は、逃げていた途中に、女が露を見て、あれは何か、真珠かとたずねていたが、このときに自分も露のように消えてしまえば良かったのに、という歌である。
 
この歌では、女は高貴なため箱入り娘なので、露を知らない。
 
=== 一 ===
*本文/現代語訳
{| style="width:100%"
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昔、男ありけり。女'''の'''、'''え得(う)まじかりける'''を、'''年を経て'''(としをへて)よばひ(イ)わたりけるを、辛うじて(かろうじて)盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を'''率て行きければ'''、草の上に置きたりける露を、
 
「かれは何ぞ。」
 
となむ男に問ひける。行く先遠く、夜も更けにければ、鬼ある所(ところ)とも'''知らで'''、'''神'''(かみ)さへいと'''いみじう'''鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥におし入れて、男、弓・胡簶(やなぐひ)を負ひて、戸口に居り(をり)。はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、鬼はや一口に喰ひてけり。
 
「あなや」
 
と言ひけれど、神鳴るさわぎに、え聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、みれば、率て(いて)来し(こし)女もなし。足ずりをして泣けども'''かひなし'''。
 
:'''白玉'''(しらたま)か 何ぞと人の問ひしとき '''露'''(つゆ)と答へて '''消え'''な'''まし'''ものを
 
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昔、男がいた。女'''で'''、'''手に入れることができそうもなかった'''(高貴な)女を、'''長年にわたって'''求婚してきたが、やっとのことで(その女を)盗み出して、たいそう暗い夜(の中)を(逃げて)きた。芥川という川(のほとりを)女を'''連れて行ったところ'''、草の上におりていた露を(女が)見て、「(光っている)あれは何か」と、男に尋ねた。
 
これから行く先(の道のり)も遠く、夜も更けてしまったので、(蔵に)鬼がいるとも'''知らないで'''、'''雷'''までも たいそう'''激しく'''鳴って、雨もひどく降ったので、荒れ果てた蔵(の中)に、女を奥に押し込んで、男は(見張りのため)弓と 胡簶(やなぐひ) を持って戸口におり、「早く夜も明けてほしい。」と思いながら座っていたところ、鬼がたちまち(女を)一口に食べてしまった。
 
(女は)「あれえ。」と悲鳴を上げたけれど、雷が鳴る騒がしい音のために(男は悲鳴を)聞くことが出来なかった。(なので、男は、女がいないことに、まだ気づいていない。)
 
しだいに夜も明けてゆき、(男が蔵の中を)見れば、連れてきた女もいない。男は地だんだ(じだんだ)を踏んで泣いたが、'''どうしようもない'''。
 
:(歌:) 露を見たあの人(=女)が、'''真珠'''(しんじゅ)か何かと尋ねたときに、「露ですよ」と答えて、(自分も露のように)消えて'''しまえばよかったのになあ'''。
 
|}
 
*語句(重要)
:・(女)'''の'''(え得まじかりける) 女で。「の」は助詞で、同格の助詞を表す。この文では「女で、手に入れることのできない女を」の意味。
:・'''え得(う)まじかりける''' - 「え・・・(打消し)」で、・・・することが出来ない。「え」は副詞。この場合は、「手に入れることが出来ない。」
:・'''年を経て''' - 長年にわたって。
:・よばひわたり - 求婚しつづけて。「よばひ」は言い寄るの意味。複合動詞で「よばふ」「わたる」。複合動詞の「・・・わたる」の意味は「・・・しつづける」。
:・'''率て(いて)行きければ''' - 連れていったところ。
:・'''知らで''' - 知らないで。「・・・で」は'''打消'''(うちけし)の接続助詞。
:・'''神''' - かみなり。
:・'''いみじう''' - ひどく。たいそう。形容詞「いみじ」の連用形「いみじく」のウ音便。
:・足ずり - くやしさとか悲しさのため、じだんだを踏むこと。
:・'''かひなし''' - どうしようもない。
:・白玉 - 真珠
:・'''まし''' - 反実仮想の助動詞。「・・・だったら良かったのになあ」。「消えなましものを」の意味は、(自分も)「消えてしまえばよかったのになあ。」
 
:「'''露'''」と「'''消ゆ'''」は'''縁語'''(えんご)。
 
*語句
:・芥川 - 詳細は不明。諸説あり。 1:大阪府高槻(たかつき)を流れる川。 2:ごみを捨てるための川。 3:架空の川。
:・鬼 - もとは死者の霊という意味だが、怪物などの意味もある。
:・やなぐい - 矢を入れて背負って持ち運ぶ道具。
 
=== 二 ===
{| style="width:100%"
|valign=top style="width:40%;text-indent:0em"|
これは、二条の后(きさき)の、いとこの女御(にょうご)の御(おおん)もとに、仕う(つこう)まつるやうにて居(い)給へりけるを、
容貌(かたち)のいとめでたくおはしければ、盗みて負ひ(おひ)て出で(いで)たりけるを、
御兄人(せうと)、堀川の大臣(おとど)、太郎国経(たろうくにつね)の大納言、まだ下臈(げろう)にて内裏(うち)へ参り給ふに、
いみじう泣く人あるを聞きつけて、とどめて取り返し給うてけり。
それをかく鬼とは言ふなり。まだいと若うて、后のただにおはしける時とかや。
 
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|valign=top style="width:45%;text-indent:1em"|
 
これは(=この話は)、二条の后が、いとこの女御のお側(そば)に、お仕えするような形で、おいでになったのを、容貌がたいそう素晴らしくていらっしゃったので、(男が)盗んで背負って逃げたのであるが、(后の)兄上の堀川の大臣や、長男の国経の大納言が、まだ官位の低いときにいらっしゃたころに宮中に参上なさるときに、ひどく泣く人がいるので、(男を)引きとどめて(后を)取り返しなさったのであった。それをこのように鬼と言い伝えているのであった。まだ(后が)たいそう若く、后が入内(じゅだい)なさる前の、(まだ后になってない)普通の身分でいらっしゃった時のことだとか(いうことです)。
 
|}
(第六段)
 
*語句(重要)
:・仕う(つこう)まつる - お仕えする。「仕う」の謙譲語。「仕へまつる」のウ音便。
:・下臈(げろう) - 藤原国経(くにつね)。長良の長男。「太朗」は長男の意味。
:・参り - 参上する。謙譲語。「行く」「来る」の謙譲語。
:・(参り)給ふ - 参上なさる。「給ふ」は補助動詞で尊敬を表す。尊敬されているのは堀川の大臣(おとど)、および、太郎国経である。伊勢物語の作者が尊敬している。
*語句
:・二条の后 - 藤原長良(ふじわらのながら)の娘、高子(たかいこ)。
:・堀川の大臣 - 藤原基経(もとつね)。長良の三男。太政大臣(だいじょうだいじん)。京の堀川に邸宅があった。
:・太朗国経の大納言 - 藤原国経(くにつね)。長良の長男。「太朗」は長男の意味。
 
=== 品詞分解 ===
 
== 東下り ==
120 ⟶ 31行目:
和歌の出来は良かったし、一行の者どもは京や恋人が恋しいので、一行の心にひびいたので、それぞれの和歌を詠んだあとの場面で、旅の一行は感動したり涙したりした。
 
=== 一:かきつばた ===
*大意
昔、京に住んでいた男が、いろいろあって、京から出て行く気になったので、東国に移り住もうと旅をした。古くからの友人の一人か二人とともに旅に出た。
132 ⟶ 43行目:
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昔、男ありけり。その男、身を要(えう)なきものに'''思ひなして'''、「京には'''あらじ'''、東の方(かた)に住むべき国求めに。」とて行きけり。もとより友とする人、一人、二人して行きけり。道知れる人もなくて惑ひ(まどい)行きけり。三河(みかわ)の国八橋(やつはし)といふ所に至りぬ。そこを八橋と言ひけるは、水ゆく川の蜘蛛手(くもで)なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ八橋といひける。
 
その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯(かれいい)食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
それを見て ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字(いつもじ)を句の上(かみ)に据ゑて 旅の心をよめ。」
と 言ひければ、よめる。
:'''唐衣(からころも) きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ'''
とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。
 
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昔、(ある)男がいた。その男は、わが身を役に立たないものと思い込んで、「京には、'''おるまい'''、東国のほうに住める国を探しに(行こう)。」と思って出かけた。以前から友人とする者一人二人といっしょに出かけた。(一行の中には)道を知ってる人もいなくて、迷いながら行った。
 
三河(みかわ)の国の八橋(やつはし)という所についた。そこを八橋といったのは(=「八橋」という理由は)、水の流れているのがクモの足のように八方に分かれているので、橋を八つ渡してあるので八橋といった(のである)。(一行は、)その沢のほとりの木陰に、(馬から)下りて座って、乾飯(かれいい)を食べた。
156 ⟶ 67行目:
*語句(重要)
:・'''思ひなして''' - 思い込んで。
:・'''あらじ''' - おるまい。ここでは「住むまい」。「じ」は打消の助動詞。「・・・じ」で意味は「・・・まい」(「・・・をするまい」)と訳す。
:・'''句の上に据ゑて''' - 和歌の五・七・五・七・七の各句の上に文字を置いて歌を詠む手法。このような技巧を'''折句'''(おりく)と言う。
 
161 ⟶ 73行目:
:・「唐衣」(からころも)は枕詞(まくらことば)であり、「着」に掛かる。「唐衣」の本来の意味は、中国風の着物である。「唐衣」は、衣服の美称としても用いられる。
:・「唐衣着つつ」は序言葉であり、「なれ」を導く。
:: ※ 序言葉と枕詞の違い。 
:::序言葉は、冒頭の五・七の十二音以上で、たいてい文脈上の意味があるので、口語訳では訳さなければいけない場合が多い。 
:::いっぽう、枕詞は、冒頭の五音(または冒頭の四音)で、リズミカルにするためのものであり、たいてい、あまり意味が無く、訳さない場合もある。
 
:・「着」と「来」を掛けている掛詞(かけことば)。
:・「はるばる」は、副詞「遥遥」(はるばる)と動詞「張る張る」との掛詞。ここでの「張る」とは、衣を張ること
:・「褄」と「妻」が掛詞。「着」「なれ」「褄」「張る」は、「衣」の縁語。
 
「'''唐衣(からころも) きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ'''」は、このように重要であり、また有名なので、読者は、この句をまるごと全部、覚えてしまっても良い。
 
*語句
201 ⟶ 119行目:
:時知らぬ 山は富士の嶺(ね) いつとてか 鹿の子(かのこ)まだらに 雪のふるらむ
 
その山は、'''ここ'''にたとへば、比叡(ひえ)の山を二十(はたち)ばかり重ね上げたらむほどして、なりは塩尻(しおじり)のやうになむありける。
 
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227 ⟶ 145行目:
:・'''うつつ''' - 現実。
:・「'''うつつにも 夢にも人の あはぬなりけり'''」 - 当時は恋しい人などを強く思っていると、相手の夢に自分が現れると考えられていた。「もう、恋人(妻)は自分のことなど忘れているのだろうなあ」と嘆いているという解釈が通釈。
:'''ここ'''にたとへば - 京で例えれば。著者から見た視点であり、著者が京または京の近くに住んでいる。
 
*語句
235 ⟶ 154行目:
:・比叡(ひえ)の山 - 現在の京都と滋賀県の境にある山。
 
=== 三:みやこどり ===
*大意
武蔵・下総の国のあたりにつき、一行は、すみだ川を舟で渡ろうとするとき、見かけない鳥を見たので、渡し主に聞いたところ「都鳥」(みやこどり)だというらしい。
245 ⟶ 164行目:
一行は京が恋しいし恋人も恋しいので、一行は涙を流して、一行は皆泣いた。
 
*本文/現代語訳
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なほ行き行きて、武蔵(むさし)の国と下総(しもつふさ)の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて、「思ひやれば、限りなく遠くも来(き)にけるかな。」とわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
みな人'''ものわびしくて'''、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折りしも(おりしも)、白き鳥の、嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水の上に'''遊びつつ'''魚(いお)を喰ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡守に問ひければ、「'''これなむ都鳥'''。」と言ふを聞きて、
 
:'''名にし負はば''' いざこととはなむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと
268 ⟶ 188行目:
*語句
:・わびあへる - 「わぶ」の意味は、ここでは「嘆く」(なげく)。「わびあへる」の意味は、「嘆きあっている」。「わぶ」には他にも多くの意味があり、「悩む」「わびさびを感じる」「謝る・わびる」などの意味もある。
:'''もの わびしく''' - なんとなく寂しい。「わびし」の意味が、寂しい。「もの」が、何となく。形容詞「わびし」は、動詞「わぶ」が元になっている。「わびし」の意味は、ほかにも「貧しい」「つらい」などの意味がある。
:・遊びつつ - 自由に動き回る、気ままに動き回る、などの意味。
:'''これなむ都鳥''' - 係助詞「なむ」があるので、係り結びになるはずだが、結び(「なる」など)が省略されている。係り結びに関わらず、体言で終わらす手法を「体言止め」(たいげんどめ)と言う。余韻をふくませるためなどに、体言止めを用いる。
:・'''名にし負はば''' - 未然形+助詞「ば」で仮定を表す。名前に持っているならば。
 
278 ⟶ 200行目:
:・都鳥- カモメ科のユリカモメの別名と思われている。
 
=== 品詞分解 ===
 
== 筒井筒 ==
*作品解説
この話は、在原業平ではなく、べつの無名の商人などの庶民や地方官などの恋愛話だと思われている。
 
 
*概要
ある夫婦の、夫が浮気を、ほかの新しい女と結婚した。(当時は一多妻制だったので合法。なので、べつに浮気や不倫ではない。) しかし、最終的に、もとの妻と夫と夫婦のヨリを戻したの元の妻の夫婦愛を、伊勢物語の作者が夫の浮気過去の心変わりを棚に上げて、もとの妻の一途さを美談に仕立て上げただけである。
当然、浮気相手の新しい女のほうの一途は思いは、夫には無視をされている。当時は一夫多妻制であるので、夫の行為は、べつに違法ではない
 
そもそも、夫が浮気を他の女と結婚したことが発端なのだが、夫は、そういうことは気にしてないようだ。
 
伊勢物語の作者は、いちおう、新しい女のほうが詠んだ和歌なども紹介している。
297 ⟶ 219行目:
 
結婚後、妻の親が死んで、妻の家が貧乏になった。夫は貧乏が嫌なので、べつの女のところへ通うようになった。
 
(当時は女の実家の親が、男の経済的な収入の世話をしていた。また、当時は一夫多妻制なので、複数の女との結婚は合法。なので、べつに不倫ではない。なので、女の親が死んで、夫の生活が貧しくなるのである。)
 
しかし、妻が不快なそぶりを見せないので、夫は浮気を疑った。なので、妻の本音を見ようと、出かけたふりをして庭の植え込みに隠れて妻の様子を見た。
307 ⟶ 231行目:
=== 一 ===
*大意
小さいころから仲の良かった男女がいたが、ついに結婚をした。先にプロポーズ(求婚のこと)したのは男の側(がわ)
この章では、プロポーズの意味の和歌が書かれている。
 
プロポーズの和歌をやりとりの後、すぐに結婚できたかどうかは定かではないが、ともかく、この男女は最終的に結婚した。
 
 
*本文/現代語訳
334 ⟶ 262行目:
:(女の歌) 私の(=女のほう)髪も、(もう)肩をすぎるほど長くなりました。(幼いころに)あなたと長さを比べあってきた振り分け髪も。(この髪を)あなたでなく、誰が上げましょうか。(あなた以外にはいません。)
 
などと言い合って、(それから、しばらくして、)ついに(二人は)'''本来の望み'''どおりに '''結婚をした'''。
 
|}
461 ⟶ 389行目:
:・大和 - 現在の奈良県。
 
 
=== 品詞分解 ===
 
== 芥川(あくたがは) ==
*作品解説
業平が藤原高子に手を出した話をもとにしてると思われる。
 
*大意
平安時代の昔、ある男が、高貴な女に恋をして、その女を盗みだしてきて、芥川のほとりまで逃げてきた。夜もふけ雷雨になり、男は荒れた蔵に女を押し込んだ。男は戸口で見張りをしている。
しかし、女は鬼に食われてしまう。男は悲しんだ。
 
本当は、盗み出した女を、女の兄たちが取り返しにきたのを、鬼と言い換えている。
 
男は歌を詠んだ。その歌の内容は、逃げていた途中に、女が露を見て、あれは何か、真珠かとたずねていたが、このときに自分も露のように消えてしまえば良かったのに、という歌である。
 
この歌では、女は高貴なため箱入り娘なので、露を知らない。
 
=== 一 ===
*本文/現代語訳
{| style="width:100%"
|valign=top style="width:40%;text-indent:0em"|
昔、男ありけり。女'''の'''、'''え得(う)まじかりける'''を、'''年を経て'''(としをへて)よばひ(イ)わたりけるを、辛うじて(かろうじて)盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を'''率て行きければ'''、草の上に置きたりける露を、
 
「かれは何ぞ。」
 
となむ男に問ひける。行く先遠く、夜も更けにければ、鬼ある所(ところ)とも'''知らで'''、'''神'''(かみ)'''さへ'''いと'''いみじう'''鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥におし入れて、男、弓・胡簶(やなぐひ)を負ひて、戸口に居り(をり)。はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、鬼はや一口に喰ひてけり。
 
「あなや」
 
と言ひけれど、神鳴るさわぎに、え聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、みれば、率て(いて)来し(こし)女もなし。足ずりをして泣けども'''かひなし'''。
 
:'''白玉'''(しらたま)か 何ぞと人の問ひしとき '''露'''(つゆ)と答へて '''消え'''な'''まし'''ものを
 
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|valign=top style="width:45%;text-indent:1em"|
昔、男がいた。女'''で'''、'''手に入れることができそうもなかった'''(高貴な)女を、'''長年にわたって'''求婚してきたが、やっとのことで(その女を)盗み出して、たいそう暗い夜(の中)を(逃げて)きた。芥川という川(のほとりを)女を'''連れて行ったところ'''、草の上におりていた露を(女が)見て、「(光っている)あれは何か」と、男に尋ねた。
 
これから行く先(の道のり)も遠く、夜も更けてしまったので、(蔵に)鬼がいるとも'''知らないで'''、'''雷''''''までも''' たいそう'''激しく'''鳴って、雨もひどく降ったので、荒れ果てた蔵(の中)に、女を奥に押し込んで、男は(見張りのため)弓と 胡簶(やなぐひ) を持って戸口におり、「早く夜も明けてほしい。」と思いながら座っていたところ、鬼がたちまち(女を)一口に食べてしまった。
 
(女は)「あれえ。」と悲鳴を上げたけれど、雷が鳴る騒がしい音のために(男は悲鳴を)聞くことが出来なかった。(なので、男は、女がいないことに、まだ気づいていない。)
 
しだいに夜も明けてゆき、(男が蔵の中を)見れば、連れてきた女もいない。男は地だんだ(じだんだ)を踏んで泣いたが、'''どうしようもない'''。
 
:(歌:) 露を見たあの人(=女)が、'''真珠'''(しんじゅ)か何かと尋ねたときに、「露ですよ」と答えて、(自分も露のように)消えて'''しまえばよかったのになあ'''。
 
|}
 
*語句(重要)
:・(女)'''の'''(え得まじかりける) 女で。「の」は助詞で、同格の助詞を表す。この文では「女で、手に入れることのできない女を」の意味。
:・'''え得(う)まじかりける''' - 「え・・・(打消し)」で、・・・することが出来ない。「え」は副詞。この場合は、「手に入れることが出来ない。」
:・'''年を経て''' - 長年にわたって。
:・よばひわたり - 求婚しつづけて。「よばひ」は言い寄るの意味。複合動詞で「よばふ」「わたる」。複合動詞の「・・・わたる」の意味は「・・・しつづける」。
:・'''率て(いて)行きければ''' - 連れていったところ。
:・'''知らで''' - 知らないで。「・・・で」は'''打消'''(うちけし)の接続助詞。
:・'''神''' - 雷(かみなり)。
:(神)'''さへ''' - 雷(かみなり)までも。
:・'''いみじう''' - ひどく。たいそう。形容詞「いみじ」の連用形「いみじく」のウ音便。
:・足ずり - くやしさとか悲しさのため、じだんだを踏むこと。
:・'''かひなし''' - どうしようもない。
:・白玉 - 真珠
:・'''まし''' - 反実仮想の助動詞。「・・・だったら良かったのになあ」。「消えなましものを」の意味は、(自分も)「消えてしまえばよかったのになあ。」
 
:「'''露'''」と「'''消ゆ'''」は'''縁語'''(えんご)。
 
*語句
:・芥川 - 詳細は不明。諸説あり。 1:大阪府高槻(たかつき)を流れる川。 2:ごみを捨てるための川。 3:架空の川。
:・鬼 - もとは死者の霊という意味だが、怪物などの意味もある。
:・やなぐい - 矢を入れて背負って持ち運ぶ道具。
 
=== 二 ===
{| style="width:100%"
|valign=top style="width:40%;text-indent:0em"|
これは、二条の后(きさき)の、いとこの女御(にょうご)の御(おおん)もとに、仕う(つこう)まつるやうにて居(い)給へりけるを、
容貌(かたち)のいとめでたくおはしければ、盗みて負ひ(おひ)て出で(いで)たりけるを、
御兄人(せうと)、堀川の大臣(おとど)、太郎国経(たろうくにつね)の大納言、まだ下臈(げろう)にて内裏(うち)へ参り給ふに、
いみじう泣く人あるを聞きつけて、とどめて取り返し給うてけり。
それをかく鬼とは言ふなり。まだいと若うて、后のただにおはしける時とかや。
 
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これは(=この話は)、二条の后が、いとこの女御のお側(そば)に、お仕えするような形で、おいでになったのを、容貌がたいそう素晴らしくていらっしゃったので、(男が)盗んで背負って逃げたのであるが、(后の)兄上の堀川の大臣や、長男の国経の大納言が、まだ官位の低いときにいらっしゃたころに宮中に参上なさるときに、ひどく泣く人がいるので、(男を)引きとどめて(后を)取り返しなさったのであった。それをこのように鬼と言い伝えているのであった。まだ(后が)たいそう若く、后が入内(じゅだい)なさる前の、(まだ后になってない)普通の身分でいらっしゃった時のことだとか(いうことです)。
 
|}
(第六段)
 
*語句(重要)
:・仕う(つこう)まつる - お仕えする。「仕う」の謙譲語。「仕へまつる」のウ音便。
:・下臈(げろう) - 藤原国経(くにつね)。長良の長男。「太朗」は長男の意味。
:・参り - 参上する。謙譲語。「行く」「来る」の謙譲語。
:・(参り)給ふ - 参上なさる。「給ふ」は補助動詞で尊敬を表す。尊敬されているのは堀川の大臣(おとど)、および、太郎国経である。伊勢物語の作者が尊敬している。
*語句
:・二条の后 - 藤原長良(ふじわらのながら)の娘、高子(たかいこ)。
:・堀川の大臣 - 藤原基経(もとつね)。長良の三男。太政大臣(だいじょうだいじん)。京の堀川に邸宅があった。
:・太朗国経の大納言 - 藤原国経(くにつね)。長良の長男。「太朗」は長男の意味。
 
=== 品詞分解 ===
 
=== 品詞分解 ===